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ゴブリン風呂

 レテたちは部屋の中をのぞき込む。大きな木のツタで作られたおフロが湯気を上げている。部屋の中からはガタゴトと音が聞こえる。

「何の音、おフロに入る時は繊細な私のキモチはもっと敏感になるわ。おフロはゆっくりと何も考えないで入りたいかな。音は私の心を縮こませるわ」

 レテはゴブリン店主に伝える。

「意外、レテは騎士だから体を見られるのは慣れていると思っていたわ」

 ラーナはレテの太ももを見つめる。

「男の騎士は裸でアピールするけど女性は違うわ。筋肉が大事みたいね」

 レテは答える。

「申し訳ありません。ゴーブラスト!」

 ゴブリン店主が唱える。何も起きない。

「間違いました。こちらです」

ゴブリン店主は大鳥のテーブルを少し動かす。下が見える。レテが下をのぞき込むとゴブリンたちがギュウギュウ詰めになって、押し合っている。 熱気がレテの顔に押し寄せる。彼女は顔を上げる。ラーナも下をのぞき込む。

「こういう仕組みなのね。木の近くで炎は危険だから最適な方法かしら、のぞく隙間も暇もなさそうね」

 ラーナは顔を上げる。

「ゴブちゃんたちの努力の結晶」

 レテはつぶやく。

「歓迎の証です。どうぞ、ごゆっくりとお浸かりください。旅の疲れが取れるステキなお風呂です」

 ゴブリン店主はテーブルを元に戻す。

「入りましょう、レテ。着替えはあるの、ゴブリン店主さん?」

 ラーナはおフロに行こうとする。

「とある貴族が落としたと思われる衣服があります。きちんと洗ってあるので安心してください」

 ゴブリン店主は奥の部屋に歩いていく。

「ゴブちゃん」

 レテは動かない。

「どうしたの、レテ。おフロに入りましょう」

 ラーナは部屋の前で止まる。

「遠慮なさらないでください。ゴブリンはレテ様とラーナ様を歓迎します。ネアス様もご一緒なら良かったのですが、あの方には使命があります」

 ゴブリン神官はレテに伝える。

「ゴブちゃんの体力と引き換えのおフロ、ラーナは何も感じないの?」

 レテはラーナに尋ねる。

「レテ、とっても表現が良くないわ。ゴブリンの力の証明、彼らの筋肉の証、みなぎる体力を放出している。どうかしら?」

 ラーナはゴブリン店主を見る。

「ゴブリンは体を押し付け合い、意思の疎通を図ります。我々神官、いいえ、宿の店主の方が異端です」

 ゴブリン店主が答える。

「レテ、難しい話が始まるわ。夜中に、しかも興味のない話。魔術の話なら歓迎だけど他の話は聞きたくない。そうなのね、今はあの時間かしら。お母様が部屋のノックをした後でもう一度光の魔法紙をクシャクシャして、書物を読んで、夜食のお菓子を食べた後にウシミドリの鳴声を聞く時間。眠っても良い時間ね」

 ラーナはあくびをする。

「迷っている時間はないわ。睡眠時間はジリジリと減っている。明日は大神殿で難しい話を聞く事になるハズ。居眠りしたら騎士の恥、人の恥、ゴブちゃんたちにずっと悪口を言われるわ。小娘は半分も話を聞かずに適当にウンウン言っていた。話の中身を理解できなかったゴブゴブ」

 レテは不安に襲われる。

「我々はヒトとは違います」

 ゴブリン店主は毅然として言い放つ。

「王都の神官長のお話を居眠りしたら、どうなるの、レテ?グラーフでは祈りを込めるって言いながら、眠っている人も多いわ。一人一人に尋ねたわけじゃないから分からないけど、雰囲気で何となく分かるわ」

 ラーナは大きなあくびをする。

「同じかな、似たような話だから眠っている人も多いかな。昔、すごく性格の悪い神官長が話をしないで祈りを込めて、みんなに良い話だったか聞いてみたらしいわ。全員、とっても良い話だったって答えた」

 レテはおフロを見つめる。

「区別が付きません」

 ゴブリン店主はレテを見つめる。

「私は何も話していない。なぜ、良い話と答えたのか目を開けて、首を動かしていた男性に尋ねたわ。彼はツマラナイ話には飽きていたから良かったと答えた。別の男性は起きていたけどお昼に食べる物を考えていたと答えたわ」

