アーシャ
レテはアーシャに問いかける。ラーナはゴブリン特製ドリンクを飲む。アーシャはゴブリン特製巨大パンに手を伸ばす。
「アーシャ、どうしたの?どうでも良い質問かな」
レテはアーシャを見つめる。
コツンコツン。扉を叩く音が部屋に響く。
「デザートの用意が出来ました。失礼致します」
ゴブリン店主が扉を開く。木のツタのお皿には黄緑のゼリーが乗っている。
「良いタイミングね」
ラーナはホッとする。
「副騎士団長は騎士団の解散を私たちに告げました。今日一日考えて、シャラキ様に従うかシグード様の指示に従うか、それともレテ様の元で災厄に立ち向かうかを決めるようにと王国中の騎士に伝令を送りました。一日だけの解散です。ゴブリンは少なく、白い影とガーランドさんはシャラキ様たちを相手にしています。草原の騎士も王都に駆けつけてくれるそうです。時間があるのは今日だけだそうです。レテ様にお伝えするかは私次第だと言われました」
アーシャはレテを見る。
「ありがと、アーシャ。王国は変わるわ、騎士も変わっても良いかな。でも、副騎士団長が勝手に決めることではないわ。大臣が絡んでいるハズ、元副騎士団長の決断ではない。元騎士団長の意見かな」
レテは動揺する。
「新人騎士見習いラーナは今日お休みかしら、二人とも騎士は続けるから今まで通りで良いわ」
ラーナは決めつける。
「私はレテ様に付いて行っても良いですか?」
アーシャはレテに問いかける。
「ダメ!私の彼はトゥールを売り払った一族。アーシャは私と距離を保った方が良いかな。ほらほら!」
レテはカバンから銅ララリを出して、指で回転させる。冷たい風がアーシャの顔に当たる。
「デザートをお先に召し上がってはどうですか?話は大神官様にお会いした後でも遅くはありません」
ゴブリン店主はテーブルにお皿を置く。
「材料は何かしら?」
ラーナはレテの椅子の下を見つめる。
「私はレテ様の後に付いていきます。決めました」
アーシャはレテに伝える。
「アメフフゼリー。ゴブちゃんの大好物、人とゴブリンは違うわ。私と彼も違う。私とアーシャも違う。アーシャは迷いを楽しむべきかな、アメフフゼリーは王都で流行るか、私と彼の悲しい運命にアーシャは耐えられるかどうか?私は騎士団長じゃない、きれいでやさしくてかわいい精霊使いの女の子。大神官の話で居眠りしてもダイジョブそうね」
レテは考えをまとめる。
「こちらは木のツタのゼリーです。アメフフを食べる習慣はゴブリンにはありません。とある木のツタの芯には甘い液が流れています。それを固めたデザートです」
ゴブリン店主は答える。
「人もアメフフを食べないわ。そうよね、レテ」
ラーナはレテに同意を求める。
「隠れて食べている人はいるのかな。ラトゥールの末裔も言いふらす事はしなかったみたいね。ラアメフフの末裔もいるのかな」
レテはアーシャを見つめる。
「私はアメフフを投げたり、踏ん付けたりしただけです。しかも、子どもの頃のお話です。売りつけて儲けようなんてどんでもない。違います、悪口ではありません」
アーシャは訂正する。
「デザートを食べましょう、今日中に大神殿を訪れたいわ。うつくしくてあふれる知性を持つ私が地上にいない。イヤな予感がするわ、すごくね」
ラーナはゼリーを食べる。笑みがこぼれる。
「うつくしさとあふれる知性のない地上は恐ろしいかな。きれいさとやさしさとかわいさがなくてもどうにかなるわ。特にかわいさがなくても困らないかな」
レテもゼリーを食べる。笑みがこぼれる。
「レテ様への尊敬がない世界。シンジラレマセン」
アーシャもゼリーを食べる。笑みがこぼれる。
「大神殿はゴブ里の地下にあります。ごゆっくりしてください。今朝地上から帰ってきた同胞の報告では異変は進んでいますが、新たな事態は起きていないようです。白い影が増えているとの事です」
