どれも良いかな
レテとファレドは道を歩き人々を軽快に避けて市場に向かっていく。日は昇り、空には雲が流れている。心地よい風が走る二人に吹き付ける。彼女たちは思っていたより早く市場に到着する。
「今日は人が多いわね。盗人が紛れ込んでいないかな、ララリは大事、大事。ラトゥールのせいでみんなが空を見ているから仕事はしやすそうね」
レテは人々でにぎわう市場を眺める。人々は時折空を見つめている。
「ニャン族が仕入れに使う店はあちらです」
ファレドは市場の奥を指差すが、人の多さでレテには分からない。
「案内お願い、ファレド。ちゃんと後を付いていくからダイジョブ、ダイジョブ。買い食いは後のお楽しみに取っておくわ」
レテが答えるとファレドは市場の中に入り込む。
レテは黒いコートの後ろを軽やかに付いていく。お店から良い匂いが漂っているが彼女はガマンする。
「いらっしゃい、きれいなお嬢さん。オールラサンドはどうだい、採れたて、新鮮、しかもラトゥール様が通り過ぎた場所で取れたオールラ。今日だけの特別なオールラだ!」
店員はレテに声をかける。
「後で来るから取っておいて!」
レテは黒いコートを確認しつつ、速度を緩める。
「こっちも商売だ。約束はできないな、きれいなお嬢さん!」
店員はレテの隙を見逃さない。
「チャンスはある、またね!」
レテは消えゆく黒いコートを急いで追いかける。
「次は違う味になっているかもな、ラトゥール様は気まぐれだ。ゴブリンを運ぶ、きれいなお嬢さん、また来てくれよ」
店員がレテを見つめていると別のお客がオールラサンドを求める。
「ファレドは匂いを感じない呪いにかかっているのかな、絶対に立ち止まりたくなるハズ。シンジラレナイ」
レテはつぶやく。黒いコートはすぐに近づく。
「かわいいお嬢さん、ストーンマキガン特製クッキーはどうですか?この街を訪れたら、一口食べないと損だよ。王都では味わえない味、いかがですか?」
店員がレテに声をかける。
「パス、食べ飽きたわ。オイシイけど今はイラナイ。ありがと」
レテは素っ気なく答える。
「かわいいお嬢さん、その反応を待っていました。ストーンマキガン特製クッキーはカチカチで食べにくい。それは昔の話だ。適度な硬さを保ち、伝統を大事にする。サクサククッキーでもない感触、食べなきゃ損だよ!」
店員はレテの弱さに付け入る。
「すっごく気になる」
レテは再び速度を緩める。黒いコートは遠くに見える。
「さあ、さあ、どうぞ、どうぞ。急いだって良い事は起こらない。サクカチクッキーは美味しくて、歯ざわりバツグン!」
店員は勝ちを確信する。
「今日はダメ、これは取っておける。明日でも明後日でもダイジョブ、ダイジョブ」」
レテは黒いコートの消えた先に軽快に駆け出していく。
「明日!明日はカチサククッキーになっているかもな、今日のクッキーが最高傑作だ。残念なかわいいお嬢さん!」
店員は最後の望みをかける。他のお客がサクカチクッキーを見つめている。
「カチサク、サクカチ。違いが気になるけどニャンの事も調べないと」
レテはつぶやく。
レテは横目でお店を見ながら市場の人々を避けて、黒いコートの姿を見つける。彼女はホッとして息をつく。
「いらっしゃい、いらっしゃい。岩焼きそば、岩焼きそば。お昼には早い、岩焼きそばはおやつにも最適だ。朝から動いていたら腹は減る。なら、食べろ!」
店員は強気に攻める。
「あたりまえ、あたりまえ。用事が終わったら来ようかな。ステキな岩焼きそば!」
レテは黒いコートを追いかけようとする。
「俺は止めないぜ、さよなら、お嬢さん」
店員は態度を変えない。
「私も止まらない、ありがと、店員さん。お昼に会いましょうね」
レテは黒いコートの所に向かう。
レテが歩みを早めようとするとファレドは振り返り、レテを確認する。彼女は目の前の建物の中に入っていく。
「私は戻る。岩焼きそばを三つ、ドリンクもお願い!」
レテは岩焼きそば屋さんに注文する。
「任せろ、俺の岩焼きそばはストーンマキガン一、新鮮なたまごとリンリン森林で取れる薬草が隠し味だ。戻ってきてくれて、ありがとな。やさしいお嬢さん」
店員は岩焼きそばを作り始める。
