ごまモチ
レテは森の騎士のお墓に近づき、蹴飛ばす。彼女はユーフの剣を見るが反応はない。ウィルくんはお墓の上をフラフラしている。
「ホントに眠ったみたいね。私もギンドラに向かおうかな、風の夢を見る者は彼の行方を知っている?」
レテはユーフに問いかける。
「ハローロが後をつけている。四人はギンドラの街に向かっている。ローレン、マリー、ニャン、ガーおじさんだ」
ユーフは答える。
「今はどこらへんなの?」
レテはユーフを見つめる。
「連絡がないって事はギンドラの街に着いたんだろうな。賭けは俺の負けだな、ローレンはレテ様以外の女性には興味がないと思っていたぜ。ウソじゃないぜ」
ユーフはニヤつく。
「そんな男はいないかな、きれいでやさしくてかわいい私が恋人でも目移りはするわ。それでも彼を引き止めるのが私の役割かな」
レテは答える。
「モテる女は知っている。モテる男も知っているぜ。自信過剰は破滅を招く。俺は女に全てを捧げるつもりはない。デフォーさんとは違う」
ユーフは剣を抜く。何も起きない。
「デフォーの頭の中は女性の事だけなの、他にはないの?」
レテはユーフに尋ねる。
「ないさ。全部女のためだ。あの人の長所さ」
ユーフは剣先を見つめている。
「オイボレは女性に何を求めているの?」
レテはユーフに問いかける。
「難しい事は考えない。デフォーさんの良い所さ」
ユーフは剣を収める。
「今でもデフォーの味方なのね。あの人と一緒にいても良い事はないわ。確実かな」
レテはユーフに忠告する。
「鳥で一儲けを企んだ一族の恋人とは思えないな。俺は考えもしない。鳥は自由に空を羽ばたくべきだ」
ユーフが笑みを浮かべる。
「イヤな人たちばっかり!王国中の人たちが同じ事を考えるわ。私の彼氏はヒドイ男、鳥さんを空から引き離す人。とんでもないヤツ、恐ろしい人」
レテはユーフをニラミつける。
「悪い、悪い。デフォーさんの悪いクセがうつったようだな。今の話は忘れてくれ、所詮は昔話さ。英雄は災厄に立ち向かうためにラトゥールの名前に頼った。意味はあるハズだ」
ユーフは答える。
「デフォーには絶対バラしちゃダメ。彼は私を脅すわ。ララリと私を求めるハズ、私はガマンデキナイ、ガマンデキナイ、ガマンシナイ」
バン!バン!バン!レテの周囲で空気が爆発する。ユーフは急いでしゃがみ込む。バン!バン!ドスン!森の騎士のお墓が倒れる。バン!バン!バン!周囲の木々がなぎ倒されていく。ウィルくんはレテの目の前に動く。
「ウィルくんは私を助けてくれる?コワイデフォーをどこかに追い出してくれる!メンドウなファレドを近づかせないようにしてくれる?」
ウィルくんはレテの目の前でフラフラしている。
「ファレドはやっかいなヤツだ、気にするな。デフォーさんは気が小さい。分かるだろ、レテ様。ローレンは不思議な男だ。俺も分からないな」
ユーフはレテに向かい叫ぶ。
「ごめんね、みんな。彼の一族の宿命を知って動揺したみたい。メンドウなヤツラを一掃したいなんて全然考えてないかな」
レテの周囲の風は収まる。
「デフォーさんは俺も警戒しておく。ローレンに目をつけたのはデフォーさんだ。俺は冒険者ギルドの新人担当に任せれば良いって思っていた。だが、デフォーさんはローレンに声をかけた。そして夢に近づきつつある」
ユーフは立ち上がる。
「彼はララリをだまし取られたって聞いたわ。ホントなの?」
レテは倒れたお墓に近づく。
「そんな事をギルドの連中が言っていたな。新人を罠にはめるのは冒険者の伝統さ、他のヤツラにだまされるまでに身内で練習するのさ。本来ララリは返すんだが最近は乱れているのさ。デフォーさんは返すぜ」
ユーフは答える
「ララリは大事、大事。それにしても冒険者はララリに汚いかな」
レテはユーフに尋ねる。
