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夜の始まり

 レテはラーナの胸を見つめている。ラーナは自分のはだけた胸元を見る。窓の外は暗く静かだ。

「おっきい胸はララリじゃ買えない。ララリで買えるのは焼き鳥かな、今日の夕食は焼き鳥で決まりかな。ララリは大事、大事」

レテはラーナの胸から目を離す。

「ネーくんは私の胸に興味がないのかしら?ララリは大事に扱う。でも、ネーくんはララリを良く落とすわ。ゴブリンでも集めきれないかもね」

 ラーナは答える。

「女の子の胸ばっかり見つめていたら、ぶっ飛ばされるかな。貴族は平気で人の胸を見てくるけどホントはダメ。ていうか生きてイケナイハズ。ギンドラの飲み屋でもずっと胸ばかり見ていると注意されるらしいわ」

 レテはラーナに教える。

「私は経験不足ね。胸は見せびらかすモノだと思っていたわ。お母様は何も言ってくれなかった。クロウも同じ、どうしてかしら?間違ってはいないわ」

 ラーナはレテの胸元を見つめる。

「お母様の胸は小さい!」

 レテは予測する。

「正解!理由は自分で考えてみるわ」

 ラーナはレテの胸元から目を離さない。

「彼はモノを受け取る時は投げないでくれって私に言ったわ。落とすから責任は私のせいにするって言っていたわ。彼はたくさんのララリを落としたのかな、呪いのせいかな」

 レテは思い出す。

「ラトゥールの末裔。謎は増えるばかりね、ネーくんの故郷には秘密がありそうね」

 ラーナはレテの胸元に手を伸ばす。

「おっしゃー!おっしゃー!おっしゃー!」

 窓の外から掛け声が聞こえてくる。

 ラーナが驚いて窓に駆け寄ろうとするのをレテは止める。

「ダメ、ラーナ。胸を隠す時間よ。ギンドラの夜が始まったわ。男たちの祭典の始まり、女帝の合図で女たちの宴も始まるわ。騎士の時間はオシマイ、冒険者の街の始まり」

 レテは窓を閉める。

「話には聞いていたけど毎日騒ぐの?彼らの体力はどこから来るの?」

 ラーナは胸元を閉じる。

「おっしゃー!おっしゃー!おっしゃー!」

 窓を閉めても叫び声は聞こえる。

「男の人の方が詳しいかな、下に行きましょう。再開の時は近いのかな」

 レテは木の扉を開ける。外は闇に包まれている。レイレイ森林の木々の匂いを風が運んでくる。空には星は見えず、雲があるようだ。レテは足音を立てずに階段を降りていく。

「暗いわね。灯りをつけるのはダメ、クロウに聞いたわ」

 ラーナは軽快にレテの後についていく。

「コワイから助けてね。ステキな人」

 レテは答える。男たちの叫び声は続く。

「あの中に女性が求める男性はいるのかしら」

 ラーナはレイレイ森林の木々の匂いを吸い込む。

「朝になると親切丁寧な男の人になっているかもね。誰もが私のようにステキは男の子を出会える訳じゃないわ」

 レテは三階の扉を叩く。反応がない。

「ラトゥールの末裔。悪い事をしたのはネーくんのご先祖様。子孫が尻拭いをするのは仕方がない事なのかしら、重い宿命。答えは明白」

 ラーナは答える。レテが扉を開けると中には誰もいない。服が部屋中に散らばっている。彼女はすぐに扉を閉めると階段を降りていく。

「いつもは整理してあるわ。暗いから良く分からないかな」

 レテは言い訳をする。

「私も魔術の実験に夢中になってお母様に怒られたわ。ずっと昔の事に感じるわ。どうしてかしら、私は恋をしていないわ」

 ラーナはレテに尋ねる。

「ラトゥールの出現、ソラトブイワ、ゴブちゃんの大群。色んな事が起きたわ。タイクツで平和な騎士の生活は終わりを告げた。クロウも新たな冒険の手がかりも手に入れたのかな、ラーナは変わってないの?」