ゴブリン店主は満足している。
「アーシャは適当な所があるかしら、さっきの発言は心がこもってなかったわ。レテへの尊敬のない地上。何に困るのかしら、王家への尊敬が増して良い事が起きそうね」
ラーナがアーシャを見つめる。
「そうよ、アーシャ。きれいさとやさしさのない地上はダメ。そこからやり直しかな、槍だけに。ダメ!副騎士団長の事、元副騎士団長?分からない!」
レテは銅ララリをカバンにしまう。
「レテ様も変です!元副騎士団長の名前なんて興味がありません。明日には副騎士団長に戻ります。考えるだけムダです。今は何をするべきなんでしょうか、槍の訓練ですか」
アーシャは答える。
「違うわ、アーシャ。レテへの尊敬のない地上はどんなふうかを考える時かしら」
ラーナはレテを見つめる。
「ゴブリンはレテ様を尊敬していません。我々はレテ様に感情を抱いています。いつも我々は風で吹き飛ばされる。レテ様がいなかったら経験できなかったでしょう。しかし、心地よく思っているゴブリンはいません。出過ぎた真似をしました、全ては大神殿で」
ゴブリン店主は黙る。
「私を尊敬しているのはアーシャだけかな。セオたちは私がラトゥールの末裔だって思っていたから集まっていた。街の人はやっかいごとを解決して欲しいだけ、他の騎士のみんなは私が騎士団長だから命令に従うだけ」
レテは言葉を止めて、アーシャを見つめる。
「でも、アーシャは違う。アーシャは私が命令したら何も考えないで従うわ。今までは良かった。これからは違う。私の彼はラトゥールの末裔、彼の一族に嫌悪感を抱く人たちがたくさんいるハズ。アーシャも悪口も言われるし。ステキな恋人を見つける障害になるわ」
レテはアーシャに伝えるとゼリーを口に運ぶ。
「でも!」
ドン!アーシャがテーブルを叩く。
「追加のデザートをお持ちします」
ゴブリン店主は部屋から出ていこうとする。
「紙も一緒に持ってきてくれる?地上に手紙を書きたいかな」
レテは去っていくゴブリン店主に伝える。
「申せのままに」
ゴブリン店主は足早に去っていく。
「レテへの尊敬のない地上。アーシャはいない、彼女は常にレテの指示、いいえ、願いに従った。詩人は好みそうかしら」
ラーナはつぶやく。
「ラーナ、恋人がいない女性はツライわ。私は彼に恋をして、分かった。人は精霊と共に生きる事は出来ない。誰かが必要、それは彼も一緒かな。精霊と完全に通じ合う事は出来ない。シルちゃん、そうでしょ」
レテは精神を集中させる。
シルフィーの風が木のツタに流れていく。木のツタは揺れ動く。レテの椅子の下のアメフフが部屋の中の木のツタに動いていく。アメフフの体が溶けて、木のツタの穴を開ける。
「何が起こるんですか、レテ様?」
アーシャは怯える。
「シルフィーの導き!アメフフは精霊の仲間なの!」
ラーナは興奮する。部屋の中の木のツタの中にシルフィーの風が流れていく。木のツタは静かに振動する。
「風が足りない、ネアス。お願い!」
レテは祈り、ララリを取り出す。
「魔力は必要!」
ラーナはレテの手を握る。
「微力ですが私の魔力を使ってください!」
アーシャはレテの手を握りしめる。
「私と一緒に来たら、どんな目に合うか教えてあげるわ」
レテは精神を研ぎ澄ます。ララリが回転して、激しく冷たい風が木のツタの中に流れていく。木のツタは振動を止める。暖かい風と冷たい風が逆流してレテたちに吹きつける。パチン!弾ける。
「何、マズイ?!」
レテは焦る。
「魔術師は進む」
ラーナは精神を研ぎ澄ます。パチン!さらに弾ける。
「レテ様と一緒に」
アーシャは精神を集中させる。パチン!飛ぶ。
「シルフィー、ネアス!」
レテは部屋の中を見渡す。変化はない。彼女はゴブリン特製巨大パンを見つめる。大中小の穴が空いている。
「レテ!」
ラーナが叫ぶ。
「また、ここ?」




