枝
レテはお墓の中をもう一度のぞき込む。何もない。亡霊はお墓の中に戻る。ユーフは周囲を見渡す。ウィルくんは静かに消えていく。
「何もないかな」
レテはつぶやく。
「見たな?」
亡霊は叫ぶ。
「キャーーーーーーーーーー!」
レテは悲鳴を上げる。ユーフは耳をふさぐ。
「何だ!俺には意味が分からないな」
ユーフは動揺する
「どう、亡霊さん。私の叫び声はどうかな?ホントに驚いているように聞こえたかな?」
レテはお墓から出てきた亡霊に尋ねる。
「声が良く響いています。大きさも丁度よい。しかし、もう少しかすれたような声を出した方が良いと思います。あくまでも私の好みです。今のままのあなたの悲鳴が好きな人もいるでしょうね」
亡霊の老人は答える。
「彼かな?」
レテはユーフを見る。
「知らねえよ。レテ様、ギンドラに向かわないのか?ここには何も残っていないぜ。冒険者の勘ってヤツさ」
ユーフは答える。
「世界の王がいます。忘れないでください」
亡霊の老人は姿を消す。
「意味ありげだけど冗談かな。世界を支配した王の話なんて聞いた事がないわ。私の直感は何も告げていないかな」
レテはお墓をもう一度見る。
「見たな!」
亡霊の老人は叫ぶ。
「もう良いだろ、レテ様。俺は先に帰るぜ」
ユーフは近くの木に手を触れる。森の木々が倒れていく。
「秘密なんでしょ、ユーフ。私も覚えちゃったかな」
レテは微笑む。
「長老たちの指示には従わない。墓だから言いふらさないだけさ、じゃあな、レテ様」
ユーフは森の通路を歩き始める。
「良いの、世界の王のお話は終わっていないわ。後で後悔しても知らないかな」
レテは答える。ユーフは立ち止まる。
「何もありません」
亡霊の老人は答える。
「ここには若い女の子は遊びに来ないわ。秘密の通路を通らないとたどり着けない場所。あなたも知っているでしょ」
レテは亡霊に教えてあげる。
「私は知っています。うつくしい女性とかわいらしい女性がこの場所を訪れました。あなたもご存じです。あの二人を脅かしたい」
亡霊の老人は夢を語る。
「じゃあな、レテ様。ハローロによろしく言っておいてくれ。俺は元気さ」
ユーフは振り返らずに森の道を進んでいく。
「ありがと、ユーフ。森の騎士さんと仲良くね」
レテは精神を集中させる。風が墓石を包み込む。
「場所を変えるべきか、変えないべきか。再び、あなた方はこの場所を訪れるのでしょうか?あなたは私に協力してくれますか?」
亡霊の老人がレテに尋ねる。
「災厄は知っているでしょ。すでに始まっている。あなたも聞いていてハズかな」
レテは答える。墓石は元の場所にはまる。
「緊張して何も覚えていません。災厄が来た?それならば人々を驚かせるのは難しそうだ。私は大人しく待つ事にしましょう。油断しないでください。私は驚かせる機会を常に伺っています」
亡霊の老人は答える。
「あなたは悪い人じゃない気がする。ホントに騎士に捕まった事があるの?」
レテはさらに精神を集中させる。倒れた木々が風の力でピンと立つ。
「私を見たモノは幸運を掴む。私に驚かされたモノは願いを叶える。私が生前に誓った夢です。しかし、私に驚かされた女性は不幸になった。彼女たちにステキな出会いはなかった。私は何も出来ない男です」
亡霊の老人は答える。
「無茶苦茶な夢かな。一人の女性を幸せにするって決めたら上手くいったわ。驚かしても、興奮するだけかな」
レテは答える。
「世界の王とならねばイケマセン。女性の願いは大きい」
亡霊の老人は答える。
「そうね、ツマラナイ日常はキライ。やっかいごとだらけの毎日はイヤ。大きい責任は背負いたくないかな。私もワガママだね、彼に逃げられても仕方がないかもね」
レテは周囲を見渡す。森の木々は元に戻らない。
「追いかけられるのが好きな男性もいます。気にしない事です」
亡霊の老人はレテに伝える。
「やさしい人ね。油断するから脅かしても良いわよ」
レテはリラックスする。何本かの木が倒れる。
「私は全てを知っています」
亡霊の老人はレテを驚かせようとする。
「びっくりかな。何を教えてくれるの?」
レテはパンゴンの袋を抱えて、秘密の森の小道に向かって歩き始める。
「あなたは窮地に追い込まれる」
亡霊の老人はレテに教える。
「そうね、災厄は甘くないかな。私とシルちゃん、ウィルくんと魔王の魂さん、ラトゥールの力を借りても大変そうね」
レテは森の小道に辿り着く。
「災厄に立ち向かうのは英雄の役割です。お忘れなく、あなたは英雄ではありません」
亡霊の老人はレテに教える。
「彼は英雄、私は恋人」
レテは振り返る。亡霊の老人の姿は見当たらない。
「恋人の役割は喜びを与える事です」
亡霊の老人はレテに教える。
「彼はデートがしたいみたい。私も同じかな」
レテは上を見る。亡霊の姿はない。
「約束する事です。二人で計画をして、好きな所で遊ぶのが一番です」
亡霊の老人はレテに教える。
「タイクツじゃない?もっと刺激的な経験をした方が楽しいかな。落とし穴を作ったり、ケーキに辛い薬草を入れた方が盛り上がるわ」
レテは地面を見渡す。亡霊の姿はない。
「私もそう思っています。しかし、世間の人々の中には平穏を願うモノもいます。彼はどちらでしょうか?」
亡霊の老人はレテに尋ねる。
「答えは出た。あなたは世界の王。あなたは私に何を望むの?」
レテは世界の王に問いかける。
「世界の存続です。ラトゥールの末裔、彼はあなたとのデートを望んでいる。本当ですか?間違いは許されません」
世界の王はレテに問いかける。
「当たり前の事かな、契約にはならない。精霊伝説では世界は壊れて主人公は世界の王、精霊の王と契約をした。命を捧げたわ。あなたも十巻まで読んだんでしょう?」
レテは亡霊を探すのを諦める。
「あなたの命を奪ったら彼は怒るでしょう。ラトゥールの末裔の考える事は理解できません。彼は分からない」
亡霊の老人は答える。
「きれいでやさしくてかわいい私とデートがしたい。簡単な答え、十人中九人は私とデートがしたいかな。それ以上の関係を目指しているって人や体目当ての人も含めてね」
レテは微笑む。
「残りの人々は?」
亡霊の老人は尋ねる。
「かわいいよりも素っ気ない感じが好きな人もいるわ。もっとキツイ感じが好みの人もいるし、私に嫉妬する人もいるかな」
レテは答える。
「精霊伝説では世界の王は壊れた世界を修復しました。王の力は偉大です。驚いたでしょう、初めて読んだ時はびっくりしたでしょう?」
亡霊の老人はレテに問いかける。
「壊れたモノは完全には治らない。詰めが甘かったかな」
レテは答える。
「残念です。世界をあなたに託します。契約の証です。ラトゥールの末裔には最後まで秘密にしてください。びっくりさせてやりましょう」
亡霊の老人はレテの目の前に姿を現す。彼女は驚かない。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!コワーイ!」
レテは精一杯の悲鳴を上げる。レテの叫び声に鳥たちが驚き、森から飛び立っていく。亡霊の老人は木の枝に姿を変える。レテは手に取る。
「木の精霊さんだったのかな」




