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潜入開始

 外はそろそろ日が傾き出す時間になる。店内ではネアスが店員さんの案内で奥に行って着替えをしている。テーブルでは女性二人が最終確認を行っている。

「ネアスに中の様子をささっと確認してもらって、運が良かったらガーおじの場所も見つけてくれるかもしれないわ」

 レテは希望的観測をする。

「きっと見つかります。ネアスさんは運が良いです。これは絶好のチャンスですし、適材効き所です」

 アーシャも楽観的な意見を述べる。

「幸運の女神様、私と出会ってからネアスは運が良いらしいわ。ガーおじを最初に見つけたのは彼だから、今回も簡単に見つけてくれるかな」

 レテは恥ずかしそうに幸運の女神を口にする。

「ネアスさんは照れずに言います。どうして顔をすぐに赤くするのにそんなセリフを言えるんでしょうか」

 アーシャはネアスがいないので聞きたい事を口に出す。

「私は恋愛対象ではないみたいよ、絶対に私はネアスの事を好きになることはないと思っているらしいわ。どういう意味なのかな」

 レテも疑問をアーシャに聞いてみる。

「レテ様が好きになる人ですか。私にも想像できませんのでネアスさんも想像できないんだと思います」

 アーシャは素直に答える。

「ネアスの事が好きって言ったらどうする、アーシャ」

 レテは直球を投げる。

「良い人です。悪いことをしない人なので仲間として良いと思います。変に恋愛対象にされていないので気楽です。私も好きです」

 アーシャは何となく答える。

「アーシャの事を好きってネアスに告白されたらどうする?!」

 レテはさらに攻める。

「ネアスさんは私に興味はないです。ネアスさんはレテ様の事が好きなようですから私は関係ないです。あくまでも予想です」

 アーシャは自然に受け止める。レテはたじろぐが動揺を顔に出さないように努力する。

「当たり前の事を聞いてゴメンね、アーシャ。ネアスが私の事を好きじゃないわけがないわ。それなのにアーシャに告白をする訳はないかな、当然ね」

 レテは早口でまくしたてる。

「好きな人に告白するのは当たり前の事。ちょっとかわいいからって誰でも構わずに告白する人なんていないわ」

 レテはアーシャの反応を確認する。

「そういう人も多いです。付き合ってみないと分からないからデートに行こうって誘われた事があります。もちろん断りました」

 アーシャの声に怒りがこもる。レテは話題がそれたことに安心する。

「新人の頃に貴族に同じように誘われた事があるわ。断る女性は失礼だ、礼儀にかなってないって説教されたわ。それでも断ったけどね」

 レテも経験談を話す。アーシャは大きくうなずく。

「貴族同士で礼儀にかなったお付き合いを勝手にする分には構いません。騎士は関係ありません。興味はないです」

 アーシャはぶぜんとする。

「アーシャも貴族にちょっかいを出されていたのね、私は警戒していたつもりだったけど。アイツラは一度狙いをつけたらしつこいから大変?!」

 レテも徐々に不機嫌になってくる。

「護衛の任務の時に隙を狙って話しかけてきます。面倒ですが仕方がないです。任務です、どうしようもないです。でも、副団長も助けてくれます」

 アーシャはうれしそうに副団長の名前を出す。

「アーシャの事は助けるのね、副団長は?!私の事を助けてくれた事は一度もないわ。どうしてかな」

 レテは副団長に不信を抱く。

「レテ様は一人で処理できるから他の人たちの手助けをしているのだと思います。私も副団長を助ける側に回りたいです」

 アーシャはレテを尊敬の眼差しで見る。

「面倒な事はイヤ、私だって余計なことには関わりたくないわ。任務だから仕方がない時も多いけど、助け合いが大事」

 レテの不公平感は消えない。

「ネアスさんに貴族に文句を言ってもらうのが良いです、レテ様のお願いなら断らないと思います」

 アーシャが提案をする。

「本当かな、貴族よ。睨まれたら大変、大変。ネアスくんも計算は出来るはずだから断るかな、そこまで間抜けじゃないわ」

 レテはアーシャの提案を却下する。アーシャは引かない。

「勝負です!ネアスさんはレテ様のお願いを絶対に聞きます。レテ様が言いにくいようなら私が聞きます。その代わり、ネアスさんが断らなかったら私の一勝です」

 アーシャは突然勝負を申し込む。レテは喜んで勝負を受け入れる。

「流石のネアスも貴族を敵には出来ない。田舎の出身でも貴族の事は知っているわ。ネアスが断ったら私の勝ち、負けた方は何をしようかな」

 レテは楽しそうに考え始める。

「負けた方がネアスさんと騎士団特製パン作りをする。勝った方は自由時間です。ララリの配分は同じです」

 アーシャはパン作りをもうしたくない。

「いっぱいパンを作るのは大変、大変。良い考えね、自由時間に何をしようかな、ララリが貰えるし楽しみ」

 レテは勝つ気満々だ。アーシャは心配そうな顔つきになる。

「レテ様、よろしいですか。ガーおじさんやマリーさんがいたら、きっと反対します。簡単に勝つのは良いですが、もう一度考え直しても良いです」

 アーシャはレテの謎の自信を心配する。

「自分を信じることが大事。他の人の意見は参考にするけど、決めるのは私。今ここにいる中ではネアスの事は私が一番詳しいのは必然。当然の結果としてネアスの行動を予測出来るのもこの私よ。アーシャこそパン作りは大変、大変」

