風の道
レテは精神を集中させる。彼女の周囲に風が巻き起こる。風はレイレイ森林に向かい、激しく吹く。レテはラーナの手を取る。シャラキは微動だにしない。
「彼がそっちにいるの、シルちゃん!」
レテは風が吹いている方向を見つめる。何も見えない。
「レテ、シルフィーの風が私たちを運んでくれるわ。行きましょう!」
ラーナがレテの手を握りしめる。
「俺と来い、やるべきことは山ほどある」
シャラキはレテに伝える。
「道は三つ、彼のもとに向かう。シャラキ様のお手伝いをする。ゴブちゃん神官と一緒に大神官に会いに行く」
レテはシャラキを見つめる。
「どれもパッとしない選択肢だ」
シャラキは笑みを浮かべる。
「四つ目の選択肢の先には何もなかったのかしら?」
ラーナはシャラキに問いかける。
「王宮にいたら知ることがなかったことはたくさんあった。しかし、王族の地位を捨ててまで手にしたかったモノはなかった。兄さんは賢い人だったのさ。自分の役割を知り、今も全力で使命を全うしようとしている」
シャラキは答える。
「今日は終わる」
レテはさらに精神を集中させる。シルフィーの風が森を突き抜けていく。木々が軋む音がレテたちの耳に鳴り響く。風はさらに強くなる
「コワイにゃん!」
ニャンが叫ぶ。
「ネーくんがこの先にいるのかしら?きっと彼は驚いているわ。手加減してあげたら、レテ。行き先を告げなかった事は許してあげたらどうかしら?」
ラーナがレテに提案する。
「レテ、何をするつもりだラトゥールの末裔の決断を否定する事はユルサレナイ」
シャラキは焦る。
「彼は風が好き、雲が好き、私が好き」
レテは精神を研ぎ澄ます。ガタガタ!ガタガタ!激しい風が朽ち果てない小屋を浮き上がらせる。レテとラーナはシルフィーの風で屋根の上に運ばれる。シャラキは自力で屋根に上る。ゴブリン神官は小屋の入り口からジャンプする。
「いってらっしゃいませ、レテ様。私はお待ちしています」
ゴブリン神官は舞い上がる朽ち果てない小屋を眺める。
「レテ、何を考えているの?ネーくんは空にはいないわ!」
ラーナは焦る。
「オモシロイ」
シャラキはつぶやく。
「行ってきます。ゴブちゃん神官、ニャン!」
レテは地上にいる二人に伝える。
「ニャンはネアス様の味方にゃん、いってらっしゃいにゃん」
ニャンは落とし穴の中でネアスの安全を祈る。シルフィーの風が朽ち果てない小屋を空へと運んでいく。上空の雲は風で吹き飛ばされていく。レテはラーナの手をギュッと握る。
「魔力が必要かしら、レテ。その前に計画を教えてくれる?」
ラーナがレテに尋ねる。
「俺も気になるな」
シャラキは周囲を見渡す。雲が視界を遮り、遠くは見えない。
「彼の望みを叶える」
レテは答える。ラーナは精神を研ぎ澄ます。風が爆発してレイレイ森林一帯を覆っている黒い霧と雲を弾き飛ばす。衝撃で朽ち果てない小屋も崩壊する。木材が空に浮かぶ。シャラキは必死に木にしがみつく。レテとラーナはシルフィーの風に包まれている。
「ダールガーナ山脈!」
ラーナが答える。風がレテたちに向かい吹いてくる。風に乗り、鳥が彼女たちの元に向かってくる。
「トゥールか?」
シャラキは驚く。トゥールの頭には旅人の翼が付いている。
「あなたは彼の味方、敵?彼はあなたの敵、味方?」
レテはトゥールに問いかける。トゥールはクルクルとレテたちの周りを飛び回る。眼下では黒い霧が立ち込め始めている。空の雲も生じ始める。
「時間がないわ。ネーくんを探さないと!」
ラーナは精神を研ぎ澄ます。風が破裂して、激しい音が空中で鳴り響く。雲が弾け飛んでいく。シャラキは周囲を見る。人影が見えた。
「あそこだ、レテ!」
シャラキは腕を動かし、指し示す。
