降れ降れ
レテたちが地下の地面に浮かんでいる転ばない杖に座って近づいていくとベチャ、ベチャ、ベチャと音が聞こえる。
「予想はしていたからダイジョブ、ダイジョブ」
レテは木のツタの隙間から地面を眺める。
ゴブリンたちが空から降るアメフフを手で捕まえようとしている。彼女の見た限りでは全員掴みそこねて、地面に落としている。アメフフはベチャ、ベチャと音を立てた後にのっそりと這っていく
「気持ちの良い光景ではないかしら、ゴブリンがアメフフが好きだなんて知らなかったわ。私は経験不足ね」
ラーナはゴブリンの様子を観察する。
「私も知らなかったわ。雨の日にはゴブリンは外であんまり見かけなかったわ。私も出歩くことは少なかったけど」
レテは答える。
「ニャンも知らないにゃん。キモチワルイにゃん」
ニャンは木のツタの階段の最後で待ち受けている。
「愚かしいニャン族。アメフフの良さも知らずに商売ばかりしている」
アメフフ取りに参加していたゴブリン神官が戻ってくる。
「ニャン族はゴブリンにキラワれているみたいね。ニャン、族長として率先してゴブリンの輪の中に入れば認めてくれるかも、ガンバレ、ガンバレ」
レテは応援する。
「イヤにゃん」
ニャンはゴブリンにぶつかるアメフフを見つめている。
「騎士はキライじゃないの、変ね」
ラーナは疑問を口に出す。
「勝負に応じる騎士には敬意を払っています。勝敗は訪れます。致し方ないことです」
ゴブリン神官が答える。
「騎士はゴブちゃんに負けないかな。私の記憶が正しければ、私が騎士団長になってからは一度も負けていないハズ。副騎士団長がニセの報告をしていない限りの話だけどね」
レテは笑みを浮かべる。
「ラトゥールの末裔には勝利しました。彼は転びましたのでレテ様がいなければ我々の勝ちでした。つまり、栄誉ある勝利です」
ゴブリン神官は答える。
「ネアス様は転んだ後が強いにゃん。ゴブリンの惨めな敗北にゃん!」
ニャンは意気込む。
「また眠くなってきたわ。服も土だらけだし、早くおフロに入りたいわ。いつものローブだったら破れて大変だったかしら」
ラーナは汚れた新人騎士の服を見る。
「そうね、細かい話は明日の朝にしましょう。里ゴブにはおフロはあるんだよね、ないとかユルサナイからね」
レテはゴブリン神官をニラむ。
「ゴブリンもおフロに入ります。暖かいおフロの準備は出来ています。あちらです」
ゴブリン神官が離れた所の木のツタを指し示す。
「ゴーブラスト!」
ゴブリン神官が唱えると木のツタが飛び出し、通路が出現する。天井も木のツタで覆われている。
「言いたいだけにゃん。急ぐにゃん」
ニャンは木のツタを飛び降りる。
「待ちなさい、ニャン族の青年!」
ゴブリン神官が呼び止めるが遅かった。
ズボッ!ニャンが落とし穴にハマる。
「ヒドイにゃん。ニャンは悪い事をしてないにゃん!」
ニャンの声が落とし穴の下から響いてくる。
「ニャンも元気ね」
ラーナは疲れた。彼女は転ばない杖を通路の方向に向けようと体を傾ける。レテも協力すると杖は進んでいく。
「ゴブちゃん神官、ニャンの事を頼んだわ。私たちは先に里ゴブに向かおうかな。里には話を出来るゴブちゃんはいるの?」
レテはゴブリン神官に尋ねる。
「いません。私が案内ゴブです。ゴブリンは大神官に従います。ニャン族の青年を頼んだぞ、皆の者!」
ゴブリン神官が声をかけると数匹のゴブリンが落とし穴の中に飛び込んでいく。
「ニャ!」
ニャンが叫びと共に地上に放り投げられる。ゴブリンは木のツタで地面を塞ぎ、表面を土で覆う。
「私には区別が付かないわ。ゴブリンの落とし穴は見つけやすいってクロウが言っていたけどだまされたのかしら」
ラーナは転ばない杖の上から落とし穴があった場所を見つめる。
「地上で見かけるゴブリンの落とし穴はもっと雑かな。適当に木の枝が盛られているから誰でも分かるかな」
レテは答える。
「そうにゃん。ニャンの不注意じゃないにゃん」
ニャンは土まみれになりながらもゴブリン神官が通った所を慎重に歩いていく。
