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あ~ん

 レテが口を開けるとファレドがパンゴンの欠片を口に入れる。レテはファレドの指が唇から離れたのを確認した後にパンゴンを噛みしめる。氷の柱たちはドスンドスンと彼女たちの周囲を動いている。

「豊かな風味、パーティーで貴族の誘惑に負けそうになった日を思い出すわ。二回目の味、二度と食べないと誓ったパン。あれ、変ね」

 レテはパンゴンを噛みしめる。

「レテ様、お願いします」

 ファレドは口を開ける。

「ファレドったら急に積極的になったら困るかな」

 レテは照れる。

「違います。レテ様と同じ疑問を持ちました」

 ファレドが答える。

「あなたは初めてのあ〜んのじゃない。変ね、ファレドは自分で知っているわ」

 レテは混乱する。

「違います。パンゴンの味の方です」

 ファレドはレテの指を見つめる。

「そっちのほうね、田舎の塩味になるのかな。あ~ん」

 レテはファレドの口の中にパンゴンの欠片を入れる。彼女はファレドの唇にそっと触れる。やわらかい。

「故郷を思い出します。子供の頃は農作業の手伝いがイヤでイヤで仕方がありませんでした。いつも逃げ出して木の剣で遊んでいました。ですが、お昼に食べる塩味のパンは大好きでした。その味に似ています」

 ファレドが答える。

「そうね、貴族のパーティーで食べたパンはもっと香りがすごかったかな。パンゴンも良い香りだけど、違いはあるわ」

 レテはパンゴンを食べる。塩味だ。

「ちょうだい、ファレド」

 レテはあ〜んする。

「一度だけです。お許しください」

 ファレドはパンゴンを食べる。豊かな風味が口に広がる。

「ファレド、良くないことだよ。私は田舎の塩味、ファレドは貴族のパーティーで出てくる最高級のパン。分かるよね、私も食べたいわ」

 レテはあ〜んする。

「理解はしています。イジワルをするつもりはありません。しかし、これは恋人同士で行う行為です。ネアス様にお願いしてください。パンゴンはレテ様への贈り物です」

 ファレドは大きな袋をレテの方に動かす。

「パンゴンの謎は解けていないわ。今がチャンスかな、ネアスの指だと違う味に変わるかも。最高級のパンが目の前にあるのに私は食べる事が出来ない。イジワルじゃない、そうかな。イジワルだよ」