 レテはラーナに問いかける。

「魔術の研究は簡単に進まない。そう思っていたわ。もし、それが私にだけ当てはまらないとしたら?レテにも聞こえない?」

 彼女は突然レテを背後から抱きしめる。

「きゃん?!」

 レテは不意をつかれる。

「遠くから聞こえる。空よりも高く、雲の上よりも高い遠い所から音が聞こえる」

 ラーナは精神を集中させる。

「おっしゃー!おっしゃー!おっしゃー!」

 男たちの叫び声は止まらない。

「風は吹いているのかな?」

 レテも精神を集中させる。

「風がなかったら音は届かない」

 ラーナは精神を研ぎ澄まし、レテをギュッと抱きしめる。

「ネアスのキモチ!やわらかくてキモチ良い。ガのキモチも分かる!」

 レテはラーナの体を感じる。

「おっしゃー!おっしゃー!おっしゃー!」

 男たちの叫びは続く。

「ネーくんは聞こえているのかしら?」

 ラーナは目を閉じる。レテの耳にヒューン!ヒューン!ヒューン!リンリン♪リンリン♪リンリン♪ヒューン!おっしゃー!リンリン♪レテの頭に様々な音が鳴る。

「何?何?ドレ?」

 レテは混乱する。

「何かしら?」

 ラーナは目を開けて周囲を見渡す。暗闇の中に薄い光が見える。

「リンリン!」

 レテは体を森の方に向ける。リンリン♪リンリン♪リンリン♪森の中からリンリンの羽ばたく音が聞こえる。男たちも気づいたようで叫び声が止まる。

「レテの力?リンリンは夜には滅多に姿を現さない。リンリン祭りの時だけ王国中で夜にリンリンの羽ばたく音を聞く事が出来る。レテの力は王族を越えたの!」

 ラーナは耳を澄ます。

「違うわ、彼の力かな。私にも分からないわ。ラーナの音も聞こえたわ、すごく速そうな音。シルちゃんよりも速いかも」

 レテはラーナに伝える。

「本当、レテ!」

 ラーナはレテから距離を取り、瞳を見つめる。

「ウソじゃないわ。ラーナはずっとあの音が頭の中で響いているの?」

 レテはラーナを心配する。

「ネーくんを抱きしめた日かしら、それとも風の神殿でラトゥールの試練を目撃した日かしら。興奮していたからきちんと覚えていないわ。精神を集中した時と朝になると頭に響く、目覚ましには良いかしら。クロウの声よりはマシね」

 ラーナは答える。

「呪い、祝福、不幸、幸運、夢かな」

 レテはリンリンの音に耳を傾ける。

「魔術師には解明できる問題だけが舞い降りる。私は音の正体を突き止めることが出来る。これは必然、つまり音は私たちに何かをもたらす」

 ラーナはレテの瞳から目を離さない。

「魔術の原則。先生が教えてくれたわ。精霊は謎だけど、魔術は答え」

 レテは答える。

「レテの先生に会ってみたいわ。必要な事はしっかり伝えている。貴族のヘボ魔術師は何を教わっているのかしら」

 ラーナは微笑む。

「双子の王子たちを追いかけていったわ。カッコいいから結婚したいって言っていたわ。これは秘密よ、ラーナ」

 レテは囁く。

「私が出会うことはなさそうね。私は王都で魔術師協会の会長になるべき人物」

 ラーナは答える。

「ギンドラまで来ちゃったわ。次はダールガーナ山脈かな。それとも彼が風と一緒に空高く運んでくれるかもね」

 レテは目を閉じる。リンリン♪リンリン♪リンリン♪

「ネーくんの行き先はギンドラの飲み屋の奥地、あるいは朽ち果てない小屋」

 ラーナはレテに伝える。レテはビクッとする。

「ラーナは興味があるの?見た目はフツウの小屋で周りには植物が育たない。小屋の中は立入禁止。冒険者でも中に忍び込む事はないらしいわ」

 レテは答える。

「クロウにも聞いたわ。朽ち果てない小屋には何もない。それだけの場所だ。近くに行けば分かる。何もないという意味を知って、皆去っていく」

 ラーナはレテから体を離す。

「ホントにそれだけかな、クロウはアヤシイ、アヤシイ」


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