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 レテは魔王の魂を首筋に当てる。冷たくてキモチが良い。アーシャは席を立ち、扉に向かう。レテは何も言わない。扉からはかすかな声が聞こえる。

「おっそい、デフォー!」

 レテはイライラする。

「お待たせしました。氷の魔法使い様、アーシャから話を聞きました。ギルドに帰って来ると無性に扉を叩きたくなる。いつも石職人には迷惑をかけてばかりです。年だけとってしまった哀れな冒険者です。名前はデフォー、覚えていただき光栄です」

 デフォーは笑みを浮かべる。

「ホント?」

 レテは疑う。

「申し訳ありません。私の悪いクセです。笑えない冗談を言ってしまう。扉を叩きたくなる訳がありません。私はデフォー、アーライト河の終点に至る男。歴史にその名を刻む事を定められた者です」

 デフォーは自己紹介をする。

「今の冗談は良かったかな」

 レテはフードの中で微笑む。

「歴史はデフォーさんを認めないでしょう。冗談ばかりの人では戸惑います」

 ムカーが元気を取り戻し、話に加わる。

「私はホンキです。このために私は長く生き延びたのです。氷の魔法使い様と賭けをするためです。私は扉を開かない」

 デフォーは賭けを聞いていたようだ。

「年寄りの相手はできないわ。どうしても賭けをしたいなら構わないけどね」

 レテはカバンから金ララリを取り出し、テーブルに置く。

「賞品は私、金ララリ一枚も付けてあげる。相応の対価を用意してね」

 レテは魔王の魂を指先で遊び始める。

「あなたにララリは相応しくない。氷の魔法使い様には偉大なるラトゥール様の加護が必要です。そのために街に来たのでしょう?女性神官は口実に過ぎません」

 デフォーは断言する。

「さすがです、デフォーさん」

 ムカーは感心する。

「ハズレ、ラトゥールは関係ない。世界は進む」

 レテは精神を集中させる。魔王の魂から氷が伸びる。彼女は指をクルクル動かす。氷が鳥の形を作る。

「飛べない鳥です」

 デフォーは氷の鳥を見つめる。

「出来はすばらしい」

 ムカーは感動する。

「この子が怒るかも」

 レテはつぶやく。

 氷の鳥がテーブルを這って、デフォーに迫る。彼は腕を引っ込める。氷の鳥は地面に落ち、デフォーの足に近づこうとする。彼は足を椅子に乗せる。

「魔法ではありません。氷の精霊使い、あなたはレテ様をご存知ですね。彼女以外に精霊使いがいるとは驚きです」

 デフォーは静かに問いかける。氷の鳥は椅子を下から凍らせていく。

「氷の精霊使い様!」

 ムカーは三歩後ろに下がる。

「レテ?知らないわ、私は氷の魔法使い。冒険者さんに何が分かるの?」

 レテは答える。

「私もボーッと生きてきた訳ではありません。魔法の限界は何となく知っています。レテ様を知らない王国民もいません。彼女は目立ちます」

 デフォーは答える。

「きれいでやさしくてかわいい方です」

 ムカーは補足する。

「だとしたら私は王国の民ではないわ」

 レテは答える。

「あなたは何者ですか?ギルドを凍らせて何をするつもりですか?」

 デフォーはレテを問い詰める。

「デフォーさん、止めましょう。依頼主です、俺たちはきれいな神官を探すだけです。氷の魔法使い様の素性は関係ありません」

 ムカーはデフォーを椅子から動かそうとするが彼は抵抗する。

「ギルドが大事?」

 レテは問いかける。

「誰かが守らねば、ギルドは崩壊します。冒険者は自由に囚われている、組織も必要です。ゆるいつながりが大事です」

 デフォーは答える。

「俺は氷の魔法使い様の味方です。ギルドは後ほど再建しましょう。きれいな指です。氷の鳥の美しさはあなたに相応しい」

 ムカーはギルドを裏切った。

「ありがとう、ムカー。私の心があなたに惹きつけられたら良かったわ。魔法使いは平静さを必要とする。情熱は閉じ込めてあるわ」

