昔昔
森の中では静かな時間が過ぎていく。レテは草むらに座り、ぼんやりと光っている森の騎士を見る。ユーフは立っている。
「このままだと英雄さんとは一緒に旅をしそうにないかな。どこかで偶然の再会を果たすの?それともラトゥールが目覚めた時に見学に行ったもありそうね」
レテは予想する。
「ハズレだ、レテ。賢者が英雄に帰れ、盗み聞きの男と告げると英雄は女性を紹介すると私たちに告げました。英雄は村にある唯一の宿の裏にある森の洞窟に夜に一人で来るように私に言いました。そこで女性を紹介する。私は断りました。コワかった」
森の騎士が答える。
「まあ、アヤシイな。俺たちは英雄だと知っているから問題ないが……」
ユーフの顔が険しくなる。
「賢者も英雄にだまされるバカがいるか!と言いました。英雄は焦り口をつぐみました。英雄は朝に森の洞窟で女性を紹介すると提案しました。明るいから問題ないだろうと言われました。私は提案を受け入れました」
森の騎士が語る。
「判断基準は分からないわ。待ち伏せされたら朝でも危ないかな、木の陰に隠れたら明るくてもダメね」
レテは答える。
「賢者も似たような事を言いましたが私は英雄を信用しました。理由は英雄の低い声がカッコよかったからです。自信があり、芯がある声でした」
森の騎士は思い出す。
「片鱗は感じたのか」
ユーフはうなずく。
「私たちは英雄と別れました。まだ夜まで時間があったので狭い村の中をうろついていました。その時に村の警備をしている青年に尋問されました。彼は親切な男で私たちが女性にモテたいと話をするとナンパの仕方を教えると言って村の娘の声をかけに行きました」
森の騎士は語る。
「そう言えば、どうして辺鄙な村にあなたたちは行ったの?」
レテは森の騎士に問いかける。
「賢者の提案です。静かな村で作戦を練る。しかし、ヒマで一日で飽きてしまいました。村の近くの森にいたゴブリンも私と賢者で追い出しました。弱いゴブリンです。シャルローたちが戦っていたのは強いゴブリンです。コワイヤツラです」
森の騎士は答える。
「カチカチのゴブリンみたいなヤツか!」
ユーフはレテを見る。彼女はうなずく。
「青年はナンパに失敗、いいえ、名誉の問題です。我々は意気投合して彼の自宅で夜を過ごしました。穏やかな最後の夜です。朝方に外で騒ぎ声が聞こえてきました。我々も外に出ると外は暗く、星もない空が広がっていました」
森の騎士は語る。
「この前と同じ!災厄は終わったの?」
レテは立ち上がる。
「いいえ、災厄は一時的に抑えられているだけです。ローレンはラトゥールの末裔の力を示しました。彼がなんとかしてくれるでしょう、心配することはありません。余裕ですよ、ゴブも弱い。ローレンに任せなさい、レテ。英雄のジャマはしないことです」
森の騎士はレテに伝える。
「ローレンは知っている。そういうことか?」
ユーフが森の騎士に問いかける。
「当然でしょう。どうして、ローレンはレテを残して旅に出たのか?私には分かります。ラトゥールの末裔にしか分からない事があるハズです。英雄は我々とは違います」
森の騎士は答える。
「私はラトゥールの末裔なの?英雄はラトゥールの末裔だったの?」
レテは精神を集中させる。光の風の糸が彼女の周囲に生じる。
「それは私の疑問です。なぜ、あなたはいともたやすくラトゥールの力を使えるのですか?どうして、英雄はラトゥールを目覚めさせる事が出来るのですか?賢者は答えを知っているのですか?」
森の騎士の姿が揺らぐ。
「最初の質問だ。ラトゥールの名前の由来を教えてくれ。ギンドラを案内する。りの飲み屋まで連れていく。きれいな女性がいる場所だ」
ユーフは時間がないと判断する。
「ラ・トゥール。かつてトゥールを捕まえて売り払っていた一族がいました。彼らはやり過ぎた。トゥールたちは彼らに災いを引き起こす呪いをかけた。彼らは不幸な一族、運命は彼らを嫌う。トゥールたちは彼らに重い宿命を負わせた。私たちの時代でも忘れかけられていた伝承です」
森の騎士の姿は消えかける。
「幸運の女神様、ゴブちゃんの呪い。彼は知っていた!」
レテはユーフを見る。
「なぜ、忌み嫌われる名前を付けたんだ。世界を救うモノに?」
ユーフは尋ねる。
「世界を救うための大鳥。お似合い、これは不幸な存在。英雄は私に教えてくれました。限界です。ギンドラに行くのにお墓は不便です」
