和解する?
ストーンマキガンの街は騒然としていた。突如巨大な風の槍が空に出現したことは街の中
を凄まじい勢いで伝わっていった。その現場には推移を見学するために大勢の人々が集まり出していた。
「人が多すぎるわね、どうしようかな。シルちゃんでふきとばすわけにもいかないし……」
レテの周りで一瞬風が巻き起こるがすぐに収まる。
「気楽な奴らだ。こっちはヒドイ目にあっているってのにやってられないね」
ファレドはつい悪態をついてしまう。
「気楽が一番、一番。悪巧みよりマシ、マシ」
レテはファレドを挑発する。彼女は引っかかってしまう。
「騎士団の横暴だ。私たちは何も悪さはしていない、事が済んだら王に報告する」
ファレドは自らの潔白に自信があるようだ。
「あなたが悪さをしていなくても、ギルドの誰かが悪巧みをしているかもしれないわよ。ネアスとガーおじの事も知らない大棟梁さん」
レテは挑発し続けるつもりだ。ファレドの顔色が怒りで赤くなる。
「上等だ、石職人は全員潔白だ。騎士団とは違う」
ファレドも負けずとレテを挑発する。
「そうね、騎士団にはヒドイ人物もたくさんいたわ。王に処罰を受けた騎士も記録されているわ。まともな人材は石職人になって良いことをしているのかな」
レテは皮肉を言う。
「その通りだ。石職人は気の良いヤツラだけだ。口は悪いが悪いことはしない。私が保証する」
ファレドは皮肉に気が付かない。
「口が悪いとすぐにけんかになりそうだけどね、礼儀も大事かな」
レテは皮肉が通じない人がいると学習する。
「礼儀正しい騎士様がこのやり方、私たちよりずっと喧嘩っ早くて荒々しいな」
ファレドは空にそびえたつ風の槍を見上げた後にレテの顔を見る。
「自分たちの立場がまだ分かっていないようね。この街の人たちに私の力を見せつけた方がよいかな。どうしようか、シルちゃん!」
レテはファレドの流儀に合わせる事にした。しかし、シルフィーがさらに風の槍を空に作ろうとするのでレテは慌てて止める。
「シルちゃん、もう充分、充分。慣れないことはしないほうがよいかな、アーシャの言う通りね」
レテは周囲を見渡すと見知った顔が目につく。
「セオじゃない、ちょうど良かったわ。こっちに来なさい、任務よ」
レテがセオを呼ぶと彼はシブシブとレテに近づいてくる。
「レテ様、了解です。街の人々から騒動が起きていると連絡があり、現場に急いで来ました。レテ様の仕業、いいえ。レテ様のお仕事の邪魔になるので門番の任務に戻ります」
セオは上空の様子を見た時から自分の手には負えないと思っていたので、すぐにその場を立ち去ろうとする。
「街の皆さんが不安がっているの、何も問題はないことを説明してあげて、セオ。私が直接話すことが出来れば一番なのは分かっているわ。でも、ギルドの中も心配かな」
レテは心配そうにギルドの様子を見るが中の様子は分からない。
「不安なのはこっちの方だ。我が家が壊されそうなんだ、セオさん」
ファレドはセオと顔見知りのようで助けを求める。セオは困った顔でファレドとレテを交互に眺める。
「騎士団所属のセオです。レテ様には事情があるようです。ファレドさんには申し訳ありませんが私は騎士です」
セオは迷わず判断する。
「当たり前よ、セオ。私たちの任務は王国の民の安全を守ること。石職人ギルドの手助けをすることではないわ」
レテは彼に細かい指示を伝えようとするがファレドが割り込んでくる。
「ストーンマキガンを王都に負けない街にするって約束した仲じゃないか、セオさん。あの夜のことを忘れてたのか?」
ファレドは情に訴えかけてセオを陥落させようとする。
「飲み屋での話です。ファレドさん、私は騎士の任務に誇りを持っています。レテ様のことも尊敬しています。繰り返しになりますが申し訳ありませんがあなた方の味方をすることは出来ません」
セオはファレドの言葉で決心が固まったようだ。一度、空の巨大な風の槍を見ると大声で叫ぶ。
「王国の民は騎士が守ります。上空の槍はあなた方の敵を貫くもの、敵ではありません」
セオは気合を込めて、街の人々に訴えかける。少数の観客が歓声をあげる。
「やるじゃない、セオ。私も同じ事を思っているわ、一時的な敵だけど余計な事は言わないほうが伝わりやすいかな」
レテは三つ目の槍をシルフィーにやっぱりお願いしようと思う。
「石職人は敵ではない。騎士団の横暴だ、私たちの大事な街を好きにさせるな!」
ファレドも負けじと大声で街の人々に訴える。大勢の観客が賛同する。
