二人の関係
レテとネアスは宿から離れてガーおじが偵察から帰ってくるのを待つことにする。月明かりと魔法の光紙が二人を照らしている。
「この辺りで待ちましょう。今日は本当に疲れたわね。これが最後のお仕事かな」
レテは街路樹の近くのベンチに腰を掛けて、ネアスも隣に座るように促す。
「ラーナさんの方が良いとか、レテが良いとか、僕が決める立場でもないような気がするけど……」
ネアスは青ざめた顔でレテの質問に答える。
「どうしたの、顔色が悪いわよ。ネアスも今日は疲れちゃったのかな、先に宿に帰ろうか。それともガーおじを置いて一緒に行こうか」
レテはネアスの顔色が悪くなったので心配そうに顔を見る。
「僕はたいした事をしていないから大丈夫さ。レテこそシルフィーの力をたくさん使ったから疲れていない?」
ネアスは急いで話題を変える。
「このくらいは問題なし。もっともっとシルちゃんの力を使っても元気、元気。私の魔力はラーナにも負けないはずよ」
レテはラーナに対抗心を燃やしている。
「ラーナさんの魔法はすごそうだった。もし、レテが止めなかったらどんな被害がおきていたんだろう」
ネアスの顔が再度青ざめる。
「実際に使っている所を見てみないと分からないけど自信満々だったわね。自信と実力が比例するとはかぎらないけど、油断は出来ないかな」
レテは宿の方を見るがガーおじが出てくる様子はないので話を続ける。
「ネアスから良い匂いがするわね。あの女の匂いね」
レテはネアスに顔を近づけて匂いをかぐ。ネアスは動揺して汗が吹き出てくる。
「ラーナさんが抱きついていたから仕方がない。何の香りなのか、僕には全くわからない。
レテの香りとも違う?!」
ネアスは終わりを感じる。
「香水ね。花の香りがするわ、きっと高級品ね。貴族の人でつけている人がたまにいるわ。香水に罪はないわ。良い香りね」
レテは手でネアスの服を揺さぶって、さらに香りを嗅いでいる。ネアスはじっとして身を任せている。
「私の香りは森の香りなのかな。さっきモラが戻ってきた時の香りが残っているのかな。私は木と草の香りも好きよ」
レテはネアスにさらに近づいて自分の香りを感じさせようとする。
「女の子にもいろいろなタイプの子がいるんだね。なんというか、言葉にするのが難しい。僕には無理だ」
ネアスはあきらめてしまう。
「それじゃデート出来ないわよ。良いのかな、ネアスくん」
レテがネアスをからかうと彼は顔を赤らめてしまう。
「女の子とデートをするのがこんなに大変だとは思ってもみなかった。ガーおじが帰ってきたらアドバイスをしてもらわないといけない」
ネアスも宿を眺めるがガーおじが出てくる気配はない。
「ガーおじに助言を求めても仕方がないと思うけどな。でも、他に頼りになりそうな人もいない仕方がないかな」
レテは立ち上がり宿に向かっていく。
「ガーおじ、遅すぎ。偵察じゃなくなるわ。私がいないとダメなのかな。副騎士団長もいるはずなのに、もう頼りにならないわね」
レテがズカズカと宿に進んでいくとすると、入り口からデフォーとガーおじが話しながら出てくる。
「レテ殿、遅れて申し訳ないのじゃ。偵察完了じゃ」
ガーおじはデフォーを伴って二人の方に走ってくる。デフォーは荷物を宿に預けているようで軽装になっている。
「レテ殿、またお会いできて嬉しい限りです。ここではなんですから緑岩亭で詳しい話をよろしいでしょうか」
デフォーは真剣な顔でレテに提案する。
「そうね。デフォーさんと話をしてみたかったしちょうど良かったわ。ガーおじもたまには役に立つわね」
レテたちはラーナたちにバレないように緑岩亭にさっそく向かっていく。
「ガーおじ、ウルサイ女はいなかった。性格が悪そうな美人の子よ」
レテは歩きながら偵察の成果を確認する。レテもラーナがきれいなことは認めているようだ。
「かわいい女の子はいたが、うるさくはなかったのじゃ。みんな静かに食事をしたり、お酒を飲んだりしていたのじゃ」
ガーおじは残念そうに答える。
「ラーナさんとクロウさんの姿は今の所は見当たりませんでしたね。まだ、宿に到着したばかりなので休憩なさっているのでしょう」
デフォーが補足する。
「先走りすぎかな。私の数少ない欠点の一つね。いつもはこれでうまくいくんだけどな、ガーおじのせいよ、きっと」
レテは自分の失敗をガーおじになすりつける。
「その御蔭でデフォー殿と出会えたのじゃ。デフォー殿は素晴らしい方じゃ。ワシにお酒をおごってくれると言ってくださったのじゃ」
ガーおじはうれしそうに出会いを語る。
「禁酒はやめたんだ、ガーおじ。楽しいことはやめるべきじゃないよ」
ネアスもうれしそうに話に加わる。
「いえいえ、ガーおじ殿の決意は堅いようです。大事な誓いだそうです。その約束を思い出せそうだったので少々時間をいただきました」
デフォーはガーおじに感服したようである。
