ガーランドさん
レテは静かに祈りを込めて扉を閉める。ラーナも心の中で祈る。ゴブリン神官は目を閉じて祈りを込める。ニャンも何となく祈る。
「もし、私がガーラントさんに間違ってイジワルしようとしたらちゃんと止めてね。約束だからね、ラーナ、ゴブちゃん神官。ニャンかな、どうなのかな」
レテは迷う。
「ニャンにゃん。とりあえず小屋の中は安全そうにゃん。ニャンはここで良いにゃん。みんなで話を続けるにゃん。ニャンは休憩するにゃん」
ニャンは目を閉じる。
「良いの、レテ?」
ラーナはレテに尋ねる。
「ゴブリンはニャン族とは交渉しません。レテ様の判断にお任せします」
ゴブリン神官は精神を集中させる。
「ネアスとマリーはどこ?後、ガーラントさんは大変ね」
レテはニャンに質問する。
「そうにゃん。ガーおじさんが叫びだして大変だったにゃん。マリーさんはウルサくてイライラしていたにゃん。ネアス様は困って、雲を眺めていたにゃん。。その時、リンリンがたくさん出てきたにゃん」
ニャンは落とし穴の下から答える。
「ガはマジでヤバい。いいえ、ガーラントさんは大変な人」
レテは訂正する。
「ガーラントさんは何者?」
ラーナはゴブリン神官を見つめる。
「災いが降りかかります。大神殿で話すべき事です」
ゴブリン神官は首を横に降る。
「ニャン、続けて」
レテはニャンを促す。
「ネアス様はニャンの耳元でレテ様に今日の出来事を伝えて欲しいって言ってくれたにゃん。待っていた言葉にゃん、ネアス様はスゴいにゃん。ニャンはネアス様の指示に従ってギンドラの街に向かったにゃんが途中で白い影がたくさん出てきたから隠れていたにゃん。」
ニャンは答える。
「朽ち果てない小屋にどうしてきたのかしら、変な話ね」
ラーナはニャンを疑う。
「ニャンはギンドラに向かう道を歩いていたにゃん。ホントにゃん、全然つかないから疲れていた所で小屋を見つけたにゃん。ガーラントさんと白い影はいなかったにゃん」
ニャンは答える。
「私たちと同じかな、ゴブちゃん神官は知っている?」
レテはゴブリン神官に尋ねる。
「ゴブリンは人よりも歴史を大切に扱っているだけです。白き影もレイレイ森林の異変も我らの記録には残されていません」
ゴブリン神官は答える。
「ニャン族はどうなの、ニャンは偉いって聞いたわ」
レテはニャンに問いかける。
「レテ様はスゴいにゃん。ネアス様には秘密にして欲しいにゃん。ニャンが自分で伝えるニャン。ニャンは族長にゃんが新米族長だから詳しくないにゃん。ネアス様のお手伝いをそうするかで大忙しにゃん」
ニャンは答える。
「ニャンは若そうなのに族長なんだ。私は魔術師協会の会長の座は約束されているけど、今はタダの貴族の魔術師。順番を間違えたかしら?」
ラーナは疑問を抱く。
「私はずっと神官です。ゴブリンの神官は毎日三回ガーラントの似顔絵を見て、覚えます。間違えたら食事はなしです。眉毛、鼻の位置がわずかに違うガーラントの似顔絵も紛れ込んでいるので大変な修行です。しかし、役に立った。世界は分からない」
ゴブリン神官は答える。
「アイツは何をしたの!石職人に始末してもらえば……」
レテの顔が青ざめる。彼女の体が震える。
「レテ、落ちついて。ガーラントさんは小屋の中には入れないんでしょ、ゴブリン神官さん。でも、ガーラントさんは扉を壊そうとしていたわ」
ラーナの疑問は深まる。
「ガーラントは記憶を失っている。これは真実でしょう。彼はこの小屋に近づくハズがない。これ以上は私の口から説明できません。ガーラントはなぜ、小屋に入りたがったのかは私にも分かりません」
ゴブリン神官は答える。
「コワイにゃん、逃げるにゃん。ガーラントさんはそうにゃんか?」
ニャンも怯える。
「私はあの時、ガーラントさんを抱きしめた。私のやさしさが裏目に出た」
レテはラーナを見つめる。
「ホント、レテ。ゴブリン神官、ガーラントは呪いをレテにかけたの?」
ラーナはゴブリン神官に問いかける。
