恨む
レテは怒りでテーブルを蹴りつける。メリゴーザケーキと特製ドリンクが床にこぼれ、粉々になった手紙が落ちてくる。デフォーと店主はあきらめた。
「ああ、もう、何なのよ!」
レテはテーブルを蹴る。お店に怒鳴り声が鳴り響くとシルフィーの風が店内に吹く。風は
粉々の手紙を集めて、メリゴーザケーキと特製ドリンクをテーブルに運ぶ。
「精霊の力ですか。良い風です」
店主は口を開く。
「俺は冒険者だ。恐れ知らずのデフォーだ」
デフォーは頑張る。
「全部デフォーのせいよ。あなたが欲にまみれて若い女を引っ抱えるために若作りしたのが原因。氷の魔法使いはあなたに興味はないわ。彼女は別の男性が好き、分からないの?」
レテはデフォーを責める。
「知っているさ、俺はオイボレだ。チャンスはない。だが、お前には関係のない話だ。手紙もアイツが細工をしたのさ。俺の責任じゃないな」
デフォーは負けない。
「ケンカは外でお願いします。この店のルールです。レテ様のお気持ちは理解出来ますがお静かにしてください」
店主は深々と頭を下げる。
「恨む、さよなら」
レテは手短にデフォーに告げると扉へ歩いていく。
「俺には魅力はないのか、レテ様?」
デフォーがレテに尋ねる。
「デフォー、止めなさい」
店主がデフォーの肩を叩く。
「アーライト河の終点で二人の女性が待っている。他にはいらない、そう言えばモテるかな。前の服装よりはマシね」
レテは集まった手紙の切れ端を手の上に浮かべる。
「氷の魔法使いは冷たい女だとデフォーに伺いました。熱い心が冷たく冷え切った彼女の心の氷を溶かす。道理です」
店主はメリゴーザケーキを観察する。崩れていない。
「そうだ。昨日の夜に二人で作戦を練った。悪くないだろ!」
デフォーはレテに伝える。
「溶けた彼女の心が欲しいの?それなら別の女性を口説きなさい。氷は冷たくて心地よいかな。溶けた氷は生ぬるいわ。あなたにお似合いね」
レテは精神を集中させる。シルフィーの風は彼女の手の中でギュッとなる。手紙の切れ端が固まる。
「うつくしい」
店主はつぶやく。
「氷のままじゃ俺の気持ちは届かねえ。溶かすしかないのさ」
デフォーは答える。
「氷はあなたの顔を写してくれるわ。彼女の氷の心に映し出されたデフォー、彼女の心に刻まれるかはあなた次第かな」
レテは手紙の塊を手のひらに落とす。
「ありがと、シルちゃん」
レテはカバンから小瓶を取り出すと手紙の塊を無理やり詰める。
「分からん」
デフォーは答える。
「だから、俺たちはモテなかったのさ。熱い心は必要ないようだ」
店主は考える。
「俺にはアーライト河の終点で待っている女性が二人いる。しかし、亡霊だぜ。コワイぜ、レテ様。俺は恨まれている。アイツラを幸せにできなかった。俺は夢をあきらめていない」
デフォーはレテに伝える。
「小娘に言う事じゃないわ。私はあなたを恨む。災厄が来たら自分で身を守るのよ。ラトゥールに頼んでおくわ」
レテは小瓶をカバンにしまうと扉を開ける。
「デフォーは出入り禁止にします」
店主はレテに伝える。
「おい?!」
デフォーはうろたえる。
「友達は大事、大事。恨むのはデフォーだけだから安心してね」
レテは外に飛び出す。
「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしています」
店主は安堵する。レテは軽く手を振ってから扉を閉める。空は雲で覆われ、雨が降り出しそうな天気だ。彼女は背伸びをしてから横道を歩いていく。
レテがニャン族のお店の前に戻ってくるとニャンくんの姿はない。人通りはほとんどなく、市場は活気を失っている。レテが周囲を見渡していると建物の影からファレドが姿を現す。彼女は大きな袋を胸に抱えている。
「レテ様、デフォーさんの話は終わったようですね」
ファレドはレテに近づいてくる。
「ファレドは知っていたのね」
レテは大きな袋を見つめる。
