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鳥さんの規則

 レテが四階で遅いお昼寝をしていると扉を叩く音が彼女の耳に入る。レテはベッドから飛び降りると窓の外を眺める。外は暗闇に包まれている。

「今、準備するわ。勝手に開けたら私の彼は黙っていないかな。ラトゥールの末裔の力は恐ろしいわよ。あなたの知らない秘密もあるんだからね」

 レテはテキパキと鎧を身につける。

「興奮するわ。怒りに燃えたラトゥールの末裔は何を仕出かすのかしら、私の予想を遥かに超える事をするに決まっているわ」

 ラーナが扉の外で答える。

「ラーナ?鍵はかかってないわ。こっちに来たのね」

 レテは精神を集中させる。光の風の糸が扉を開ける。ラーナは糸に手を当てながら部屋に入ってくる。彼女は新人騎士の格好をしている。

「どうしたの、ラーナ!すごく似合っているけど未来の魔術師協会の会長が騎士になったら大変、大変。役に立たない貴族に愛想を尽かしちゃったの?」

 レテは驚く。

「クロウのお節介!ストーンマキガンで彼と一緒にいるのもヒマだから、レテの後を追いかけようとしたら運悪く見つかったの!ちょうどアーシャがお昼を食べに来ていたみたいで相談したら、新人騎士ラーナが誕生した。アイディア自体は悪くないかしら」

 ラーナは腰の小剣に手を当てる。

「さっそくだけどラトゥールの末裔の謎が解けたわ。彼のご先祖様はトゥールにイジワルして呪いをかけられた。英雄さんはなぜか、その名前を使った。森の騎士さんのお話!」

 レテは手早く鎧を身に着けて、ゴブジンセイバーを手に取る。

「分かりやすいけど森の騎士の正確な言葉も教えてもらえる?クロウは周回遅れかしら、彼は選択を間違えたわ」

 ラーナは椅子に腰掛ける。

「ラ・トゥール。かつてトゥールを捕まえて売り払っていた一族がいた。彼らはやり過ぎた。トゥールたちは彼らに災いを引き起こす呪いをかけた。彼らは不幸な一族、運命は彼らを嫌う。トゥールたちは彼らに重い宿命を追わせた。森の騎士の時代でも忘れかけられていた伝説だって話」

 レテは思い出しながら答える。

「鳥さんを売って儲けようとする人たちがいたの?ネーくんのご先祖様!貴族だって、ううん、王族の方たちだって神官に清めてもらって天気を確認してから狩りに出るわ。魔術で捕まえる。武器は使ってはイケナイ。キマリはたくさんあるわ。ホントなの?」

 ラーナは驚いて大声を出してしまう。レテはラーナの唇に指先を当てる。

「ラーナでも驚くのね。アーシャには教えられないかな。彼は悪人なのかな、いつか鳥さんを絶滅させる気なのかな」

 レテは小声でラーナに尋ねる。

「トゥールだけでしょ。でも、トゥールはラトゥールに関連のある鳥。違うわ、逆かしら。トゥールからラトゥールが生まれたのかしら」

 ラーナは声を潜めて答える。

「英雄さんは世界を救うための大鳥。お似合い、不幸な存在って言ったみたい。キミは不幸な鳥さんだって」

 レテは精神を集中させる。光の風の糸が彼女の指先に生じる。

「捕まえて食べちゃダメな事はないけど、ララリにしようとしたら目立つかしら。一人で捕まえて食べるのは問題ないけど一族で鳥を捕まえるなんて」

 ラーナは自分の口を手で抑える。

「細かいキマリが多いから私は覚えてないわ。だから、鳥さんも自分で捕まえて食べた事はないわ。誰かにごちそうしたらダメなんでしょ?」

 レテはラーナに尋ねる。

「違うわ、レテ。一人で捕まえて自分で料理をして親しい人たちにごちそうするのは問題ないわ。誰かに料理してもらうのはダメもちろん、ララリをお礼にもらったらダメ。鳥さんで商売をするのは特別な人たちのお仕事ね」

 ラーナが答える。

「今は甘くなっているんでしょ。昔はキビシイ試験を何度も受けないとダメだった。聖騎士になるより大変だった時代もあったって本で読んだわ」

 レテはラーナに尋ねる。彼女は光の風の糸をラーナの胸元に伸ばす。

「そう、でも、誰も焼き鳥を食べる事が出来なくなった。ギンドラの暗い歴史の一つね。ドロスの図書室で書物に書いてあったわ。闇焼き鳥、夜のギンドラの市場で販売されていた禁断の食べ物。オイシクないって書いてあったわ。どうしても焼き鳥を食べたい人たちが群がって大変な騒ぎになった。ホントなの、レテ?」

 ラーナはレテに問いかける。

「騎士も巻き込まれたみたいだけど記録はないわ。ドロスはスゴい書物を集めているのね。焼き鳥はオイシイけど、無理してまで食べようとは思わないかな」

 レテは光の風の糸でラーナの胸元をめくろうとする。

「フツウはそう思うのが当然かしら、お父様のお話では鳥を食べないと元気がでなくて災厄に立ち向かう事が出来ないから王族が管理して民に鳥を提供するようになったらしいわ。貴族はお手伝い、まあ、揉めたらしいけどね」

