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ニャールサーザ

 レテは石の階段を軽やかに降りていく。彼女の頭上ではドドドと土がなだれ込む音が聞こえる。彼女は一度立ち止まるが、すぐに勢い良く降りていく。辺りは暗い。

「罠だったらオシマイ、オシマイ。旅は終わり、災厄に立ち向かう事もなくなるのかな」

 レテはつぶやく。

「世界を見捨てるのですか?」

 世界の王がレテの腰の辺りから声を掛ける。

「予想していたから驚かないわ。恥ずかしがり屋の世界の王さん?」

 レテは腰から木の枝を抜く。

「チャンスです。うつくしいお嬢さんは疲れている。私に力を!」

 世界の王はレテにお願いする。

「それで良いの、弱っている相手を驚かして満足できるの?」

 レテは階段を降りながら、木の枝に問いかける。

「次があります。今が大切です」

 世界の王が答える。

「ふ~ん」

 レテは木の枝を折る。二つになる。

「痛くないです。私は世界の王です」

 世界の王はガマンする。

「そっか」

 レテは枝を合わせる。一つに戻る。

「ありがとうございます。良い考えが思い浮かびました。あなたは木の枝を折る。私は叫ぶ。完璧です」

 世界の王はドヤる。

「バツ」

 レテは木の枝を折る。二つになる。

「すみません、痛いです。これ以上は止めてください。お願いします。もう耐えられません。世界の王は甘やかされて育ちました」

 世界の王は懇願する。

「ごめんね、痛くないって言ったから……」

 レテは気まずくなって、枝を合わせると階段を駆け下りていく。

「デートの約束を早くしなさい。なぜ彼のもとに飛んでいかなかったのですか。ふふふ、実際に飛べる。ふふふ」

 世界の王は自惚れる。

「約束はしてあるからダイジョブ、ダイジョブ。場所を決めていないだけかな」

 レテは答える。

「本当ですか?彼の誘いに応じたのですか?彼は覚えているのですか?」

 世界の王はソワソワする。

「そこまでは分からないわ。でも、告白はされたし、タイミングがあったらデートをするのは確実。何をそんなに心配しているの、世界の王さん?」

 レテは階段を降りながら、枝に問いかける。

「貴方がたの恋の行方です」

 世界の王は答える。

「あなたが心配する事じゃないかな。私が彼をリードしてちゃんと上手くいく、ううん、無理矢理でも何とかする」

 レテは答える。

「ライバルがいます。聞いていました。私は不安です」

 世界の王が本音をこぼす。

「シャラキ様とラーナは私と彼には合わないわ。私とラーナは仲良くなれるし、シャラキ様はネアスと気が合うかもね。彼はイケイケのお兄さんに憧れているみたいね」

 レテは階段の下に着く。世界の王は返事をしない。

 レテは通路の先の灯りに向って歩いていく。彼女は音を立てないように、静かに歩いていく。ラーナとニャンの話し声は聞こえない。

 レテが近くに忍び寄ると二人は通路に横たわり、眠りこけている。彼女は木の枝を折る。ボキ!枝が折れる音が鳴る。二人は起きない。

「世界の王さん、チャンス到来。何をしても驚く、大チャンス」

 レテは枝に向って囁く。反応はない。

「恥ずかしがっていたら何も起こらないかな。不安を吹き飛ばせ」

 レテは世界の王を励ます。反応はない。

「何にゃん。いつの間にか眠っていたにゃん」

 ニャンはヒゲをこすりながら目を覚ます。

「ニャン、静かにね」

 レテはラーナの体に近づく。彼女は静かに寝息を立てている。

「今日は大変だったにゃん。レテ様は何で眠くないにゃんか?」

 ニャンは小声で尋ねる。

「お昼寝したから、まだまだイケるかな」

 レテはラーナの頬に触れる。彼女の足元には焼き鳥の袋が落ちている。

