お母様
レテは大臣たちを気にせずに頭を激しく振る。フラフラする。大臣と秘書官は心配そうに彼女を見守る。
「ラトゥールの力を使いすぎたのかな。もしかしたら、英雄は頭痛で苦しくて王国を去っていったのかも知れないわ。英雄は人と話すのが苦痛になった。止まらない頭痛、私はどうなるのかな」
レテはカバンに入るだけのパーフェクトモチを詰める。まだ、袋にはたくさん残っている。彼女は考え込む。
「寝不足ではありませんか?私も頭が痛くなってきました。流星の落ちた夜からあまり眠っていません。今日はしっかりとお昼寝をして、夜もぐっすり眠るつもりです。一度眠ったら起きないので必要な事は今の内に尋ねてください」
大臣はレテに伝える。
「王都の状況、貴族の様子、他の街や村の事。一人の女性が流星に願いを込めて叶ったそうです。失くした結婚指輪が見つかったそうです」
秘書官は答える。
「気になる話だけど、気になるわ。私は願いを込めるのを忘れたわ。二人は何を願ったの?シャルスタン王国の繁栄かな」
レテは尋ねる。
「流星に願いを込めないなんて余裕すぎませんか、レテ様。結果は出ていますが、最後の最後に失敗したらレテ様の責任です。私は何度も練習したのでたくさんの願いを込めました。オイシイパン、ステキな休暇、穏やかな風、仕事で忙しくても怒らない女性、今年こそは風の大神殿に行きたい。これは無理ですね、災厄の準備で無理でしょう。他にも転ばないように、足がぶつかないように、まだまだ願いを込めましたがここまでにしましょう」
大臣は目を瞑る。無理をしたようだ。
「私は手紙を速く書くことが出来るようにと願いました」
秘書官は答える。
「大臣は叶いそうにない願いばっかり、私と変わらないかな。大臣が騎士団特製パンの残りを食べているのはみんな知っているわ。騎士団特製パンをオイシイって感じているようじゃ無理な願い。他は論外かな」
レテは大臣を攻撃する。
「毎日味が違うので楽しいですよ。たまにすごくマズイ時もありますが食べる事は出来ます。騎士団特製パンの予算を増やすつもりは私が大臣でいる間はないと思っていてください。美味しさは好みの問題です。飽きが来ないことが私にとっては重要な事です。フワフワのパンもオイシイですがカチカチのパンもすばらしい。他の貴族には不評ですがね」
大臣はレテの攻撃を受け止める。
「私はフワフワ派です」
秘書官は答える。
「その言葉は覚えておくわ。災厄を退けた後は大臣を糾弾するわ。自分の好みで騎士団にパンの予算をあげないってシグード様に言いつけてやるわ。手段は選ばない、この意味は分かるでしょ、大臣!」
レテは攻撃を強める。
「あの噂はウソです。アリエナイ話です。私はレテ様のお母様にはお世話になりましたが男性にはそれほど興味はないようでした。子供が欲しいとは仰っていました。自由な人でした。あんな人とは結婚したくないです」
大臣はつぶやく。
「アーライト河に飛び込むのが好きな方とお聞きしました。岸辺でレテ様のお父様と出会い恋に落ちた」
秘書官が答える。
「お父様くらいしか相手はいないよね。私が言葉を話せるようになったら旅に出るって約束で結婚した。その後は他の女性と付き合っても良いけど、結婚を解消はしない。きれいな人だからって結婚したってお父様は言っているけどシンジラレナイ」
レテの頭痛がヒドくなる。
「私の家庭教師なので優秀な方です。私の頭脳を鍛えた方です。レテ様よりも私の方がお話をしている、不思議な感覚です。一滴の水は運命を変える。しかし、あなたにはそれほどの才能はない。どうすれば良いか常に考えなさい。答えは出ていません。正解の賞品は銀ララリでしたがいつになることでしょう」
大臣も頭が痛くなる。
「王城の書庫に忍び込んだとの噂があります。これが原因だと思います」
秘書官がレテに伝える。
「みんな、上手に結びつけるのね。私には何も言葉を残してくれなかった、お母様はお父様に言ったらしいわ。この子は最初の風、でも、それだけでは足りない」
レテは大臣に教えてあげる。
「おお、どうして今まで誰にも言わなかったのですか。ラトゥールの末裔、レテ様のお母様はご存知だった。彼女もラトゥールの末裔だった。そうとしか思えません。ネアス様が足りない部分です。彼女はどこで生まれたんでしたか、秘書官様」
大臣は興奮する。
「王都の生まれです。父親は神官でしたが母親に出会い職を辞しました。その後は二人で家具作りを始めました。彼女も自分で椅子を作るのが好きだったと記録にあります。たくさんの椅子が家に残り、邪魔なようです」
秘書官はレテを見る。
「お祖父様とお祖母様は大事に椅子を残しているわ。私は捨てようって言っても思い出だからイヤだって大変、大変。私の家にあるものは全部捨てたわ、椅子だらけの家なんてダメ。お祖父様は今神官の手伝いをしているわ。人手不足で呼ばれたみたいね、お祖母様は私の恋人のためにステキなテーブルを作るんだって頑張っているわ」
レテが補足する。
「そうでしたね、風使いの村があると子供の頃に想像していました。しかし、現実はキビシイ、神官、家具職人、家庭教師、お父様の方は騎士、料理人、騎士です。うーむ、ラトゥールの末裔の謎は解けそうにありません。最初の風、全てはレテ様より始まる」
