再びギルドへ
レテは冒険者ギルドの用事を終える。彼女は銀ララリをテーブルに置き、立ち上がる。氷の鳥はドリンクの容器の中で解ける。アーシャは銀ララリをカバンに収めて、扉に向かう。
「デフォー、私はあなたに何を差し出せば良いの、タダで精霊の涙はもらえないわ」
レテはデフォーに問いかける。
「あなたの願いを最初に聞かせてください」
デフォーはレテに伝える。
「ダメ」
レテは即答する。
「彼氏持ちに何を言っているんですか、喧嘩した時は俺を思い出してください」
ムカーはアーシャを追いかけていく。
「考えておきます。精霊の涙はあなたに手渡します。また、お会いになる日を楽しみにしています」
デフォーは静かに答える。
「仲間は良いの?彼らにも願いはあるわ」
レテは問いかける。
「精霊の涙は一つ。どうせ、争いになります。冒険者とはそういうモノです」
デフォーは答える。
「話し合いなさい、きっとステキな願いが見つかるわ。私は賭けの賞品、願うべき対象ではないわ。あなたは扉を開けなかった。賭けをしていたら勝ちだったわね」
レテはフードの下で微笑む。
「臆病な男は何も手にできない」
デフォーは答える。
「あなたが賭けを無理やり成立させようとしたら、私はフードから顔を出したわ。それでオシマイ、負ける賭けはしない」
レテは扉に向かう。
「私はあなたのような女性を知りません。人違いでしょう、氷の魔法使い様」
デフォーは彼女の後ろ姿を見つめている。レテはギルドの入口の扉に着くと魔王の魂を押し付ける。扉の氷が玉の中に戻っていく。ムカーたちはホッとする。
「私は王都に向かいます。今日の朝の出来事をギルドに伝えた後に風の神殿の友人にきれいな神官の話を聞いてきます」
アーシャはレテの返事を聞かずに外に飛び出し、駆け出していく。
「宿までお送りしましょう。場所は知っています」
ムカーはレテのために扉を開けておく。
「私は魅力的なの?冷たい女は苦手でしょ」
レテは外に出る。周囲を見渡すが人影は見当たらない。
「ゾクゾクします。やさしい女性は好みではありません」
ムカーは扉を閉める。
「変な男しかいないのね」
レテは精神を集中させる。
「冒険者はまともではありませんよ。ララリのためです。依頼をこなさなければ生活できません。ララリがあれば、俺もどんな生き方をしたのか」
ムカーは答える。
「私の夢を見ないでね。勝手な真似はユルサナイわ」
レテの指先から氷が伸びる。彼女は手を空に伸ばす。氷は飛んでいかない。
「ギンドラに向かいます。ギルドにはデフォーさんがいますので失礼します」
ムカーはレテが案内を必要としていないと感じ取り、立ち去る。
「変なヤツばっかり、正体を隠すのも大変、大変」
レテは指先で溶けていく氷を眺める。日が落ち始めている。彼女は早足で石職人ギルドに向かう。レテが道を急いで歩いていると人だかりが出来ているのが目に止まる。昼時は過ぎ、夕食には早い時間だったが出店が並んでいる。彼女は腹ごしらえをしようと店に近づいていく。
「この先にオイシイお店があるの?」
レテは人だかりの最後尾にいる人に話しかける。
「違います、ガーランド様がお話をしているのです。ラトゥールの使者、涙の奇跡の張本人です。昨日から今日の朝の出来事を私たちに聞かせて下さっているんです」
女性が親切に答えてくれる。彼女は前にいる人達をかき分けてレテを前方に連れていく。
「シンジラレナイ」
レテは驚愕する。
ゆったりとした黄色いローブを着たガーおじが大きな岩の上に立ち、話をしているのをレテは見た。キャビの手足は隠れている。
「真実です。ガーランド様はウソをついてはいません。私が証人です」
女性はやさしくレテに教えてあげる。
「そうじゃ、涙は裏切らない。涙は恥ずかしくないのじゃ、涙は暗闇に届くのじゃ」
ガーおじが話を終えた。大きな岩の前に置かれた箱にララリが投げ込まれる。
「そういう仕組みなのね」
レテはつぶやく。
「人々の感謝の証です。私たちはララリでしか示すことができません」
女性は答える。
