メンドウなヤツ
レテは危険な発言をする。ミヤとモラは怯える。レテは静かに扉に近づいていく。礼拝堂からは声が聞こえない。
「どうして誰も話をしていないのかな。私とネアスの活躍で盛り上がっているハズなのに、変な感じ。ミヤは知っているんでしょ?」
レテはミヤに問いかける。
「ええと、ちょうど皆様の興奮は収まってお昼寝の時間です。ガーおじ様が起きた時が一番の盛り上がりでした。私も楽しくお話を聞きました」
ミヤはレテからちょっとだけ離れる。
「ガーおじも頑張ったから今回は許してあげようかな。特別って事ね。とりあえず、魔王の魂さん。相手の注意を引き付けてね」
レテは扉を少しだけ開いて魔王の魂を転がす。玉はコロコロと動く。レテは精神を集中させる。何も起きない。
「レテ様でも失敗する事があるんですね。安心しました」
ミヤは魔王の魂を見つめている。
「水の力を使える子みたいだけど私は風が専門だからね。水は飲むとオイシイ、ドリンクに必要。後はパーティーで人気者になれるかな」
レテは頭を抑えながら答える。
「どうしますか、レテ様。作戦失敗です」
ミヤはレテを見る。
「二人で行きましょう。今日も私はきれいでやさしくてかわいいかな、ミヤ。確認してくれる?ミヤはかわいいわ、未来はきれい。やさしさはこれからかな」
レテはクルリを回す。ゴブジンセイバーが外れて大きな音を立てる。
「今日のレテ様はうっかりに注意です。出かけるのは危険です。胸元もはだけています。男性の目線にも気をつけてください」
ミヤは微笑む。
「足は見られても構わないけど胸はダメかな。じっとはもちろんダメ、きれいだなってくらいで済ませるのが心得ね。わかってない人が多すぎるかな」
レテは胸元を直してゴブジンセイバーをしっかりと腰に収める。もう一度クルリを回る。髪飾りが落ちそうになる。レテは素早く受け止める。
「落とし物を探して隠すゴブリンはもういません。失くしたモノはどこにいくのでしょうか。落とし穴もゴブリンのせいに出来ません」
ミヤが不安を口にする。
「性格の悪いゴブちゃんもいるハズ。ラトゥールなんて興味がないゴブ、森で落とし穴を作り続けるゴブ、楽しいゴブ」
レテは答える。
「大きいゴブリンは俺は強いゴブって言いませんでした。実はショックでした。ゴブゴブと話してくれると思っていました」
ミヤは気になっていた事を口にする。
「ゴブちゃん神官もゴブって言わなかったわ。サービスが足りないゴブちゃん、どうしたレテ、困ったレテって今度会ったら、言ってあげようかな」
レテはジャンプする。服の隙間から銅ララリが落ちてくる。
「今日のレテ様はヒドイミヤ、どうして服に入るんですか。ララリはカバンにしまうものです。後はポケットの中です」
ミヤは銅ララリを拾い、レテに渡す。
「昨日ネアスが靴の中に銅ララリを隠していたから私もどこかに隠そうと思って服の中をゴソゴソしていたんだけど途中で眠っちゃったのを忘れていたわ。他には何もしなかったからダイジョブ、ダイジョブ」
レテは再びジャンプする。何も落ちない。
「大事な場面で銅ララリが体に付いていたら笑います。いえ、違います」
ミヤの顔が赤くなる。
「ミヤもお年頃、私は初めての恋人。ネアスはモテない期間が長かったみたいだし、色んな想像をしているのかな。貴族の近くにいるとイヤでも知識は入ってくるわ。何回目のデートであれ、これが良いってね」
レテは答える。
「付き合って二日目は何をなさるんですか。気になりますが無理しないでください。本で読んだことはあります」
ミヤはレテを見つめる。
「王国古来からの貴族の伝統では告白をされたら三日間は相手と会わない約束をする。自分の心を確かめる期間。そこで他に気になる人たちと話をして、迷いを振り払うか違う相手に鞍替えする。その相手が告白するとまた三日間の期間が与えられるわ」
レテは答える。
「そうです、二日目の朝に目覚める。その時に相手の顔を思い浮かべる。間違って違う相手を思ってしまったらダメです。でも、きちんと思い浮かべたら、その……」
ミヤは口ごもる。
「そんな古い風習を真面目にこなしている人なんていないかな。ミヤは神官見習いだけあって詳しいわね。てっきり抱きしめ合ったり、あーんしたり、と見せかけて蹴飛ばしたりするって思っていたかな」
レテはミヤを見つめる。
「フツウはそうですね。私は三日間の風習が好きです。告白した後に会えない、思いが募りそうです。寂しさではち切れそうになりそうで楽しみです」