「運の問題かな、やさしさは関係ないわ。それよりもどこのお店もストーンマキガン一って言うとお客さんが困るわ。味の好みは人それぞれ、甘い、辛い、ウマい」
レテは岩焼きそばの香ばしい香りを嗅ぐ。
「シューティング翠岩祭りでストーンマキガン一の岩焼きそばを決めるって話だ。今、町長が審査員を選んでいる最中だ。俺は王国中の人に食べてもらうのが一番だと思っているが勝負は勝負だ。勝ちに行くまでだ」
店員は答える。
「恨みを買いそうね。誰を選んでも不満は残るかな、どの岩焼きそばもオイシイ、優劣を付けるのは大変、大変。でも、全部一番は変かな」
レテは答える。
「一個目だ。冷めてもウマいぜ!」
店員は岩焼きそばをレテに渡す。
「ありがと!」
レテは岩焼きそばを受け取り、食べ始める。笑顔がこぼれる。
「オイシイ!今日の一番かな」
レテはドンドン岩焼きそばを口に運んでいく。
「ありがとな、やさしいお嬢さん。実は俺の岩焼きそばよりウマい店はある。だが、シューティング岩翠祭りまでに改良を重ねて一番になる」
店員は小声でレテに伝える。
「岩焼きそばも奥が深いのね。でも、マリーは参加しないと思うから店員さんにもチャンスがあるかな。彼女の岩焼きそばには敵わないわ」
レテは一個目の岩焼きそばを食べ終わる。
「詳しいな、やさしいお嬢さん。ライバルはマリーだけじゃない。岩焼きそばのみに情熱を注いでいる料理人もいる。二個目もここで食べるのかい?」
店員は二個目と三個目を容器に詰める。すぐさま三個のドリンクを用意する。
「二個はお土産、お代はここに置いておくわ」
レテは銀ララリと銅ララリ数枚を目の前に置く。彼女はドリンクを飲む。
「やさしいお嬢さんに秘密を教えてやる。あそこだ、昼になったら店が開く。すぐに行列ができる」
店員はララリをしまう。
「ふーん、前に街に来た時は誰も教えてくれなかったわ。やさしい店員さん、ありがと」
レテはドリンクを飲みながら、歩いている人々を眺める。盗人はいない。
「さらなる秘密はどうだ、やさしいお嬢さん」
店員はメニューを指差す。
「ゆるゆる岩焼きモチ、オイシイのかな」
レテは気乗りしない。
「マズかったらララリはいらない。自信作なのに人気が出ないんだ、やさしいお嬢さん」
店員は息を吸う。
「ゆるゆる岩焼きモチ、注文ありがとうございます!」
店員は大声で叫ぶ。人々はレテたちを見つめる。
「最初に秘密を教えてもらおうかな、人が集まってくるわ」
レテは微笑む。
「パンゴン。あの店で取り扱うらしい。最近出来た店だが常連もいる繁盛店だ。お客に話を聞いたら、そう言われた。ソイツも疑っているみたいで俺に話したそうだ」
店員はモチを焼き始める。
「ウソよ、パンゴンを汚す人は多いわ。ララリは人を魅了する、ゴンさんのパンを再現する事は出来ない」
レテは店員が教えてくれた方向を見る。まばらに人が見える。
「詳しいね、やさしいお嬢さん。だが、今回は違う。パンゴンを作っているのはゴンさんその人だ。驚かないのか?」
店員はモチとレテを交互に見る。
「ゴンさんは体を壊したのよ、そう簡単には治らないかな。ホンモノのゴンさんな隠れる必要はないハズ」
レテは膨れ上がるモチを見る。
「やさしいお嬢さん、素人の限界だな。ゴンさんはパン作りが得意だが疑い深く、ララリにも目がなかった。だから、ゴンさんは一人でひたすらパンゴンを作って体を壊したって話だ。ゴンさんは客には良い人だったが商売敵にはえげつなかったそうだ」
店員はモチを岩から剥がしてクルクル回す。
モチは伸びていく。店員は伸びたモチをお皿にグルグルと回しながら、丸く形を作る。最後に蜜をかけてレテに手渡す。
「噂だ。やさしいお嬢さん、実際に食べてみるのが一番だ。ゆるゆる岩焼きモチの完成だ!味は食べてからの楽しみだ!」
店員は大声で叫ぶ。レテの背後には列が出来ている。
「ありがと、店員さん」
レテはゆるゆる岩焼きモチを口に運ぶ。
「オイシイ、甘々ね。岩焼きそばと相性バッチリね。
レテは微笑む
「サービスだ。やさしいお嬢さん、パンゴンも食べてみな。幸せの味、悲しみの味、次は何の味だろうな。お客様、ありがとうございました!」
店員は岩焼きそばとゆるゆる岩焼きモチを作り始める。
「今日は無理かな。明日、彼と一緒にパンゴンを食べようかな」