 レテはラーナを見つめる。

「ゴブリンの体力は消耗しているわ。もちろん私たちの睡眠時間も減っている、おフロに入りましょう、レテ?」

 ラーナはしびれを切らして部屋に入る。

「ゴブリンは騎士の敵、彼らの力は借りたくない。神官長の話はどこでもツマラナイ」

 レテはラーナの後を追う。

「話は最後まで!」

 ゴブリン店主は叫ぶ。

「眠っていた女性が答えたわ。私は神官長が何も話をしなかったのでいつもよりぐっすりと眠れませんでした。ぜひ、次の機会にお話をしてください。楽しみにしている者もいます。忘れないでください」

 レテは木のツタに触れる。温かい。風呂の中は湯気で充満している。ゴブリンの姿はない。

「イヤミな女かしら、私がそんな事を言われたら魔術を失敗しちゃうかも知れないわ。神官の秘技も間違いはあるのかしら?」

 ラーナはゴブリン神官に尋ねる。

「ゴブリンは呪術のみを使います。秘技はありません。全ての呪術は自由に学ぶことが出来ます。人気がないのが私の最近の悩みです」

 ゴブリン店主は答える。

「ありがと、ゴブちゃん店主。今日の最後の質問なんだけどゴブリンと人が恋に落ちた事はあるの?人には伝わっていないかな」

 レテはラーナを見る。

「書物に記載はなかったわ。クロウも何も言っていないから人とゴブリンは恋をしていないと思うわ。隠しきれるモノじゃないかしら」

 ラーナは答える。

「ラーナ様の言う通りです。ゴブリンと人の恋には私も興味があります。知った瞬間に他のゴブリンに話してしまいます」

 ゴブリン神官は答える。

「ゴブちゃんは話を理解できるの?私のひとり言も聞いていたって事、違うよね。ううん、ホントの事を教えてね」

 レテはさらに質問をする。

「レテ、約束は守るべきモノ。私は最後の質問って聞いたわ。聞き違えたかしら、最後の失言。無理があるわ」

 ラーナの頭は働かない。

「ゴブリンが興味あることは落とし穴、落とし物、恋です。他の話は覚えようとしません。嘆かわしことです。着替えは部屋の前に置いておきます。どの部屋も空いているので、ご自由にお使いください」

 ゴブリン神官は部屋の中に入っていく。

「恋に落ちる。オチオチオチかな、ダメ!副騎士団長の悪影響!私の意志じゃない!」

 レテは木のツタの扉を動かす。閉まる。

「そうかしら、悪くないわ。ゴブリンは落ちるのが大好きのようね。空から落ちるのも好きなのかしら、炎は落ちないわ」

 ラーナは服を脱ぎ始める。

「ラーナの体!湯気で見えない、興奮できない!」

 レテも鎧を外して、服を脱ぐ。

「レテの体は引き締まっているのかしら、確かに湯気で見えないわ。先に入っても良いかしら、それとも勝負をする?」

 ラーナは湯気に包まれている。

「王都では水の魔法で泡をたくさん作れた方が先に入るわ」

 レテは精神を集中させる。おフロのお湯が泡になってレテにぶつかる。

「私はうつくしてくあふれる知性を持つ魔術師、誰も私に勝てない。いつも私が一番におフロに入る」

 ラーナは精神を集中させる。おフロから無数の小さい泡がラーナにぶつかり、汚れを落としていく。

「おフロに入りましょ、今はラーナの体かな」

 レテはもう一度泡をぶつける。

「ありがとう、レテ」

 ラーナは木のツタ製のおフロに入る。気持ち良い。

「男の子は違う方法で決めるみたいね。今度ネアスとおフロに入る時に聞いてみようかな。デリケートな話題だから他の人には聞きたくないわ」

 レテもおフロに入る。気持ち良い。

「それが良いわ。答えは私にも教えてね、レテ。私は敗者の気持ちを味わうから男性とおフロに入る事は先になるかしら」

 ラーナはさらに眠くなる。

「出会いは突然、ステキな男の子が地下で迷子になっている。彼はうつくしくてあふれる知性を持つ女性を探している」

 レテにも眠気が襲ってくる。

「どうして私を求めているのかしら。眠すぎるわ」

 ラーナはおフロに沈んでいく。

「ネムネム」

 レテも沈む。


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