ローリングの向こう
急な坂道を転げ落ちながらもレテは光を見出す。ニャンとラーナは一安心する。ゴブリン神官が追いついてくる気配はない。
「最後、最後。どこまでも転がって行きましょう」
レテは二人を励ます。
「レテは元気ね」
ラーナは疲れた。
「お昼寝は大事にゃん」
ニャンはネアスと雑談したことを思い出す。
三人は光に向かい転げ落ちていく。レテが最初に光の向こう側に飛び出していく。彼女は眩しさで一瞬目を閉じた後で、すぐに開ける。
レテの目の前には広大な空間が広がっている。天井には光を帯びた水が広がっている。壁には大きな木のツタが所狭しと伸びている。地面には土がある。レテは地面に向かい落ちていく。高い。
「止まって!こっちは危険!」
レテは精神を集中させつつ、二人に注意する。
「止まり方を知らないわ。最後なのね」
ラーナも光の向こう側に飛び出す。
「魔術師は焦らない。レテ、魔力は残っているかしら」
ラーナは周囲を観察しながら落ちていく。
「精霊の力はすごいにゃん。ニャンは安全にゃん」
ニャンも落ちていく。
「シルちゃん、お願い!」
レテはシルフィーにお願いする。そよ風が吹く。気持ち良い。
「地下だから風はほとんど吹いていないわ。シルフィーの力はすごいわね、こんな地下でも風を起こせるのね」
ラーナは分析する。
「魔力が足りないにゃん。マッスルニャンダドリンクにゃん」
ニャンはカバンから取り出す。
「ラーナの言う通りね。いつもよりシルちゃんの風が弱い気がする。魔王の魂さん、お願い。狙いはあそこ」
レテはカバンから魔王の魂を取り出し、天井に向ける。水がチョロっと流れて、レテの顔にかかる。冷たい。
「風は弱い、水は遠い、私の魔力も尽きている。ピンチかしら」
ラーナは分析を進める。落下は止まらない。
「ニャンの出番にゃん!」
ニャンは自分の顔を叩く。
「ニャン族の族長の力を見せる時が来たのね。大きくなる、小さくなる。あえて破裂して私たちを助けてくれるのかな」
レテは予想しつつも精神を研ぎ澄ます。そよ風と吹く。落下は止まらない。天井から水がぽとりと落ちる。
「レテ、何か落ちてきたわ。ニャンの力かしら!」
ラーナは天井を見上げる。
ブヨブヨの物体が数個落ちてくる。レテは体を丸めて避ける。ラーナは受け止めようとするが失敗する。ニャンの尻尾にかする。
「アメフフにゃん。子供の頃に尻尾で捕まえて遊んだから間違いないにゃん」
ニャンは地上に一足先に落ちていくアメフフを見つめる。
「ゴーブラスト!」
ゴブリン神官の声と共に壁の木のツタが階段状に突き出してくる。
「ぶつかったらいたいわ、レテ。騎士はこんな時、どうするの?」
ラーナは地上と木のツタを交互に見つめる。落下は止まらない。
「受け身をとってもダメそうかな。女の子はやさしく扱って欲しいかな」
レテは銅ララリを木のツタに向かい弾き飛ばす。
「ララリは大事にゃん」
ニャンも銅ララリを木のツタに投げる。
「ララリは消えない」
ラーナは銅ララリを手元で回転させてから投げる。風が吹く。
「届くのかな」
レテはララリに祈りを込めて握りしめる。
激しい光の風が銅ララリから流れ出し、三人を包み込む。猛烈な勢いでラーナは髪の毛を抑える。ニャンの尻尾は縮む。
「ネーくんも過激!眠気も吹き飛ぶわ」
光の風に吹き飛ばされながらラーナは木のツタに捕まる。
「冷たいにゃん」
ニャンは震えながらも木のツタに飛び乗る。
「ゴーブラスト!」
ゴブリン神官の声で木のツタの動きが止まる。
「ありがと、ネアス」
レテは体をクルッと回転させて木のツタの上に着地する。
三人が投げた銅ララリからは光の風が吹き出ている。レテが手を広げると銅ララリが勢い良く飛び出していく。ララリは集まり、どこかに飛んでいく。
「あちらが大神殿の方角です」
ゴブリン神官が息を切らしながら、木のツタの階段を降りてくる。
「危なかったにゃん。でも、ニャン族の秘技を出すまでもなかったにゃん。今回はネアス様に譲ったにゃん。ニャン族はネアス様に従うにゃん」
ニャンは体を撫でる。
「眠気が戻ってきたわ。ネーくんも私の体を味わうまでは助けてくれるハズ」
ラーナは髪の毛を整える。
「ラーナ、ネアスに期待しすぎちゃダメ。彼はそっちは得意じゃないかもね」
レテは光の風を見つめている。
「申し訳ありません。手間取りましたが出入り口は封鎖しました。ラトゥールの末裔にまた借りを作ってしまいました。里ゴブで休憩しましょう」
ゴブリン神官は木のツタを降りていく。
「ニャンも危険な目にあったにゃん。借りにゃん」
