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かのじょのこと

 三人が町長の邸宅を後にする頃には日はすでに高く昇っていた。街の人々はお昼を終え、午後の仕事に向かう時間帯で道は混み合っていた。三人は人々を避けて屋台に駆け出す。

「お店がしまっちゃうわ。二人とも今日は遅れたら置いていくからね。はぐれても昨日、一度行ったから大丈夫でしょ」

 レテは走り出す前に心配そうに二人に確認する。

「ちゃんと覚えているから大丈夫さ。僕は道に迷うことはよくあるけど方向音痴ではないから心配しないでお昼ごはんを確保してくると良いよ、レテ」

 ネアスはレテが不安になる発言をする。彼は屋台の方角に向かって走り出す。レテは安心して自分も走り出そうとする。

「ワシも問題ないのじゃ。二人に任せるのじゃ、レテ殿のセンスに任せてワシはゆっくりと向かうことにするのじゃ。三人で走っていったら迷惑なのじゃ」

 ガーおじは人の数を見て尻込みをする。

「分かったわ。私に任せれば、ダイジョブ、ダイジョブ。ガーおじも分かってきたじゃない。ガーおじに風の加護がありますように」

 レテはネアスを追い抜いて道を軽やかに駆け抜けていく。二人が屋台の集まりに到着したときにはほとんどの店は片付けを終えて、休憩時間に入っていた。何店か料理が残っている店を二人は覗いてみることにする。

