おみやげ
レテは辺りを見渡してからカバンから袋を取り出す。アーシャも立ち上がり、レテを隠すように立つ。クロウは近くのテーブルにいる商人に声をかける。
「バッチリ、アイツもいない」
レテはテーブルに残っているパンを袋に詰める。彼女は袋を握りしめて小さくしてカバンに入れる。アーシャはソワソワしている。
「高級宿でバレたら……」
アーシャはささやく。
「オイシイパンだけど危険が大きすぎるわ。私は無理かしら」
ラーナはドリンクを飲む。
「騎士のララリは少ない、少ない。もう少しだけ」
レテはさらに袋を取り出しパンを詰めてぎゅっとする。彼女はカバンにしまうとアーシャの肩にそっと触れる。
「はみ出していますよ、レテ様」
アーシャはパンパンに膨らんだ袋から飛び出している袋を抑える。入らない。
「シルフィーの風の力は使わないの、レテ。もっともっと入るわ」
ラーナは疑問を口に出す。
「カチカチになっちゃうからダメ、危険をおかした意味がなくなるわ。騎士団特製パンより食感が悪くなるかな、シルちゃんのせいじゃないからね」
レテは答える。
「袋の中身は何にしますか?ストーンマキガン特製クッキー、ハンマー、銅ララリもありです。奇跡を利用します」
アーシャはささやく。
「騎士も大変な仕事ね、私は宿に残って今までの事を整理するわ。見落としていた出来事が発見に至る事になる。魔術では良くある事、ネーくんの事も気になるけど手がかりがなしはキツイかしら」
ラーナは書物を取り出す。
「私は手紙の行方を追う事から始めるわ。みんなの意見を聞くことも大事、大事。マリーもいるから手を握るゲームはしないハズ、ダイジョブ、ダイジョブ」
レテは答える。
「袋の中身はネアスさんへの思い、誰も開けないと思います」
アーシャが思いつく。
「逆に気になるかしら、はみ出している思い。ううん、何でもないわ。私はいずれ魔術師協会の頂点に立つモノ、忘れてはいないわ」
ラーナは自重する。
「ラーナに迷惑をかけるつもりはないわ。コレは騎士団の問題かな、中身は秘密。女の子の謎を解こうとするなんて気が早いかな」
レテはラーナに手を振る。
「キワドイうそは相手の興味をそそりますよ、レテ様。何の変哲もないモノ、傷によく効く薬草とか眠気が取れるクッキーが良いと思います」
アーシャがささやく。
「健闘を祈っているわ、レテ、アーシャ。風が失敗を吹き飛ばしてくれますように」
ラーナは祈りを込める。二人はラーナに別れを告げるとスイスイとテーブルの間を歩いていく。彼女たちはすぐに宿のホールに到着する。
「ここまでくれば安心、安心。見つかったらキハータを呼ぶだけ、気の利かない宿の店主でも私を敵に回すほど愚かではないかな」
レテはホールを見渡す。商人たちが続々と宿に入ってくる。
「油断は出来ません。商人の集会、聞いたことがありません。ここに隠れてララリの落とし物を集めたら、オイシイ料理をたくさん食べれそうです」
アーシャは床を観察する。ララリは落ちていない。
「商人はララリを大事に扱っているから落とす事はないわ。私も以前商人の夕食会の警護をしたけどララリは落ちてなかったわ。早く帰って眠れば良かったって後悔したわ」
レテは外の扉に進んでいく。
「レテ様は頼りになる先輩です。無駄な時間を過ごさずに済みます。武術の訓練の時間にあてます。今の目標はマリーさんに勝負を挑むことです。もちろん体術で挑戦します」
アーシャはレテの後に続く。
「高すぎる目標は大変かな、アーシャ。木を素手で倒す事から始めるのがオススメ。今日のお昼は木の枝のサラダ、カリカリ食感がクセになる味です。どうでしょうか、アーシャ様」
レテは微笑む。
「オイシイ木の枝を探す方が大変です。木を倒すのも難しいですが苦い木の枝ばかりのサラダは苦手です。お酒には合うと聞きますが……」
アーシャはもう一度だけ床を見る。ララリはない。
「店員さんに昼食のメニューを聞いてみようかな。ついでにキハータに伝言も残さないとね。気遣いは大事、大事」
レテは受付に向かう。
「ご利用ありがとうございました。レテ様、ララリはすでにカンラン様より頂いています。しばらくは自由に宿をお使いください。部屋はレテ様のために空けておくようにカンラン様より指示を受けています」
受付の店員は丁寧に応対する。
「そこまでされるとコワイかな。私を狙っているのは確実、でも、おじさんの愛人にはなりたくないかな。後でララリを請求されたらどうしよう、アーシャ」
レテは不安になる。
