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はずかしい

 レテはアーシャの手を取って、ラーナの元に向かう。彼女の思っていたよりも通路は入り組んでいたが、風の流れに従うと簡単に到着した。

「どんどん暗くなってきたかな、気のせいじゃない。そろそろ帰りましょっか?」

 レテは二人に提案する。

「まだまだかしら、探索はこれからね」

 ラーナは却下する。

「賛成二で探索続行です。最強の槍、大賢者、性格の悪い石投げヤロウも残っています。彼氏の力は最大限活かすべきです」

 アーシャは冷たい風を吸い込む。

「アーシャの言う通りね。レテはネーくんを独り占めしているんだから、私たちのお願いを聞くべきかしら。大賢者様に会えずに暗闇で壁にぶつかっただけなんて人に知られたら、クロウに伝わって笑われるわ」

 ラーナはレテに伝える。

「暗闇の中の壁、これが世界の壁って事はないのかな?」

 レテは風の流れていない場所に手を伸ばす。空を切り、彼女は転びそうになる。

「違う、イジワルなヤツが作った場所。手が込みすぎ、シンジラレナイ」

 レテは空を蹴飛ばす。

「レテの前には壁はない。私には魔術の限界、世界の壁がある。私はへぼ魔術師と同じように頭をぶつけた。私は敗者、しかも、あふれる知性もなかったのかしら。私に残されたのはうつくしさのみ」

 ラーナは手を伸ばす。ツルツルした壁がある。

「ラーナさんは素晴らしい魔術師です。私はレテ様を尊敬しているだけの騎士です。でも、最強の槍があれば話が違ってきます」

 アーシャはラーナの手の隣の壁に触れる。ザラザラしている。

「私にだって壁はあるかな。私はきれいでやさしくてかわいい女の子、いつも壁にぶつかってばかりかな。彼に出会わなかったら、今頃深い悩みで夜も眠れずに寂しい思いをしていたハズ。私は強くないわ」

 レテは二人の手の隣に手を当てる。壁はないが彼女は手を静止させて、触れている感じを出す。

「これが世界の壁かもしれないのね。ふ~ん、違うんじゃない。私が言い出した事だけど違うで決定かな。最強の槍が暗闇の何処かで持ち主を待っている。そっちの方が好みかな、アーシャに似合う最強の槍。暗い所で背後から忍び寄る槍、ツンツン、この音を聞いたら逃げ出せ。槍が襲ってくるぞ!」

 レテはごまかそうとする。

「壁は消えたわ、レテ。あなたが手を触れた瞬間にね」

 ラーナは静かに答える。

「風が流れています。壁はありません」

 アーシャは手を伸ばす。手は宙を掴む。

「ネアス!シルちゃん!どっち!一瞬はあったわ」

 レテはうろたえる。

「レテ、どうしてウソをついたの?壁がない事は恥ずかしい事ではないわ」

 ラーナは手を動かしながら暗闇の先に進む。

「風はどこに私たちを連れて行くのでしょうか。レテ様、壁はない方が幸せです」

 アーシャは冷たい風に付いていく。

「壁はあるわ。私が騎士団長に任命された日の事。その日は貴族のパーティーに招かれたわ。私の就任祝いって名目だったんだけど……」

 レテは二人の後に続く。

「自慢話なら最初に言ってください。失敗の話だって言われて自慢されるとショックです」

 アーシャはレテを牽制する。

「貴族と一緒なら問題ないと思うわ。全員負けず嫌いだから、簡単に相手を成功させることはないわ。相手の足を引っ張り、自分の手柄を増やす。あえて自分が失敗して相手の注目度を減らす。作戦はいくつもあるわ」

