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腹ごしらえ

 レテは目を開けてレイレイ森林を見つめる。夜の闇に包まれ、木々の様子は確認できない。リンリンの音は収まっていく。ラーナは腰に手を当てる。

「ギンドラの夜は始まったばかりかな。クロウのお話も気になるけど行こ、行こ!」

 レテは階段を降りていく。

「二階は訓練場で間違いないわ。グラーフの街にも騎士団支部があるから知っているわ。他には食堂と集会所と部外者立入禁止の部屋が何個かあったわね」

 ラーナはレテの後についていく。

「正解はその中にはないわ。私はきれいでやさしくてかわいいから、もう一度答えるチャンスをあげるわ。当たっても何もないけどね」

 レテは駆け足で階段を降りていく。

「賭け事は禁止、魔術の実験場でもないわ。会議室かしら、集会所で十分ね。ギンドラは治安が悪いから武器庫!」

 ラーナは決断する。

「それではどうぞ、ラーナ様!」

 レテは扉を開けると脇に素早くどける。部屋の中には木のツタがそこら中に散らばっている。中央のテーブルには果物の皮とクルミの殻が山積みになっている。床にはポツンを木のツタで出来た籠が置いてある。

「倉庫かしら、モラの食堂の線もあるわ」

 ラーナは正解に到達できない。

「正解は騎士団ギンドラ支部だけにある同好会。使えないモノを集めて、飲み屋のお姉さんたちにモテるモノを作ろう会。津ノ森野界、真面目な集まりよ」

 レテは部屋の中には入らない。

「籠をプレゼントしても喜んでもらえないわね。うれしいわとは言ってあげるけど、いつ処分するかを考え始めるわ。レテはネーくんに籠をプレゼントされたらどうするの?」

 ラーナはレテに問いかける。

「眠くなったってウソをついてお昼寝をするわ。もちろん、起きているわ。その間に処分方法を考えるかな、基本は森の中に放り投げるけど彼が探しに行くとメンドウだから他の方法を考えておかないとね。ありがと、ラーナ」

 レテはラーナに感謝する。

「どうして男の人は手作りの木の籠をプレゼントするのを止めないのかしら。貴族でも時代遅れの人たちは今でも女性が喜ぶと思っているわ。木のぬくもりが想いを伝える、分からないわ」

 ラーナはレテを見つめる。

「飲み屋の看板にも木の籠の持ち込み禁止って書いてあるのに理解できない人が多いみたいね。イラナイって大声で断られている人を見かけた事があるわ。木の籠は便利でステキだけどプレゼントではないわ」

 レテは床に置いてある木の籠を見つめる。

「お気に入りの木の籠は自らの手で選ぶモノ。匂いに手触り、色と形。どの木の籠にするかは女性にとって大事な問題かしら」

 ラーナは答える。

「男の子は何も分かっていない。ネアスも一緒かな、私がちゃんとしないとね」

 レテはレイレイ森林に目を向ける。

「どうしたのかしら、リンリンの羽ばたきが収まったのに声が聞こえてこないわ。私の予測はハズレてばかりね」

 ラーナは腰に手を当てる。

「もう女帝が現れても良い頃なのに。下に行きましょう!」

 レテは階段を降りていく。

「アーシャはいない」

 ラーナは予測する。

「あの子は異変があるとすぐに外に飛び出していくわ。今度はラーナの正解かな」

 レテは扉を開けっ放しだったのに気づき、階段を駆け上がる。

「私は先に一階に向かうわ。扉の開けしめは苦手なの」

 ラーナはレテにお願いすると階段を降りていく。

「何も思い浮かばない」

 レテはカバンからクルミの殻を取り出す。

「狙いはあそこ、クルミの山の頂点!」

 レテは一つ、二つ、三つとクルミの殻を投げる。狙い通りに山の頂点に重なるが、ぐらつき始める。

「欲張りはダメ」

 レテは残りのクルミの殻を山の横に投げて、扉を閉める。彼女は急いで階段を降りていく。レテが一階に到着すると木の扉は閉まっている。彼女は扉をコツンと叩く。

「ぶっ放してやるぜ!」

 扉が開く。騎士は素早く後ろにジャンプするがテーブルにぶつかってしまう。パンゴンの袋が床に落ちる。

「ゼゼー、まだ足りないかな。きれいでやさしくてかわいい私とうつくしくてあふれる知性を持つラーナがそばにいるのよ。それだけなの!」

 レテはゼゼーに注意する。

「騎士の世界はキビシイのね。リンリンの羽ばたきにも負けないお二人の美しさと綺麗さに驚きで声が出ません。頭の中はレテ様とラーナ様の事で一杯です。なんとふしだらな男に生まれついたのか!騎士としての誇りが私のジャマをしますがいつでもどこでもあなたの元に駆けつけたい。これをさっきみたいに言うのは難しいかしら?」

