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精霊伝説

 ドロスに案内された部屋には所狭しと書物が並べられていた。整理はしっかりしていないようで乱雑と転がっている書物や高く積み上げられて不安定にそびえ立っているものなど様々な本が置かれているようだった。

「神殿の中にはたくさんの本があるとは聞いていたわ。実際見ると圧巻ね」

 レテはそこらへんに落ちている本を取り、表紙を眺めてみる。

「呪いなんて存在しない。すべては気のせい。へえ、呪いは存在しないのか。僕は食べ物の味がしないと勘違いしていたのかな」

 ネアスが横目で本の表紙を確認する。

「ネアス殿、ウソをついていたのか。心配して損をしたのじゃ、今までの気遣いを返してほしいのじゃ」

 ガーおじはうろたえる。

「ガーおじは気を使ってないじゃない。おいしい、おいしいばっかり言っていてネアスの方が気を使っていたわよ」

 レテも本を見ている。

「特別な訓練を積んだ魔術師は呪いと似た効果を再現できるとその書物には書いてありました。そうですね、そこから初めて見ましょうか。準備をしてきます」

 ドロスは準備のために自室へと戻っていく。三人は書物部屋に残り、それぞれ本を物色し始める。

「精霊伝説ね。子供の頃に何度も読んだわ。中盤以降は主人公が海の怪獣の力を手に入れて世界中を旅するのよね」

 レテは懐かしそうにページをぺらぺらとめくっていって、お気に入りの場面を見つけたようだ。

「僕は途中までしか読んでないよ。最後はどうなるのかな、どれどれ」

 ネアスは最終巻を見つけて最後の辺りから読み始める。それを見ていたレテは急いで止めようとする。

「信じられないわ、ネアス。軽蔑するわ、最後だけ読むなんて意味不明よ。そこまでの流れが大事なのよ。一巻からもう一度読み返すのよ」

 レテはネアスから最終巻を取り上げて第一巻を手渡す。

「レテ殿、読み方は人それぞれじゃ。面白くない本は適当に流し読みするものじゃ。時間は有限なのじゃ」

 ガーおじは別の書物を手に取り、フムフムと読み進めている。

「一巻は何度も読んだし、僕の田舎だと三巻がなくて四巻はあったんだ。三巻を読んでみようかな」

 ネアスは一巻を片手に持ちつつ、三巻を探し出す。

「ガーおじ、精霊伝説を面白くない本扱いするのは私の敵ということよ。ネアスも事情は分かるけど、四巻を読むべきではなかったわね。決定的な間違いを犯したわ」

 レテはガーおじから本を取り上げ、表紙を確認する。

「相手の心を操る秘技ね。ガーおじは危ないことを考えているのね、思っていた通りだけどね。見かけによらずにあくどいとは思っていたけど、ほんわかおじさんではなかったのね、コワイ、コワイ」

 レテもその書物のページをペラペラとめくっていく。

「気になる表紙だったから見てみただけじゃ、ワシはほんわかなガーおじじゃ。このパーティーの良心じゃ」

 ガーおじはレテに復讐を誓う。

「レテの言う通りだけど、子供の頃の話だし許して欲しいな。確かに一巻は楽しいね、今ならサクサク読めるよ」

 ネアスは精霊伝説一巻を楽しそうに読み始める。

「相手をほめる、ほめる、ほめる。たまにお願いをする。さらにほめる、めげずにほめる。それでも相手は貴方をけなすでしょう。これって秘技なのかな、ほめる意味がないよね。ガーおじ、返すわ」