「ガーラントは戦士です。そのような行いはしないでしょう。出来もしません。呪いをかけるには技術が必要です。ゴブリンでも才あるモノのみが使える技です」
ゴブリン神官は答える。
「じゃ、いっか。気にしない、気にしない」
レテは気持ちを切り替える。
「流れ星の欠片を探しましょう、レテ」
ラーナは扉を開けて、外に出ていく。
「少しだけ時間をちょうだい、すぐに戻ってくるわ」
レテはラーナの後を追いかける。レテが外に出るとラーナが夜空を眺めている。雲は晴れず、星は見えない。レテは周囲を見渡す。ガーラントはいないようだ。
「どうやって流れ星を探すの、ラーナ。明かりをつけたらガーラントさんが近寄ってくるかもしれないわ。アイツの執念は侮れないかな」
レテは地面を見る。何もない。
「この辺りに落ちたのは確実だから、音は聞こえるかしら」
ラーナは精神を集中させる。何も聞こえない。
「静かな夜に戻ったわ」
ラーナはレテに伝える。
「シルちゃん、お願い」
レテは精神を集中させる。木の葉の欠片が小屋の裏側から流れてくる。
「シルフィーの導き。風は全てを運ぶ」
ラーナは小屋の裏に駆け出す。
「探しものは見つかる。ちょっとだけ待っていてね」
レテはゴブリン神官に伝える。
「準備をしています。大神官は時間を気にしませんので、ごゆっくりとどうぞ」
ゴブリン神官が精神を集中させる。床板が外れて、土が天井に吹き飛ぶ。
「ニャンは休憩するにゃん。出発する時は起こして欲しいにゃん」
ニャンは落とし穴の中で目を瞑る。
「レテ!」
ラーナの声が聞こえる。
「すぐ行く!」
レテは小屋の中の様子も気になるがラーナの後を追いかける。レテは小屋の裏に駆けていく。そこにはラーナの姿はない。彼女は周囲をキョロキョロする。誰もいない。
「ワ!!」
建物の影からラーナが突然姿を現し、レテを驚かす。
「キャーーーーーーーーーーーーーー!」
レテは大声で叫ぶ。ラーナはレテの叫び声に驚き、しりもちをつく。レテはすぐさま自分の口を抑えて、周囲を見渡す。ガーラントの姿は見えない。
「ごめん、ラーナ。油断していたわ」
レテはラーナに手を差し伸べる。
「私こそレテがこんなに簡単に驚くとは思ってもいなかったわ。騎士は不意打ちに強いと思っていたわ。私の先入観ね」
ラーナはレテの手を取り、立ち上がる。
「いつもなら驚かないわ。ラーナの動きは読みにくいかな、アーシャとネアスのイタズラには引っかからない自信はあるけどね」
レテは笑みを浮かべる。
「覚えておくわ。レテは私のイタズラには高確率で引っかかる。私はそれを予測して準備をしておくことにするわ。経験は大事」
ラーナは微笑む。
「次は引っかからないかな。チョロい女は卒業しないとね」
レテは答える。
「どちらを選ぶか?難しい選択になりそうね。レテ、流星の欠片はそこよ。シルフィーの贈り物かしら」
ラーナはレテの足元に目を移す。彼女の視線の先にはちぎれた木の葉に覆われた小さい石がある。レテはそっと木の葉を指で地面に落として、流星の欠片に手を触れる。冷たい。
「タダの石に見えるわ。道で落ちていても気づかないかな」
レテは流星の欠片を取る。
「精霊の贈り物。どんな力を秘めているのかしら」
ラーナはレテの手の中を見つめる。
「石には興味がないからラーナが持っているのが良いかな。シルちゃんの贈り物だとしても私の願い事はすでに叶っているかは必要ないわ」
レテはラーナに流星の欠片を差し出す。
「私の願いがラトゥールの末裔と結ばれる事だとしたら、レテ。私は彼に引き寄せられている。レテじゃないかしら。ネーくんよ」
ラーナはレテを見つめる。
「彼は呪われた一族、盗賊の末裔。でも、英雄はラトゥールの名に祝福を与えた。その名を持つものが災厄を退けた。そういうのが好きなの、ラーナ?」
レテはラーナに尋ねる。
「ラトゥールの力を使いこなし、風の精霊を自在に操る彼女の心を射止めた存在。私が初めて結婚を申し込んだ相手。私は申し込まれる側の女、不思議な出来事だったわ」
ラーナは流星の欠片を受け取る。
「彼も危険な存在、危うい存在、危ない男なのね」




