追加
レテがクロウを見ていると追加のパンがテーブルに置かれる。彼女は白いパンをお皿に取る。アーシャとラーナもパンを補充する。礼儀正しい商人は焼き立てのパンをうれしそうにお皿に取り、テーブルに向かう。
「ララリは大事、でも、ララリは人の心を惑わすわ。冒険者さんは知っているハズ、あなたは他に何を企んでいる?」
レテは白いパンを食べる。
「旅人の翼を失った冒険者の陰謀ですね。三人の絆は切り裂き、目的に一歩近づいた」
アーシャは予想する。
「二人の絆かな」
レテは訂正する。
「レテとネーくんの絆、ガー王とレテに絆はなかったのかしら、気になって書物が頭に入らなくなるかも」
ラーナはレテに尋ねる。
「三人の絆、ネアスが私とガーおじを繋いでいたように思っていたも仕方がないけどガーおじの絆は私には繋がっていなかったわ」
レテは答える。
「モテない絆は緩いからこそ暗闇に届いた。暗がりに潜む大賢者」
クロウはラーナを見つめる。彼女は目を合わせない。
「ネアスさんはガーおじさんとギンドラに着いた後の計画を練っている頃でしょうか。マリーさんも一緒だから難しいですよね」
アーシャは白いパンを食べる。
「女の子の目の前で女性と遊び話をするのはバカな男かよっぽどの自信があるバカかな。マリーは石版の件で責任を感じていたから、ガーおじがそこを突いて一緒に連れて行かれたのよ。悪い事をすぐに覚えるのが大人かな」
レテは声をひそめる。
「始まりはララリ、それがなかったら人は何も出来ない。突然手にした大量のララリ、冒険者が一番詳しい話かしら、レテも聞きたいでしょ?」
ラーナはレテを見る。彼女は大きく首を縦に振る。
「やることはかわりません。女性にプレゼントを贈り、好意を得ようとする。競い合い、多額のララリをつぎ込む冒険者もいます」
クロウは簡潔に答える。
「実在の話を希望します。最後はどこまで落ちぶれるんですか?」
アーシャはクロウに尋ねる。レテはうなずく。
「ある男が運良く古代の遺跡の宝を見つけました。リンリン森林の北、山脈の近くの遺跡です。冒険者の間では有名な場所ですが一般には知られていません。そこには壊れかけた柱があり、ラトゥール様との関連もあると言われた事もありました」
クロウは息をつく。
「何があったの、宝石、剣、槍かな?」
レテが興味を示す。
「小さな木箱が地面に埋まっていました。男が転ばない杖で足元を叩いた時に見つかりました。年代物のようで、王都の貴族が高額のララリで買い取りました。その後の行方は分かりません。ニセモノかもしれません。しかし、ララリは手にしました」
クロウが答える。
「モノ好きの貴族ね、グラーフの街でも噂を聞いたわ。ララリに糸目をつけずに骨董品を集めている。目的は不明」
ラーナは白いパンを食べる
「冒険者がララリを手に入れた後は、ギンドラの街で遊びます。手元に残しておいて誰かに盗まれては意味がありません。仲間を集めてパーッとララリを使います。何夜もギンドラの奥で遊びます。それは素晴らしい夜です」
クロウがレテを見る。
「ガーおじの集めたララリだとどのくらい遊べるの?」
レテは尋ねる。
「ギンドラの夜は甘くないです。私が確認した所では、じまりの飲み屋で力尽きるでしょう。あそこは女性にチヤホヤしてもらえるだけなので安心してください」
クロウは答える。
「ネアスさんはラトゥールの末裔です。ガーおじさんは涙の奇跡の張本人です。顔パス出来るハズです」
アーシャが異論を唱える。
「そうね、今の二人はララリがなくてもチヤホヤしてもらえるわ。マリーのコネもあるから最後の飲み屋かしら、そこまで一直線かもね」
ラーナも賛同する。レテはうなずく。
「素人の考えだな、ラーナ。最後の飲み屋などない!女性を遊ぶのに終わりはないのだよ、なぜ、女性は理解できない!」
クロウは熱くなる。男性の商人たちから歓声が上がる。
「ちゃんとララリを払って遊ぶなら文句は言わないけど、いつまでもララリは続かないわ。終わりは来る、ララリは消えないけど他の人の手に渡るかな」
レテは答える。
「張り紙も読めない女に何が分かる!」
礼儀正しい男が叫ぶ。レテは無視する。
「申し訳ありません、質問に答えます。始まりの次は、じまりの飲み屋、まりの飲み屋、その次がりの飲み屋、の飲み屋です。始まりまりの飲み屋などもあるのでお気をつけてください」
