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噂話

 緑岩亭の外に出ると石を叩く音が大きく鳴りひびくのが聞こえてくる。街の人々は大分慣れたようで耳を抑えている人の数は昨日よりも減っているように見える。それでも軽快な音の響きが絶え間なく聞こえてくるのは大変のようだ。

「外に出ると一段と石の音が大きく聞こえるわね。どうにかならないかな、耳が悪くなっちゃうわ」

 レテは屋根の上で作業をしている職人を見る。石職人は黙々と屋根の石を叩いている。

「実際職人さんたちは何をしているんだろ。シューティング緑岩祭り準備をいているはずだけど素人の僕には分からない」

 ネアスは首を回して体の調子を確かめている。問題はなさそうだ。

「ストーンシールドを作成できるほどの職人の皆さんじゃ。素晴らしい仕事をしているのじゃ。きっとワシらが驚くようなものを作っているのじゃ」

 ガーおじは宿に石盾を置いてきたので今日は身軽に動けるので快適である。

「誰か暇そうな職人さんがいれば話を聞いてみたいけど難しそうね。あきらめて町長から話を聞くしかないかな、あんまり期待が出来ないのよね」

 レテは昨日の会談の感触を思い出し、不安になる。

「今日は石版を持っていかなくても良いの、レテ。町長さんも見てみたいかもしれないからシルフィーさんにお願いしたほうが良いかも」

 ネアスが石版を宿に置いていくことに不安なようだ。

「ネアス殿、石は重いのじゃ。ワシも宿に置いておくことに賛成なのじゃ。誰もあの石版を欲しがる人などいない、心配することはないのじゃ」

 ガーおじはネアスを安心させようとする。

「そうよ、ネアス。刻まれた文字は覚えているし、ダイジョブ、ダイジョブ。今日はお祭りの話に専念しましょ」

 レテも珍しくガーおじの意見に同意して町長の家に出発していく。

「重い、僕の背中が重い」

 ネアスが背中のカバンの重量に気づいて地面に下ろす。

「まだ体力が戻っていないの、ネアス。私が持ってあげようか、サービスだからね。特別サービス」

 レテはネアスのカバンに手をかけると思っていたより重いのでサービスはやめる事にした。ガーおじは重い言葉に敏感に反応して黙っている。

「何が入っているのかな。ネアスが知らない間に誰かが贈り物をくれたみたいね。楽しみ、楽しみ、何が出てくるのかな」

 レテがカバンを開けると小さいメモと水筒が入っていた。

「今日は食材の仕入れなのでお見舞い出来なくてごめんなさい。オールラドリンクです」

 レテはメモを読み、水筒を開けて特製ドリンクを飲む。

「マリーさんの気遣いか。これは頑張らないといけない。可愛い女性にたくさん特製ドリンクを作ってもらうなんて初めてだ」

 ネアスはカバンを背負い、先陣をきって道を進んでいく。

「ネアスも元気そうで良かったわ。マリーはかわいいわね、私もそう思うわ。ガーおじはマリーをデートに誘わないの?」

 レテも歩きながらガーおじに質問をする。

「マリー殿は厳しそうなのじゃ。ワシは支えてくれる女性が好きなのじゃ、マリー殿は違う気がするのじゃ」

 ガーおじはマリー特製ドリンクを取りそこねて悲しんでいる。

「そうかな、マリーは献身的に支えてくれそうだからガーおじの好みだと思ったんだけど。ま、マリーの方が断るわね」

 レテもガーおじを真っ向から否定は出来ないようだ。

「ネアスはずいぶんと先まで行ったみたいだわ。ガーおじ、急いでついていきましょう。早く、早く」

 レテは早足でネアスを追いかけていく。

「レテ殿は足が速いのじゃ。違うか、ネアス殿の足が速いのか。若いとは良き事なのじゃ、ワシも颯爽と駆け抜けてみたいものじゃ」

 ガーおじは必死にレテに食らいついていく。

「レテ、遅いじゃないか。僕のペースについてこられないみたいだね」

 ネアスは汗一つかかずに道をすばやく駆け抜けていく。レテは彼の足の速さに驚く。

「ネアス、病み上がりなのよ。無理は良くないわ、私のアドバイス。聞いてくれるかな」

 レテはネアスにペースを落とすようにお願いする。

「レテ殿の負けじゃ。すごいのじゃ、ネアスどの。爽快なのじゃ、レテ殿が負けたのじゃ、負けたのじゃ」

 ガーおじはネアスが勝った事で興奮してはしゃいでしまう。

「ガーおじ、僕の勝ちではないよ。レテが手加減してくれているのさ、それに今は勝負の最中じゃないし……」

 ネアスもうれしそうだが混乱もしているようだ。

「ネアスの勝ちよ。勝負はしてないけど、いつでも勝負に備えるのが私たちの流儀よ。常に勝てる勝負を探す、それが私とネアス!」

 レテは二敗目を受け入れる。

「戦士は常に戦いに備えねばならないのと同じか。ネアス殿とレテ殿の勝負は急に始めるからワシには分からないのじゃ」

 ガーおじは二人の勝負には立ち入らないようだ。

「でも、足が軽くなった気がする。どうしてだろう。風の神殿特製ポーションの力かな、自分でないみたいだよ」

 ネアスが怪しい発言をする。ネアスが颯爽と道を駆け抜けていたのを眺めていた石職人が屋根から声を掛けてくる。

「兄ちゃんは足が速いな。この町でも兄ちゃんに勝てるやつはいないぞ?!」

 レテがその言葉に反論をする。

