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転ばないようにね

 レテは折れた転ばない杖の片方をラーナから受け取る。ラーナは断面を見つめている。ドロスはレイレイ森林の方角を見つめている。

「そうだ、忘れていたわ!彼の休憩場所を詳しく聞くのを忘れていたわ。ちょっとだけ待っててくれるかな」

 レテは思い出す。

「私がゼゼーさんに伝言を頼まれました。二つ目の湖のほとりの休憩所だそうです。レテ様、申し訳ありません。お二人の綺麗さと美しさですっかり忘れていました」

 ドロスは調子を取り戻しつつある。

「転ぶ杖はきれいに別れる杖かしら、これから二人は巡り合う。片方はネーくんにあげるのもステキね」

 ラーナは別れた転ばない杖を縮ませようとするが上手く行かない。

「壊れちゃったみたいね。あのオイボレのように、悲しくないわ。当然の結末かな」

 レテも試してみるが縮まない。彼女は歩き始める

「レテはデフォーに厳しすぎるわ。壊れたモノにも利用価値はある。最後の最後まで搾り取る。貴族の役割かしら」

 ラーナは手に別れた転ばない杖を持って歩き始める。

「私も今を楽しみましょう。老いは平等に訪れる。私だけが若さを保ち、最後までモテ続けるわけではありません。私もいつかは若い女性に陰口を叩かれるでしょう。かつて、きれいでやさしくてかわいい女性とうつくしくてあふれる知性を持つ女性と夜のレイレイ森林を散歩した。誰もが羨む思い出ですが若者はバカにするでしょう」

 ドロスはラーナの後に続く。

「ネアスはドロスみたいには話せないから安心かな。彼はララリの謎を追っているのかな、それとも私の事を考えすぎてドキドキしているのかな」

 レテは立て札の前で立ち止まる。

「亡霊を刺激するな、湖にゴミを投げるな、命を粗末にするな。これらを守れないものはレイレイ森に立ち入ることを禁止する。冒険者ギルドより。夜にレイレイ森林に入るバカモノはいないと思うが注意する。お前では謎は解けない。うぬぼれるな、先人は偉大だ」

 ラーナは立て札を読む。

「ネアス様を待っているのが得策です。冒険者ギルドの忠告は正しい」

 ドロスはレテに伝える。

「キマリを破るとどうなるのかな。呪いにかかるのかな、街の人にキラワれるのかな」

 レテはレイレイ森林に足を踏み入れる。

「レテ、私も付き合うわ。魔術師は恐れられてこそ、ホンモノかしら」

 ラーナはレテの後に続く。

「呪いの研究をするモノはいずれ呪われるでしょう。それならば、きれいで美しい女性たちと共にかかるのが幸運です」

 ドロスも意を決して二人の後に続く。

 レテは森の小道に入ると辺りの木々を見渡す。夜風が木の葉をざわめかせる。暗がりの中で白い影が動くのが彼女の目に入る。

「帰ろっと!」

 レテが振り向くとラーナとぶつかり転んでしまう。二人の別れた転ばない杖は風を鳴らす。ひゅー、ひゅー。

「痛!」

 ラーナは尻もちをつく。

「大丈夫ですか!すぐにそちらに向います!」

 ドロスが駆けつけようとする。

「なんと!」

 ドロスの叫び声がレイレイ森林に鳴り響く。

 白い影がレテとラーナの周囲を漂っている。夜風が強く木々を吹き付ける。木の葉が宙を舞いながら二人の足元に落ちる。

「出口はすぐそこかな。焦り過ぎかな、亡霊さん。そんなんじゃ簡単に女の子に逃げられるかな。きれいでやさしくてかわいい女の子とうつくしくてあふれる知性を持つ女の子に興奮しちゃったみたいね」

 レテは白い影に伝える。

「亡霊も所詮は人って事かしら、精霊とは違うのね。期待して損をしたわ。女の子の叫び声が聞きたいのかしら、愚かな亡霊。あなたたちの求めるモノは手に入らない。学ばないモノ、だから亡霊になったのかしら」

