いざ、ギンドラ
レテは木の枝を振ってみる。何も起きない。彼女はパンゴンの袋を地面に置いて、木の枝を両手で曲げる。折れた。
「ヤダ!」
レテは周囲を見渡す。亡霊の姿は見えない。彼女は枝の両端を付けてみる。くっついた。再び、両手で曲げる。折れた。
「どうやって持ち運ぼうかな。八等分にしよっと」
レテは二つの枝を両手で握る。くっついて一本に戻る。彼女は素早く木の枝を折る。片方を地面に置く。残った方を折る。
「これで三本、えっと、もう一回で四本ね」
レテは地面に二本の枝を置いて、一本の枝を折る。片方を地面に置く。
「メンドウね、シルちゃん、お願い!」
レテは精神を集中させる。風が三本の枝を包み込むと一本になる。
「シルちゃん、後で練習しようね」
レテは風に枝を放り込む。一本に戻る。シルフィーの風がレテの手元に枝を運ぶ。彼女は枝をゴブジンセイバーの横に差し込む。
「誰もいないかな、さようなら。また来るかもね」
レテはパンゴンを片手で抱えながら木を登っていく。彼女は木の頂上に着くとストーンマキガンの街を眺める。曇り空からでも風の神殿の前にはたくさんの人が集まっている事が分かる。街道にも多くの人々の姿が見える。
「高級宿はステキな所だけど他には何もないかな。マリーもいないし、パンゴンも買ったし、用はないわ。ウルサイ街はキライ、シルちゃんも同じキモチだよね」
レテは精神を集中させる。小さな竜巻がギンドラの街の方に何個も出来る。
「ミヤも王都に戻るでしょ、ルキンはどうでも良いし、ドロスはイヤな感じ。ラトゥールはイタズラし過ぎだし、まともな人はいないわ」
レテはパンゴンを両手で抱えて竜巻にジャンプする。彼女は軽く空に飛び上がる。
「彼とデートの計画!」
レテは体を回転させて次の竜巻に飛び込む。彼女は背中を向けて空に飛び上がる。
「アーライト河の河畔で何を話そうかな。騎士団の話はダメ、冒険の話も違うかな。彼は分かってくれるかな」
レテは思いにふけりながら体を回転させる。空には雲が立ち込めている。
「彼は雲がダイスキ。彼も曇り空を眺めているわ、何を考えているのかな。シルちゃんは分かる?彼に聞いてきてくれる?」
レテは竜巻に手を伸ばす。彼女の体勢を崩しそうになるが体を竜巻にぶつける。暖かい風がギンドラの方角に流れていく。彼女は横向きでギンドラの街を見る。まだ、姿は見えない。
「彼がラトゥールの末裔じゃなかったら私は彼を好きにならなかったのかな。私は彼のどこに惹かれているのかな。追いかけたいキモチはウソじゃない」
レテは精神を集中させる。彼女の真下に竜巻が生じる。レテは竜巻の中に飲み込まれている。彼女の肌に激しい風がぶつかる。彼女はパンゴンを抱えながら竜巻の中をグルグル回る。
「ステキ!」
レテは竜巻に体を預ける。彼女はさらに精神を集中させる。竜巻の勢いが増してパンゴンが彼女の手から離れていく。田舎の匂いが竜巻に立ち込めるが、すぐに風が香りを吹き飛ばしていく。
「もっと!」
レテは精神を研ぎ澄ます。轟音がレテの耳に鳴り響く。彼女は体を丸めて、目を閉じる。激しい風の音だけを感じる。竜巻は彼女を空に放り出す。
レテは雲の中を突き抜けていく。彼女が目を開けると辺りは白くて何も見えない。レテは手を伸ばして雲に触れようとする。掴めない。
「彼は雲のデートを気に入ってくれるかな、シルちゃん。体が濡れるのが問題ね」
レテは体を下に向ける。彼女は森に落ちていく。レテは空に浮かぶパンゴンの袋を見つける。彼女は体をパンゴンに向ける。
「さすが、シルちゃん!」
レテはパンゴンの袋を掴むとギンドラの街に向かい投げる。風がパンゴンの袋を吹き飛ばしていく。彼女はギンドラの街を眺める。
「カッコいいって誰でも言われたいわ。私が彼に言ったら、からかっているって思われるかな。カッコいいよね、シルちゃん!」
レテはシルフィーに呼びかける。レテの真後ろに竜巻が起きる。竜巻は彼女をギンドラに向かって弾き飛ばす。雲がレテにまとわりつく。
「何って言おうかな、鳥さんをイジメた悪いヤツラの子孫。シルちゃんは知っていたの?精霊は彼の事を怒っていないの?」
