シルフィー
リンリン森林ではおだやかな時間が流れている。先程からリンリン、リンリン♪の音が戻り始めている。
「リンリン、リンリン♪良い音色だよね。こどものころからこの森が大好きなのよ。リンリン、リンリン♪」
レテは小気味よくリンリンと口ずさむ。
「リンリン。ほんとに良い音色だね。いや、ごめんなさい。僕にはまだリンリンのほんとうの良さは分からない。」
マイナス千百点をゼロにできる。そんな方法があるのか。ネアスの頭は働かない。
「私は小さい時からここで遊んでいるから、当たり前よ。リンリンの良さをすぐに理解したって言われる方が、困っちゃうな。リンリン♪」
「リンリン♪。子供の頃からか。すごいね。だからあんなに速く森の中を走れるのか。コツはあるの?」
ネアスはリンリンに興味を持ったようだ。
「最初はね。お父様と一緒に遊びに来ていたの。でも、お父様忙しく、なかなか連れてきてくれなかったから一人で隠れて、こっそりと。リンリン♪」
レテはそっと指をくちびるに当てる。
「リンリン♪どこのお父さんもそうなのか。僕のお父さんも忙しい人でいつの間にか話さないようになったなあ」
ネアスは故郷のことを思い出し始める。田舎から飛び出して来たのは正解か不正解か。レテに出会えたので正解。でも、職がない。レテともすぐにお別れだと思う。
「寂しくなっちゃったかな。でも、良いこともたくさんあったのよ。シルフィーと出会ったのもここなんだから、リンリン♪」
レテは彼の表情が暗くなるのを見て取り、明るい話題を振る。
「リンリン♪ここで、本当に。もっとすごい、人が行けないような所でいろいろとムズカシイ試練を受けて。いっぱい修行しないと精霊使いにはなれないと思っていた。僕も精霊使いになれるのか」
「王国だと精霊使いは私しかいないからなんとも言えないけど、精霊は意外と近くにいるみたいよ。リンリン♪」
レテは困った素振りを見せつつも、ネアスの反応に満足を示す。
「リンリン♪聞こえるかい。精霊さん、僕を精霊使いにしてください。精霊使いネアスならモテるはず。レアな職業、最高だ」
ネアスの声は森の奥に消えていく。二人はしばらく様子を見るが、リンリン♪リンリン♪の音色が聞こえるのみだ。
「私も君は精霊使いの素質があると思っていたのよ。勘違いだったかな。まだ決めるにははやすぎるかな。リンリン♪」
ネアスはガックリと肩を落としている。
「私がシルフィーにあったときのお話し。リンリン♪」
レテがネアスにお話をはじめる。
「あるところにとてもかわいい女の子が一人、森を歩いていました。その日はお父さんとけんかをしてしまって、さびしく森の中を探索していました。でも、森の中でリンリンの音色を聞いている内に楽しくなってきました。リンリン♪」
「でも、お父さんが約束を破ったのをどうしても許せなくて、とてもとてもイライラしていました。せっかく楽しい気分になってきたのにもったいない。とてもかわいい女の子はそう思いました。リンリン♪」
「リンリン♪そういう日あるな」
ネアスは目を閉じレテの話に集中する。
「その時、とてもかわいい女の子が森の奥に大きな大きな木があるのを見つけました。彼女に良い考えが浮かびました」
「あんなに大きな木なら私みたいな小さいかわいい女の子がパンチやキック、体当たりをしても、びくともしない。ストレス解消にピッタリ。マッハで向かいました。リンリン♪」
ガーラントは目を覚ますが、じっと動かず耳を澄ましている。
「とてもかわいい女の子が大きな木をひたすら殴り続けて、ちょっと満足したけど物足りない。今度はお父さんの悪口をたくさん言いました。スッキリ、スッキリ、リンリン♪」
「リンリン♪スッキリすればオーケー、オーケー」
「とてもやさしい女の子は森の大きな木にお礼をしたくなりました。何も文句を言わずに付き合ってくれた大きな木。親切な大きな木にはなんのお礼が良いのかな。リンリン♪」
「リンリン♪相手は木だからな、僕には思いつかない。昔からレテは頭が良かったみたいだね」
「とても頭のよい女の子は大きな木に聞いてみることにしました。大きな木さん。あなたの願い事はなんですか。返事はありません。リンリン♪」
「リンリン♪木は話せないからね。ウ~ン、どうしよう」
「気にしない。気にしない。私の願いはいつかステキな男の子と出会って冒険をすることです。リンリン♪」
「リンリン♪僕も昔はそんな夢見たかな。友達と遊ぶのに忙しかったかな。覚えてないな」
「小さな女の子は満足して、その場を立ち去ろうとします。今日のようにリンリン♪の音色を聞きながら」
「その時、楽しそうな夢。私も一緒で良いですか。小さな女の子はそんな声を聞いた気がしました。リンリン♪」
「リンリン♪シルフィー登場だね」
「私の名前はレテ。あなたのお名前は?返事はありません。あなたの名前はシルフィー。気に入ってくれると嬉しいな。これからずっと一緒にいようね、リンリン♪」
「リンリン♪僕の願いはデートがしたい。一度でもいいからデートがしたい。実は何回でもしたい」
「好きな女の子とずっと一緒にいたい。僕の名前はネアスです。あなたに名前をつけましょう。あなたの名前はリンリン」
二人は見つめ合い、静かに森の様子を伺う。
「何も聞こえない。でも、楽しかったから良い。リンリン♪」
「私も楽しかったよ。ネアス、夢叶うよ。きっとね。森のみんなも付き合ってくれて、ありがとうね。大好きよ。リンリン♪」