「地上の木々は地下の木と材質が違います。ゴブリンは不器用です」
ゴブリン神官は通路の中に入っていく。ニャンを救出したゴブリンはアメフフ取りに戻っていく。アメフフはドンドン降ってくるがゴブリンは上手に捕まえる事が出来ない。
「地上は大雨でしょう。アメフフがこんなに降ってくるのは久しぶりです」
ゴブリン神官の声が通路から聞こえる。
「手紙の先は地下の里。ゴブちゃんの住処。うかつに彼の手紙を追ってはイケナイみたいね。ギンドラの街はずっと上かな」
レテは転ばない杖から吹き出る風に手を当てる。冷たい。
「ネーくんはダールガーナ山脈に何を求めているのかしら?きれいでやさしくてかわいいレテとうつくしくてあふれる知性を持つ私と離れ離れになってまで求めるモノ?」
ラーナはつぶやく。
「ニャンは分からないにゃん、ガーランドさんとキャビさんが言い合いを始めたにゃん、マリーさんも加わって大変だったにゃん。ニャンは薬草取りをしていたからちゃんと聞いていないにゃん」
ニャンは後ろから答える。
「人は争います。ゴブリンもです。ニャン族はどうですか?」
ゴブリン神官の声が前から聞こえる。
「ニャン族同士がケンカをしている所は見たことがないかな。四人も大きな声で感情的になって話したかも知れないけどケンカじゃないかもね」
レテは通路の奥が気になるので、転ばない杖から降りる。
「冷静さを欠いた話し合い。たまにあるかしら?」
ラーナは転ばない杖の上に寝転ぶ。
「見えるにゃん、ラーナ様」
ニャンが目を背ける。
「ニャン族ははしたない!」
ゴブリン神官がニャンを注意する。
「どこ、ニャン。騎士団の服はダイジョブだと思うけど」
レテは先に進む。
「太ももにゃん、危ういにゃん」
ニャンは小声で答える。
「ローリングステアで破れたみたいね。ありがとう、ニャン。私の素肌は憧れの的!」
ラーナは転ばない杖の真ん中に座る。
「こちらです、皆様。里ゴブで人を歓迎するのは初めてのことなので粗相がありましたら遠慮なく申し上げてください」
ゴブリン神官は通路の先に消えていく。
「歓迎会は朝で良いかな。今日はおフロに入って眠りたいわ。きっと、もう夜中かな」
レテはゴブリン神官の後を追いかける。通路を抜けた先には木のツタの道が続いていた。道の左右には木のツタの家が立ち並んでいる。全ての木のツタは繋がっているように見える。ゴブリン神官の姿はない。
「ゴブちゃん、どこ?」
レテは大声で叫ぶ。小さい木のツタが揺れる。
「疲れたわ、レテ。そこの家で眠りましょう」
ラーナは体を傾けて転ばない杖の方向を変える。
「ニャン族はどこでも眠れるにゃん。おやすみにゃん」
ニャンはカバンから薄い毛布を取り出して体に巻き付けて、里ゴブの入口に寝転がる。
「暖かいし、どこでもダイジョブかな。おフロはどこかな」
レテは木のツタの道を歩きながら、周囲を見渡す。天井の木のツタは光り輝いている。ツタからはポタポタと水が落ちている。地面には小さな湖が点在している。ゴブリンの姿は見えない。ニャンは眠っている。
「ありがとう、ネーくん。後は眠るだけだから、風を止めてくれるかしら?」
ラーナがお願いすると転ばない杖から金色の銅ララリが飛び出し、彼女の手元に戻る。杖はゆっくりと木のツタの上に降りていく。
「誰もいない歓迎会。おフロのお湯も光っているのかな。ピカピカレテの誕生、光り輝く肌を持つ騎士団長。ううん、聖騎士団団長かな」
レテは期待に胸を膨らませて探索を開始する。
「家の中には誰もいないわ。何も無い。木のツタだけね」
ラーナが一番近くの家の中をのぞき込む。
「隠したのかな。貴重なゴブリンの財宝だから私たちが来る前に倉庫に入れた。ゴブリンも木と水だけでは生きていけないハズ」
レテは前に進む。奥には大きな木のツタの家が数件見える。一つの家からは湯気が立ち上っている。他の家は木のツタが動いている。別に家は動いていない。木のツタで覆われている家も見える。
「正解は一つかな」