「真剣勝負なら私は負けないわ。今回は油断したけど、よーいどんのルールなら私の方が足が速いのは確実よ」

 レテは大声で屋根に叫び返す。

「レテ様じゃないですか。今、降りるので待っていてください」

 屋根の上の職人はレテを見ると急いではしごを使って彼女たちの頭上から降りてくる。

「レテ殿は有名人じゃ、ワシもご利益をおすそ分けしてほしいのじゃ」

 ガーおじはネアスのカバンから水筒を一つ取り出してオーラルドリンクをグビグビ飲みだす。

「そういえば僕は重い水筒を背負っていたんだっけ、本当に僕の体はどうなってしまったんだろう」

 ネアスはジャンプをして体調を確認するが異常は感じない。

「パワーアップしたんだから問題ないわ。弱くなったら困るけど強くなる分には嬉しいことじゃないかな、祝福かな」

 レテは半信半疑でゴブリン神官の言葉をつぶやく。

「お待たせしました、レテ様。優秀な相棒をお持ちでうらやましい限りです」

 石職人はネアスの肩を叩きながらレテに挨拶をする。

「レテ殿の人の見る目はさすがじゃ。ということはじゃ、ワシも記憶が戻ったら優秀な戦士になるのは確実じゃ」

 ガーおじは記憶が戻るのが待ち遠しくなる。

「優秀、初めて言われた言葉だ。ありがとうございます」

 ネアスは石職人にお礼を言い、カバンの水筒を彼の手に渡した。

「ありがたい、兄ちゃん。マリーの店のドリンクだろ」

 石職人は特製オールラドリンクをグイッと飲んでネアスは返す。

「情報通の石職人さんね。何でも知っているのかな」

 レテは不審に思い、率直に尋ねる。

「レテ様が昨日から街でウロウロしているのはみんな知っています。役に立たなそうな二人組を連れているって話でしたが、所詮噂話でしたね」

 石職人は噂を信じたことを後悔しているようだ。

「役に立たないとは失礼な噂じゃ。レテ殿を支えるワシらを何だと思っているのじゃ、信じられないのじゃ」

 ガーおじは本気で怒っているようだ。

「噂話よ、ガーおじ。いちいち気にしていたら身がもたないわよ。気にしないのが一番、気にしない、気にしない」

 レテはおまじないを唱えてあげる。

「これからは優秀な二人組の噂が流れるのか。レテと一緒にいると良いことがたくさん起きる?!レテはやっぱり僕の幸運の女神様だ」

 ネアスもレテをほめる。

「俺は聞く専門なんで期待しないでください。一度広まった噂を消すのは難しいと思います。足が速いのは飲み屋で今夜にでも話してみます」

 石職人は二人の期待が重かったようだ。

「情報通のお兄さんに聞きたいのだけど、何で石職人のみんなは建物を壊しているの。他の人たちは気にしてないみたいなのは、なぜ?!

 レテはさっそく質問をする。

「我々ストーンマキガンの石職人の大棟梁がいるのですが、その方が建物を壊せと号令を出したんです。俺たちにとっては街の命令よりも優先する事です」

 石職人は自信を持って答える。

「棟梁がいるのか。当たり前といえば当たり前じゃ。誰かが先頭ときって指導をしなければならないのじゃ、当然なのじゃ」 

 ガーおじは納得する。

「大棟梁?!石職人の世界も知らないことがたくさんだ」

 ネアスは世界の広さを知り驚いています。今日はネアスのポケットでゆったりしていたモラもびっくりしたようだ。

「大棟梁。町長さんが一番偉いはずよ。私も大棟梁なんて人を聞いたことないし、ウソじゃないでしょうね。私が知らないはずがないわ」

 レテは石職人に疑いの目を向ける。

「ゴブリンが増えだして俺たちもどうしようかって集まっていたんです。大棟梁は昔からいたとかいないとか、俺が聞いた話では棟梁のみんなで決めたみたいです。町長は忙しいみたいで面倒を掛けてはいけないみたいな話でした」

 彼は焦りながらも必死に説明をする。

「王都でゴブリンが増えて人手不足って話を聞いて僕も冒険者になろうと思ったんだ。似たようなきっかけだね」

 ネアスは同意を示す。

「そうじゃったのか、ゴブリンの増殖。大変なのじゃ」

 ガーおじもあっさり納得する。

「確かに頼りにならなそうな町長さんだったし気持ちは分かるかな。でも、号令をかけたんでしょ。ちょっと辻褄があわなくないかな、情報通さん」

 レテはもう少し話を聞けそうなので突っ込んで見る。情報通の石職人はたじろぐ。

「レテ様は町長に話を聞くのが良いです。俺は棟梁にやれって言われて仕事をしていますが気になって飲み屋で情報を集めただけです。大棟梁にもあったこともないです」

 情報通の石職人は仕事に戻ろうと話を切り上げようとする。

「ありがとう、仕事中にごめんね。えっと」

 レテは名前を聞いてないことに気づく。

「ルキンです。噂好きの石職人とでも覚えていただければ幸いです。兄ちゃんはネアスか。頑張れよ」

 噂好きのルキンは屋根に上り仕事を再開する。

「ルキンさんもお仕事頑張ってください。レテについていけるように頑張ります」

 ネアスは元気に返事をする。

「私たちも本格的に仕事を始めないとね。でも、良い情報が得られたわ。しっかりがんばっているわよ、ネアス」


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