ニャンはゴブリン神官の後に続く。
「いいえ、ニャン族は勝手に付いてきただけです」
ゴブリン神官はニャンに言い放つ。
「にゃんだと〜!」
ニャンの毛が逆立つ。
「二人共、けんかはダメ。ラーナも行きましょ、もうちょっとガンバロ、ガンバロ」
レテはラーナに伝える。
「ネーくん、私は疲れちゃったわ。助けて欲しい、お礼はたくさんあげる!」
ラーナはカバンから銅ララリを取り出し、お願いする。銅ララリが金色に変化して回転を始める。ラーナは転ばない杖を腰から取り出す。ヒュー、ヒュー。風が鳴る。
「ラトゥールの末裔の力は偉大です」
ゴブリン神官は木のツタを降りていく。転ばない杖は十字になり回転を始める。ヒュー、ヒュー。音は鳴り続ける。ラーナは回転する転ばない杖の上に乗る。杖はゆっくりとゴブリン神官の後をついていく。
「うらやましいにゃん。ニャンがお願いしても、きっと何も起きないにゃん」
ニャンは疲れた体で後に続く。
「そうなの、ニャン!やっぱりそうなの、ニャン!お姉さん神官!」
レテは色々思い出す。
「違うにゃん。勘違いしているにゃん。ニャンとネアス様はお互いに困った時は無視するって約束したにゃん。二人共一緒にヒドイ目にあったら慰める事が出来ないにゃん。一人は無事ににゃん」
ニャンは早口で答える。
「今の場合は違う気がするけど……」
レテはゴブリン神官の後に続く。
「ニャン族はごまかしが得意です。悪口ではありません。真実です」
ゴブリン神官が答える。
「ゴブリンとニャン族は仲が悪いのね。困らなそうね」
ラーナは満足している。
「ニャンは知らないにゃん。逆恨みにゃん。ニャンはごまかしが得意になりたいにゃん。すぐにバレるにゃん」
ニャンは木のツタを降りていく。
「ゴブちゃん神官はお姉さん神官を知っている!彼女は若い男性を惑わして、精霊の剣を手に入れようと画策しているイヤな女。精霊伝説は読んだ?文字は読めるから読んだハズ」
レテは決めつける。
「レテ、ゴブリンは人の書物は読まないわ。セトヒロのキモチはゴブリンには分からないかしら。それよりレテも座ったら、意外と悪くないわ」
ラーナは足をどけて、隙間を作る。
「精霊は人の友ではないんだよ、少年。裏切りと陰謀は人だけのモノではない。我々は手を取り合うべきだ。キミはどちらを信じる?王と精霊!」
ゴブリン神官は精霊伝説の一節を言う。
「ゴブリンにも人気にゃんか。ネアス様に勧められて読んで良かったにゃん」
ニャンは先に木のツタを降りていく。
「私はまだまだ元気、元気。精霊の剣はお姉さん神官には渡さない」
レテは天井を見上げる。地面は木のツタに阻まれて見えない。光る水からアメフフが落ちてくる。レテはじっと天井を見つめる。ラーナもアメフフを見る。
「地上では雨が強くなっているようです。アメフフが降り終わる頃に地上に遊びに行くと落とし物がたくさん見つかります」
ゴブリン神官は木のツタを降りていく。レテは地下の地面を見る。アメフフが這っている。別のアメフフは木のツタに登ろうとしている。彼女はそっと転ばない杖に座る。
「夜は静かにするのが一番かな。ネアスは気が利くわ」
レテは足をブラブラする。
「にゃんだ!」
ニャンが叫び声をあげる。
「上を見なさい、ニャン!アメフフが空から降ってきているだけよ。頭上注意!」
ラーナが大声でニャンに伝える。
「ニャン族は騒がしい。レテ様の言う通りです。夜は静かに落とし物を拾う時間です」
ゴブリン神官は木のツタを素早く降りていく。
「違うにゃん!」
ニャンの悲鳴が聞こえる。
「ゴブちゃん神官にお任せ、お任せ。魔力はホントにないかな、ゴーブラスト!」
レテは応援する。
「ゴブリンは土の魔術を使える。ここは土だらけ、頼みはネーくんが運んでくれる風だけかしら。でも、冷たいわね」
ラーナは足を擦る。
「暖かくして、ネアス」
レテは転ばない杖にお願いする。風は冷たいままだ。
「モテない男の限界かしら、大事な所で気が利かないわ。レテがちゃんと教えてあげるのよ、私は気を遣われる側だから分からないわ」
ラーナはレテにお願いする。
「彼は私に気を利かせてくれた事があったかな。思い出せないわ。最近はたくさんの出来事が起きたから覚えきれないわ。気の利くネアス、何をしてくれるのかな」
レテは周囲を見渡す。大きな木のツタ、光る水の天井、降るアメフフ。
「前言撤回、ネーくんは十分気を利かせているわ」
ラーナもあたりを見渡す。転ばない杖はゆっくりと進む。
「そうね、この先には何が待っているのかな」