 ラーナはゼゼーを擁護する。

「ヒャッハーだぜ!モチの準備をするぜ!イヤッホォオ!」

 ゼゼーはパンゴンの袋を椅子の上に置くと棚からモチを取り出す。

「今日は何モチかな、ゼゼー。騎士団長の機嫌を損ねちゃダメ!」

 レテはゼゼーに伝える。

「グラーフではモチはあんまり食べないから楽しみね。ギンドラの街ではモチばっかり食べるからお肌がきれいな人が多いって聞いたわ」

 ラーナはレテに尋ねる。

「ラーナ様がこれ以上うつくしくなったらビビるぜ!」

 ゼゼーはテーブルにモチを並べて、小さく切った光の魔法紙を何度かクシャクシャしてモチの上に置く。彼は棚を眺めている。

「レイレイ森林の魔力、薬草、モチ。ギンドラの女性の肌のきめ細やかさの秘密には諸説あるわ。ギンドラのお酒には若返りの薬草が混じっているって話もあるわ」

 レテはモチを見つめる。

「魔力と薬草はないわ。どの魔術師、魔法使い、神官も存在を知らないハズがないわ。隠し通す事は不可能かしら、飲み屋で栽培しているなら別だけどね」

 ラーナは答える。

「決めたぜ!」

 ゼゼーは茶色の瓶を取る。

「ごまモチが食べたいかな」

 レテはゼゼーに伝える。

「決めてなかったぜ!」

 ゼゼーは白黒の瓶を取る。

「ごっわモチも食べてみたいわ。ギンドラでしか食べれない味ってクロウに聞いたわ」

 ラーナはゼゼーに伝える。

「ごっわモチは味付けが難しいから飲み屋で食べると良いぜ。俺のごっわモチはイマイチで人気がないぜ」

 ゼゼーは悲しげな顔でモチを裏返して、光の魔法紙をクシャクシャする。

「ゼゼー、もうダイジョブかな。ラーナも満足したでしょ?」

 レテはラーナに問いかける。

「ありがとうございます、レテ様、ラーナ様。いつの日か飲み屋に潜入するために彼らの仕草や話し方の研究をしています。現在は騎士と冒険者の間に揉め事はありませんがいつまで平穏が続くのでしょうか?私は夜も眠れません」

 ゼゼーは答える。

「何に満足するのかしら?」

 ラーナはレテに尋ねる。

「ヒィヤッハーって楽しいでしょ。飲み屋でみんな叫んでいるみたいよ」

 レテはゼゼーを見る。

「レテ様の言う通りです。ヒャッハーと何度叫ぶことが出来るか、ギンドラの飲み屋、いいえ、王国中の飲み屋で男の価値を測る基準として使われています。誰かが話をしている時にヒャッハーと叫ぶと飲み屋連合に伝わり出禁になります。そういう訳で頻繁に聞ける叫びではありません」

 ゼゼーはモチの焼き具合を確認する。もう少しだ。

「良い香り、そろそろかしら。でも、それだとみんなは叫べないわ。レテ、そういうことかしら。からくりがあるのね」

 ラーナは笑みを浮かべる。

「ヒィヤッハー。ヒャッヤー、ヒャッハヒー。抜け道は用意されているわ。それでも叫びすぎると出禁になるから注意してね。それはどこでも同じかな、街の中で叫んでいたら騎士団に街の人が教えてくれるわ」

 レテはぷっくりと膨れるモチに見とれている。

「良い焼き具合です」

 ゼゼーはモチをお皿に取り分けると白黒の瓶を開けて、ふりかける。

「ギンドラでの食べ方は?モチは白き聖なる食べ物。地域ごとに作法が違うのは知っているわ。クロウは教えてくれなかったわ」

 ラーナは二人に尋ねる。レテとゼゼーは目を見合わせる。

「王都の貴族はモチを食べる時に儀式張った事をするって聞いたことはあるけど見たことはないわ。王立図書館にもモチの作法に関するコーナーはないかな」

 レテは手でモチを掴み、口に運ぶ。モチは伸びる。

「飲み屋でもレテ様のように食べますかね。モチは伸ばして食べる。王都でも同じなのでギンドラ固有の作法ではないかもしれません。我々は貴族の儀式に参加は出来ませんし、潜り込んで作法を学んで役に立つのでしょうか」

 ゼゼーは棚からモチを取り出し、焼き始める。

「貴族がモチを間違って扱うと家が滅びると言われているわ。実際にモチで没落した貴族はいないらしいけど……」

 ラーナは迷う。

「食べちゃえ、食べちゃえ。オイシイごまもちをガマンするなんてアリエナイかな」


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