 レテは圧倒的な自信を口にする。アーシャは本当に不安になる。

「レテ様の言うとおりです。ネアスさんがレテ様に好意を持っているから貴族を敵に回すと考えるのは浅はかでした。レテ様を好きな子はたくさんいます」

 アーシャはレテに勝負を挑んだ自分を戒める。

「分かってくれたらよいのよ、アーシャ。ちょっと厳しすぎたかな、今回の勝負はなしにしましょう。パン作りは一緒にしようか」

 レテはアーシャに情けをかける。アーシャはそれを受け入れようと悩む。

「ありがとうございます、レテ様。でも、レテ様に勝負を挑んだのは私です。新人の気持ちを思い出すために騎士団特製パン作りを頑張ります」

 アーシャは決意を固める。レテは彼女の決断を尊重する。

「準備が出来たみたいね、ガーおじも運が良いわ。私とアーシャがいれば救出作戦なんて簡単、簡単」

 レテはもう一度、石職人ギルドを見てみるが全く動きはない。そうこうするうちに店員の姿になったネアスが二人のテーブルに到着する。

「似合っているかどうか分からないけど、着替えは終わった。後はギルドに料理を運ぶのみだ」

 ネアスは普通の店員に見える。

「似合っているわ、ネアス。冒険者にも騎士にも見えない、タダの店員。自分のセンスに驚くわ。私をアーシャだとキミみたいにはいかないかな」

 レテは完全に店員になったネアスの才能を見抜いた自分に驚く。

「お似合いです。レテ様の言うとおりです、私に付け加える事はありません」

 アーシャはすっかり自信を失い、騎士団特製パン作りの事を考えて憂鬱になる。

「何か動きがあったんですか、アーシャさん。浮かない顔をしています」

 ネアスはレテの様子を一緒に確認する。レテは元気そうに見える。

「ダイジョブ、ダイジョブ。ネアスの心配することではないわ。アーシャの事は私に任せるのが一番、一番」

 レテは自信有りげに答える。

「心配ありません、ネアスさん。ガーおじさんの救出作戦がんばりましょう」

 アーシャは気持ちを切り替えて、槍で暴れることを考える。少し元気が出てきたようだ。

「すぐにサンドイッチの準備も出来るみたいだ。緊張してきた。中の様子を見てくるだけで余計な事はしなくて良い。これで構わない、レテ」

 ネアスはレテに最終確認をする。

「後は私たちに任せなさい。ネアスはここでアルバイトをしている店員さんで冒険者ではない、私に石職人ギルドに料理を届けるように依頼されていたの。でも、これは秘密、秘密」

 レテはネアスの緊張を解こうとする。アーシャは静かにうなずく。

「キョロキョロしても問題ないけど、初めて石職人ギルドに入ったから興味があるだけよ。偵察じゃないわ、ガーおじの事も知らない。私の事だけ考えなさい」

 レテは念押しをする。

「レテの事だけ考える。さらに緊張してくる」

 ネアスがカチコチになると本物の店員さんが料理を運んでくる。

「お待たせ致しました、石職人さんたちへの差し入れです。差し入れ主は私も知りません、ララリは名前も言わずに置いていかれました。男性かもしれません」

 店員さんは入れ物にきれいに入ったサンドイッチの詰め合わせをテーブルに置くと、さくっと去っていく。店員さんの方が偵察に向いているようだ。

「私の事も忘れてください、ネアスさん。アーシャとは出会っていません。長い髪のリボンが特徴の槍使いの騎士の事は知りません」

 アーシャもレテのようにネアスの緊張を和らげようとする。彼の脳裏にアーシャの事がくっきりと記憶される。

「きれいでやさしくてかわいい私だけを考えれば上手くいくわ。本当よ、今までの事を思い起こすのよ」

 レテはネアスがカチコチなのでさらに緊張を解こうと試みる。

「レテの言うとおりだけど偵察とは関係がないような……」

 ネアスは冷静になる。

「なかなか上手くいかないわ。ネアスは偵察に行くわけじゃないのよ、勘違い、勘違い。どうすれば考え方を変えることが出来るかな」

 レテは上手くいかなかったので困り果てる。

「難しいです。ネアスさんは偵察のために変装しました、ウソのようです」

 アーシャも混乱する。

「ウソ、ウソ。僕は店員だ、冒険者じゃない。それならどうやってレテに出会ったのかが分からなくなる」

 ネアスは余計なことばかり考える。

「たまたま店に来た私の注文をキミが取ったのよ、それで少しお話をしたら石職人の話題が出たの。それでキミが配達をすることになった、簡単、簡単」

 レテは適当にごまかす。

「私は何でここにいるのでしょうか。ネアスさんとは出会っていないのに、私はここにいます。なぜでしょうか」

 アーシャは真面目に考えすぎる。ネアスは大きくうなずく。

「誰かがウソをついている。それはレテだ?!」

 ネアスの頭は混濁する。

「うそって、ネアス。当たり前でしょ、ウソがバレないようにキミは身分を偽るのよ。ガーおじを助けに行ったってバレたら何が起こるか分からないわ」

 レテはネアスの事がとても心配になる。

「レテ様はウソをついた。ネアスさんもウソをつく。石職人さんもウソをつくでしょう。私はウソをつきません」

 アーシャは確信する。

「アーシャさんは真実を告げる。ということはどうなるのか、どうにもならないのか」

 ネアスはまだまだ遠くに行ったままだ。

「私が悪かったわ、ゴメンね。ネアスはガーおじを助けるために偵察に行くのよ、見破られないように頑張ってね。イケる、イケる」


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