「未知への探求にはララリがたくさんいるのさ。クロウさんのように貴族に気に入られる事は稀だ。利用されてオシマイさ」
ユーフが答える。
「お墓の下には何もない。デフォーが言っていたわ。ここに秘宝が眠っていると良いかな。ララリがなくても冒険は出来る。必要なのは幸運の女神様!」
レテはお墓の下を覗き込む。
「見たな!」
声が聞こえる。
「ユーフ、あるいは森の騎士さんかな」
レテは振り向く。ユーフは首を振る。
「見たよ、誰かさん?」
レテはお墓の中に問いかける。
「キャーって言ってくれないのか、きれいでかわいいお嬢さん?」
墓の下から声が聞こえる。
「こわーい!キャーーーーーーーーーーーーーーー!」
レテは叫んであげる。ユーフは耳をふさぐ。ウィルくんがお墓の中に飛び込むと淡い光に包まれた老人が姿を見せる。
「ありがとう、お嬢さん。私はうら若き乙女を脅かすために亡霊になったが、騎士がいたからジャマで何も出来なかったんだ。まさか森のお墓に三百年前の災厄で活躍した騎士が
眠っているとは思ってもいなかった」
亡霊の老人は語る。
「あんたは何者だ?」
ユーフは尋ねる。
「世界の王だ」
亡霊の老人は答える。
「森の騎士よりも弱いの?」
レテは老人に問いかける。
「冗談です、お嬢さん。私は乙女の悲鳴を聞くのが好きな青年から老人になった者です。騎士に捕まった事も何度もあります」
亡霊の老人は答える。
「長生き出来るんだな。マズイだろ」
ユーフはつぶやく。
「相手の気持ちも考えなさい。コワイ思いをさせたら心に傷が出来るわ。あなたはふざけて遊びのつもりでやっていたんだと思うけど、イケナイ事よ。冷たい風があなたを包み込みますように」
レテが祈りを唱える。
「最後に女性の悲鳴を聞いたのはいつだったのだろう。誰もいない墓だと聞いていたので亡霊になった後に忍び込みました。それが運の尽きでした。この場所には騎士がいた。私はコワくて、ずっと隠れていました。長老たちの話を信じた私がバカでした」
亡霊の老人は嘆く。
「それはあんたのせいだな。長老の言いつけを守ってララリをたんまり稼いだんだろ。長生きするにはララリは必須だ」
ユーフは毒づく。
「礼儀正しい人たちだったかな。私の事もナマイキで才能がある憎らしい小娘って扱いはしなかったわ。きれいでやさしくてかわいい騎士団長って褒めてくれたわ。当然だけどね、初対面の人はみんながそう言うかな」
レテは亡霊の老人を見つめる。
「もちろんです。きれいでやさしくてかわいいお嬢さん」
亡霊の老人はすかさず答える。
「アイツラは貴族のごますりが専門だ。ウマいごまモチを作れる訳じゃない。勘違いするなよ、ごまモチはウマいがな。長老たちの顔を思い出すからマズくなったぜ、ち、クソが」
ユーフはさらに毒づく。
「ごまモチをオイシク食べる事が出来ないのは大問題かな。さっさと長老たちと仲直りしたら、ユーフ!ギンドラの街でモチを食べないで何を食べるの?」
レテは驚く。
「最近の若い者は難しい。ごまモチとごますりは別です。長老たちは関係ありません」
亡霊の老人はユーフに助言する。
「他のモチはウマいから問題はないさ。ごっわモチ、ブタモチの方が味は上だ。俺はごまモチはいらない」
ユーフは答える。
「ごっわモチもごまモチの仲間かな、同じようなモノでしょ」
レテはユーフに告げる。
「伝統は失われる。ごまとごっわ、質感、色、大きさが違います」
亡霊の老人は嘆く。
「味は同じでしょ」
レテはユーフを見つめる。
「レテ様が見た目を気にしないとは驚きだぜ。崩れたパンでも毎日食べているのか?おっと騎士団特製パンがあったな」
ユーフが気付く。
「まだ騎士団特製パンは存在しているのですか?」
亡霊の老人は嘆く。
「ごまモチも争いの火種になるのね」