「人気があるのね、石職人って。王都だと騎士の方が人気の職業なのに、ここでは分が悪いかな」
レテはセオに意見を求める。
「この街の職人はいつでも修理の依頼を受けます。迅速に行動し、結束も取れています。騎士団も見習うべき所があります」
セオはレテに街の事情を説明する。
「細かいところまでは私も知らないから助かるわ、セオ。最初にセオに相談すればよかったかな、私の失敗ね」
レテは反省する。
「王都の騎士と違ってセオさんは謙虚で真面目な方だ。私たち石職人も信頼していたがそれも今日までだ!」
ファレドの声には怒りがこもっている。セオは表情を変えずに彼女の意見を受けいれている。
「目立たないのがイケナイのよ、セオ。仕事をしっかりしているのならアピールするのよ、こういう時に頼りに出来る人は少ないのに……」
レテはセオの謙虚さを不満に思う。
「申し訳ありません、レテ様。厄介事、いいえ、面倒事、違います」
セオが急に口ごもる。
「はっきりしなさい、セオ。何が厄介事なの、もしかして秘密にしていることがあるのかな」
レテはセオに探りを入れる。ファレドの様子も見るが特に変化はない。
「秘密などありません。静かに平穏に門番として過ごしたいだけです。厄介事は苦手と言いそうになっただけです」
セオはウソをついていないようだ。彼は街の人々を見て不安を解消する方法を考え始める。
「あんたが来なければ平穏な生活が遅れていたんだ、レテ様。厄介事を起こしているのは騎士団のほうだ!」
ファレドは街の人々を味方に引き入れて立場を優位にしようとする。人々から大きな歓声が上がる。
「アーシャは遅いわね、隠し部屋でもあるのかな。自分たちで作った建物だからあっても不思議ではないけど……」
レテはセオに確認する。
「隠し部屋の話は聞いたことはありません。私も入り口付近までしか案内してもらっていないのでレテ様の読みが正しいかもしれません」
セオもギルドの方を見るがアーシャが外に出てくる気配はない。石職人の男性が心配そうにファレドの様子を伺っている。
「あの男をこちらに連れてきましょうか、怯えている様子です。少し質問すれば、洗いざらい話すでしょう」
セオがレテに提案する。
「卑怯なやつらだ。直接私に聞けば良い、隠し部屋を作るなんて考えたこともないね、騎士様の考えることは分からないことだらけだ」
ファレドはレテたちの会話に耳を澄ましているようだ。
「本当に元気が良いわね、このままギルドを破壊しようかな。アーシャも一緒に空に飛んでもらうのも良いわ、気にしない、気にしない」
レテは事態が進展しないことに苛立ちを感じ始める。上空の風の槍の周囲に暴風が巻き起こり、さらに槍は巨大になる。人々は驚きの歓声をあげる。
「こりゃ、良い眺めだ。はるばる遠くから王都の近くまで訪れて良かったな、ラーナ」
レテはラーナの名に敏感に反応する。
「精霊の力な訳ないか、噂は本当だったようね。精霊使いのレベルを超えているわ、私たち魔術師もこんなことは出来ない」
ラーナは冷静に上空を観察している。レテはラーナの近くで強い風を引き起こす。彼女は悲鳴をあげる。
「何、私は関係ないわ。どうしようっていうの、レテ」
ラーナはすぐにレテの仕業だと見破り、観客の間に作られた風の壁にズンズン進んでいく。
「ラーナ、危ないぞ。さっきの様子だとそこには目には見えない壁があるようだ」
クロウたちはしばらく前からこの場にいたようだ。ラーナは気にせずに壁を手で殴ろうとするが、その手はスルッと空気を殴り彼女は転びそうになる。
「性格の悪い女!どうしてこんな女が精霊の力を使えるの、意味が分からないわ」
ラーナは風の壁がないと分かると早足でレテのもとに近寄ってくる。後ろからはクロウが恐る恐るついてくる。観客も後ろに続こうとするが風の壁に阻まれる。
「ラーナさん、あなたもそう思いますか。私も同意見です」
ファレドはラーナの言葉に賛成する。ラーナはファレドをガン無視する。
「私は特別なのね、レテ。違いの分かる人は大好きよ、こんな田舎のごろつきたちとは私は別物よ。荒々しくて大嫌い!」
ラーナはファレドを睨みつける。ファレドはラーナに関わらない事に決めた。
「ご招待ありがとうございます、レテ様。これも旅人の翼の力でしょう。全ての冒険者の憧れであり、信頼の証です」
クロウはファレドに旅人の翼をかざして見せつける。ファレドは無視を決め込む。
「ラーナ、クロウさん、歓迎するわ。特別で信頼できる二人と知り合いだったことを本当に嬉しく思っているわ」




