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乙女の頭

 レテは周囲を見渡す。辺りは暗闇に包まれている。ラーナとアーシャも周りを見る。人の気配は感じない。

「女の子の頭に石をぶつけてくるなんてシンジラレナイ。ウィルくん、ラトゥール、お願い。私を助けて!」

 レテは精神を集中させる。何も起きない。

「壁はありますよ、レテ様。ザラザラです」

 アーシャは近くの壁に触れる。

「そうね、壁はあるわ。ツルツルかしら、場所によって材質を変えるなんてこっているわね。レテ、こっち!」

 ラーナは声を掛ける。

「壁はないわ」

 レテは足で周りを蹴飛ばしながら、ラーナの近くに向かう。足は空を切る。

「石は飛んでこないかしら、レテの勘違いよ。大賢者様に嫌われるような事は言わなかったでしょ。初対面は手探りかしら」

 ラーナはレテを待っている。

「石を投げるイタズラはイタズラではありません。王都でやったら騎士に捕まえられて説教されるハズです。今まで見たことがありません。卑劣な行いです」

 アーシャは手で壁を触りながら、ラーナの元に向かっている。

「石が当たったのは気のせいかな。壁もないかも、アーシャ。もう一度当たってみたらどうかな。思いっきり叩けば壊れるわ」

 レテはアーシャに助言する。ドスン!

「いたーい!私の力じゃ壊れないわ。カチカチかしら」

 ラーナは壁を殴ったようだ。

「私はイヤです。ケガをしたくないです。私は精霊使いでも魔術師でもありません。災厄が来た時にケガで待機はしたくないです」

 アーシャは壁に触れながら、ラーナに近づいていこうとするが遠ざかっていく。

「登れない?壁がどこにもないわ。何でかな、これも変よ」

 レテは周囲を蹴飛ばす。何もない。彼女はラーナの元に歩いていくが辿り着かない。

「大賢者様、助けてください!悪の策略にハマりました!」

 ラーナは叫ぶ。反応はない。

「さっきよりも暗くなっていませんか、レテ様?」

 アーシャは異変に気づく。

「気のせいじゃないわ。誰が目的かな、私には彼が付いているから何もできないわ。ラーナは魔術師だから自分で何とかできる。答えは一つ、悪の狙いはアーシャ。悪は何を望むのかな。体はラーナ、彼氏持ち狙いなら私。でも、私たちには手を出せない」

 レテは立ち止まり、分析する。

「暗闇には世界の壁がある。大賢者様もいる。ネーくんが連れてきてくれる場所、アーシャはここに閉じ込められるのかしら」

 ラーナは考える。

「暗闇は私の力をくれますか?」

 アーシャは立ち止まる。

「違うわ、アーシャ。レテ様、置いて行かないでって言う所かな。アーシャのダメな所が出ているわ。男の子に知られたらマズイかな」

 レテはアーシャに伝える。

「災厄に勝つ。闇は災厄より強いでしょうか?」

 アーシャは暗闇に問いかける。反応はない。

「アーシャ、レテの言う通りね。あなたの事を素敵だって思う人はたくさんいると思うけど、今の発言はあなたの選択肢を狭めるわ。災厄は防ぐだけで十分かしら、魔術は常に進歩しているわ。モーチモテ博士のような人物もたまに現れるわ」

 ラーナはアーシャに伝える。

「暗さは弱さですか?」

 アーシャは暗闇に問いかける。

「彼氏はいらないの、アーシャ?」

 レテはアーシャに尋ねる。

「最強の槍をくれますか?」

 アーシャは暗闇に尋ねる。

「彼氏は必要、魔術は必要、友達も必要。イラナイモノは何かしら、私は槍は苦手ね。扱いが難しいわ。お父様は槍を良く振り回していたわ。最近は農作物の管理で時間が取れないみたいね」

 ラーナは答える。

「槍を探しましょう。暗闇の中にある槍、私も興味があるかな」

 レテはアーシャの頭の中に槍が戻ったので安心する。

「暗闇の槍はアイツラを闇に落とせるでしょうか?」

 アーシャは二人に尋ねる。

「誰の事かしら?」

 ラーナは検討がつかない。

「石職人ギルドの地下室にいたようなヤツラです。レテ様のジャマをします。彼らは危険です。私には分かります。彼らは勝利を望んでいます。でも、ネアスさんは彼らに何も与える事は出来ません。ネアスさんはレテ様しか見ていません。彼らも気づいています。だから、彼らはレテ様に近づきました」