 ラーナはアーシャを安心させようとする。

「そういえば、やけに転ぶ人が多いかなって思ったわ。アーシャもたまにするよね」

 レテはアーシャに仕返しをする。

「違います。私はホントに転びそうな時があるだけです。ラーナさんの方が良く転びそうになります」

 アーシャはラーナに振る。

「私は貴族、転び方を練習したわ。二人に出会ってから何度か転びそうになったのを二人は助けてくれたけど、本当でないのはどれかしら?二人には分かる?」

 ラーナは風の流れに従い、歩いていく。

「全部ホント、ラーナは自然に転んで男性たちの視線を釘付けにするかな。むね!」

 レテは答える。

「私の見立てでもわざとには見えませんでした。むねはのぞけました。注意してくださいね、ラーナさん」

 アーシャはラーナに教える。

「正解!賞品は何が良いかしら、私の体はネーくんのモノ、知性は魔術に捧げたわ。騎士はララリを賭けてはイケナイ」

 ラーナは壁に阻まれずにドンドン進んでいく。暗闇は深くなる。

「ネアスはラーナの体を持て余すかな。私の体にもさわってこないわ、彼は何を考えているのかな。女の子の体には興味はあるのは確かなのに……」

 レテは二人に悩みを伝える。

「告白した後にベタベタ触ってこられるのもイヤです。心の準備は必要です」

 アーシャは答える。

「人それぞれかしら、私の友達は付き合う前からベタベタしていたわ。付き合っているのって聞いたら違うって言われたわ。私はアーシャに近いかしら、淡白な方が良いわ」

 ラーナは立ち止まる。

「どうしたの、ラーナ。また、壁かな」

 レテはラーナの隣で手を伸ばす。空を切る。

「ネアスさんは特別なんですね。私もデートをしておけば良かったです。最強の槍も簡単に手に入ったハズです。一生の不覚です」

 アーシャは二人の背後に立つ。

「壁はない。どこまでも続く。暗闇は深くなる」

 ラーナはつぶやく。

「やっぱり壁は必要かな。飽きてくる」

 レテは答える。

「シルフィーさんの風は止んでいません」

 アーシャはレテに伝える。

「ララリを回しているからね。風がないと落ち着かないわ」

 レテは指先でララリを回している。

「深い暗闇の先。壁のない世界。歩き続ける」

 ラーナはつぶやく。

「難しい話です。レテ様、就任パーティーの続きをよろしくお願いします」

 アーシャはレテにお願いする。

「初めにシグード様が貴族たちに騎士団長に敬意を払うように注意したわ。会場は静かになったわ。みんな、転ぶのを止めて、飲み物をテーブルに置いたわ」

 レテが話の続きを始める。

「歩き続ければ疲れ果てる。それが狙いかしら、石も飛んでこない」

 ラーナはつぶやく。

「石は任せてください。両方ちゃんと聞いています」

 アーシャは気を使う。

「マイナス何点かな、アーシャ。二人の年上の女性に話を聞かさせる。上司の横暴かな、今日の夜に頭に刻み込むんでしょ?」

 レテはさっきの事を気にしている。

「暗闇には光は届かない。星の光も届かない。流星も落ちない」

 ラーナはつぶやく。

「新人の頃の話ですよ、レテ様。今は他の事で頭がいっぱいです。私はレテ様のようにはなれません。私の名前を知っている人は騎士以外では数人だけです。レテ様のお知り合いは別です」

 アーシャは答える。

「暗闇は私たちを守ってくれるのかしら。この先には災厄から逃れる術が隠されているのかしら。ラトゥールの末裔の秘密があるのかしら」

 ラーナは考える。

「続きね。私は緊張して昨日夜から考えに考え抜いた挨拶をわすれてしまった。今は思い出せる。私は騎士団のみんなを信頼している。彼らは私の実力を疑っているわ。ここにいる皆さんと同じように小娘は何も出来ない。私はお飾りで実務は副騎士団長と部隊長がこなす。私は何もする必要はない。私はあなたたちの期待には添えない。覚えておく必要はないわ。貴族には別の役割がある。騎士は民を守る。不思議ね、こんなに簡単に言葉にできる」

 レテは暗唱する。

「光は闇を照らす。闇は光を覆う。深い暗闇には強い光が隠されているのかしら」

 ラーナはつぶやく。

「カッコいいです」

 アーシャは感動する。

「実際には、こんばんは、貴族の皆さん。騎士団長に就任したレテ・ウィンドコンチェルトです。今日はお招き頂きありがとうございます。今日の出来事は生涯の思い出になります。騎士団長として任務を果たしますので、ご協力よろしくお願いします。ちゃんと覚えているわ。忘れたい過去かな」

 レテは答える。

「深い暗闇を払う。それは正解、不正解」

 ラーナは疑問を抱く。

「無難ですね。確かにダメです。確実に置きに行っています」

 アーシャは答える。

「失敗は風が吹き飛ばしてくれる。ネーくん、お願い!」

 ラーナは流星の欠片を強く握りしめる。彼女の手が熱くなる。

「ラーナ、どうしたの?」

 レテもラーナの周囲の熱を感じる。

「違います。レテ様の話の方です。魔術は無難で構いません」

 アーシャは訂正する。

「深い闇の先、壁はない」

 ラーナは精神を集中させる。

「ダメ、ラーナ!」


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