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朽ち果てない小屋

 レテは木の上で立ち止まり眼下を見下ろす。植物のいっさいない地面が広がっている。ラーナは先に進もうとする。夜なので視界は狭い。

「ダメ」

 レテはラーナに声をかける。

「私は魔術師。しかも、うつくしくてあふれる知性を持つモノ。朽ち果てない小屋の伝説を恐れて逃げるなんて出来ない。分かるでしょ、レテ。流れ星さんがこの先に落ちたのは確実、炎の香りを感じる。これは私の運命、朽ち果てない小屋の謎は今夜解けるわ」

 ラーナはレテに伝えると木から降りていく。

「ラーナ。きれいでやさしくてかわいい私をこんな場所に置いていくの。私がキライなのは知っているでしょ。冷たい!」

 レテはゆっくりとラーナの後に続いて木を降りていく。

「レテにはシルフィー、ウィルくん、ラトゥール、魔王の魂がそばにいるわ。ネーくんも流星を追いかけて、ここに向かっているハズ。心配はいらないかしら、マリーもいるし問題はないわ。朽ち果てない小屋!」

 ラーナの心は弾む。

「クロウに言いつける。ラーナは単独行動を取った。冒険者は怒るわ」

 レテは切り札を出す。

「クロウはどんな顔をするかしら、私が一人で朽ち果てない小屋の謎を解く。彼はこの場にいない。大事な時に男はそばにいない。当然かしら、男に幸運はないわ」

 ラーナはそっと地面に降りると植物のない地帯を歩いていく。

「ニガサナイ」

 レテは精神を集中させる。光の風の糸が彼女の指からラーナの元に伸びていく。彼女は狙いを定める。光の風の糸はラーナの胸元から体の中に忍び込む。彼女は精神を研ぎ澄ます。

「きゃ、レテ、やめて」

 ラーナは胸元を押さえてしゃがみ込む。レテは光の風の糸でラーナの体をくすぐる。

「ダメ、レテ。私の肌は敏感なの」

 ラーナは笑い出すのをガマンする。レテは容赦しない。

「戻る、戻らない。選択肢はラーナにあるかな」

 レテは調子に乗る。

「戻る気は、うん、ないわ」

 ラーナは答える。

「ドロスが隠れてみているかも、絶対に返事もしないし、後で教えてくれる事もないわ。風に運ばれるまでずっと彼は覚えているわ」

 レテは必死にくすぐりに耐えているラーナに追い打ちをかける。

「ラトゥール、お願い。流れ星はこの先に落ちた。あなたに関係することよ。私の体だけで満足するの、ラトゥール」

 ラーナがラトゥールを説得する。光の風の糸は動きを止める。

「レテの体も均整が取れていてステキかしら。彼女は油断しているわ。ネーくんもそばにいない。分かるでしょ!」

 ラーナは追い打ちをかける。光の風の糸はレテの指先から彼女の体に忍び寄る。

「ラトゥール、裏切るの!シンジラレナイ、ロクデナシ、あなたの力は借りない。べーだ!

いーだ!」

 レテの指先から光の風の糸が消える。

「レテ、一緒に行きましょう。私があなたを守ってあげるわ。その代わりジャマはしないで欲しいかしら」

 ラーナは振り返り、レテを見つめる。

「何から?亡霊はコワくない。魔術師もいないハズ。私を何から守ってくれるの?」

 レテはラーナを見つめる。

「あなたの心を乱す存在。私が正体を暴いてあげる。うつくしさとあふれる知性には限界はないかしら、全てを白日の元に晒すわ」

 ラーナはレテに伝えると立ち上がり、歩き始める。

「ガンバレ、ラーナ。私は後を付いていくだけ、ホントよ」

 レテは地面に降りて、ラーナの後を追いかけていく。

「チョロいわ、レテ。私は心配しすぎかしら」

 ラーナは不安を感じる。

「状況が悪いだけ、私はチョロくないわ。ドロス、いるの?」

 レテは周囲に呼びかける。反応はない。

「体に戻れたのかしら、魔術では亡霊になれないわ。人はなぜ亡霊になるのか、今考えるべき謎ではないわ。朽ち果てない小屋は近くにあるの、レテ?」

 ラーナはレテに問いかける。

「もう少し先かな、小さい小屋だから調べるモノはないハズ。地下への階段はなかったと思うわ。ラーナの話を聞くまで私も魔術師の地下室があるとは思っていなかったから、何とも言えないけど。道なき道を進め、どこまでも、かわいくね」