 アーシャはレテに伝える。

「大臣!それとも副騎士団長に聞いたの?」

 レテはアーシャに問いかける。

「違います。私の推測です。私は強くなりたかったのでレテ様と仲良くなろうと決めました。イヤな事を言われてもガマンして、使いっ走りにされても文句は言わないと決めて騎士団に入りました。両親にも私がやつれた顔をして帰ってきても余計な事は言わないようにとキツく言い含めました」

 アーシャは答える。

「闇は心を病んでいくのかしら、闇だけに病む。ダメ、お母様に叱られるわ。違うわ、アーシャ。私は暗闇が好きだから興奮しているの、不謹慎だと思わないでね。何だかキモチが高ぶる。大賢者様が近くにいるのかしら、私はあなたを慕っています。アーシャ、違うの。違うわ、レテがイケナイのよ。新人を使いっ走りにするのは物語でも悪い人のする事、二人の関係性は危うかったのね」

 ラーナは焦る。

「覚えてないわ。イジワルした方は気に留めてないって、噂では聞いていたけど。ごめんね、アーシャ。私は何を言っていたの、私はこの暗闇の中にいるように何も見ていなかったのね。これがイヤミなのかな」

 レテは気にする。

「いいえ、違います。私の予想に反してレテ様はやさしくも厳しくもなく。丁寧に任務を教えてくれました。剣の訓練も一緒にしてくれました。一番熱心だったのは騎士団特製パン作りでした」

 アーシャは答える。

「最後の発言が気になるわ。パン作りが好きならパン屋さんになるべきかしら」

 ラーナは落ち着きを取り戻す。

「私はいつも通りに騎士団特製パンを作っていただけ。でも、それが他の人には負担だったのね。ごめんね、アーシャ。これからは彼に手伝ってもらうからダイジョブ、ダイジョブ」

 レテは答える。

「あの男の目は望みを捨てていませんでした。お二人には分からないと思いますが、彼らは幻滅するハズです。望みは叶わない」

 アーシャは答える。

「レテは幻滅されたのかしら、心当たりはないの?」

 ラーナはレテに問いかける。

「ひとり言が多いとか、睨んでくるとか、なかなか食事を持ってこないとか。そうね、きれいって言われても澄ましている。おごってくれないとか、一人で行動する事が多いとか、なんか気に入らないとか言われた事もあるかな。私は何を叶えてあげられるのかな?」

 レテは答える。

「私は強くなりたかった。そして、強くなった。でも、災厄はさらに強い。私はレテ様とネアスさんをお守りできないかもしれません。暗闇はそれを望むのですか?」

 アーシャは闇に問いかける。反応はない。

「レテ、自慢の彼氏の出番かしら。大賢者様はいないようね。壁はあるわ」

 ラーナはレテに伝える。

「ネアスにも出来ない事はあるっていうか、ムリだと思うけど」

 レテは指先で銅ララリを回転させる。冷たい風が吹く。レテはララリをさらに回転させる。冷たい風がアーシャの方向に吹いていく。

「そちらですね。すぐに行きます」

 アーシャは曲がりくねった通路を冷たい風の流れに沿って進んでいく。

「複雑な道だったのね、彼氏は頼りになるわ。私を振っただけの事はあるわ」

 ラーナは冷たい風を感じる。

「ウソじゃないけど誤解を招く表現かな、ネアスはラーナの告白を断った」

 レテは言葉を噛みしめる。

「結婚の申込みです。ネアスさんはレテ様だけを見ています。道がわかれば簡単ですね。暗闇でも風さえあれば問題ありません」

 アーシャはレテの隣に辿り着く。

「それもアヤシイ発言かな。私を見つめていた男の子はたくさんいたわ。気にしていないからどうでも良いけどね。ラーナ、そっちに行くわ」

 レテは片手でララリを回転させて、反対の手でアーシャの手を掴み、引っ張っていく。

「こっちには何もないから私がそっちに向かうわ」

 ラーナは冷たい風の流れる方に歩いていく。

「石を投げたヤツが隠れているから注意してね。暗い所で石を投げるヤツはロクデナシ、オクビョウモノ、卑怯なヤツ!」

 レテは思い出す。

「レテ様、敵は近くにいるかもしれません。挑発もほどほどにしてください」

 アーシャはレテの手を握りしめる。

「私のあふれる知性を危険にさらしたくないかしら、待っているわ」

 ラーナは立ち止まる。

「忘れない、さっきの痛みは覚えている。覚悟しておくのよ」


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