俺だぜ
レテは数人の顔を頭に思い浮かべるが声が一致しない。彼女は激しく頭を振って、全員の顔を吹き飛ばす。
「変なヤツラの顔を思い出しちゃった。ニャン族にはあんなヤツはいない、ううん、ケンカっ早いニャン族もいるんだったね」
レテはニャンちゃんを見る。
「ニャンですからね。オキテで縛る事は出来ますが、ニャンはニャンです。ニャンが怒った所は見た事がありません。ニャンが大人しい性格です」
ニャンちゃんは答える。
「私の彼もやさしいわ。一人で背負い込まないと良いんだけどね、男の子だから無理したいのかな。彼が惹かれたモノ、ゴブジンセイバー、ララリ」
レテはニャンちゃんを見る。
「二人は仲良しです。ニャンはギンドラの街の遊びには興味がありません。うつくしい人の女性と楽しい遊びが好きなニャン族はいますが、ニャンは違います」
ニャンちゃんは自信を持って答える。
「王族でもギンドラの街に通い詰めて身を滅ぼした人がいるくらいだから私は何も言えないかな。彼は違うのかな、うーん、どうなんだろうね」
レテは答える。
「ネアス様は違います。ニャンの友達ですから間違いありません」
ニャンちゃんは毅然としている。
「私は疑り深いのかな。あんな男がいるせいね、私の責任じゃないわ。ありがと、ニャンちゃん。また会える日を楽しみにしているわ」
レテは扉を開ける。
「ニャン族はネアス様の味方です。忘れないでください」
ニャンちゃんは耳を塞ぐ。レテが扉を開けると再び荒々しい声が聞こえてくる。彼女はすぐに扉を閉める。男の声は反対側から聞こえてくる。レテは静かに階段を降りていく。
「ファレド、俺とお前の仲だろ。レテ様を呼んでこい、黙っていても助けは来ないぞ。さっさとレテ様を連れてこい!」
男がファレドを怒鳴りつける声がレテの耳に入る。
「ファレドさん、やっつけるにゃん。ニャンはダメにゃん」
ニャンくんは頑張っている。
「にゃんにゃん、うるせえな。黙ってろ!」
男はニャンくんを怒鳴りつける。
「ダメにゃん、なんて男にゃん!」
ニャンくんは叫ぶ。
「お止めください!」
ファレドが男に注意する。レテは地面に足を付けると精神を集中させる。
「俺に命令出来るモノはいない。俺は進む、昨日までとは違うのさ」
男はファレドに告げる。
「待ちな、動くな、俺はお前の大切なモノを預かっている。レテ様、そこにいるのは知っている。アーライト河の終点に至る男、デフォーをなめるな!」
デフォーはレテに伝える。
「デフォー、あなたの望みは何?私と彼の絆を引き裂くこと、それとも目立ちたいのかな。あるいは吹っ飛びたいの?」
レテはデフォーに伝える。
「は、あんたらには興味はないね。俺はアーライト河に至る男、分かんねえか、小娘!」
デフォーはレテを挑発する。
「デフォーさんこそ何をしたいのですか?」
ファレドは焦る。
「そうにゃん。ケンカはダメにゃん」
ニャンくんもファレドを応援する。
「あれの事かな、どうぞ!」
レテは精神を集中させる。
「バカヤロー。ここで見せるヤツがいるか?小娘、大人しく俺の指示に従え。精霊の力は使うな。ゆっくりとこっちに来い」
デフォーはレテに指示を与える。レテは建物と建物の間に姿を現す。その先にはひげを剃り、新品の服を着ているデフォーが立っている。彼は石のアクセサリーを腕にたくさん付けている。
「似合っているわ、デフォー。ステキなアクセサリー、どこで買ったのか教えて欲しいかな。昨日までと違って、私も恋に落ちるかも」
レテはデフォーをからかおうとする。
「レテ様?!」
ファレドは叫ぶ。
「悪いな、レテ様。俺は後輩の女には手を出さねえ、ネアスには黙っておいてやる、安心しな。あそこに俺に行きつけの店がある、付いて来い」
デフォーは静かにレテに伝える。
「ごめんね、ニャンくん。後は任せて、任せて」
レテは警戒しながらデフォーの後を追う。
「レテ様、頭を殴りつければ元のデフォーさんに戻るでしょうか?」