 レテはファレドの指を見つめる。氷の柱たちは溶け始めている。ドスン。

「私は出来ません」

 ファレドはキッパリと断る。

「ズルいよね。自分だけ最高級のパンを味わう。私は王都生まれなのに田舎の塩味、変よ。せめて王都で人気の甘々パンのハズ」

 レテはパンゴンを食べる。田舎の塩味だ。

「無闇に敵を作るべきではありません、レテ様。私はかつて恋人とあ〜んをしました。その思い出は大事にしたいのです」

 ファレドはパンゴンを食べる。貴族の味だ。笑みを隠せない。

「ウソ!」

 レテはパンゴンの固い所を指でつく。刺さらない。

「無理がありましたね。そろそろ、ネアス様を追いかける時間ではありませんか?ギンドラの街に向かっているとは限りません。予定には余裕を持つべきです」

 ファレドはナイフを取り出し、パンゴンを切り分け始める。

「あ〜んしてくれたら彼を追いかけようかな。災厄に立ち向かうラトゥールの末裔の行先には危険が待っているわ。ファレドの選択が命運を分ける。今が歴史の始まりかな」

 レテはきれいに切り分けられていくパンゴンを見つめる。

「私があ〜んをしない方がレテ様は必死にネアス様を探すでしょう。貴族の味は怠惰を呼び起こします。私もやる気がなくなってきました。お昼寝がしたいですね」

 ファレドは固い部分をスライスする。

「それは分かるわ。満足しちゃうわ、彼がいなくてもキモチ良くなれるって思うと王都に帰ろうかな、ツマラナイ任務も貴族の最高級パンがあったら問題ないかな」

 レテはスライスパンゴンを手に取る。

「ウソですね」

 ファレドはパンゴンをきれいに布の上に並べる。半分以上は残っている。

「もうパンゴンで幸せを感じるほど子供じゃないのね。私は恋の味を知った。パンレテが私の中でうずいているわ。ゴンよりレテかな」

 レテはスライスパンゴンを口に運ぶ。彼女の口の中に様々な味が広がる。甘み、辛味、塩味、酸っぱみ、苦み。

「ペッ、ペッ、ペ。何これ、マズイわ。デフォーの仕業、ヤツの贈り物!」

 レテの瞳に怒りが宿る。

「そんなハズはありません!」

 ファレドはスライスパンゴンを口に放り込む。

「食べ物ではないです」

 ファレドはスライスパンゴンを地面に吐き出す。

「もう最悪!さっさと彼を追いかけなかったのがダメだったのかな。幸運が私から消えていく。私は不運な最年少騎士団長になっちゃうわ」

 レテは空を見上げる。

「恋人以外とあ〜んをした罰です。悪しき行いです」

 ファレドは残りのパンゴンを布で包む。

「デフォーのイジワルでしょ!アイツに関わるとヒドイ目に合いそうかな、ファレドも早めに縁を切った方が良いわ」

 レテは氷の柱を見る。溶けて姿はないようだ。

「私は不幸を望んでいます。それだけの事をしました」

 ファレドは答える。

「デフォーが悲しむわ。女の不幸はキライだと思うわ。人の幸福がキライなだけかな」

 レテはパンゴンの袋を手に取る。

「それも良いでしょう。あの方も冒険者です。汚い事はしてきたハズです」

 ファレドは答える。

「デフォーは何をしたの?」

 レテはファレドに問いかける。

「彼は愚かな夢を見て、逃げ出した。その夢を受け継いだ男がいた。その人はバカでしたが私は好きでした。今はもういない、しかし、デフォーは生きている。不公平です。デフォーは再び夢を見ている。ユーフたちの手伝いではなく、自分の夢です」

 ファレドは答える。

「半分は私のせいかな。余計な事をしたみたいね」

 レテは反省する。

「いいえ、レテ様のおかげです。あの人は本当のキモチを隠していた。野心があり、仲間を捨て、自分の夢のみを追い求める」

 ファレドが答える。

「冒険者らしいわ。オイボレの古臭い夢かな」

 レテはファレドを見つめる。

「あの人は黒いコートが似合うと言いました。彼のマネをして、その時に私は決めました。あの人のみすぼらしい最後を見届けると」

 ファレドは答える。

「初恋の人、ギンドラの女帝、ファレド。あなたもアーライト河の終点で彼を待つつもりなの?新しい恋人を探したら良いわ、ネアスにお願いして探してもらうわ」

 レテはファレドに伝える。

「ネアス様が私に男性を選んでくれる。魅力的な提案です。私もレテ様のように恋人を追いかけたい。ワクドキです」

 ファレドは笑みを浮かべる。

「何回も失敗すると思うわ。彼はモテないから経験がない、でもそれだけ。その内にあなたに見合う男性を見つけてくれると思うわ。逃げる男だけど夢からは逃げない。ユーフはダメなの?」

 レテはファレドに伝える。

「手の内を知り尽くしています。良い男ですが恋は難しいでしょう」

 ファレドは答える。

「あなたは最後にデフォーのジャマをするんだ」

 レテがファレドを見つめる。

「そうです。レテ様がデフォーにイジワルばかりするとあの男は逃げ出すでしょう。それではツマラナイ。最後まで楽しみは取っておくべきです」

 ファレドは答える。

「オイボレに付き合っても良い事はないわ。大棟梁に復帰したらどうかな?」

 レテは尋ねる。

「岩と触れ合う事は気持ちを紛らわしますが過去は消えません。ラトゥール様の導きでしょう。私は運が良い、いいえ、ネアス様とレテ様のお力です。あなたは幸運の女神です」

 ファレドは微笑む。

「ラトゥール、褒めてもらえたわよ」

 レテはラトゥールに呼びかける。反応がない。

「怖がっているのですね」

 ファレドはコートを開けて、胸元を見せる。光の風の糸がレテの周囲に巻き起こる。

「ダメ!ファレドもラトゥールを誘惑しないで!」

 レテは精神を集中させる。光の風の糸はファレドに流れていく。

「私に力を貸してくれますか、ラトゥール様?新しき風は古きモノを吹き飛ばし、一掃しますか?新たなる王国が誕生しますか?」

 ファレドはラトゥールに問いかける。

「ラトゥール、私は騎士。あなたも聖騎士よ、ファレド。もう忘れちゃったの?」

 レテはファレドに伝える。光の風の糸は空に舞い上がる。

「ラトゥール様は人を惑わせます。私は聖騎士ファレド、災厄に立ち向かいしモノ。似合いませんが誓いは果たします」

 ファレドは答える。

「迷える女性は大変、大変」


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