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眠ろう

 レテは立ち上がって背伸びをする。アーシャもペンを耳にかけて立ち上がる。ソミーレはテーブルを片付ける。

「お休み、ソミーレ。今日はたっぷりと眠れそうかな、詩人さんのお菓子はオイシクてキモチが軽くなるわ」

 レテは扉に歩き始める。

「私は今日の出来事の記録をします。軽快な話が専門ですが、これも何かの縁です。他の詩人たちが役立てる事を祈ります」

 ソミーレは書物を取り出す。

「もったいないです。自分で詩にした方がたくさんララリを稼げます。軽快な災厄のお話、気にいらない人もたくさんいると思いますが、私は楽しみにしています」

 アーシャはレテの後に続く。

「迫る災厄、傷つく騎士たち、軽快に歌うのは難しそうね。騎士は元気に、貴族はボロボロ、ガーラントは先頭で倒れ込む」 

 レテは扉を開ける。廊下は暗い。

「望む詩を作るか望ましくない詩を作るのか。私も考えておきましょう、風が音を運びますように」

 ソミーレは祈りを口にする。

「ソミーレさんに風の加護がありますように」

 アーシャは先に廊下に出る。レテはアーシャに続いていく。彼女は静かに扉を閉める。ガー!ガー!キハータのいびきが再びレテの耳に侵入する。彼女はイライラしてくる。

「いびき!せっかく良い気分で眠れそうだったのに台無し!蹴っ飛ばして起こしてやるわ、気が利かなくて、いびきのウルサイ高級宿の店主!」

 レテは足音を立てて、ホールに向かう。

「いびきは意図してないので、キハータさんはやっぱり気の利かない高級宿の店主です。何故か、安心しました」

 アーシャはホッとする。

「従業員にいびきをかいていますよって言われた事はあるハズ。つまり、意図的にいびきをして私たちの睡眠の妨害をしていると判断しても構わないかな」

 レテは答える。

「店主には言わないハズです。クビにされたら、次のお仕事を探すまで大変です。騎士とは条件が違います」

 アーシャが反論する。

「結婚はしていないのかな。宿のお客の相手は大変だから、お家でキハータの帰りを待っているかもね。気の利かない騎士団長はキハータを起こしちゃうわ」

 レテは笑みを浮かべる。

「副騎士団長みたいです」

 アーシャは微笑む。

「ヤーダ、おじさんの話をしすぎたかな。さっさとキハータを起こしてステキな朝を迎えようよっと。ネアスに明日の朝に抱きつかれたらどうしようかな、一夜は千夜!」

 レテは歩みを早める。

「違う意味に使う言葉なので誤解を生みますよ。レテ様から抱きしめてあげないんですか?ネアスさんは奥手です、きっと」

 アーシャはホールの扉を開ける。キハータのいびきが部屋中に鳴り響いている。レテは近くのテーブルを蹴飛ばす。カタイ音が部屋に響く。

「高級なテーブルですよ、レテ様。壊したら弁償代でタダ働きが続く事になります。コワイ、コワイ」

 アーシャはレテの行動に怯える。

「だからよ、こんな時じゃないと高級なテーブルを蹴飛ばすなんて経験出来ないかな。加減はしているからダイジョブ、ダイジョブ」

 レテは軽くテーブルを蹴飛ばす。キハータは起きない。

「キハータさんもお疲れのようですね。このまま寝かせてあげませんか、レテ様。いびきを止める方法を探しましょう」

 アーシャはキハータに近づく。

「アーシャはおじさんにやさしい時とそうじゃない時があるわ。副騎士団長にはやさしめで、ガーおじはイヤ。キハータにはやさしいわ」

 レテは疑問を抱く。

「キハータさんにはステキな帽子をいただきました。私のララリでは無理な品でした。素材からして違う感じですので大事にカバンにしまっています」

 アーシャはキハータの様子を確かめている。

「考えることは同じね、普段被るのはもったいないかな。でも、それとこれとは別。私はキハータのいびきには容赦しない」

 レテは階段を駆け上がる。大きな音が部屋に鳴り響く。

「起きませんね、いびきを止めるには足の裏をくすぐりながら、耳の裏を引っ張る。レテ様、協力してください」

 アーシャは頭の方に動く。

「任せて、アーシャ」

 レテは音を気にせずに階段を駆け下りる。彼女も頭の方に位置する。二人はキハータの耳を引っ張った。いびきは止まらない。

「どちらかが足の裏をくすぐらないとイケません。おじさんの足に触りたくないです」

 アーシャはレテに伝える。

「どちらかが巨大な不幸を背負う事になるから勝負は出来ない。足の裏の代わりになりそうな所をくすぐるましょう、脇はイヤ」

 レテはアーシャに告げる。