「人気がないからって美味しくないわけじゃないわ。穴場だったり独創的な料理が提供されているわ、きっと」

 レテはネアスを鼓舞する。彼は良い香りがしないので判断に迷っている。

「耳は良いけど、鼻が利くわけじゃないからな。僕は役に立たない。味じゃなくて匂いが消えれば良かったなあ」

 ネアスはキョロキョロと辺りを見回す

「数が少ないし、時間も時間よ。急げ、急げ」

 レテは一番近くの店の料理を見る。そこにはクッキーが山盛りになっていた。

「お嬢さん、ストーンマキガン名物クッキーはいかがですか。保存も効くし、噛みごたえがあってオイシイよ。どうぞ、味見をしてください」

 店主がレテにクッキーを手渡そうとするが彼女は手を出さない。

「ごめんね、キライなわけじゃないの。さっき食べてきたから遠慮するわ。次に行きましょう、ネアス」

 レテは素っ気なく店主に断ると次の店に向かおうとする。ネアスはその場を動かない。

「昔、そんな感じに振られた事がある。いや、何でもないよ。レテ、行こう」

 ネアスは余計な事を言ってしまったと感じ、足早に次の店に向かう。

「ネアスの事、私は好きよ。これで許してくれるかな、悲しい思い出は忘れられそうかな」

 レテはさっそくネアスをからかう。

「僕もレテの事は好きさ。一緒に冒険というか調査が出来て、すごく楽しいよ。これまで経験をしたことがなかったから、なおさらうれしい」

 ネアスは好きの意味を友人としての好きと捉えたので焦り出さなかった。

「ガーおじの淡い恋は終わったけど、私たちの恋はまだ始まってもいないわよ」

 レテはさらにネアスをからかい出す。

「ガーおじの恋は悲しかった。ガーおじに使命がなければ結ばれたはずだったのに、あれなら裏切り者の方がマシだったかもしれない」

 ネアスはレテのからかいになれてきたように見える。レテは楽しそうに次の店の料理をみる。

「いらっしゃいませ、レテ様。今日は私の店で食べてくれるんですか。昨日のホットドッグ屋は商品を出した瞬間に売り切れでした。うらやましい限りです」

 店主はすぐに調理を始める。

「せっかくの縁ね。店主さんにお任せするわ。私はオススメをお願い、彼には香りの良い料理をお願い。明日はたくさんお客さんが来ると良いわね」

 レテは褒められて気分が良くなったのでこのお店に決めた。

「レテは決断が速いね。二つ目でもう決めたのか。どんな料理のお店なの」

 ネアスはメニューの掛かっている所まで近づいていく。

「知らないわ。センスで決めたわ。後は店主さんの腕次第よ、クッキーじゃないはずだからダイジョブ、ダイジョブ」

 レテも心配になってメニューを確認する。岩焼き肉焼きそばと書いてあるのが目立つ。岩焼き野菜、岩焼き森の恵みと三つメニューがある。

「ストーンマキガン定番の岩焼き料理の店です。他にもたくさん岩焼き屋があるので埋もれてしまいました。今は新メニューを開発中です」

 店主はチャンスを掴んだが緊張しているのが声で伝わってくる。

「レテの前だと緊張しますよね。僕も初めはそうでしたから気持ちは分かります。頑張ってください」

 ネアスは店主の緊張が自分にも伝わってくるのを感じる。

「美味しかったら明日から繁盛店?!緊張するのは仕方がないわ、ネアス。私でさえ騎士の試験の時はすごく固くなったわ」

 レテは試験の日を思い出して笑みがこぼれる。店主は料理作りに必死だ。

「騎士の試験か。僕も副団長さんにお願いしたら受ける事になるのか。緊張してきた、まずいな」

 ネアスは緊張で体がカチコチになる。

「そんなにカチコチだと実力があっても試験には落ちるわね。実践でも緊張しちゃうって判断されるの、適度な緊張が必要なのよ」

 レテはネアスに助言をする。

「試験で良い点数を取ったことはない。冒険者になる試験もギリギリで通過。でも、一回で合格だからよく出来たほうだ」

 冒険者の試験は大体の人は一回で受かる。危ない人物、やる気のない人物を落とす試験だ。レテもその事は知っていた。

「他の人には言わないほうが良いわ。私はすごいって言えるけど、簡単だって言う人も多いかな。すごいじゃない、ネアス」

 レテは前置きをして褒めてあげる。

「お世辞と分かっていてもレテに褒められるとうれしいな。自慢をしたかいがあった。良い匂いがしてきた」

 ネアスは屋台の前に戻り料理を待つ。レテも彼の隣に位置する。

「忘れていたわ、ごめんなさい。三人分を頼むはずだったのに私としたことが失敗したわ。オススメをもう一つお願い」

 レテは慌ててガーおじの分を頼む。彼女が来た道の方を見るとガーおじの姿はまだ見えない。

「オススメもう一つですね。分かりました。とりあえずオススメと香り良い料理は出来上がりました。あちらのテーブルで待っていてください」

 店主は怯えた顔でレテの表情を確かめている。

「味見するわ。オススメは他の岩焼き肉焼きそばをどう違うのかな」

 レテは緊張している店主にオススメの説明を促す。店主はハッとする。

「使っている調味料は私の独自のブレンドです。リンリン森林とレイレイ森林で取れる薬草を集めました。自信の品です。このために今日はレテ様の分を残しておきました」

 店主は口を滑らす。

「店主は策士だ。しっかり考えていたのか、本当に明日が楽しみだ」

 ネアスは自分の焼きそばの香りをかいでみると独特だが良い匂いだ。

「ネアスの岩焼きそばも美味しそうね。ちょっともらおうかな、見た目で判別出来ないのが問題だけど……」

 レテは店の前で少しだけ味見をする。レテの表情が明るくなる。店主の顔は真剣そのものだ。

「美味しい、今まで食べたことのない岩焼きそばだわ。マリーの岩焼きそばにも劣るともまさらない味ね。マリーに勝ちって訳にはいかないわ」

 レテが率直な感想を述べると店主の顔も明るくなる。

「実はマリーさんのお店に毎日通って研究したんです。それでマリーさんはリンリン森林の植物に詳しいことも調査しました。ありがとうございます、暑いうちに食べてください」

