ようこそボロ宿へ
レテは所々壁が崩れている岩の建物の前に立ち、手を差し出す。アーシャは肩で扉を押して中に入っていく。ガガブタとルキンは静かに建物を見つめている。
「お気に召しませんか、変装の達人さん、石職人さん。騎士はどこでも眠り、食べ、訓練します。今はそんなにキビシクないから安心してね」
レテは笑みを浮かべる。
「話には聞いていましたし、見るのも初めてではありませんが、レテ様がここにお泊まりになる事があると思うとビビります」
ルキンは感想を述べる。
「めったにないけどね、私はシルちゃんのおかげで王都のお家で過ごせるわ。最近は忙しすぎて帰れてないけどね」
レテは答える。
「石職人はどうして直さないのじゃ、レテ殿がお願いすれば大丈夫なハズじゃ。若い女性が訪れる場所ではないのじゃ」
ガガブタはルキンに尋ねる。
「騎士と石職人は仲良しではありません。石職人ギルドは騎士の介入を嫌っています。レテ様はラトゥールの末裔と判明したので特別です。俺はギルドでは変わり者の部類です」
ルキンは宿に足を踏み入れる。
「そゆこと、ガガブタさん。きれいでやさしくてかわいい私だけじゃ満足できない人たちはたくさんいるの。ラトゥールの末裔じゃなければタダの小娘かな、私もなってみるまで分からなかったけどね、ガガブタさんもガのニセモノだから分かるでしょ?」
レテはガガブタに問いかける。
「涙の奇跡の前はモテないおじさん。今はララリを稼げるおじさんじゃ、人々の心は変わりやすい。ワシも人の事を言える立場ではないが……」
ガガブタは地面を見つめる。
「レテ様、準備が出来ました!」
アーシャの元気な声が聞こえる。
「行こ!彼の事を聞かせてくれるかな!」
レテは軽やかにボロボロの宿に入る。ガガブタも後に続く。すぐにアーシャと副騎士団長が椅子に座っている姿が目に入った。立派なテーブルが部屋の真ん中に置いてある。
「お祖母様の最高傑作のテーブルよ。ボロボロの宿でも目立たずに鎮座している。だから盗まれる心配もないわ」
レテは近くの椅子に座る。ガガブタとルキンも空いている椅子に座り部屋を見渡す。飲みかけの瓶や袋が転がっている。
「珍しいな、レテ。この宿は俺の場所だ。どう使おうがお前に文句を言われる筋合いはない。ゴミは後で片付ける予定だったし、セオとガイにはしっかりと指示を出した。街の警備だ」
副騎士団長がレテに報告する。
「年季が入っている建物ですから仕方がありません。ここで話をするのは久しぶりです。ストーンマキガンにどろぼうが現れた時以来でしたっけ?」
アーシャが答える。
「屋根を飛び跳ねるどろぼう、すごい噂になりました。飲み屋でもその話題ばかりでしたが俺でも正体は見破れませんでした」
ルキンは悔しがる。
「ララリをネアス殿に渡して正解だったのじゃ、ここは恐ろしい街なのじゃ」
ガガブタはつぶやく。
「ガガブタさんは何でも知っているのね。二人は石職人にさらわれた。ルキンは関係ないわ。ちゃんと覚えておいてね」
レテはガガブタにやさしく伝える。
「ガーおじさんの親戚ですか?申し訳ない、良く似ていますね。私はシャルスタン王国騎士団副騎士団長です。散らかっていますので適当に過ごしてください。ガーおじさんは何者なんですか?俺はタダのおじさんだと思っています」
副騎士団長が挨拶する。
「ワシはガーおじです。レテ殿が勘違いしているだけじゃ、副騎士団長は自分の目を信じてください。先入観は捨てるのじゃ、分かるハズじゃ」
ガガブタは最後の望みを託す。副騎士団長は目を閉じる。
「レテ様、おみやげはどうしますか?」
アーシャがレテに尋ねる。
「ここまで来たら仕方がないかな、みんなで分けましょう!」
レテが答えるとアーシャはテーブルの上に箱を置いて開ける。良い匂いが部屋に広がる。
「ギンパラキノコの香りだな。贅沢な朝食だ、全てはラトゥール様のおかげだ。ゴブリンもいなくなり、騎士の負担も大分減る。ネアスくんとガーおじさんの手柄だ」
副騎士団長は高級宿の特製サンドをほおばる。
「ネアスさんは高級宿の食事を食べたんでしたっけ?すみません、忘れていました。ネアスさんは呪いで味を感じないんでしたね」
アーシャもサンドを口に運ぶ。笑みがこぼれる。
「謙虚な方ですね。ネアスさんはもっとアピールした方が良いと思います。ガーおじさんを悪く言っているわけではありません。俺も良いんですか?」
ルキンはレテに尋ねる。彼女はうなずく。ルキンはすぐさま口に運ぶ。