 ラーナは胸元を気にしない。

「細かい歴史の話は苦手かな。でも、彼に関係することだから勉強しないとイケないわ。私は不幸な女なのかな、彼は私に不幸を運んできた」

 レテはラーナの胸元を光の風の糸で開ける。大きい。

「簡単に開くのね。騎士の服だから難しいと思っていたわ。鎧は重いから付けたくないわ。走るのも大変になるわ」

 ラーナは答える。

「新人騎士は門番と街の中の伝令がお仕事だから鎧はいらないわ。変なヤツを見かけたら先輩に報告するだけ、突っ込むのはダメかな」

 レテは光の風の糸を指先に戻す。光は徐々に薄れていく。

「騎士に魔法使いはいるの?」

 ラーナは気になっていた事を尋ねる。

「今はいないわ。冒険者になった方が儲かるし、自由もあるわ。私はお父様の友達にほめられて勘違いして騎士になっただけかな、今考えると冒険者にならなくて良かったわ。夢見るオイボレにはなりたくないわ」

 レテはラーナの胸元を見つめる。

「クロウも大変みたいね。私には関係ないことだけどね。ネーくんは森の中で待機中ってアーシャに聞いたわ。ギンドラの飲み屋に突撃する前に止めないの?」

 ラーナはレテに尋ねる。

「男の子のキモチは分からないわ。彼の近くにはきれいでやさしくてかわいい私とうつくしくてあふれる知性を持つラーナもいる。ギンドラの飲み屋の女の子で満足できるハズはないかな、彼はギンドラに何を求めているのかな」

 レテは窓の外を眺める。光はない。

「ギンドラの街では夜に灯りはともらない。ホントだったのね、実際に街を訪れる事も大事ね。だから、クロウは行かせてくれたのかしら」

 ラーナも窓に近づく。

「暗い方が興奮して楽しいみたい。男のキモチは分からない。彼もそうなのかな、顔を見た方がうれしいわ」

 レテは答える。

「危なくないの、レテ。暗いと体をさわられそう、事故を起こしたらダメかしら?」

 ラーナはレテに問いかける。

「お店の外で女性の体に触れたら、ごっつい冒険者に報告すれば捕まえてくれるわ。朝になるとギンドラの門の前に男たちが横たわっている。あんまり見たくない光景だから早起きはしないほうがよいかな」

 レテは答える。

「ネーくんは大丈夫かしら、幸運の女神はそばにいない。彼はゴブリンの呪いだけでなくトゥールの呪いにもかかっている。トゥールは彼を狙っていた」

 ラーナはレテの目を見つめる。

「トゥールは彼に力も貸した。気まぐれじゃないかな、理由はあるハズ」

 レテはラーナの胸を見つめる。大きい。

「鳥にしてはイケナイ事。ララリを稼ぐ。武器で捕らえる。複数で捕らえる。胸の中にしまってはイケナイ。羽をムシってはイケナイ。最初は強めの火で焼く。薬草は使わない。マズくても全部食べる事。他にもたくさんあるわ」

 ラーナは答える。

「私は胸の中にしまってはイケナイって知らなかったわ。これって違反しても呪われたり不幸になるって聞いた事はないかな。規則だから守りなさいって教えられたわ。間違った事は言ってないかな」

 レテはラーナの胸から目を離さない。

「トゥールは特別な鳥、ラトゥールに関係のある鳥。でも、順序は逆だった。クロウは間違っていた。ラトゥールは呪いから祝福の存在になった。末裔はどうなのかしら、彼らの呪いは解けているのかしら。違うわ、トゥールは別の意味で特別。彼らは人に呪いをかける」

 ラーナはうなずく。

「イジワルした人たちとその子孫に呪いをかけた。よっぽど腹が立ったのかな、どっちにしろオイシイ焼き鳥になるんだから、良くないかな」

 レテは疑問を持つ。

「ネーくんの影響かしら、神官長が耳にしたら卒倒するわ。目と鼻と口から血を出して、泡を吹いて三日は寝込むかしら。オイシイ焼き鳥を食べるには下ごしらえが大切かしら、捕まえる時から料理は始まっているわ」

 ラーナは答える。

「私もトゥールの呪いを受けたら彼は気にしないで一緒にいてくれるかな。うっかりミスでたくさんのトゥールを捕まえて王都の市場で売り払う。ドジで誰に手伝ってもらおうかな、トゥールは私の恋の犠牲になってもらおうかな」

 レテは考えをまとめる。

「悪くない考えだけど意図的にララリのためにトゥールを売り払わないとラトゥールの一族にはなれないかもね。出来れば悪い事にララリを使うべきね。王国で最も忌み嫌われる行為かしら」

 ラーナは微笑む。

「王族に歯向かうの?ララリじゃどうにも出来ないかな」

 レテは答える。

「惜しいけど違うわ。ララリは?」

 ラーナを見つめる。

「大事!」


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