ファレドはレテの耳元でささやく。
「若作りを始めたようだけどオイボレはオイボレかな。顔のシワも減ってないし、若返りの魔法はないわ。ファレドも知っているでしょ?」
レテは小声で答える。
「最終秘宝は存在しない。耳にした事はあります。ですが、あれはデフォーさんではありません。注意してください。亡霊あるいは魔術で心を操られている」
ファレドはささやく。
「モテ薬もモテる魔法もない、常識でしょ、ファレド。あれは元からあんなものよ」
レテはデフォーの後を追う。ファレドも後に続く。
「女は内緒話が好きだな。俺に残された時間は少ないんだよ、小娘!急ぎやがれ、今日は最低の一日だ」
デフォーは道を進んでいく。
「レテ様、ありがとにゃん。今度お礼をするにゃん。楽しみにしているにゃん」
ニャンくんが背後から声をかけるとレテは振り向かずに手を振って答える。
「人がいないわ。何かあったのかな」
レテはキョロキョロする。
「パンゴンが販売されているそうです。屋台の分は終了しましたが店頭での販売があるそうで皆さんはそちらに向かいました。にゃんくんも買いたかったようですがデフォーさんがいたので無理だったようです」
ファレドが答える。
「私も屋台の人に聞いたけど、ホントにパンゴンなのかな。ゴンさんが体を壊してまで作った伝説のパン。お店で売るって怪しくないかな」
レテはデフォーの姿を確認する。彼は店を探しているようだ。
「ほら、ファレド。年寄りが困っているわ、助けてあげたら?親切にしたらお礼に何をくれるのかな。分かってんだよ、ジャマなんだよ、うぜえかな」
レテは笑みを浮かべる。
「素直にありがとうと言います。レテ様はデフォーさんを下に見ています。それがイケないんです。賭けをしましょう。敗者は噂のパンゴンをおごる」
ファレドはレテを見つめる。
「良いわ、そうね、デフォー。近づくんじゃねえ、ファレド。男のやり方に指図をするな。お前のうぜえ所だ。予想通りの発言をしてくれるかな、楽しみ、楽しみ」
レテはデフォーを見る。彼は道を行ったり来たりしている。
「良く言われます。私は癇に障る女です」
ファレドはデフォーの所に走っていく。
「デフォーさん、お手伝いします」
ファレドはデフォーに声をかける。
「ありがたい、ファレド。なんて言うと思ったか。バカヤロー!俺に恥をかかせやがって、レテ様の嫌がらせだな。俺はキラワられているんだよ」
デフォーはファレドに不満を言う。
「最後に訪れたのはいつ頃ですか、デフォーさん?」
ファレドは気にせずに話を進める。
「ああ、この間ユーフと来た。アイツは何でもするからジャマだ。今日の朝に縁を切った。俺に近づいたら剣斬りつけるって言ったら泣きそうな顔で逃げていったぜ。良い気味だぜ、アイツもアーライト河の終点の宝を狙っている、確かだろ」
デフォーはファレドに尋ねる。
「そうですね、ユーフは優秀な冒険者ですので一緒に行動するのは危険な事かもしれません。宝は一つです。その時は何を食べたんですか?」
ファレドはデフォーに尋ねる。
「だろ、ファレド。この間はミミカカケーキだ。甘すぎず、しつこくなくて良い味だ。パンゴンなんかよりもウマいぜ。そうだ、この横道の先だ」
デフォーは場所を思い出す。
「レテ様をお連れします」
ファレドがデフォーに伝える。
「任せたぞ、俺は店の前で待っている。おしゃべりはなしだ」
デフォーは横道に入っていく。
「お年寄りの相手は大変ね。全部ファレドに任せよっと。私は黙って、うんうんって言っておくわ。賭けは引き分けかな」
レテはため息をつく。
「デフォーさんは特別です。私もオイボレの相手は苦手です。賭けは私の負けです。デフォーさんは変わってしまった。パンゴンは明日にでも買ってきます」
ファレドは答える。
「私は明日そこにいるのかな、シルちゃんに頼んでひとっ飛び、ふたっ飛び」