「高級宿の特製サンドはカンランからの贈り物だから、きれいでやさしくてかわいいわたしのおかげって言いたいけど。ラトゥールの末裔じゃなかったらもらえなかったかな、カンランはおじさんだし、いつでも私に接触できたわ、うん、オイシイ!」
レテもサンドを口に運ぶ。
「ゴブリンの呪い、恐ろしいのじゃ。ネアス殿、いただくのじゃ」
ガガブタもサンドを手にする。
「遠慮しないでください。あなたがガーおじさんと関係の深い人物である事は確実でしょう。答えはお待ちください」
副騎士団長が丁寧に伝える。
「私の挨拶はまだでしたね。私はシャルスタン王国騎士アーシャです。騎士団一の槍使いですがレテ様の風の槍には負けました。あれは精霊使いの技も使用しているので完全な槍の勝負ではありませんので、私は騎士団一の槍使いです。レテ様を尊敬しています」
アーシャは自己紹介をする。
「まあまあかな、私の風の槍に勝ったら短く出来るわ。気長に待ちましょう、すぐに勝負はダメ。訓練して腕を磨いてからね、アーシャ」
レテはアーシャに伝える。
「俺はルキンです。三岩人のスパイでもありレテ様のスパイでもあります。騎士と石職人は現在協力関係にあるので問題ありません」
ルキンも自己紹介をする。
「知っているのじゃ、ネアス殿に聞いているのじゃ。ラーナ殿と話をしているのを聞いていたのじゃ。涙の奇跡の話じゃ、恋の話ではないのじゃ」
ガガブブはレテに伝える。
「ガガブブさんはどこに隠れていたの?ルキンは知っている、風の神殿で盗み聞きを出来る場所。しかも、ほぼ一日中かな!」
レテは驚く。
「壁の間に隙間があるんでしょうか。しかし、1日中隠れていたら体が痛くなって動けなくなりますし、お腹も減ります」
ルキンが答える。
「地下水路と地上の間に隙間があるのか。しかし、俺のローリングステアで感知する事は出来なかった。階段スレスレの視線は様々なモノを見せてくれる。レテは俺には追いつけんよ、あきらめろ」
副騎士団長がレテに告げる。
「ホントなんですか、レテ様。私は信じていません」
アーシャはレテを見つめる。
「私も副騎士団長が隠し通路を見つけた所を目撃したことはないわ。騎士団本部にも隠し部屋があるハズはないし、私は何を追いかけるの?」
レテは副騎士団長に尋ねる。
「ネアス殿じゃ、そろそろ出発しないと見失ってしまうのじゃ。一度離れ離れになると後はどうでも良くなるのじゃ。なんとなく放っておく事になるのじゃ、そして別の人にキモチが傾くのじゃ」
ガガブタが答える。
「お話は理解できますが、まだ半日も経っていません。最低でも三日は必要だと思います。昼食前に浮気はしません」
ルキンが反対する。
「ネアスくんがレテから逃げていったのか、しっかりした方だ。安心した」
副騎士団長が答える。
「旅に出たんです。レテ様から逃げられる男性はいません。違います、旅に出られる男性はいますが捕まります。ネアス様も承知の上での行動です、きっと」
アーシャは焦る。
「副騎士団長はネアスから手紙を預かっていない。残りは大臣と神官長、人選は悪くないかな。秘密は守ってくれそうだけど事態を大きくとらえる人が出てきそうね」
レテは特製サンドを食べながら答える。
「ネアス殿が書いていた手紙じゃな、一つは礼拝堂の前に置いていったのじゃ。レテ殿宛の方は手間取っていたが、日が昇る前に書き終えたのじゃ。あれはどこに置いたのじゃろうな、何も聞いていないのじゃ」
ガガブタが答える。
「隠れていたからでしょ、ガガブタさん。ネアスはガに教えるハズだし、ガはスに誰に渡すか聞き出すまでは動かないかな。二人に秘密はないわ、ホントに何でも話しちゃうから油断できないかな」
レテが答える。
「仮にガガブタさんがガーおじさんだとするとどうなるんだ、レテ?」
副騎士団長が尋ねる。
「ネアスさんと旅をするのがイヤで高級宿の特製ギンパラサンドをオイシそうに食べている薄情なおじさんです」
アーシャが答える。
「ララリを稼ぎ放題なのでストーンマキガンの街を離れたくなかった人ですね。ララリは大事ですが友達も必要です。今のタイミングでネアスさんを切るのはオカシイですかね。謎が残ります」
ルキンが意見を述べる。
「旅は長いのじゃ、おじさんにはキツイのじゃ。お二人は若いから分からないのじゃ。おじさんはあまり出かけずに大事な時だけ頑張るのじゃ、おじさんが活躍してもツマラナイのじゃ。災厄に立ち向かうガーおじ、ネアス殿とレテ殿はワシの後ろで応援している。違う気がするのじゃ」
ガガブタが答える。
「ギンドラの街にガの記憶の手がかりがあるのかな」




