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最初の湖へ

 レテは全力で森の小道を走り続ける。彼女は脇目を振らずに走り続ける。しばらく走った後、レテは異変に気付く。道が終わらない。

「イミフメイ、もう湖に着いても良いハズ」

 レテは恐る恐る周囲を見渡す。暗くて見えない。彼女はカバンから光の魔法紙を取り出す。

「レテ様、光は亡霊を引き寄せます。お止めください」

 ドロスの声が聞こえる。

「知っている、それでも場所の確認は必要なの!ドロスのニセモノさん、アイツは私より足が遅いわ」

 レテはクシャクシャするのを躊躇う。

「私はドロスです。今、レテ様を追いかけています」

 ドロスの声が答える。

 レテは光の魔法紙をやさしく手で包みながら周囲を見渡す。ドロスの姿も白い影もラーナも見当たらない。

「夜になったらレイレイ森林に入ってはいけない。掟は破ってはイケナイ、離れた場所から声は届かない」

 レテはつぶやく。

「私は近くにいます」

 ドロスの声は答える。

「ブッ飛ばすよ、ふざけんな」

 レテは怒鳴る。

「申し訳ありません。言葉が足りませんでした。私は神官の秘技で体を眠らせて風で精神を飛ばしています」

 ドロスの声は答える。

「知らない、ウソ、バレバレ、便利すぎ」

 レテは空中を殴りつける。感触はない。

「秘技中の秘技です。私のように恐れを知らない神官のみが実践します。亡霊と同じ原理ですが研究は進んでいません」

 ドロスは答える。

「ウソウソ、私は聞いたかな。追いかけているって?何が?あなたはここにいる。つじつまが合わない。私は追う側!」

 レテは光の魔法紙を握りしめる。火が付いたので急いで放り投げる。

「体が追いかけています。眠っている時と同じです。意識がなくても簡単な動作は可能です。小道は一直線なので安心です」

 ドロスの声は答える。

「都合の良い話かな、シンジラレナイ。私は湖に向かうわ。ついてくんなよ」

 レテは怒鳴る。

「レテ様、どうされたのですか?口が悪いです」

 ドロスの声は心配する。

「ドロスが悪い!」

 レテは再び全速力で駆け出す。

 彼女は後ろを振り向かずに一心不乱に走り続ける。湖には辿り着かない。レテの心に不安がよぎるが振り払い、走り続ける。彼女の息がきれる。

「ラーナ?!」

 レテは叫ぶ。返事はない。

「変です、レテ様。今日のレイレイ森林はあまりにもおかしい。木の上から確認してきます。お待ち下さい」

 ドロスの声がレテに伝える。

「暗くて見えないかな、レイレイ森林はリンリン森林よりも暗い。真っ暗で木の上からでも何も見えないわ。夜になると湖の水が黒い霧を作って森全体を覆っているから空から見渡す事は出来ない。ドロスも知ってるでしょ?」

 レテはドロスに問いかける。

「ええ、そうですがいつもと違う森。黒い霧も濃くなっているかもしれません。見に行ってきます」

 ドロスの声が消える。レテは再び一人取り残される。

「それもそうね、私も行こっと」

 レテは近くの木をスルスルと昇っていく。次々と高い木に乗り移り、すぐに頂上に辿り着く。

 レテは木の頂上で黒い霧に視界を阻まれる。周囲の様子も分からず、湖の姿も確認できない。彼女は空を見上げる。雲が星を遮っている。

「シルちゃん、お願い」

 レテは精神を集中させる。ジトッとした風が周囲に吹く。黒き霧がシルフィーの風で吹き飛んでいくが、すぐに霧が立ち込める。レテはさらに精神を集中させる。風の勢いが増して、黒い霧は吹き飛んでいく。