 レテは答える。

「人の心は変わります。俺は信じています」

 ムカーは笑みを浮かべる。

「年寄りの何が悪いのですか、氷の魔法使い様?」

 デフォーはレテに問いかける。氷の鳥は彼の靴に到達する。

「あなたは特別かもしれない、デフォー。でも、他の年寄りと勘違いさせたくないわ。チャンスがあるって思われたら面倒、分かってくれる?」

 レテは答える。

「ごもっともな意見です。ギンドラのギルドの長老たちがあなたに近づこうとするのが目に浮かびます。彼らは自分たちを偉いと思っている。その経験が女性を惹きつけると自信を持っています」

 デフォーは答える。

「私は年に一度の集会で見かけるだけです。確かに偉そうです」

 ムカーはつぶやく。

「時が私たちを引き裂いた。同じ日に生まれたら私たちは結ばれたかもしれないわ。私にはたくさんの時間が残されているわ。あなたはたくさんの事を経験した代わりに私との出会いを失った」

 レテはデフォーに伝える。彼女は金ララリをカバンにしまおうとする。

「遅くはありませんよ、氷の魔法使い様。恋だけが男女の関係ではありません。私の経験が教えてくれます。賭けの賞品を決めました」

 デフォーはレテを見つめる。

「全財産ですか?デフォーさん、止めましょう!」

 ムカーは止める。

「私はあなたを一夜だけ好きになれない。年寄りが私を探し求めるのは趣味に合わないわ。他の女性に貢ぐべきね」

 レテは金ララリをカバンにしまう。氷の鳥も彼女の元に動き始める。

「男には女性が必要です。アーライト河の終点には私を待っている女性がいます。しかし、彼女たちはここにはいない。私には情熱が必要です。私はあなたを求めます、そして終点に向かいます。彼女たちは怒るでしょう」

 デフォーはレテを見つめる。奥で話を聞いていたアーシャが飛び出してくる。

「デフォーさん、会ったばかりの方に何を言っているのですか?きっとラトゥール様のせいで寝不足なんです。私も当番じゃなかったらお昼寝をしていました。何で友達を交代したんだろ」

 アーシャは後悔している。

「アーシャ、男にしか分からないことさ」

 ムカーはアーシャに伝える。彼女はムカーを睨む。

「私は彼女たちの代わりなの、デフォー?」

 レテはデフォーに問いかける。

「運命があなたをギルドに連れてきた。風は私には冷たかった。あなたの冷たい風は心地よい。旅の夜を思い出します。冬の凍てつく寒さ、しばらく感じていなかった。私はあなたに全てを渡します。久しぶりに思いっきり体を動かしました。私はやれます、冷たき風を共に歩みます」

 デフォーは剣をテーブルに置く。

「デフォーさん!」

 ムカーは感動している。

「氷の魔法使い様、二人に付き合う必要はありません。きれいな神官は私が絶対に探し出します。私の友人関係を信頼してください」

 アーシャはレテに伝える。

「全て?イマイチ伝わらないわね、デフォーは私に何をしてくれるの?依頼はアーシャにお願いする。ムカーも必要なら手伝いなさい」

 レテは二人に伝える。

「精霊の涙をあなたにお渡しします。アーライト河の終点には冒険者の夢がある。意味は明確です。しかし、私は何を願うのか?名誉、平和、女性。私の心は動きません」

 デフォーは答える。

「若返って私と共に生きる。どう?」

 レテはデフォーに告げる。

「氷の魔法使い様、止めてください。デフォーさんもホンキにしないでください!」

 アーシャは困り果てる。

「そして、あなたは私を残して去っていく」

 デフォーは答える。

「考えておくわ。私は彼を残すつもりはない、きれいな神官は彼の心を惑わす」

 レテは答える。

「彼氏にバレたら大変ですよ」

 ムカーが助言する。

「これでも足りないくらい、モテる女なの」


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