「眠いから簡単に説明するにゃん。四人はギンドラの街の近くの湖に着いたにゃん。それだけにゃん。ゴブリン神官さんが来るまで寝るにゃん」

 ニャンは目を閉じる。

「きれいでやさしくてかわいい私を一人っきりにするの、ニャン?」

 レテは驚愕する。

「誰かと話していたにゃん。誰でも一人だけの友達はいるにゃん。気にする事はないにゃん。続けるにゃん。ニャンは寝ているにゃん」

 ニャンは眠ろうとする。

「そうじゃないわ、この木の枝が世界の王さんよ」

 レテは二つに折れた木の枝を重ねる。何も起こらない。

「なかなかにゃん。ネアス様には絶対秘密にするにゃん。ネアス様には言っちゃダメにゃん。世界の王は木の枝じゃないにゃん」

 ニャンは起きた事を後悔した。

「世界の王さん?」

 レテは枝を折る。四本になるが反応はない。

「秘密は必要にゃん、レテ様。何でも話す事が良い事とは限らないにゃん」

 ニャンはレテに教える。

「私には秘密がたくさんあるわ。コレくらいはダイジョブ、ダイジョブ」

 レテは四本の木の枝をゴブジンセイバーの横に差す。

「ニャールサーザ」

 ニャンは唱える。

「何?」

 レテは通路をキョロキョロする。

「ニャンの最大の謎。ニャールサーザ」

 ニャンは再び唱える。

「ニャン族の族長だけが知っている秘密なの、気になる、気になる」

 レテはニャンを見つめる。

「ニャンには分からないにゃん。レテ様はどうして笑わないにゃん。不思議にゃん」

 ニャンは目を開ける。

「オモシロそうね。判断は保留中かな」

 レテは答える。

「ニャンの一人だけの時の友達にゃん。ニャールサーザはニャンが行商で失敗した時に目覚めるにゃん。木の幹をひたすら引っ掻くにゃん。ニャンは知っているにゃん、意識もあるにゃん。勘違いはダメにゃん」

 ニャンはレテに伝える。

「ネアスは知っているの?」

 レテは問いかける。

「ネアス様にはニャールサーザが目覚めた姿を目撃されたにゃん。最初は驚いていたにゃんが事情を説明したら納得してくれたにゃん。ネアス様も鳥を捕まえたくて仕方なくなる時があるそうにゃん。ネアス様も危険な男にゃん。気をつけるにゃん。冗談にゃんよ」

 ニャンはレテに伝える。レテは目を逸らしてしまう。

「ニャン族は木を引っ掻いたらダメなの?」

 レテはニャンに尋ねる。

「気持ち良いからやり過ぎたら爪が短くなるからダメにゃん。意外と爪を使う時は多いにゃん。ニャールサーザはたまにやり過ぎるから困るにゃん」

 ニャンは答える。

「ラトゥールの末裔」

 レテはニャンを見つめる。

「ニャン族はラトゥールの末裔に従うにゃん」

 ニャンが話を続けようとするとレテは口を挟む。

「ラ・トゥールの一族は呪われた一族。彼らはトゥールを捕まえ、売り払って呪いを受けた。彼らは不幸な一族。ニャン族の族長も知っているんでしょ」

 レテはニャンに尋ねる。ニャンは首を大きく横に振る。

「知らないにゃん。夜中に言う事じゃないにゃん。眠れなくなるにゃん、明日は一日中ぼーっとするにゃん。ヒドイにゃん。明日の朝が良かったにゃん、ニャールサーザも驚いているにゃん」

 ニャンの眠気が吹き飛ぶ。

「ニャン族は何を知っているの?」

 レテはニャンに問いかける。

「何があってもラトゥールの末裔に従う。それだけにゃん。ニャン族も呪われているにゃんか。ニャンにも不幸が訪れるにゃんか」

 ニャンは動揺する。

「英雄が災厄に立ち向かう大鳥にラトゥールと名付けた。ネアスは知らないと思うわ」

 レテはニャンに教える。

「嫌がらせにゃん。一度に言う事じゃないにゃん、ニャンはレテ様にイジワルしてないにゃん。眠かっただけにゃん」

 ニャンは毛を撫でる。

「だよね、森の騎士!シャラキ!」


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