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落とし穴

 レテは精神を集中させる。シルフィーの風が小屋の中に吹く。静かな風が床下の土を巻き上げていく。レテとラーナは入口から距離を取る。

「ガはあきらめたみたいだし、白い影も動かない。だけど私たちも小屋の中から動けないわ。どうしたら良いのかな」

 レテは積み上がる土を眺めている。

「朽ち果てない小屋には地下があるハズ。でも、見た感じではないわね。壁は汚れているから触りたくないわ」

 ラーナは壁の色を確認している。

「色違いの壁が地下室への鍵。ストーンマキガンでは流行っていたけど木の建物でも通用するのかな」

 レテはつぶやく。

「夏の夜に騎士は朽ち果てない小屋で何をしているの?秘密で言えない事かしら、騎士団の伝統の任務。興味があるわ」

 ラーナがレテに尋ねる。

「周囲の見回りと小屋の中のゴミ掃除。レイレイ森林でだけ取れる薬草の採取。カーレイ草にココレイ草。亡霊避けの秘術の材料になるから、ついでに集めるわ。後はみんなでコワイ話をするわ。一番の人はゴミ掃除が免除されるわ」

 レテは答える。

「白い影は亡霊なのかしら、書物には書いてなかったわ。ガには危害を加えるつもりはないみたいね」

 ラーナは壁に触れようとするがやめる。

「ドロスも驚いていたから、新しい亡霊かな。古臭い亡霊は駆逐される。ガは滅ぶ」

 レテは壊れたゴブジンセイバーに手を当てる。

「扉を開けて始末する、レテ。ガは強引すぎるわ。私の言うことを聞かないなんてアリエナイ。危険な男、危ない男、私たちの急所になるわ」

 ラーナは扉を見つめる。

「ガは裏切り、再び私たちの味方になる。彼の言葉、ガは私たちの敵に回りつつある。今が一番厄介な時。下手に手を出すのも危険、でも、放っておくのはもっと危ないわ」

 レテは精神を集中させる。シルフィーの風が止む。入口の扉の横には土が積み重なっている。ラーナは入口に近づく。

「ちょうどヒト一人分ね」

 ラーナは小声で話す。

「良い感じ、良い感じ。ドロスいる?」

 レテは部屋の中に向かって話しかける。反応はない。

「ガ、元気かしら?」

 ラーナは外に向かって叫ぶ。反応がない。

「寝たのかな、何もないなら私たちも眠った方が良いけど。もう少しだけ調査をしてみよっかな」

 レテは落とし穴が完成したので安心する。

「精霊はスゴい!魔術じゃ出来ない事を簡単にこなせる!」

 ラーナは感動して、大きな声を出してしまう。彼女はすぐに口を抑える。

「シルちゃんの力なら濡れたラーナの体も簡単に乾かせるかな。魔術では出来ない事、モーチモテ博士でも不可能はあるわ!」

 レテは大声で答える。彼女は壁に耳を近づける。何も聞こえない。

「ありがとう、シルフィー!」

 ラーナは落とし穴に叫ぶ。

「バレたか?!」

 落とし穴の下から声が聞こえる。

 ラーナは落とし穴から離れる。落とし穴の土が小屋の天井にぶつかる。次の瞬間、土と共に神官の姿をしたゴブリンが現れる。

「ゴブちゃん神官!」

 レテは叫ぶ。

「噂のゴブリン神官なの?ゴブジンセイバーをネーくんに授けたゴブリン!」

 ラーナは感嘆する。

「お久しぶりです、レテ様。時は満ちました。ゴブジンセイバーは折れた。大神官がお待ちです。ゴブジンセイバーが力を取り戻す時が来ました」

 ゴブリン神官は床に転がると立ち上がる。

「ずっと見ていたの?男はそうなの?ゴミなの?」

 レテは動揺する。

「剣が折れたのはほんの少し前、監視されていたのは間違いないわ」

 ラーナは胸元を隠しながら精神を集中させる。