「違います、レテ様。デフォーさんの仲間にお願いされました。口出ししないで欲しい、その代わりにパンゴンを頂きました。デフォーさんからの贈り物として受け取って欲しいとの事です」
ファレドは袋を開く。不思議な香りが立ち込める。
「幸せの匂い!」
レテは鼻をクンクンする。
「広場に行きましょう。ここは目立ちます」
ファレドは袋を閉じて、駆け出す。
「デフォーは勝手に彼の手紙を呼んだわ」
レテはファレドの横で告げ口する。
「おろかな人です。あの方は何も分かっていない」
ファレドは不快感を示す。
「それでもファレドはデフォーの味方なんでしょ?」
レテは問いかける。
「あの方は運が悪いだけです。ろくでもない男も女もたくさんいます。そうでしょう、レテ様?」
ファレドがレテを見る。
「小娘には難しい話は分からないかな、デフォーはオイボレでイジワル!」
レテは広場に全力で走っていく。
「到着!イヤな事があったら走るのが一番、一番」
レテが振り向くとファレドがすぐ後ろに立っている。
「ヤダ、脅かしちゃダメ!」
レテは後退りする。
「すみません、レテ様。子供の頃からの私の悪い癖です。誰にも気付かれないように振る舞い、人を怯えさせます」
ファレドはシュンとする。
「ごめん、ファレド。ちょっとふざけただけよ。アッチでパンゴンの香りを堪能しましょう。幸せは近くにある。あなたが袋に持っているわ」
レテはテーブルに駆け出す。
「冗談が通じない女です」
ファレドはレテの後に続く。
「到着、ファレド。私は驚かないわ」
レテは振り返る。ファレドはいない。彼女はテーブルの方に目を向ける。ファレドは大きな袋を降ろしている。
「わざとね、あなたはデフォーの味方。油断したわ」
レテはちょっと驚く。
「違います、たまたまレテ様が振り向いた瞬間に反対側に動いてしまっただけです。今日は調子が悪い日です。レテ様、私の姿が見えなくなっても気にしないでください。反対側にいます。悪意はありません」
ファレドは弁解する。
「デフォーの事を許したら私の背後に回らないの、ファレド?」
レテは恐る恐る尋ねる。
「レテ様、デフォーさんは関係ありません。パンゴンの真相を確かめましょう」
ファレドは袋を開く。不思議な香りが二人を包み込む。
「良い匂いかな。不幸なゴンさんが作った幸せの味がするパン。まさか私が口にする日が来るとは思ってもいなかったわ。幸運の女神様の力かな、彼のおかげね」
レテは想いを馳せる。
「デフォーさんからの贈り物です。忘れないでください、レテ様」
ファレドが想いを断ち切ろうとする。
「違うわ。デフォーに手紙を渡したのは彼よ。手紙がなかったら私はデフォーを無視したわ。オイボレの冒険者は知り合いにはいらないかな、偉そうな事を言っていたけどまともな人は途中で転職するわ」
レテは答える。
「まあ、そうですが。一人くらいなら問題ないでしょう。長老になれずに冒険者を続ける。後世への教訓になります」
ファレドはテーブルに布を敷いてパンゴンを置く。大きなふっくらしたパンだ。
「彼の贈り物!納得してくれたかな、ファレド?」
レテの瞳が輝く。
「無理ですよ、レテ様。デフォーさんの友達が行列に並び、ララリも払いました。どう考えてもデフォーさんの人徳です。皆さんはアーライト河の終点にデフォーさんが辿り着けるのかワクワクしているそうです」
ファレドは微笑む。
「それこそデフォーは何もしていないわ。手がかりはラトゥールと魔王の魂さんとウィルくんとシルちゃん。要するに彼の力、私はデフォーを無視するし、今は恨んでいるわ」
レテはパンゴンに触れる。弾力で指が弾かれる。
「レテ様、用心してください。精霊の力が王国の伝説を解き明かす。素晴らしいお話しですが悪い男や女はどこにでもいます」
ファレドもパンゴンに触れる。彼女の指も弾かれる。
「みんなは知っているかな、レイレイ森林に眠る伝説を!教えて、教えて!」




