歓迎の朝
レテとラーナは眠気に負けつつもおフロから上がり、着替えを済ませて一番近くの部屋で眠りに落ちる。二人は誰にも邪魔される事なく朝までぐっすりと眠った。
「レテ、朝だ」
男性の声がレテの耳に聞こえる。
「え!ぶっ飛ばす」
レテは精神を集中させる。彼女の周りに暴風が起こる。木のツタがビシビシと音を立てる。彼女は飛び起き、目を開けて周囲を見渡す。誰もいない。
「何かしら」
ラーナは目をこすりながら隣のベッドで草の毛布に包まる。草は風で吹き飛んでいく。
「男がいた」
レテは小剣を構える。
「私の魅力に惹かれたのかしら?でも、ここは里ゴブ。人はいないハズ、ゴブリン神官がウソをついていない限りの話だけどね」
ラーナも小剣を手に取る。
「レテ、ダールガーナ山脈には来ないで欲しい。僕は安全だ」
男性の声が再び聞こえる。レテのカバンからだ。
「ネアス!」
レテはカバンに飛びつき、開ける。一つの銅ララリが回転している。彼女は静かにララリを取り出す。ララリは宙で回転する。暴風は収まる。
「ネーくん、聞こえている?」
ラーナが銅ララリに声をかける。反応はない。
「全てはレテのおかげだ。後は僕の役目だ。幸運の女神に幸運が訪れますように。いつか会える。今ではない時にきっと、僕はキミがスキだ」
銅ララリは床に落ちていく。レテはしっかりと掴む。
「ラトゥール、お願い」
レテは精神を集中させる。光の風の糸が彼女の指先に生じる。彼女は銅ララリを宙に投げる。ララリ回転せずに落ちていく。光の風の糸がララリを包む。
「こっちの声は聞こえていなかったみたいね」
ラーナは銅ララリを見つめる。
「ネアス!」
レテは大声で叫ぶ。反応はない。ララリも回転しない。レテは指先を動かして光の風の糸をグニョグニョさせる。ララリはほんの少しだけ回転する。
「ネアス!」
レテはララリを怒鳴りつける。反応はない。バン!彼女は光の風の糸でララリを床に叩きつける。
「レテ、やさしさを忘れているわ。ネーくんは怖がるかしら、それとも興奮するのかしら」
ラーナは微笑む。
「どっちもダメ?」
レテは光の風の糸でやさしく銅ララリを包み込み、手元に手繰り寄せる。
「そうかしら、どっちも良いかもね。でも、私はレテのようには出来ないわ。私のあふれる知性が警告を与える。魔力のムダ遣いはダメってね」
ラーナは草の覆いをベッドに落として着替えを始める。
「レテ様、お助けします!」
外からアーシャの声が聞こえる。
「お待ち下さい。店主の私の話を聞いて下さい。侵入者はいません」
ゴブリン店主の声も聞こえる。
「アーシャ?どうしたのかな?」
レテは草の覆いを体に巻きつける。
「地下への通路は閉じられたハズ」
ラーナは精神を集中させる。彼女はカバンから水筒を取り出し、水を脱ぎ捨てられた服に投げる。風が水を運び、服を包み揺らす。汚れが落ちると水は水筒に戻る。
「魔術師の力、初めて見たわ。王都の魔術師で使える人はいのかな」
レテは自分の服を足で掴む。
「レテも器用ね。魔術で洗い物をするなんて魔力のムダ遣いの極み。でも、汚れた服は着たくないわ。貴族の悪い習慣ね」
ラーナは手で服を取る。草の覆いが床に落ちる。
「どきなさい、ゴブリン。私はレテ様のようにやさしくありません」
アーシャの声が近づいてくる。
「乱暴なマネは止めてください。ここは里ゴブです!」
ゴブリン店主が叫ぶ。
「木のツタの服はゴワゴワして着心地サイテイ。おフロがプラスで服はマイナス。草は気持ちが良いかな。後は朝食の出来次第かな」
レテは宿の採点をする。
「ネーくんは朝から情熱的ね。私だったらすぐにダールガーナ山脈に向かうかしら、シルフィーの力を使っても遠いんでしょ、レテ?」
ラーナは服を着ながら問いかける。
「昨日はラーナの力も借りたからね。今日は魔力が回復しきってない気がするかな。魔力の量はイマイチ分からないわ」