 ラーナも白い影に伝える。

「言い過ぎかな、ラーナ。帰ろ」

 レテは立ち上がる。夜風が彼女に吹き付ける。

「彼らは何も出来ないわ。ドロスを助けて先に進みましょう。亡霊は世界に干渉できない。彼らは災厄に立ち向かえない無力な存在。私たちのジャマは出来ないわ」

 ラーナはレテに手を伸ばす。レテはラーナが立ち上がるのを助けてあげる。

「好きになっちゃいそうかな」

 レテはラーナに伝える。

 白い影は二人から離れて森の中に消えていく。レテがホッとすると白い影が頭上から彼女の目の前に姿を現す。彼女が悲鳴を上げそうになるとラーナがレテの口を塞ぐ。

「ご褒美は簡単にあげられないわ。レテもチョロすぎかしら」

 ラーナは別れた二つの転ばない杖を拾う。

「チョロくないし」

 レテはつぶやく。

「ドロス、どこにいるの?」

 ラーナは大声で叫ぶ。

「どうしちゃったの、ラーナ。レイレイ森林だよ。コワイ話がたくさんある場所って知らないの?」

 レテはラーナに尋ねる。

「レテこそどうしたの?亡霊なんて精霊の力で追い払えば良いわ。ラトゥールの力を見せればコワくなって逃げていくわ。亡霊でもラトゥールの事は覚えているかしら」

 ラーナは白い影の動きを眺めている。

「家まで隠れて付いてこられたら、どうするの。おフロはダイジョブだけど眠っている時に亡霊に襲われたら精霊を呼び出せないわ。手遅れになってからラトゥールが助けに来ても意味はないわ」

 レテは反論する

「亡霊に寝込みを襲われてヒドイ目にあったなんて書物には書いてなかったかしら。噂も聞いた事もないし、クロウも何も言わなかったわ。眠っていたら気付かないし、亡霊に取り憑かれたら風の神殿で追い払って貰えば問題ないわ」

 ラーナは小道を先に進もうとする。

「ラーナの言う通りかもしれない。亡霊は大したヤツラじゃないかもしれない。理解できた。でも、一回街に帰りましょう。ドロスのお祈りもイマイチだし、入口はすぐそこかな。戻ってアーシャに相談して、ううん、アーシャと三人でネアスのいる休憩場所に向かいましょう。何も間違っていないわ」

 レテは反論する。

「恐れは判断力を鈍らせるわ。レテは間違っていないように思える。でも、それが亡霊たちの狙いだとしたら?ネーくんに危険が迫っているかも!」

 ラーナは小道を進み始める。

「待って、ラーナ!ドロスはどうするの?」

 レテは前後を確認する。木々の影に白い影が見える。

「入口はすぐそこ、彼は神官だから自分で何とかするわ。レイレイ森林の白い影、書物には書いてなかった。彼らは何者なのかしら、興奮してきたわ」

 ラーナはドンドン小道を進んでいく。

「ドロス!アーシャに伝えて!レイレイ森林は危険だから近づかないで!」

 レテは大声で叫ぶ。返事はない。

 レテの声に反応するように白い影が木陰から出てくる。彼女は精神を集中させる。ウィルくんが彼女の目の前に現れるがすぐに姿を消す。

「ウィルくん、ヒドイ!」

 レテは森の入口に向かい走り出す。白い影が彼女の前に立ちはだかる。

「レテ、置いていくわよ。知ってるでしょ、レイレイ森林から逃げようとした冒険者の末路。亡霊は逃げるモノを好み、進むモノを嫌う」

 ラーナの声が聞こえる。

「私は精霊使い。冒険者じゃない。逃げ切ってみせるわ、亡霊さん。あなたたちの好きにはさせない。ラトゥール、お願い!」

 レテは精神を集中させる。光の風の糸が彼女の指から生じる。

 白い影は怯むことなくレテの周囲に集まり、彼女は完全に包囲される。レテは光の風の糸を伸ばそうとするが焦って上手く行かずにこんがらがって、彼女の足元にゴロンを光の風の玉が落ちる。

「シルちゃん、お願い!」

 レテは精神を研ぎ澄ます。彼女の周りに風が巻き起こる。

 亡霊たちの姿がほんのちょっとだけ霞む。光の風の玉は木々の間に飛ばされていく。彼女は絶望する。レテはカバンから魔王の魂を取り出す。冷たい。

「魔王の魂の力を見よ!今までは油断させるための作戦、作戦」

 レテは精神を集中させるが魔王の魂を落としてしまう。

 白い影はジリジリとレテに近づいてくる。レテは魔王の魂を拾うか、他の精霊の力を再び借りるか迷う。白い影はレテの体に近づく。

「負けるの?入口で?ウソでしょ!」

 レテはゴブジンセイバーに手を当てる。彼女が剣を抜こうとすると火花が散る。亡霊はレテから離れていく。さらに火花が次々と起こる。レテはしゃがんで魔王の魂を拾い、入口に走っていこうとする。彼女が火花で照らされた入り口を見ると白い影が壁を作っている。

「レテ、こっち。白い影はいないわ」

 森の方からラーナの声が聞こえる。

「はめられたみたいね」

 レテは確信すると小道を全速力で走り出す。

「お待ち下さい、レテ様。今日の亡霊は過激ですね」

 ドロスの声が後ろから聞こえる。レテは振り返らない。

「レイレイ森林の夜は長い。前途多難ですね」

 ドロスの声が横で聞こえる。レテは前だけを見ている。

「無視、無視」


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