「シルちゃん、お願い。彼を望む場所に運んであげて!私は大神官に会う。彼が大神官に会う時間は残されていない気がする」
レテは風に祈りを込める。シルフィーの風がネアスのいる方向に勢い良く流れていく。トゥールは風に乗っていく。朽ち果てない小屋の木材も一緒に風に運ばれていく。レテとラーナの周囲の風も弱まり、二人は静かに地上に落ちていく。
「シャラキ様はどちらを選ぶの?」
ラーナは木材にしがみついているシャラキに問いかける。
「俺はエレミと共にある。災厄が終わるまでの話だ」
シャラキは木材を手放すと精神を集中させる。風が地上に向かい吹く。彼は風に乗り、一足先に地上に戻る。
「モテモテね、レテ。どうするの?」
ラーナはレテに尋ねる。
「どうもこうも私は彼一筋。彼はどこまで私を連れて行ってくれるのかな」
レテは答える。
「人の気持ちは変わるわ。魔術の研究は長く険しい。待つのは慣れているわ。でも、シャラキ様の話しぶりだとレテはシグード様の隠し子ではないみたいね」
ラーナは答える。
「それは安心したけどホンキなの、ラーナ。クロウはどうするの?男は身近な女性が他の男に目を向けると熱心になるわ。クロウも変わるかな」
レテはラーナに伝える。
「シャラキ様のようにかしら」
ラーナは地上で誰かと話をしているシャラキを見つめる。
「かもね。ネアスがいなかったらシャラキ様は何も言わなかったかな。モテる男は焦らない。でも、彼がいた」
レテは広がる雲を見つめる。
「一緒に行かなくて良かったの?マリーがそばにいるから安心だけど、ガーラントさんとニャンは彼と離れ離れになった」
ラーナはレテに確認する。
「ガーラントさんよりもトゥールの方が頼りになるかな。三百年以上前の恨みを晴らすために彼をダールガーナ山脈に誘い出しているって感じはしないわ。この前も助けてくれたしね。ニャンはちょっとだけアヤシイから探ってみようかな」
レテは地上を見つめる。ニャンが落とし穴から助け出されている姿が目に入る。
「ホンキのクロウ。迫られたらどうしよう、レテ。私の心はネーくんに惹かれつつある。でも、彼は友達の恋人!」
ラーナは興奮する。
「ネアスはラーナのキモチには答えられないかな。ラーナは貴族のお嬢様、恋人の友達。ネアスの頭は吹っ飛ぶわ。私はラーナにどんな感情を持つのかな?」
レテはラーナを見つめる。
「嫉妬、憎しみ、哀れみかしら。ネーくんはレテの事が好きだから、私の告白を断るわ。私の心は悲しみで満たされるのかしら?」
ラーナの興奮が収まらない。
「彼は私にラーナが告白したことを教えてくれるのかな。黙ってやり過ごすつもりかな、相談されたらどうしようかな」
レテは迷う。
「二人の関係は私のせいで乱れる。私は責任を感じて、魔術の研究に専念する事を誓うわ」
ラーナは答える。
「クロウの出番はまだ?」
レテはラーナに尋ねる。
「彼は私をいつ慰めるのかしら?クロウだって考えている事はあるハズね。今日も熱心に今までの出来事をまとめていたわ。地道な作業が好きなのね」
ラーナは答える。
「ネアスも大変、大変。きれいでやさしくてかわいい彼女がいて、しかもうつくしくてあふれる知性の女性に想いを寄せられている。私だったらどうするのかな」
レテは考える。
「私を傷つけない方法を考えてくれるの、レテ?」
ラーナはレテに問いかける。
「決めるのは彼。でも、ラーナも分かっているんでしょ?」
レテはラーナに問いかける。
「私は負ける。いいえ、私はすでに敗者」
ラーナは微笑む。
「コワイよ、ラーナ?どうしたの?」
レテはビビる。
「敗北を知る。私に欠けていたモノ、彼は私を敗者にした」
ラーナは答える。
「分からない、ラーナ。今日は遅いから今度にしましょう」




