ニャン族
レテはため息をつくと再び椅子に座る。副騎士団長はテーブルの上を片付ける。彼女は黙って見つめている。
「私はきれいでかわいくてやさしいのに彼はギンドラの街に行ってしまったわ。どうしてかな、私に足りないモノは何かな?」
レテは副騎士団長に問いかける。
「押しの強さだな。ギンドラの街に吹っ飛んでいってネアスくんを捕まえて帰ってくれば良い。誰にも迷惑はかけないし、文句も言われないだろう。近道を使えば、もう到着している頃だろうな」
副騎士団長は床の掃除を始める。
「手紙は?気にならないの?見つけないでネアスを捕まえたら、負けた気がする。ううん、完全な敗北。私はきっと後悔するかな。昼間からギンドラの街では遊べないわ」
レテは答える。
「若い男を舐めるな、レテ。彼もギンドラの街に着いたら人が変わるかもしれない。一度目は圧倒されるが二度目は興味が出てくる。ララリもある、大事な所だ」
副騎士団長は掃除を続けている。
「なのかな、彼っぽくないのよね。何だか変な感じ、違和感が残る。ちょっと手を握るだけで赤くなる男の子がギンドラの街で遊べるのかな、田舎から来た新人冒険者。夢やぶれて故郷に帰るか王都で別の仕事につくのが当たり前」
レテは答える。
「ネアスくんはラトゥールの末裔だ。疑うモノはいないだろう。風の神殿で契約をして、過去の英雄たちの力を借りてラトゥール様を甦らせた。俺もガーおじさんの話は聞いた」
副騎士団長は答える。
「そして、英雄のように去っていった。災厄はゴブちゃんだったのかな、あのまま増え続けて王国中がゴブちゃんだらけになって私たちは追い出されちゃう。貴族が黙っていないかな、魔術はスゴいわ」
レテは壁を見つめる。
「追いかけるのがコワイのか、レテ。ネアスくんは怒らないさ、彼がやりたい事があるようなら協力すれば良い。俺はギンドラの街で遊ぶために手紙を残していったと思うがな。それだとかなり気まずいな」
副騎士団長は壁を拭き始める。
「彼が一人でやりたい事、ニャンとマリーは連れて行くけど私はダメ。答えはギンドラの街にある。でも、彼に聞くのはクヤシイ。負けたくない、逃げ出されただけでも負けているのに。彼の考えが読み切れない」
レテは副騎士団長に問いかける。
「最年少騎士団長にして精霊使い。我らがきれいでやさしくてかわいいレテのキモチを射止めた彼の考えは俺にも分からないな。だからこそ、一番分かりやすい所から攻めるべきだ」
副騎士団長はレテに伝える。
「敗者は勝者に教えを請う。彼の考えは彼にしか分からない。それでも私は勝利を求めたい。手紙を探そっと」
レテは決断する。
「大臣に会いに行くのか?ネアスくんの事はぼやかして伝えるんだぞ。任せた!」
副騎士団長は壁拭きに専念しようとする。
「そんなわけないでしょ、彼がいなくなったって大臣に伝えたら、長くてメンドウなお話の始まり。大臣の相手は副騎士団長のお仕事、昨日は特別、特別」
レテは立ち上がる。
副騎士団長がレテに声をかけようとすると宿の扉が開く。セオが二人の姿を確認して立ち止まる。
「レテ様、副騎士団長。お客様です。ファレドさんが面会に来ました。お通ししてもよろしいでしょうか?」
セオはレテを見る。
「どうぞ、ファレド。ボロ宿で悪いけどね」
レテは扉の向こうに声をかける。
「レテ様、申し訳ありませんでした。取り逃がした男が騒ぎを起こしたと聞きました。私の責任です。いかなる処罰も受ける覚悟です」
ファレドは頭を下げたまま動かない。
「ファレドさん、事情を聞いています。一人で四人の相手をするのは大変だったハズです。三人は王都にいるのですか?昨日は忙しくて、そちらには手が回りませんでした」
副騎士団長がファレドに声をかける。
「近衛騎士団と出会い、共に賊を捕まえました。三人は王宮の地下牢に連行されていきました。私は残りの一人の足取りを追って近くの村で聞き込みをしていた時にレテ様と賊との噂を聞きました」
ファレドは頭を上げない。
「ファレド、不愉快な男だったけど話を聞けて良かったかな。昨日の夜にあなたが来たらシルちゃんで吹っ飛ばしてかもね」
レテは答える。
「今日のレテ様は機嫌が良いようです。ファレドさん、余計な事を言わずに過ごしましょう。処分を受けたいのであれば別の日に私がいない時にお願いします」
セオがファレドに小声で伝える。
「セオ、声が大きい。俺に聞こえているぞ、もっともっとやさしく耳元でささやく。それが出来ないようなら大声で話した方が良いぞ」
副騎士団長はセオに教える。
「セオさんにはお世話になっています。レテ様にも借りがあるのでここは従います。ですが賊を逃したのは私の責任です」