大臣は頭を痛くしながら考える。
「ネアス様の家系は調査中です」
秘書官は答える。
「王国には風がずっと吹いているわ。最初の風なんてアリエナイかな。もしも、そうだとしたらシルちゃんはどうなるのよ。私はシルちゃんの力を借りているだけ、魔力だって大臣より少ないかな。きれいでやさしくてかわいい女の子なのが取り柄かな」
レテは答える。
「シルフィー様、モーチモテ博士でも解けない謎の一つです。レテ様がラトゥールの末裔だとしても風の精霊であるシルフィー様の力をお借り出来る説明にはなりません。これは私が考える問題ではありません。災厄を追い払った後にモーチモテ博士が調査するでしょう」
大臣は答える。
「世界で初めて吹いた風、全ての王国の民は感じてみたいたでしょう」
秘書官がつぶやく。
「最初の風が吹く。私はどんな風を起こすのかな。違うのかな、私が最初の風なら起こす必要はないわ。風は運ぶ、昨日は大きな岩も乗せてくれた。ラトゥールの力も借りてだけどね。シルちゃんの力もあったハズかな」
レテは精神を集中させる。風は起きない。
「ラトゥール様のお力、災厄を退ける力。シグード様が調査中ですので安心してください。予測がつけば正しい対処が出来ます。一度は追い払ったモノです。二度目も上手くいくでしょう。先人の記録は我々の力になるでしょう」
大臣は書物漁りを思い出して頭痛がヒドくなる。
「我々の睡眠不足は無駄にはなりません」
秘書官が毅然と答える。
「最後の質問、大臣の昔の彼女のことを教えてほしいかな。貴族の噂は騎士にも入ってこないわ。誰にも言わないし、大臣の恋人の話をしたって盛り上がらないかな。私は遠いようで近い人、騎士団長と大臣が人前で話をすると疑いをかけられるわ。二人は共同で貴族のパーティーの予算を削ろうとしている。先制攻撃で騎士団特製パンの話題を仕掛けよう、私が熱くなるって知っているわ。メンドウなヤツラ!」
レテは激しく頭を振る。フラフラして倒れそうになるが持ちこたえる。
「パーティーは忙しいので参加できないだけなのですが、彼らは勘違いしています。初恋の人はとある神官の女性です。最初は私と同じ年頃に見えましたが、話をすると大人びていました。彼女は人々が忘れたことを探している。例えば、子供の頃の夢、リンリン森林の恵み、アーライト河の秘密。どれも大人になると忙しさにかまけて考えなくなります。レイレイ森林の湖、王族のおやつ、貴族の恋人の数。こちらも詮索したいのですが無理なので忘れます」
大臣は思い出す。
「大臣の睡眠時間、質素なローブの出どころ。仕事には関係ありませんが最初は気になりました。大臣の頭の中は今でも考えます」
秘書官が微笑む。
「ゴブちゃんの落とし穴の掘り方、私がイタズラした後にお父様は何を考えていたか、おやつをずっと食べたらおやつじゃなくなるのか。答えは出ないし、聞いても誰も答えてくれない。お母様がどこにいるかは興味がないかな、イタズラに引っかからない大人は信用できない。子供相手にムキになってバカじゃないのかな」
レテも思い出す。
「私は彼女に告白しました。いつか神官を辞める時があったら結婚しましょう。それは遠い未来の話になると思いますがよろしいでしょうかと伝えました。彼女は笑顔で見せてくれました」
大臣は息を吸う。二人は口を出さない。
「彼女は明日の朝に神官を辞めるので結婚しましょうと答えました。私は焦ってしまい声が出ませんでした。彼女は微笑み、神官はいつでも辞めることが出来るから別の約束をしましょうと提案しました」
大臣はレテを見る。
「相手のほうが一枚上手だったかな、大臣も初恋は失敗したのね。貴族は結婚を申し込むのが速いのが欠点かな、もう少し考えた方が良いわ」
レテは答える。
「貴族の恋は競争です。ご理解ください」
秘書官がレテに伝える。
「激しい争いが尊い恋を生む。話の続きですが、私が大臣になった時はどうでしょうかと伝えました。私は長い時間がかかると思っていました。当時の大臣は年配の方で信頼の厚い人物でした。彼女は大臣とは結婚したくないと断りました。神官よりも不自由な生き方を強いられるのはイヤだと強く主張しました」
大臣は答える。
「ちゃんとした人ね、きっとステキな人と出会って恋をしたのかな。彼女は商人や冒険者と恋をした。あるいは神官を続けているのかな、巡礼を終えても村々をまわる神官もいるって聞いたことがあるわ」
レテは大臣を見つめる。
「神殿に長くいるのも大変なようです」
秘書官がつぶやく。
「彼女は別れ際に興味深い話を聞かせてくれました。ある村で精霊の剣を望む男の子と出会ったそうです。彼女も精霊の剣は実在すると思っていたらしく、二人で祈りを込めたそうです。彼の名前はネアス・ローレン。フラレた後なので、しっかりと覚えています。彼は精霊の剣を手に入れた。物語の剣、隠れた光を探す剣。ガーおじ様にお聞きしました」
大臣はレテを見つめる。
「ガーおじ、お姉さん神官?油断できない人たち、どこにでも顔を出してくる!」