 レテは投げ捨てるようにガーおじに本を渡す。

「レテ殿、書物は大切に扱うものですぞ。しかし、ワシの正解のようじゃ。流し読みをしていくのじゃ」

 ガーおじはすごい速さでページをめくっていく。

「ガーおじ、もう読んでないでしょ。その程度の内容だから構わないけど、何でこんな本まで置いてあるのかな」

 レテは精霊伝説の最終巻を読み始める。ネアスも一巻を読む手が止まる。

「最終巻はまとめみたいなものよ。長く続くと期待が大きくなるのよねって。ごめんね、ネアス。余計な事を言ったわね」

 レテは心底済まなそうな顔をして、ネアスに謝る。

「レテ、構わないよ。最後に読んだのはずいぶんと昔だから、覚えているのは一巻くらいさ。二巻目以降はあいまいな感じなんだ」

 ネアスは気を使う。

「書物の内容など覚えられないのじゃ。記憶力が良い人がうらやましいのじゃ、ワシは記憶喪失で記憶力もないのか。がく然とするのじゃ」

 ガーおじは自分の発言に衝撃を受けて、部屋に横たわり休憩を取り始める。疲れていたのでちょうど良かった。

「私はちゃんとおぼえているけどね。一字一句とはいかないけど、しっかり流れは覚えているわよ。精霊が友であった時代の物語」

 レテはネアスを見る。

「僕もそこは覚えているよ。精霊と友達になろうって思ったんだけど、僕には無理だったね。レテはシルフィーと友達になって、すごいよ」

 ネアスはレテの手にある精霊伝説を見つめる。ガーおじは目を閉じ、静かに二人の話を聞いている。

「精霊伝説みたいに大男の火の精霊と一緒に旅はできなかったけどね。実際一緒にあんなのと旅をしたら、うざいよね。余計なことばっかり火の精霊は言うのよね。すぐに人の女の子に恋をするし、大変、大変」

 ガーおじはビクッとしてしまうが二人には気づかれずにホッとする。

「そうなんだ。僕は火の精霊みたいなお兄さんがいたら頼りになると思っていたよ。女の子にすぐに声をかけるし、戦いでも強い。カッコいいな」

 ネアスは答える。

「強いけど頭は悪いのよね。私はシルちゃんが一番、二番はウィルくんよ。二人とも頼りになるし、私の言うことを簡単に理解してくれるのよね」

 レテは答える。

「ウィルくん、レテの彼氏?」

 ネアスは彼氏の存在は予想していたが、思っていたよりも驚いてしまう。 

「ウィルオーウィスプのウィルくんよ。光の精霊っぽいから暗い時に便利なのよね。今は冒険で忙しいから、彼氏は募集していないかな」

 レテは答える。

 ガーおじはまたびっくりして声を上げそうになるがガマンする。

「ウィルくんの力もいつか見てみたいな。でも、彼氏なしだと言い寄られたり大変じゃないのかな。レテとは僕でもデートしてみたいくらいだからね」

 ネアスはレテに伝える。

「してみたいとか、思い出作りでもないんだからね。そんな考えだと精霊伝説の主人公みたいにハッピーエンドを迎えられないかな」

 レテはしまったという顔つきをする。

「二人は結ばれるんだ。ケンカばっかりだけど、ハッピーエンドで良かったよ。そこが一番気になって最後の方だけでも読もうとしていたんだ」

 ネアスは長年の喉のつかえが取れてすっきりしたようだ。しかし、レテは結末をばらしてしまって反省しているようだ。

「ごめんね、ネアス。五巻以降もいろいろ揉めて、最後までわからないのよ。そこが面白い所だったのに、楽しみうばっちゃったね」

 レテはカバンから何かを取り出そうとする。お詫びの品のようだ。

「精霊伝説ですか。ここの見習いの女の子たちも一巻を楽しく読んでいます。レテ様もお好きなのですか。あの子たちと話が合いますね」

 ドロスが大量の品を抱えて、部屋へと入ってくる。レテは急いでカバンから手を離す。

「僕も話ができそうだ。帰りに少し本の事をはなしてみようかな、僕より年下の子が多いようだから何とかなると良いけど……」

「神官見習いの子たちは頭が良い子から圧倒されないようにね、ネアス」

 レテは興味津々でドロスの持ってきた品を眺めている。

「私でも彼女たちに口では勝てないので、無理はしないほうが良いですよ。ネアスさん、何時間も話に付き合わされる覚悟がおありなら止めません」

 ドロスはネアスに教える。ネアスは逃げるように精霊伝説の一巻を読み始める。ガーおじも起き上がり、ドロスの品を眺めている。

「これで呪いが解けるかもしれないのね、検討もつかないけど面白くなってきたわね」


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