「ガーおじらしくないわね。貰えるものは貰うタイプだと思っていたわ。意外だわ。意外と言えば、ネアスも女の子のデレデレするタイプだったわね」
レテはネアスをまたからかい始める。ネアスは変な汗をかいてしまう。
「自分でも意外なのじゃ。レテ殿が驚くのも無理はないのじゃ。ワシはほんわかまったりおじさんだと思っていたのじゃが、戦士でしかも誓いを立てているのか」
ガーおじは自分の過去に不安を感じ始めているようである。
「私のかつての友もガーおじ殿のように誓いを立てて、見事に目的を果たしました。ガーおじ殿を見ていると若い頃を思い出します。
デフォーは遠い目で夜空を眺める。
「誓いね。精霊との契約みたいなものかな。それなら破るわけにはいかないわね。大事な事だもの!」
レテは黙ってついてくる石版をなでてあげる。
「そうじゃ、石版じゃ。デフォー殿は石版を間近でみたいそうじゃ。レテ殿、ワシの一生のお願いじゃ」
ガーおじは大声を出してしまう。
「ガーおじ殿、ありがたいことですができれば内密にしていただきたい。これでも私はギンドラの冒険者ギルドにそれなりに長くいます。あまり事を騒ぎ立てたくはないのです」
デフォーはにこやかな表情である。石版に目を向けずに宿の方だけを見ている。
「この話は宿でしましょうか。ラーナの事でも話し合いましょうか。世間知らずのお嬢様で自信過剰。危なっかしいわ」
レテがラーナの話題を始めるとネアスは焦ってしまう。
「お嬢様も気苦労が耐えないんだよ、きっと。今度会ったらレテの悪口を言わないように注意しておくよ」
ネアスは頑張る。
「結婚する仲だもんね、ネアスとラーナは。同じ誓いでもずいぶんと軽い誓いよね、もう少し考えてから話をすればよいのよ、あの子は?!」
レテはガーおじを見る。
「なんと?ラーナという美人の女性と結婚の誓いを結んだのか。ネアス殿もやるのじゃ」
結婚の言葉にガーおじが驚く。
「冗談だよ。本気で結婚するわけじゃないさ。僕はからかわれただけさ」
ネアスはそれでもラーナの事を思い出すと顔が赤くなってしまう。
「若い男性には刺激が強かったようです。なかなか美しい女性であったので仕方がありません。クロウ殿が上手く制御してくれれば良いのですが……」
デフォーの顔も曇ってくる。
「彼女を自由にさせるって言っていたわ。迷惑を掛けられるこっちの方にも気をつかってほしいわね」
レテの顔にも険しさが戻ってくる。
「お金持ちか。金ララリを当たり前に持っていたよね。お金持ちの女の子と知り合いにあるのは初めてだ」
ネアスはララリに惹かれる。
「玉の輿じゃ。ネアス殿、それも男の幸せの一つなのじゃ。気にすることはない、自分の信じた道を進めば良いのじゃ」
ガーおじはモテない。
「信じた道を進めたのでしょうか。ガーおじ殿。信じることさえ私には難しい事でした。私は貴方を見習いたい」
デフォーが唐突に真剣な口調で語る。残りの三人はびっくりしてしまう。
「私は何を信じているのかな。考え出すと頭が痛くなってくるわ。お腹も減っているし、変な子に絡らまれたりで今日はつかれちゃったかな」
レテは考えすぎないように気をつけている。
「デフォーさんは立派な方なんですね、やっぱり。ユーフさんも尊敬しているし、どうしたらそんなにかっこよく年を取れるんですか?」
ネアスも真剣にデフォーに質問をする。
「私より優れた冒険者はたくさんいました。しかし、皆冒険の途中で不幸な目に合いました。私は運良くここまで冒険者を続けてこれただけの老いぼれです」
「そうじゃな、勇敢な戦士たちは先陣をきって進んでいったのじゃ。臆病者のワシがいきのこったのじゃ、悲しいことじゃ」
ガーおじの頭に悲しい情景が浮かんでくる。
「そうじゃ。しかし、生き残ったワシのみが果たせる誓いがある。ワシはそう信じている、デフォー殿もそうであろう」
ガーおじが静かにデフォーに語りかける。デフォーは黙ってうなずく。レテはガーおじの異変に気づく。
「ガーおじ、記憶が戻ったのね。雰囲気が違うわ、戦士の血が目覚めたの?!」
ガーおじはレテの言葉に困惑の表情を浮かべる。
「デフォー殿と話をしていると昔の友と離れているようだ。しかし、記憶は戻っていないのじゃ。それっぽい言葉が浮かんでくるだけじゃ」
「昔のガーおじはシブいおじだったんだね。今のほんわかまったりおじも好きだけどシブいガーおじもカッコいい。憧れるよ」
ネアスが尊敬の眼差しでガーおじを見つめる。ガーおじは満更ではない様子である。
「シブガーおじね。年を取るとそれなりに苦労をしちゃうのかな。私はこれ以上迷惑を掛けられるのはイヤかな」
緑岩亭が視界に入るとレテは軽やかに歩みだす。
「私も若い頃はむちゃをしたものです。お年寄りの話を聞いていただきありがとうございました。お礼に食事代は私がだしましょう」
デフォーは三人を置いて緑岩亭に入っていく。
「デフォーさんとガーおじの気が合うとは思ってもみなかったわ。お腹へったね、難しい話は後にして夕ごはんとおフロの時間ね」