レテも服を着る。
「魔術師でも何となくしか分からないわ。今日の魔力の量は半分よりもちょっとだけ上かしら。八分の五はない気がするわ。肌の艶とは関係はないわ。ゴブリンのおフロの効果かしら、スベスベね」
ラーナは足を擦る。
「ラーナの言う通りね。これは里ゴブは満点獲得かな、魔力を回復する効果はないから減点しようかな。言いがかりはダメね」
レテは腕を擦る。スベスベだ。
「ゴブリン、覚悟!」
アーシャの声が宿に鳴り響く。
「アーシャ、私たちは無事、無事。それよりもおフロに入りなさい!お肌がスベスベになるわ。最近忙しかったから、アーシャの肌も荒れ気味でしょ!」
レテは叫び返す。
「ホントですか!」
アーシャが答える。
「私のうつくしさは増したハズ!」
ラーナはアーシャに伝える。
「どうぞ、こちらです。朝のおフロの準備をしています」
ゴブリン店主は隙を見出す。
「行ってきます!」
アーシャは安堵して、おフロに向かう。
「アーシャはどうやってここまで来たのかな。ゴーブラストは使えないし、土の魔法を覚えてきた。あるいはギンドラで協力者を見つけた。どちらかね」
レテは鎧を付ける。
「土の魔術は私も苦手。固いし、サラサラだし、ドロドロになったりで上手くコツをつかめないわ。偉大な土の魔術師はシャルスタン王国にはいなかったハズ。大賢者様のように歴史の影で活躍したのかしら」
ラーナは服を着るが所々破れている。
「マズイわね、ラーナ。大事な所は隠れているけど、きれいでうつくしくてスベスベの肌を見せすぎているかな。ローブを羽織ったらどうかな?」
レテは心配する。
「いつも着ているローブは汚したくないわ。ここにはゴブリン神官とニャン、その他大勢のゴブリンしかいないわ。誰も私に興奮しないわ」
ラーナは優雅に回る。服がはだける。
「ゴブちゃん神官は私たちに興味はないと思うけど、確定ではないわ。用心は必要かな、あえてゴブちゃん神官に胸元を見せて、反応を探るのが良いかもね。私の魅力はゴブちゃんに通用するのかな」
レテは自分の胸元を見つめる。
「神官は表立っては胸を見ないわ。後で隠れて呼び出して、衣服の乱れは心の乱れとか言って体をジロジロ見るのが基本かしら。そんな古典的な方法でだまされる子はグラーフではいなかったわ」
ラーナは答える。
「ドロスはどんな感じだったの、ラーナ。私のことはジロジロ見なかったかな。隙はあったから私が油断していた時に記憶に焼き付けていたかも」
レテはラーナに尋ねる。
「彼はネーくんを見ている事が多かったかしら。ラトゥールの末裔に興味があったんだと思うわ。神官だから当然かしら」
ラーナは答える。
「私もラトゥールの末裔って事だったわ。どうしてドロスは彼だけに集中していたのかな。きれいでやさしくかわいい私じゃなくて、冴えない新人冒険者の彼に。私はあの時は彼に惹かれていたかな」
レテは答える。
「冴えない男の子がラトゥールの末裔。きれいでやさしくてかわいいレテよりも研究対象としては優秀かしら。レテは騎士、精霊使い、ラトゥールの力も使える。ややこしすぎるわ」
ラーナはカバンを手に取る。
「ラトゥールは私が彼の大切な人だから力を貸してくれているんでしょ?」
レテはラトゥールに呼びかける。反応はない。
「違うのかしら。答えはもうじき出るわ。大神殿には偉いゴブリンがいる。つまり、私たちの知らない事をたくさん知っている。シャラキ様も話を聞いたハズ」
ラーナはカバンから瓶を取り出し、レテに渡す。
「何、ラーナ?」
レテは瓶を見る。赤い液体が入っている。
「集中力を高めるポーション。魔術師のみが使用を許されている秘密のポーション。使いすぎれば魔力を失うこともあるって話。大人の脅しだから気にするに必要はないわ」
ラーナはもう一つの赤い液体をレテに見せて、カバンにしまう。
「ありがと、ラーナ。きっと使うことになるわ」