レテは雲に包まれながらシルフィーに問いかける。周囲にはカザトリの姿が見える。
「私もイジメちゃおうかな。そうすれば心配事はなくなるわ」
レテはカザトリに手を伸ばす。カザトリは逃げていく。
「シルちゃん、お願い!」
レテは精神を集中させる。風がカザトリを包み込み、レテの手元に連れてくる。レテは風に包まれたカザトリを手で掴む。他のカザトリもレテについてくる。
「みんな、ギンドラの街で勝手に焼き鳥にしちゃおっかな。塩味の焼き鳥はオイシイから人気、人気。でも、どうしてラトゥールの末裔だけが呪いにかかったのかな。鳥さんは風になり、私たちとずっと一緒にいるハズ。トゥールだって鳥さんだったわ」
レテはカザトリたちに問いかける。反応はない。
「鳥さんをいじめる。トゥールはダールガーナ山脈にいる。やり過ぎ、宿命。森の騎士は気取った所がある。彼はステキな人」
レテはつぶやく。
「でも、ガは危ない考えを持っている。ニャンは族長だって黙っていた。マリーも隠し事がありそう。私はきれいでやさしくてかわいい、事実は変わらない」
レテはカザトリを手から放り出す。鳥さんたちは合流する。レテは地上を眺める。眼下にはレイレイ森林とたくさんの湖が見渡せる。その先にはギンドラの街が見える。木で出来た建物が何層にも重なり合い、空からでは中は見えない。
「飲み屋がそんなに大事なのかな。隠すのに必死すぎるわ」
レテはつぶやく。レテは前方に浮かぶパンゴンを手に取ると精神を集中させる。カザトリは雲の中に消えていく。レテは地上に近づきつつある。
「ごめんね、カザトリさん。私は彼のためなら何でもしちゃうかも。シンジラレナイ、私は恋をしても変わらないと思っていたのに。私はどこに行っちゃうのかな、シルちゃん?」
レテはシルフィーに呼びかける。彼女の下に竜巻が生じる。レテは体を竜巻に向ける。突如、竜巻が消える。彼女は地上に落ちていく。
「マズく?!」
レテは焦る。レテは体をがむしゃらに動かすが地面はドンドン近づいてくる。彼女は精神を研ぎ澄ます。風は起こらない。
「旅の終わりは突然来る。ありがと、シルちゃん。楽しかったわ。恋もした、パンゴンも食べた。思い残す事はたくさんあるけどネアスもすぐに来てくれるかな、一人じゃ無理でしょ!」
レテは気合を入れる。光の風が彼女を包む。幾重にも光の風の糸がレテを包み込む。光の風の玉は地面にぶつかり飛び跳ねていく。ボーン!ボーン!ボーン!
「外の様子が分からないのが欠点かな、どこってギンドラだよね」
レテはパンゴンを抱きしめる。
ボーン!ボーン!ボーン!彼女は光の風の玉に包まれて飛び跳ねていく。彼女は目をつむり眠る事にした。
ドスン!しばらく時間が経ったのをレテは感じる。彼女は精神を集中させる。光の風の糸が彼女の体に集まる。レテは目を開けて、姿勢を整える。
「到着!」
レテは周囲を見渡す。ギンドラの騎士団支部が目に入る。辺りに人影は見当たらない。彼女は光の風の糸を伸ばして木の扉を開ける。中には一人の騎士が立っている。
「偉大なるラトゥールの加護を!」
騎士は大声で叫び、腰を抜かす。
「飽きたかな」
レテはパンゴンを抱えながら建物の中に入る。木の匂いが心地よい。
「レテ様、ラトゥール様のお力。ビビるぜ」
騎士は立ち上がれない。
「もっと、もっと、ラトゥール様だよ。三百年振りの登場かな。お忍びで王国に来てなければ話だけどね」
レテは光の風の糸で扉を閉める。
「ぶっひゃー!すげえぜ、こりゃ子孫に自慢話が出来るぜ!」
騎士は驚く。
「わざとらしいかな、頑張りは認めるわ」
レテはテーブルにパンゴンを置く。
「報告です、レテ様。ギンドラの飲み屋は改装のため閉店です。冒険者たちも手伝いで大忙しです。今夜、女帝からの重大発表とともに開店するそうです」
騎士はレテに伝える。
「ネアスの行方は?」
レテは尋ねる。
「同志たちの報告では森の中で休憩しているそうです。すぐ近くですので案内しましょうか、レテ様」
騎士は答える。
「ま、そんな感じよね。心配しすぎちゃったかな、夜まで一眠りするわ。ギンドラの夜は長く、刺激的かな」