 レテは答える。

「レイレイ森林の朽ち果てない小屋については風の神殿の図書室で調べたわ。何も分かっていない古びた小屋。でも、朽ち果てる事がない。それに騎士が毎年中の様子を確認している。それ以外の事は何も書いてなかったわ」

 ラーナは駆け出す。

「何もないわ。急ぐことはないかな」

 レテはラーナを追いかける。

「植物が育たない。書物には書いてなかったわ。どうしてかしら?」

 ラーナは周囲を見渡す。

「レイレイ森林では他の所でもあちこちに植物がない場所があるわ。この辺りほど大規模ではないけどね。ここで副騎士団長がパンの種を植えて、帰る時に掘り返したらカチカチになっていたわ。ほら、あの立て札の所!」

 レテは夜の暗闇の中で、どうにか見つける。

「騎士も色んな人がいるのね。そこらの貴族よりも役に立ちそうかしら」

 ラーナは立て札に突進する。

「立ち入るな。災い降りかかる。シンプルね」

 ラーナは先を見る。立て札が見える。彼女は走っていく。

「小屋はずっと同じ場所にあるわ。急ぐことはないかな。夜は長いわ」

 レテは周囲を見渡す。人に気配はない。

「立ち入るな。災いあり。ふ~ん」

 ラーナは先を見る。立て札が見える。彼女は歩いていく。

「ウィルくん、お願い!」

 レテは精神を集中させる。何も起きない。

「白い亡霊が出て来たら面倒だから明かりは付けない方が良いかしら。炎で追い払えるけど、得体の知れない相手だってことは変わりがないわ」

 ラーナはレテに伝える。

「災いあり」

 ラーナが立て札を読む。彼女が前方を見るとうっすらと建物の姿が見える。


「行くの?ラーナ、詳しくは知らないけどたくさんの魔術師が勝手に小屋に入って何も見つけられなかったって話よ。年に一度の騎士団の調査でもゴミがたくさん小屋の中と外にあって大変!朽ち果てない小屋の持ち主に恨まれたら、どうするつもりなのかな」

 レテは小屋を見つめる。彼女は腕を擦る。

「ヘボ魔術師は数には入らないわ。モーチモテ博士はここに来たことがあるのかしら」

 ラーナは躊躇わずに先に進む。

「噂では聞いた事はないかな」

 レテは答える。

「最後の立て札ね」

 ラーナが見つける。

「イヤ」

 レテは怯える。

「何、警告でしょ。うつくしくてあふれる知性を持つ私を止める事は出来ないわ。朽ち果てない小屋はすぐそこ!」

 ラーナの興奮は最高潮に達する。

「ダメ」

 レテはラーナの腕を掴む。

「さっきの立て札が最後。今さっき見た時、立て札はなかったわ。ちゃんと見たわ、帰りましょう、ラーナ。今日のレイレイ森林はオカシイ。明日の朝に調査に来よ。小屋は動かないわ。約束するわ」

 レテはラーナを説得する。

「立て札の内容を見たら帰るわ。レテの言う通りね、叫んじゃダメよ。静かに帰りましょう、レテ。魔術師は無用な危険は侵さない」

 ラーナは嘘をつく。レテは彼女の腕を離す。

「分かったわ。私のやる気はゼロかな」

 レテの心は沈み込む。

「ありがとう、レテ。借りは返すわ」

 ラーナは立て札に近づく。

「立ち止まるな!」

 ラーナは振り返る。レテの背後に白い影が迫っている。ラーナは周囲を見渡す。彼女たちは白い影に包囲されていた。レテもラーナの様子に気づき、駆け出す。

「ハメられた!」

 レテは叫ぶ。二人の周囲に無数の火花が爆ぜる。白い影は怯まない。さらに火花が爆ぜて、火の匂いが周囲に立ち込める。

「前に!」

 レテは朽ち果てない小屋に向けて走り出す。

「もう少しかしら?」

 ラーナは精神を研ぎ澄ます。火花がビュンビュンと白い影を突き抜けて動き回る。白い影は怯む。

「流石、ラーナ!」

 レテは振り返り火花の動きを見ていると足元をすくわれて、転んでしまう。

「もう、イヤ!」


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