「脇の下もイヤですし、ほっぺは効果がなさそうです」

 アーシャは考える。

「使えないモノはない」

 レテはアーシャの耳元のペンを見つめる。アーシャは大きく首を横に振る。

「ダメです、レテ様。詩人さんのペンです、飾るとしてもイヤです」

 アーシャは拒絶する。

「私は日記を書くのに使うつもりだからダメ、魔王の魂さんの氷の力を借りても良いけど、宿全体が凍ったらマズイじゃ済まないかな」

 レテは考える。

「槍を持ってきて頭を叩いて気絶させたら、いびきは止まります。簡単な方法です。レテ様が秘密にしてくれるなら問題はありませんが……」

 アーシャは口ごもる。

「黙ってられないかな。どこかでうっかり口に出してしまう。私の唯一の欠点かな、自覚しているから長所の一つでもあるわ。楽しい話はみんなで共有するのが一番、一番」

 レテは微笑む。

「私は乱暴者ではありません。でも、話を聞いた人たちは勘違いします。荒っぽい事が大好きな騎士。違います、手軽な方法でしかもケガもしません」

 アーシャはキッパリと答える。

「止まらないいびき、二日連続の寝不足は確実に任務に支障をきたす。ゴブちゃんが全部ラトゥールに乗っていったかは分からない。気難しい子、ゴブちゃんキライの子、一人が大好きなゴブちゃんもいるハズ」

 レテはアーシャに伝える。

「油断は出来ませんね。災厄が近づいている。高級宿の店主の安らかな睡眠と王国の平和」

 アーシャは続ける。

「しかも彼は気が利かない。気が利く高級宿の店主を目指しているわ。その夢は叶わない、いびきも止まらない」

 レテはキハータの鼻を見つめる。ガー!ガー!いびきが止まる気配はない。レテとアーシャは目を合わせる。

「せーの!」

 二人は同時にキハータの足の裏をくすぐる。彼のいびきは止まらない。

「くすぐりに強いキハータも健在ね。人は変わらない、あなたは永遠に気の利かない高級宿の店主として生きていく。今がチャンスよ、キハータ」

 レテはキハータに語りかける。いびきは止まらない。

「生まれ変わるチャンスは何度も到来します。気を利かせる機会なんていくらでもありますので安心してください。私が足の裏の対応をします」

 アーシャは配置につく。

「ありがと、アーシャ。おフロに入って眠ろうね」

 レテは耳を強く引っ張る。アーシャも足の裏をくすぐる。ガー!キハータのいびきが弱まり、彼の寝息は穏やかになる。レテとアーシャは用心のため持ち場を離れない。宿は静けさに包まれる。

「成功ですね、レテ様」

 アーシャはレテを見つめる。

「私たちの連携は完璧かな、二人でこなした訓練結果ね。気の利くような訓練はあるのか、いびきを止める訓練」

 レテは答える。

「自分で足の裏をくすぐって耳を引っ張りながら眠るのは不可能です。最後に眠っても

、いびきで他の人は目を覚まします」

 アーシャはおフロの方に向かう。

「そっちがおフロなんだ、大きくてきれいでのぞきは出来ないようになっているの、アーシャ。酔っ払いが活動を開始していてもおかしくない時間かな」

 レテはアーシャの後に続く。

「おフロの外には大きな岩の壁があって昇ることは出来ません。地面も岩で覆われているので安全です。地下通路は存在していないとの事です。脱衣所に隠れる場所がありますが、罠が仕掛けられています」

 アーシャが歩きながら答える。

「爆発するたまご、それともトゲトゲの羽根、高級宿は一味違うのかな」

 レテは予想する。

「天井に風の刃があります。適切なルートを歩かないと発動する。それはどこでも同じみたいですね。魔法使いさんはスゴイですね」

 アーシャは答える。

「女性のみが知るおフロの扱い方。男が女性からそれを聞き出す事に成功した事はない。不思議な話、私はネアスがどうしても知りたいって言ってきたら、教えちゃうかもね」

 レテは笑みを浮かべる。

「王国全体、いいえ、帝国にも広がっている太古から伝わる呪いだから男性に教える事は出来ない。ホントですかね、のぞかれるのはイヤだから教えるつもりはありませんけどね」

 アーシャはおフロの扉を開ける。

「見るだけで満足できるのかな、触らないとキモチ良くないわ。男の考えの分からない所の一つかな。さらにガマンしないといけなくなるわ」

 レテは脱衣所の天井を見つめる。無数の鋭い風の刃が見える。

「騎士団でも採用しませんか、レテ様。これが一番安全です」

 アーシャが足を踏み入れる。

「騎士はのぞいちゃダメ、おフロ、おフロ。予算は大事、大事」


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