「騎士団長の闇、商人との会談、彼は何処に。女はララリに弱いって王都で噂になります。そうですけど他も大事ですよね」
アーシャが答える。
「カンラン様は独身だと聞きました。商売に人生を捧げる決意を風の神殿で誓い、成功した方です。商人の間では有名な方ですが噂話を嫌う方なので名前を出す人は少ないです。私の事も内密にしてくだい」
受付の店員はテーブルの下から箱を取り出し、レテたちに少しだけ見せる。サンドイッチのようだ。
「高級宿の特製サンド、お昼が楽しみになってきたわ。きれいでやさしくてかわいい私の魅力は全てのモノを惹きつけてしまう。今度はどんな贈り物が待っているのかな」
レテは笑みを浮かべる。
「商人の愛人、毎日オイシイ高級特製サンドをもらえる」
アーシャが息を呑む。
「カンラン様は独身です。覚えてください。これは宿のからのサービスですのでカンラン様は関係ありません」
受付の店員はテーブルの下からもう一つの箱を取り出し、アーシャの近くに置く。彼女はすばやく手に取る。
「気の利く店員さんのおかげで宿は繁盛しているのね。キハータは気楽そうでうらやましいかな。騎士団長は大変、大変」
レテは店員に愚痴をこぼす。
「キハータさんは誰よりも宿の事を考えています。今も他の従業員と市場に買い出しに出かけています。私たちはキハータさんを尊敬しています」
受付の店員は答える。
「気の利く高級宿の店主のキハータさんです。私たちの前では演技をしていたんです。策士キハータ、おじさんの闇は深いです」
アーシャはレテに問いかける。
「どうして私たちはキハータの気が利くか利かないかどうかにこだわっているのかな、アーシャの言う通りでキハータの策略?狙いは何?」
レテは困惑する。
「違います。キハータさんは気が利かない高級宿の店主です。疑ってはイケマセン」
受付の店員はレテの後ろに目を向ける。商人たちが列を作っている。
「お仕事のジャマをしてごめんね、キハータにありがとって伝えてくれるかな。甘いお菓子はちゃんと隠しておいてねっても伝えてね」
レテは外への扉に向かう。
「レテ様への伝言はありません。気の利かない高級宿の店主ですので、ご理解ください。風が幸運を運びますように」
店員が祈りを込める。
「レテ様の部屋は私も利用しても良いのでしょうか、風の加護を!」
アーシャはレテの後に続く。
「アーシャだけ特別扱いしたら、他の騎士が嫉妬に狂ってイタズラをするかな。本部のアーシャの荷物入れをゴミ箱にする。後は鎧に辛いドリンクをかける。槍にパンのかけらをまぶすのも良いかな」
レテは答える。
「一度やっつければ何も出来なくなります。男の子はそうでしたが、騎士はどうなんでしょうね。ゴブリン退治がなくなってヒマになったら、イタズラばっかりするようになるんでしょうか。私も考えないとイケマセン」
アーシャは扉を開ける。外は晴れている。爽やかな風を二人は感じる。
「天気は最高、ゴブちゃんもいない。朝食もオイシかった。でも、彼はいない。私は悲しみに包まれている。不幸な女はどこに行くのかな、河、山、空中都市。私の悲しみはどこに行っても晴れない」
レテは空を見上げつつ庭を歩いていく。
「彼氏持ちだけが感じる事の出来るキモチ。教えてください、恋の先輩。ついでにお部屋の事も結論をください」
アーシャはレテの前に出る。
「今、アーシャ?お昼までは悲しい女の気分を味わいたいかな、彼を捕まえちゃったら私は彼に説教をするわ。彼は今後勝手に飛び出していく事はなくなるかな、一度だけの大事な日。逃げられた女のキモチ、部屋はアーシャに任せるわ。副騎士団長にはバレちゃダメ」
レテはアーシャに教えてあげる。
「う~ん、大切な日に取っておくのが良さそうですけどカンランさんはいつまでレテ様に興味を持ち続ける事が出来るんでしょうか。ララリをたくさん持っているなら女性には困らないハズです」
アーシャは答える。
「私はきれいでやさしくてかわいいから他の女性と比べるのは難しいかな、告白二日目で男に逃げられるなんて思ってもいなかったわ」
レテは悲しみを呼び込もうとする。
「幸運の女神が不幸な女になる。でも、高級宿は使い放題でステキなお昼もある。悲しみ女には高級宿の特製サンドは似合いません。ここはガマンして、良い思い出にするのはどうでしょうか、レテ様。あの日は悲しみで食事ものどを通らなかった。恋の話です」
アーシャは振り返り、レテに提案する。
「ネアスの事を吹っ飛ばしちゃうかな、キハータは気が利く高級宿の店主ね」