森の騎士の姿は消える。
「これで良いか?」
ユーフが剣を抜き放つ。光の風の糸がウィルくんに伸びていく。ウィルくんは光の風の糸に溶けていく。糸はユーフの剣に纏わりつく。
「ラトゥールの力!風の匂い、懐かしい」
森の騎士は叫ぶ。森の鳥たちが騒ぎ出す。
「ラトゥール、呪われた名前。でも、災厄を退けた祝福された名前でもある。ネアスはどこにいるの?」
レテはさらに精神を集中させる。光の風の糸がユーフの剣を締め付ける。ユーフが剣から手を離すと風が剣を吹き付ける。剣は大地に突き刺さる。
「何だ?レテ?苦しい、何をする?」
森の騎士は動揺する。ユーフは黙っている。
「ウィルくん、戻ってきなさい」
レテは剣に呼びかける。ウィルくんは剣の中から飛び出し、レテの周囲をフラフラする。
「レテ、ギンドラだ。地面ではない!」
森の騎士は叫ぶ。
「ラトゥールの末裔の秘密は他の誰にも話しちゃダメ、分かる?ユーフは心配しなくてもダイジョブだよね」
レテはユーフを見つめる。
「分かっているさ、俺は風の夢を見る者の一員だ。ローレンが不利になるような事はしない。世の中には悪いヤツラはたくさんいる。俺も知っている」
ユーフは答える。
「地面から出しなさい、レテ。ギンドラの街で大声で叫びますよ。ローレンは不幸な一族、レテはヒドイ女だ。私を解放しなさい、私の幸せを奪う者は許しません」
森の騎士は抵抗する。
「私は未来が見える。森の騎士さんはギンドラの街で最初はチヤホヤされるけど、ララリもないし、モテないキモチがあるから朝まで持たずに力尽きるわ。その時、あなたは私とネアスの事を考えて嫉妬する。今頃二人は再会してイチャイチャしている。そうだ、あの話をしよう。二人を困らせてやる、どうせ俺は亡霊だ。災厄の後に去りゆく者だ」
レテは妄想する。
「考えすぎじゃないか、レテ様。俺が上手くやるから心配するな」
ユーフは地面に刺さった剣を眺めている。
「どこかで我々は間違いを犯したようだ。レテ、私は性格が悪いが人を貶める行為は謹んできた。それは大賢者も同じだ。私はシャルローがちょっと苦手で仲間の連中は大キライだった。なんとなく賢者に会いに行って暇だったからナンパをした。私は歴史に名を残す功績はやっていない。そして忘れ去られた。しかし、モテたいキモチは残っている。少しくらい良いだろ、レテ?」
森の騎士はレテに呼びかける。ユーフの剣は地面から飛び出し、レテの前に浮かぶ。光の風の糸が剣を覆っている。
「レテ様、俺からもお願いする。森の騎士を信じてくれ!」
ユーフはレテに伝える。
「デフォーの取り巻きのユーフの提案は信用出来ないわ」
レテは即答する。
「デフォーはダメな男だ。お前の悪口を言っていたぞ、利用できそうな娘だが扱いは難しそうだ。冗談の分からん娘はツマランだそうだ。私はレテの味方だ。デフォーはタダの暇つぶしの相手だった」
森の騎士は告げ口する。
「デフォーさんは昔ながらの冒険者さ。貴族の依頼を断り、自分の目的のみを追い求める。古き良き冒険者って言葉が良く似合う人さ」
ユーフは答える。
「彼に悪い影響を与えそうな人物は排除する。彼の祖先はヤバいヤツラ。その血が目覚めたら大変、大変」
レテは光の風の糸を見つめる。剣に風が吸収されていく。
「ラトゥールの力!」
森の騎士は叫ぶ。
「何かわかったのか?」
ユーフは剣に見惚れている。
「言ってみたかっただけだ。雰囲気は大事、私はタダの精霊使いだ。レテは特別だ。誰もレテのように精霊の力をかりる事は出来ない。魔術はなぜ生まれたのか?気まぐれな精霊に付き合っていたら大変だと賢者は言っていたよ」
森の騎士は答える。
「ラトゥール、森の騎士の監視をよろしくね。彼の悪口を言い出したら地面に刺すのよ。分かったでしょ」
レテは剣に呼びかける。剣は地面に落ちていく。
「分かった、レテ。約束だ。私は疲れた。ギンドラの街への案内は今度にしてもらう。再び私は眠る。ユーフ、よろしく頼む」
森の騎士はユーフに伝えると剣は力を失う。ユーフは剣が地面に落ちる前に掴む。
「任せな。俺の方が先にアーライト河の終点に辿り着く。そして、デフォーさんには惨めな老後を送ってもらうさ。裏切りの代償だ」
ユーフは剣を鞘に収める。
「失敗は許される、しかし、裏切りはユルサレナイ」