「何が見えるかな」

 レテは周囲を見渡す。

 彼女はいくつかの湖を視界にとらえる。ギンドラの街は見えない。森の中には小さな道が枝分かれしている。黒い霧が徐々に戻ってくる。

「見つけた、レテ!」

 レテの耳にラーナの声が聞こえる。

「こっち!」

 レテは声がする方向に目を向ける。ラーナは転ばない杖を風で浮かばせて木の上の間を飛び跳ねてレテの元に向かってくる。

「夜は私の味方。レテは簡単に見つけられるって思っていたわ」

 ラーナは優雅に転ばない杖を使い、飛び跳ねる。木々は音を立てない。

「ドロスはいる!」

 レテは空に声をかける。

「います。大分奥まで来たようですね。最初の湖はとっくに通り過ぎてしまったようです。道は正しかったハズです」

 ドロスの声が聞こえる。

「どこにいるの?気になって今日は眠れなくなるかしら」

 ラーナは周囲をキョロキョロしながら飛び跳ねる。

「ドロスは神官の秘技で亡霊みたいになったわ。ウソだと思うけどね」

 レテは湖の位置を覚えている。

「本当です」

 ドロスの声が答える。

「レテはどこでも人気ね。誰もがあなたを追いかける。美しさと知性よりもきれいでやさしくてかわいい方が良いのかしら。ほら、あっちもこっちも」

 ラーナは空を指差す。

 ラーナの指の先の方角には白い影が集まっている。レテはビビる。

「もう、イヤ!吹っ飛ばす!」

 レテは精神を研ぎ澄ます。激しい風が木々を揺らす。白い影がドンドン集まってくる。

「レテ様。魔力の使いすぎです!」

 ドロスは警告する。

「レテ、夜は長いわ。ネーくんを探すんでしょ、魔力は節約するべきかしら」

 ラーナは精神を集中させる。

 彼女の周囲の木の葉が切り刻まれて粉々になる。この葉の破片はシルフィーの風に吹き飛ばされて、白い影に襲いかかる。影たちはレテたちから離れていく。

「ギンドラに戻るわ。決定!」

 レテはさらに精神を集中させる。彼女の上に竜巻が生じる。木の葉が竜巻に吸い込まれていく。白い影が彼女たちに近づいてくる。

「レテの判断に任せるわ。亡霊も気になるけど不測の事態が発生したら始めからやり直すのも良いかしら」

 ラーナは精神を集中させる。黒い霧が彼女たちの周りに集まってくる。霧は竜巻に乗り込まれる。

「闇に紛れて逃げる。すばらしい、私は体に戻ります。お二人の無事を祈っております」

 ドロスは二人に別れを告げる。

「ありがと、ドロス。神官なんだから後は自分でなんとかしてね」

 レテはドロスに伝えるとラーナの手を取る。

 ヒューン!ヒューン!ヒューン!彼女の頭に大きな音が鳴り響く。レテはラーナの手を離す。白い影は竜巻に近づいていく。

「ごめん、レテ。どうしたのかしら、今までで一番大きいわ」

 ラーナは黒い竜巻を眺めている。

「何の音ですか!風の音ではありません」

 ドロスの声が聞こえる。

「ドロスにも聞こえたの?」

 レテは答える。

 ヒューン!ヒューン!ヒューン!音が大きくなる。白い影は黒き竜巻に飲み込まれていく。内部では木の葉の欠片が待っている。

「流星が再び落ちるのかしら。三百年に一度の流星群、今一度姿を現すのかしら。音は空から聞こえる」

 ラーナは空を見上げる。雲が視界を遮っている。

「三百年に二度の流星群、災厄の前触れ。二重の危機が訪れるのでしょうか」

 ドロスの声が答える。

「ドロスが空まで行って確認してきて!ダイジョブ、ダイジョブ」

 レテは白黒の竜巻を見つめている。

「この高さが限界です。魔力が足りません」

 ドロスが答える。

「ごほうびをあげるわ、ドロス。あなたが期待した事、私の体かしら」

 ラーナはドロスに伝える。

「自分の未熟さを呪います。きちんと訓練をしていれば良かった。人の噂など気にしないで、もっと秘技の練習をしておけば……」

 ドロスは後悔する。

「ラーナ、からかっちゃダメ。モテる男はホンキになるかな」


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