そろそろ泉へ
森林は徐々に活気を取り戻しつつある。生き物たちも安全を確認して、活動を開始しつつあるようだ。
「レテ、レテ」
モラも外で遊びたくてウズウズして、彼女の胸から飛び出してくる。
「もう少しだけガマンしてね。ガマンは私も大っきらいだけど、安全かわからないのよ。わかってくれるよね」
ゴブリンたちは今の所は見当たらないが、彼らはそこら中にいる。
お利口なモラはキョロキョロしながら、夜に遊ぼうを心に決めて再度レテの胸の中でお昼寝をはじめる。
「おう、寝た寝た。元気いっぱいじゃ。リンリン♪」
ガーラントがタイミングを見計らい目覚ましたふりをする。レテは気にするような素振りを見せるがこれ以上、ここにいても仕方がない。
「みんな、元気になったね。魔力の泉に行きましょう。泉を抜けたら近くの街はもうすぐだから頑張ってこうね。日が暮れる前には到着、到着」
レテが男二人の肩を叩き、激励をする。
「名前も決めた。ガーおじ。反論は許されない。一緒にいる間はガーおじ。これだけ守ってくれれば、絶対置いていかないからね」
「ガーおじ頑張るぞ、ラストスパートじゃ」
ガーおじは空元気を出して、大声を出す。
「ガーおじ、よろしく。魔力の泉は僕の冒険者としての最後の仕事だ。もう依頼は果たせないかと思っていたけど、思わぬ幸運。レテ様々。ネアスもフルパワーで行きます!」
三人と一匹は再度、冒険の旅を続ける。
シャルスタン王国の許可なき者の立ち入りを禁ずる。泉に続く道の前には大きな立て札が立っている。
「やっと道に出られた。道沿いに行けば着くって商人の人が言っていたとおりだ」
ネアスは目的地に念願の目的地に着いて感激を隠せない。
「君は、どうしてあんな森の奥まで行ったのかな。野次馬根性丸出しはダメだよ。少しお腹がへったね。たまごサンドたべるでしょ、ふたりとも」
レテは二人に最後のたまごサンドを差し出す。二人は喜んで受け取り、頬張る。
「レテのたまごサンドは最高だな。何でもできて、すごいな。かっこいい」
ネアスはレテの特製サンドがお気に入りになったみたいだ。
「ほう、それまでの味ですか。楽しみです。ガブッとな」
「ゴホ、ゴホ、ペッ、ペッ、ぺ」
ガーおじはレテの特製サンドをうまく飲み込めないようだ。
「水を飲まねば。走ったすぐ後で、むせてしまったわ。すまない、すまない。せっかくのサンドを無駄にしてしまったわい。もったいない、もったいない」
レテはガーおじを無表情で見つめている。ガーおじは目を泉に向けて、走り出そうとする。
「みんな、そういう反応だよね。美味しくないなら、美味しくないで良いのにな。味の好みなんて、人それぞれだしね。ネアスは美味しいのよね?」
「酸っぱすぎなような、塩辛いような、味がしないような、パサパサしすぎなような気がするけど、今までで一番おいしいたまごサンドであることには変わりないよ。本当だよ。説明下手で不味そうに聞こえるけど、おいしいよ。レテ!」
ネアスは笑顔をのぞかせる。本当のようだ。
「そのとおりですじゃ。ネアス殿。その味じゃ。的確です。きっと人気の味なんじゃろうな。ワシに合わないだけじゃ」
「がーおじは話聞いてないことあるよね。みんな、おいしそうに食べてくれないのよね。だから、人気がないよ。気にしない、気にしない」
レテは肩をすくめる。
「お腹もふくれたし、魔力の泉を早く見たみたい。高値で取り引きされているって商人さんに聞いてきたよ」
ネアスはカバンからたくさんの水筒を取り出す。
「どのくらいで売れるかわからんが、儲かりそうな話じゃ。ガーおじも水筒を持ってくればよかったわい。ワシも街で剣や鎧を揃えないといけないのじゃ」
ガーおじはうらやましそうにレテのお気に入りの剣と鎧を見つめる。
「イヤラシイ目でみないの、ガーおじ。この鎧は王都一の鍛冶職人さんが私専用に作ってくれたの。泉の水で買えるほど甘くないわよ」
レテが周りを見渡しながら、話を続ける。
「今日は流星のせいで、巡回の兵士さんも応援に言っているみたいね。楽で良いけど、盗賊にたくさん汲まれすぎないかな。心配ね」
「いくら儲けが良い商売でも盗賊は無理かな。怖い人が多そうだし、レテとシルフィーに吹き飛ばされるのはもうごめんだ」
ネアスがさっきのことを思い出してしまい、震えが止まらない。
「ネアス殿、盗賊はいけないですぞ。きれいな女首領がいると思ったら大間違いです。きれいな方は彼氏持ちじゃ、下っ端でこき使われるだけじゃ」
ガーおじは熱くなって、ネアスの説得をしようとする。
「ネアス殿、モテのためとはいえど悪の道に進むようならば。このガーおじは黙っておれんぞ。モテにも道はある」
「盗賊はダメだよ、ネアス。ガーおじの言う通りだよ。ちゃんとしたモッテモテ道を歩むのよ」
二人の意見が一致する。
「女首領を説得しようとか、ダメだからね。ネアスはすぐにだまされるとおもうから、そういう時はやさしい私に相談しなさい。約束よ」
「盗賊になるつもりはなかったけど、ふたりともありがとう。今日をあったばかりなのに親身に相談に乗ってくれて助かるよ」
ネアスは感動で体が震えだしてくる。
「相談料は千ララリ。いつもは一万ララリの所、ネアスだけは特別よ。うれしいな。本当に特別なんだよ。こんな事いつもはしないのよ」
レテがネアスに料金を催促する。
「世知辛い世の中じゃ。しかし、相談してしまった以上は仕方がない。先に料金を聞いておくべきじゃったわ。すまん、ネアス殿」
ガーおじはガックリする。
「水筒一杯に水を入れれば、三千ララリの報酬がもらえる。残りの2千は命を助けてもらったお礼にすれば。足りるかな、レテ」
ネアスが心配そうに尋ねる。ガーおじも心の中でビクビクしはじめる。
「冗談よ、冗談。でも、千ララリでおいしいものでもごちそうしてくれるとうれしいかな。そのうち、時間ができたらね」
ネアスは返答に困って、考えを巡らしはじめる。
その時、泉の方から悲鳴が鳴り響いて来るのが聞こえる。
「助けてください、旅のお方。ゴブリンが魔力の泉に。あー大変。早く、早く助けてください」
若い女の子の声だ。
「行きましょう。人助け、人助け。料金は六千ララリからにしようかな」