 店主はガーおじの分を急いで作り始める。

「千五百ララリですよね。置いていきます。僕もテーブルでいただいきます」

 タイミングを見計らっていたネアスはぎこちなくララリをカバンから取り出す。

「サービスです。ララリはお収めください。明日から忙しくなりそうです。ララリはいただけません」

 店主が周囲に聞こえるようにネアスに伝える。店の周りには少数だが興味を持ったお客が注文をしようとしている。

「ネアス、残念だったわね。今回は店主さんに従うのが正解よ。気持ちだけ受け取っておくわ。ありがと、ネアス」

 レテは置いてあるララリを取って岩焼きそばを持ってテーブルに向かっていく。ネアスもあきらめて彼女についていく。

「ガーおじのアドバイス通りにしたけどタイミングが悪かった。後でガーおじに謝らないといけない」

 ネアスはレテが座って食事を始めたのを確認してからひとり言をつぶやく。岩叩きの音にかき消されるはずだった。

「耳が良いのはキミだけじゃないのよ、忘れっぽいネアスくん。早く食事を食べないと冷めるわよ。熱さは分かるんでしょ」

 ネアスは急いでテーブルに向かっていく。二人は食事を終えてマリーのオールラドリンクを飲んで休憩を取る。ガーおじの分の岩焼きそばはとっくの昔に届いており冷めてしまった。

「ガーおじ、遅いわね。心配はする必要はないけど、どこをほっつき歩いているのかな。また、ナンパでもしていたらどうしよ」

 レテはネアスに質問をする。ネアスは満足いく食事が出来て眠くなってくる。

「ナンパはしていないと思うけど。筋肉痛に苦しみながら、ガーおじは僕に教えてくれた。誰でも良いからとナンパをしてはイケナイ。しっかり自分の好みの女性に声をかけるべきだ。そうすればダメージは少ないハズ」

 ネアスはガーおじの助言をしっかりと覚えている。

「ま、ガーおじも成長しているわね。もし成功しても好きな女の子じゃなかったら困るもんね。そういう時はどうするの、ネアス」

 レテはネアスに答えにくい質問をする。

「ナンパに成功したことがないからなあ、その時になってみないと分からないけど。デートはすると思う。いや、成功したらデートだけではすまないかな。舞い上がってしまって次のデートの約束をしようとするはずだ」

 ネアスには答えにくくなかったようだ。レテは面白くなって、さらに質問を重ねる。

「その後、好みの女の子が歩いていたらどうするの。ナンパに成功していなかったら声を掛けていた女の子よ」

 レテはネアスをじっと見つめる。ネアスは彼女の視線を避けて晴れた空を見上げる。

「そんな幸運は僕には起こらない。でも、答えは成功した子を選ぶさ。僕の初めてのナンパで成功した女の子だ。いくら好みの子が現れても声は掛けない。そこまでバカじゃない」

 ネアスは自信を持って答える。

「そうなんだ。じゃ、その子が声を掛けてきたらどうするの。一目惚れですって言われたらどうするの」

 レテは笑いを抑えながらネアスに問いかける。ネアスは空を見ているので気が付かない。

「レテも面白い女の子だよね。僕にそんな質問をしても仕方がないと思うけど。答えは好みの女の子に鞍替えする。自分の好みには忠実になるべきだ。そっちの方が幸せな気がする」

 ネアスがレテを見る。彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべている。

「変な質問をしてごめん、ネアス。一目惚れですって声を掛けられる訳がないわ、しかもその子が好みの女の子だなんてありえないわ」

 レテはクスクスを笑い出す。ネアスは困った顔になる。

「ガーおじはもっと上手く答えられる。どう答えるか、思い浮かばないな」

 ネアスはガーおじ師匠の言葉を思い出して良い回答を考えるがなかなか浮かばない。

「ガーおじならモテないワシにこんな質問をするレテ殿はイジワルなのじゃ。レテ殿のようなきれいでやさしくてかわいいモテる方にはワシらの気持ちは分からないのじゃ」

 レテはガーおじの真似をする。ネアスもそれに乗っかる。

「ネアス殿、これがレテ殿の本性じゃ。覚えておくのが良い。だまされてはいけないのじゃ」

 ネアスはガーおじの真似で口を滑らせてしまう。レテがむっとする。

「ネアスくんは私に対して悪い感情をもっているよね。ガとスって私が影では呼んでいるって思っているんだもんね」


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