ファレドは頭を上げて部屋に入る。セオが扉を閉める。
「街の様子に変化はないかな?手紙の噂とか街の人たちが話したのを聞いたり、彼の話題で盛り上がっていたかな?」
レテは二人に尋ねる。
「魔王が石職人ギルドを消滅させた事と涙の奇跡、風の神殿でどんな願い事をするかで盛り上がっています。ファレドさんともギルドの話をしていました」
セオが大きな声で答える。
「すまん、セオ。ドーミとガガブタが休憩中だ。もう少しだけ静かに話してくれ、食べ物はないもない」
副騎士団長は掃除を再開する。
「手紙の噂は聞いていません。よろしければお手伝いしましょうか?冒険者は探しモノが得意です。私も例外ではありません」
ファレドは立ったまま答える。
「とりあえず座ってくれるかな、ファレド。私がエラそうに元大棟梁と話していたって飲み屋で盛り上がったら大変、大変」
レテはセオを見る。ファレドは椅子に座る。
「レテ様、我々は味方です。そのような事はいたしません」
セオはキリッと答える。
「飲み屋で私にふさわしい男性が誰かって議論しているって聞いたわ。今の彼はイヤなんだって、ウルサイ、ウルサイ」
レテはセオに不満を言う。
「そういう意味ではありません。フースですね、昨日立ち話をしました。ネアス様は空高く風を運ぶ方、レテ様には王国に残って欲しい。それだけです」
セオは真剣な面持ちで答える。
「ガーおじさんの涙をネアスさんが暗闇に運び、遥かなる騎士と大賢者を呼び起こした。歴史には名を刻まなかった者たちの力を使い、ラトゥール様を甦らせた。訪れた村で皆が話していました」
ファレドがレテに伝える。
「間違ってはいないが話が大きくなっているな。早く追いかけた方が良いな、街の事を俺に任せろ。風の神殿にもたくさんの人が訪れるな、短い休憩は終わりか」
副騎士団長は使っていない部屋の掃除に向かう。
「ネアスが私を置いてギンドラの街に遊びに行ったの。手紙に詳しく書いてあるみたいだけど誰に渡したか分からない。ニャンとマリーとガーおじが一緒だから安心かな」
レテはファレドを見る。
「ガガブタさんはガーおじさんの親族の方ですね。お迎えに来てくれたのに本人がいないとは不運です」
セオがつぶやく。
「ガガブタさんはガーおじのニセモノ。でも、性格はホンモノより良いからダイジョブ、ダイジョブ。彼も戦士みたいね」
レテは答える。
「ニャンさんは怪しいです、レテ様。リンリン森林で皆様に別れた後にネアス様のお話しを伺ったのですがあたふたしていました。ニャンさんは隠し事をしています、勘ではありません。ニャンさんは我々に話していない事があります。ニャン族は我々と共に行動しません。我々は商売相手に過ぎません」
ファレドがレテを見つめる。
「気にした事はありませんが私の知り合いにもニャン族と友人だと言う者はいないですね。我々と一緒にいる事は多いですが、友達ではないですかね」
セオが答える。
「ニャンの隠し事、彼の昔からの友達。どうしてネアスはまともな友人関係を作らないのかな。恋人の私が大変な目に合うわ、記憶喪失のおじさんとアヤシイニャン族、スゴく強いマリー。ううん、マリーは私も友達、友達」
レテは訂正する。
「ファレドさんは目の付け所が違うな。まさか俺と同じ意見を持つ人と出会うとは思ってもいなかった。ニャンさんはネアスくんと仲が良すぎる、俺たちとニャン族は生きる場所が違う。ニャン族は敵ではないと思うが友人ではないだろうな」
副騎士団長が部屋から出てくる。
「狙いはラトゥールの末裔と考えるのが筋道です」
セオが意見を述べる。
「ネアスとニャンは夢を語り合うほど仲の良い友達、私はきれいでやさしくてかわいい恋人。どちらを彼が」かどうかは考えるまでもないけど、ニャンを怪しんだら彼が悲しむのは確実かな。でも、ニャンも怪しく感じてきたわ。彼は不思議な所があるから色々と見逃していたかもね
レテは答える。
「判断はレテ様にお任せします。ニャンさんは災厄のために行動しており、我々にはニャン族の掟で話せないのかもしれません。ニャンさんからもらったお菓子です」
ファレドはカバンからニャン族三点セットを取り出し、テーブルに並べる。
「いつ食べても、それなりにウマい」
副騎士団長はニャン族特製ふにゃふにゃクッキーを口に入れる。
「マッスルニャンダドリンクはある?ニャンの名前を聞くと飲みたくなるわ」
レテはファレドに尋ねる。彼女は首を横に振る。
「私も聞いた事がありませんね。力が出そうな名前です」
セオはニャン族特製小ドリンクを手に取る。
「アヤシさが止まらない、どうしよう?」