「最初から始めるのじゃ、ワシはソラトブイワから帰還したのじゃ。みなさんもご存知の方々と共に力を尽くしたのじゃ。名前はあえて言わないのじゃ、突然ワシは涙が止まらなくなったのじゃ」
ガーおじが話を始めると歓声が上がる。
「いつから話をしているの?」
レテは小声で女性に尋ねる。
「四回目です。たくさんの方にお話を聞いてほしいそうです。太っ腹な方です」
女性は答える。
「涙の理由は分からなかったのじゃ。しかし、あきらめない心が奇跡を起こしたのじゃ。ある人は放っておけ、直ぐに止まる。眠いから寝るとか言ったのじゃ。おじさんの涙はイミフメイ、触るな危険、不純な涙は呪いを引き起こすとかも言われたのじゃ。ワシは傷ついたが顔には見せなかったのじゃ」
観客から笑いが起こる。
「そうなんだ、ふ~ん」
レテはガーおじの言葉を覚えた。
「私は差し入れを買いに行きます。ガーランド様の声がかすれています」
女性は観客をかき分けて道に戻ろうとする。レテも付いていく。
「元々あんな声だった気もするけど自信はないかな」
レテはつぶやく。
「お話をよろしいのですか、旅の方。あなたもラトゥール様の姿を見たのでしょう。街の外からも見てみたかった、贅沢な心です。戒めなければ」
女性はレテに伝える。二人は道に戻る。
「ララリは大丈夫なの、けっこう集まっていたかな」
レテは女性に尋ねてみる。
「ガーラント様の旅のお役に立つようにとララリを集めています。災厄は近く、シャルスタン王国には多くの謎があるそうです。ガーラント様のお知り合いの冒険者の方が話をしておられました。私は手伝っているだけです」
女性は答えるとお店の方に走っていく。
「デフォーはギルドの中、誰かな。まっ、どうでも良いか。キャビもいるしダイジョブ、ダイジョブ」
レテが石職人ギルドに行こうとすると、道の向こうからセオが集まりに近づいていく。
「勝手に集まらないでください。すぐに解散してください」
セオは大声で伝えるが皆、無視する。
「セオ、止めなさい。害のない集まりよ」
レテはセオに声をかける。
「旅の人、あなたの命令を聞く筋合いはありません。レテ様の指示です」
セオはレテに告げる。一部の人々が二人に目を向ける。
「そんなわけない!目立つから向こうに行きましょう」
レテはセオの腕を掴む。彼女は木陰に目を向ける。
「騎士の任務を妨げる者は容赦しません、お嬢さん」
セオはまんざらでもない。
「気づいてくれない、はっきり言うわ。ナンパよ」
レテはつぶやき、セオを力ずくで木陰に連れ込む。彼は抵抗しない。
「お嬢さん、しかし?」
セオは照れている。レテは木陰に隠れるとフードを取る。セオの顔が青ざめる。
「レテ様、これは違います。街の様子を探るためと旅の女性の身の安全を確保するための処置です。ナンパされたから浮かれたわけではありません。腕を触るのは反則です」
セオは言い訳をする。
「実際街の様子はどうなの?」
レテは気にせずに問いかける。
「いつもとは違います。旅人の数も増えています。ラトゥール様の姿を見た人々が訪れているようです。門番はガイたちに任せて見回りに来ました」
セオはホッとする。
「当然の展開かな。アヤシそうなヤツラは街に入れちゃダメだからね、適当な理由を付けて追い出しなさい。天気が悪くなりそうだとかラトゥールの機嫌が良くないとかね」
レテは答える。
「あの集まりはよろしいのですか。街の人々から報告がありました。ラトゥール様の使者を語るアヤシイ男がいるので注意してほしいとの事です」
セオはレテに伝える。
「ガーおじだから問題はないわ。街の人たちよりは信用できるかな、上手にララリを集めているわ。時間がないから今日も説教はなし、楽しみに待っていなさい」
レテはフードを被る。
「準備は万端です。街の見回りを続けます」
セオは立ち去ろうとする。
「ガイたちもよろしくね、頼りにしているわ」
レテは答える。
「風の加護を。私はラトゥール様よりもレテ様を信頼しています。私にとってラトゥールの末裔はレテ様です。ネアス様も良いお方ですが、気持ちの整理ができていません。失礼します、任務に戻ります」
セオは足早に去っていく。
「誰かが決めることなのかな、急がないと!」