ミヤは答える。
「昨日、ううん、今日かな。暗かったから分からないわ。とりあえず告白はしてもらったから今日は会えない。もちろん会うけどね。でも、朝は一緒にいたわ」
レテは答える。
「二日目の先取りですね。順番は大事なのでしょうか。始めから心を決めている人は一日目はひたすらガマンする。二日目にその相手と朝まで共に過ごす。三日目は風に運んでもらう言葉を二人で考える」
ミヤはうっとりする。
「迷いのある人は二日目の朝にあえて違う相手を思い浮かべる。次に告白された相手を思い浮かべる。心の迷いが取れたらガマンの日。ダメなら、また違う相手とお話に行く。細かいキマリばっかりでメンドウかな」
レテは答える。
「気のない人に告白されたら三日間毎朝、その人の顔を思い浮かべてあげる。そこまでしてあげたら振った相手も満足しないとイケません。相手に最大限のお気持ちを尽くしました」
ミヤは続ける。
「それをやった人は誰もいない。断言できるかな、好きでもない相手に告白されたらメンドウなだけ。貴重な朝を相手に捧げるなんてシンジラレナイ」
レテは不満を口に出し、頭を横に振る。フラフラする。
「私は男の子に告白された時に三日間の風習を試しました。待っていてください、考える時間が必要です。三日後に同じ場所で会いましょうって言いました。好きな子じゃなかったので毎朝思い浮かべました」
ミヤはレテに伝える。
「男の子は戸惑っていたでしょ。知っていたら大変、大変。フラれる事は確定、男の子は約束の場所には来ないハズ。私は真似出来ないかな」
レテは驚く。
「三日目に会いに行く時は心を真っ白にする風習です。相手を目の前にした時に思い浮かんだキモチを伝えます。チャンスは失われていません。ほぼ負け確定なのは事実です」
ミヤは答える。
「それは礼儀、目の前で考えが変わるような恋は長続きしないかな。明日はキライ、今日はスキ、昨日は無関心だったハズ。ミヤも断った、当然かな」
レテはミヤに尋ねる。
「もちろんです。三日間の風習を試してみたかっただけです。ごめんなさいって言いましたがその子に理由は教えませんでした。他の子たちにバラされたらバカにされるに決まっています。男の子は何も分かっていません」
ミヤは毅然として答える。
「三日間の風習は細かいキマリがたくさんあって大変なのよね。食べる物、時間まで指定することもあるらしいわ。背中を向けあって歩けば、不意の出会いは見逃される。足元ばかり見てぶつかるのはわざとらしいから別れが早くなる」
レテは思い出す。
「色々ありますよね、レテ様。手紙は知らない人に渡す。友達や両親に頼むのはキソク違反。危険があります、中身を見られたら大変です」
ミヤは答える。
「私には関係のないキソクかな。三日間の風習なんて古臭いわ。ミヤには悪いけど私は気にしないかな。他の人の顔を思い浮かべるなんてイヤ」
レテは言い放つ。
「レテ様は昨日の朝は誰の顔を思い浮かべたんですか?」
ミヤは尋ねる。
「自然と神官長の顔が浮かんだわ。メリゴーザを神官長に貰う約束だったから仕方がないわ。スキとかキライの問題ではないかな。これは二人の秘密よ」
レテは答える。
「今日の朝は顔が思い浮かんだんですか?」
ミヤはさらに尋ねる。
「ガーおじ、これは不可抗力かな。ガーおじの止まらない涙を朝まで見せられたら王国の誰もが頭にこびりついて離れなくなるわ。ガーおじがスキなのホントはって言っても誰も信じないかな」
レテは答える。
「レテ様は朝まで一緒に過ごして、告白も受け入れている。二日間、告白された人の顔を思い浮かべないのは特殊なやり方です。あえて、思い浮かべないことで想いを強めます。二人の絆を強くする方法です。でも……」
ミヤは言葉を止める。
「ミヤの考えすぎかな。順番は崩れているし、相手も同じように別の人の顔を思い浮かべる必要があるわ。三日目にその人の顔を思い浮かべられなかったら永遠の別れ。でも、相手も同じように思い浮かべられなかったら永遠の絆。二人が共にお互いを思い浮かべたら、別れは来ない。永遠かは決まっていない。ややこしくてメンドウになってきたかな」
レテは頭を激しく振る。彼女は笑みを浮かべる。
「詳しいですね、レテ様。私はこれ以上は詮索しません」
ミヤも頭を振ってみる。フラフラしない。彼女は不満げだ。
「ガーおじの涙を見たら頭が痛くなるわ。今度は一緒にじゃなくて、ミヤだけ見ると良いわ。私はもう満足したかな」