クロウは危険を感じて答える。
「顔パスは出来ないんですか、王都の高級レストランに何度も通うと入店料が免除されると聞きました。ギンドラの街にはその仕組みはないんですか?」
アーシャが尋ねる。
「ラトゥールの末裔を出迎えた店、通常であれば名誉でありますが、始まりの宿は一つだけです。それ以外は奥に続いていません。つまり、だまされたという事です」
クロウが答える。
「ギンドラの迷宮、女の私には縁がないと思って書物を読まなかったわ。選り好みしないで読んでおくべきだったかしら、いいえ、私の選択は間違っていなかったわ」
ラーナはつぶやく。
「マリーがいるかな、彼女は正しい飲み屋を知っている。ガーおじはだから彼女を連れて行ったのよ。彼の記憶は戻り始めている、油断は出来ないわ。彼は私たちを裏切る、ネアスが感じて私も同じように思っているわ」
レテは小声で三人に伝える。
「そんな感じでしたって、レテ様。何でもありません」
アーシャはすぐさま訂正する。
「ララリが必要な事には変わりがありません。ギンドラの女性たちは信頼できる方々ですので問題はないでしょう。手の握り方を教えてくるでしょうね」
クロウがニヤつく。
「それはイヤ!」
レテは叫ぶ。彼女は立ち上がる。
「レテ様、落ち着いてください。ゲームの話です。手を繋いで絵を描くゲームです。お代通りに二人で書くことが出来たら勝ちの余興です。以前レテ様と一緒にやって負けました。ずいぶんと昔の事のように感じますね。この前の冬の事なのにどうしてでしょうね」
アーシャはレテの恋の暴走を止めようとする。
「それがイヤ。ネアスとチームを組んで勝ちたい。すっかり忘れていたわ。ありがと、クロウ。専門家の話は頼りになるわ、ギンドラの飲み屋を潰してくから待っていてね。ネアスがギンドラに到着する頃には帰ってくるわ」
レテは近くの窓を開ける。
「ネーくんを捕まえた方が楽じゃない、レテ。ギンドラの飲み屋のゲームを楽しみにしている人も大勢いるわ。敵を増やす時ではないわ」
ラーナがレテに伝える。
「レテ様、失礼しました。あの遊びは人気が落ちているので今は別のゲームをしています。絵を描くのは同じですが女性と二人で見つめ合いながら、紙を見ないでお代の絵を書きます。両方が正解すると勝ちです。肌は触れ合いませんので安心してください」
クロウがレテに説明する。
「見つめ合う、どの位の距離?」
レテはクロウに尋ねる。
「それはここで伝えるわけにはいきません。楽しみが激減してしまいます。私も男です。お許しください」
クロウは真摯に答える。
「クロウ、男とか女は関係ないわ。ギンドラの街の存亡に関わる問題、責任はクロウ。それでよいかしら?」
ラーナはクロウにささやく。
「心配しすぎだ、ラーナ。レテ様はきれいでやさしくてかわいい方だ。キミとは違う」
クロウは反論する。
「私の友達も女の子が多いので分かりません。男の人が悲しい顔をして飲み屋から出てくるのを目撃した事があるそうです。遠いと思います」
アーシャは答える。
「あなたは知っているかな、商人さん?」
レテは礼儀正しい商人に問いかける。
「私は人の話を盗み聞きはしません。大声で話したところで無駄です。今日の仕入れの事で頭をいっぱいにします」
礼儀正しい商人は答える。
「始まりの飲み屋のゲーム、見つめ合う距離?」
レテは問いかける。
「待ってください、それは秘密です。商人といえども答える事は許されていません。そうでしょう、皆様!」
クロウは商人たちに声をかける。歓声が上がる。
「良いじゃない、クロウ。ゲームはたくさんあるんでしょ、ニセモノも入れたら数え切れない位あるってことは書物を読まなくても知っているわ」
ラーナはアーシャを見る。
「暗がりで追いかけっこ、たまごの投げ合い。奥の方で遊ばれている禁断のゲーム、私でも知っています」
アーシャは腕を擦る。
「彼はどこまで到達するのか、気になるけど危険かな」
レテは窓に足をかける。
「質問には答えが必要です。しかし、距離は答えられません。見つめる女性は恋をしていません。その瞳に魅力があるのでしょうか?」
礼儀正しい商人はレテに問いかける。
「若い子なら誰でも良いんでしょ!」