「私は神官です。剣に強い衝撃が加わった時に土にその振動を伝える魔術をかけておきました。頭に響くので使いたくないのですが非常事態なので仕方がありませんでした」

 ゴブリン神官は二人に伝える。

「ガ!」

 レテは察知する。

「どこ!」

 ラーナは小屋の中を見渡す。変化はない。

「違うわ。あの時、ガがいた」

 レテは答える。

「そうです、レテ様。まさかガーラントがレテ様とネアス様のそばにいるとは思いもしませんでした。精霊使いとラトゥールの末裔、私が出会うべきだった方々はお二人だけです」

 ゴブリン神官は答える。

「レテの直感とネーくんの予感!」

 ラーナが答える。

「ガは小屋の外にいるわ。きっと壁に耳を貼り付けて盗み聞きしているハズ。どうしよう、大事な事を言い忘れていたわ」

 レテは後悔する。

「我々の仲間がガーラントをひきつけています。ご安心してください。白き者共も同様です。外を見てください」

 ゴブリン神官が二人に伝える。レテは扉を開けるために落とし穴の横に移動する。

「ガは何者なの?彼の涙は暗闇に届く。大賢者の知り合い、記憶喪失のおじさん。危険な人物だけどゴブリンがなぜ?」

 ラーナはゴブリン神官に問いかける。

「暗闇は人の心を狂わせる。大賢者は皆が彼と同じように孤独で過ごせると思っていた。ガーラントの心は狂い、壊れている。一目瞭然です」

 ゴブリン神官は答える。

「深刻すぎないかな。タダのモテないおじさんの僻みじゃなかったのね。ガーラントさんは大変な目にあったのね」

 レテは恐れを抱く。

「そうね、ガーラントさんの事はゴブリン神官さんに任せるわ。私たちはネーくんとマリーとニャンを見つけて森から脱出しましょう」

 ラーナは答える。

「お任せください、レテ様、ラーナ様。我々ゴブリンは大賢者の計画に反対しました。人はそれほど強くない。ゴブリンも変わる。しかし、彼は強情でした」

 ゴブリン神官は答える。

「ゴブちゃんは長生きなの?三百年も生きるって大変そうね」

 レテは扉に手を当てる。

「ゴブリンの方が魔術が得意なのかしら。でも、魔術を使うゴブリンの話なんて書物でも噂でも聞いたことはないわ」

 ラーナはゴブリン神官に問いかける。

「ゴブリンは人とは違います。精霊とも違います。ラトゥールとも違う。大神官があなたがたに説明します。私は案内人に過ぎません」

 ゴブリン神官が答える。コツン、コツン、コツン。扉を叩く音が小屋に響く。レテは扉から手を離す。

「助けて欲しいニャン。アヤシイニャン族じゃないにゃん。ホントにゃん。ニャンはみんなとはぐれただけにゃん。朽ち果てない小屋の中の方が安全にゃん。森の中は大変にゃん」

 ニャンの声が聞こえる。三人は声を出さない。

「誰もいないにゃんか。声が聞こえた気がしたにゃん。勝手に入るにゃん」

 ニャンの声が扉を開ける。三人は精神を集中させる。扉を開くとニャンはうれしそうな顔でレテを見る。彼はレテに近づこうとする。ズボッ!ニャンは落とし穴にはまる。

「ヒドイにゃん!」

 ニャンは落とし穴の下で助けを求める。

「ニャンっぽいけどガーラントさんのせいで、ガーラントさんは大変なお方かな。信用が出来ない状態かな」

 レテは扉の外を眺める。白い影は見当たらない。

「私にはホントのニャンかどうか区別は付けられないわ。風の神殿で見かけたニャンと同じに見えるけど……」

 ラーナは落とし穴の下のニャンと目を合わせる。

「ガーラントが気づきます。レテ様、扉を閉めてください」

 ゴブリン神官はレテに伝える。

「ガーランドさん、私はもうイジワルしないわ。ホント、ホント」


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