なみだ
レテはピョンと飛び起きる。誰も驚かない。ガーおじは涙を流し続けている。ゴブリンの盾の音も鳴り止まない。ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
「私は起きていることに賭けた。実際に眠れなかった、ううん、ドロスが来なかったらガーおじの話を子守唄にして眠れたかな」
レテはみんなに教えてあげる。
「すぐだったから問題ないさ。ドロスさんは何も悪くない、ガーおじが話を始めるタイミングが悪かったんだ。風の神殿特製ポーションが一番大事だ」」
ネアスは答える。
「ネアス様、ありがとうございます」
ドロスは感謝する。
「ゴブリンもワシの話を聞けば静かになるじゃろうか。大人の話は若いモノにはツマラナイモノじゃ。ワシは気にしていないのじゃ。刺激が足りないのじゃ、激しい話が必要なのじゃ。ワシの過去にはあったのじゃろうか」
ガーおじも眠いようだが涙が気になっている。
「勝者の時間です。それとも引き分けでしょうか」
キャビはレテを促す。
「私は選択を変えていない。表対裏の状態。キミの予想はハズレた。残念だったわね、ネアス。後は最初に私が勝っていたか負けていたか予想するだけ。私が起きているのをキミは知っていた。これは勝負に関係ない。選択は変えられる」
レテは答える。
「そうなのか、なんとなく勝負がオモシロクなるようにしただけだ。難しい事はレテに任せる。答えと裏表が違う。裏と表を合わせる事が勝利につながるのか、そうでないのか」
ネアスはレテを見つめる。
「オモシロイ、二人の問題じゃ。ワシの涙を止めてくだされ、ドロス殿」
ガーおじはドロスに頼む。
「全部出し切れば止めるでしょう。カラカラになったら水を飲めば問題ないハズです。私の専門は呪いと薬草です。涙を止める薬草、悲しみが残ります。私は知りません」
ドロスは答える。
「うれしい時の涙も止める必要はありません。しかし、ガーおじの涙は止めるべきです。彼に悲しみはないハズです」
キャビは催促する。
「とりあえず、風の神殿特製ポーションをもらおうかな。魔力がないのは不安、ラーナがいるからダイジョブだとは思うけどね」
レテはドロスを見る。
「どうぞ、お飲みください。効果は自分で確認しました。神官の秘技です、とっておきの技です。清らかなる風よ」
ドロスが祈りを込める。レテたちを風が包み込む。風が彼女たちの服や皮膚にこびりついていた小さな石や砂、汚れを吹き流す。レテは笑顔になる。
「ありがと、ドロス。今日はお風呂に入れなかったから心配していたの。これで正真正銘きれいでやさしくてかわいい私の復活かな」
レテはネアスを見つめる。
「キミはいつでもきれいでやさしくてかわいい。モテる男なら言うハズだ。でも、僕は勝負の結果が気になって仕方がない。レテの選択次第では僕の勝利もある」
ネアスは答える。
「結果はお預け、ガマンしてね。ドロス、ポーションはどうやって作ったの?気になる、気になる」
レテはドロスに問いかける。
「無いモノはある。不思議な出来事です」
キャビはつぶやく。
「聞いていなかったのじゃ。最初から話を聞きたいのじゃ」
ガーおじはドロスに伝える。レテは大きく首を振る。
「材料があれば風の神殿特製ポーションは作る事が出来ます。場所は高級宿です。商人の方々が多くいます。裕福な人たちです。私は副騎士団長とアーシャさんに材料を伝えて、商人の方々に協力を依頼するように頼みました。レテ様の名前を出せば簡単です」
ドロスは答える。彼はレテにポーションを手渡す。
「二人は何で来ないのかな、デカいゴブリンは外にいるハズ。みんなで協力するのが一番かな。全部私に任せるつもりかな」
レテはポーションを見つめる。
「レテ殿とネアス殿がイチャイチャしている時にアーシャ殿と副騎士団長。ドーミ殿、セオ殿は頑張っていたのじゃ。デカいゴブリンはカチカチだったのじゃ、攻撃が効いてなかったのじゃ。みんな、彼氏も彼女もいないのじゃ」
ガーおじはレテに訴えかける。
「この場所ではガーおじだけ恋人がいない。キャビもいる雰囲気だ。ドロスさんにはギンドラの街がある」
ネアスは答える。
「私には思いを寄せる人がいる。かすかですが覚えています。あの人も私を思ってくれているでしょう」
キャビは答える。
「ギンドラの街では楽しいお話をするだけです。誤解を招くような表現は止めてください、ネアス様。女性に飢えていないのは確かです」
ドロスは自信を見せる。
「副騎士団長は以前結婚していたし、ドーミはわざとモテないようにしている。アーシャは相手をしっかりと選んでいる。あの子は焦る必要は全く同じ、ラーナは問題外。誰でもイケる。クロウはモテるでしょ、歌も踊りも上手いわ。ガーおじの予想は的外れかな」
レテは辛辣な意見を述べる。
「みんな、眠いのさ。朝は近い」
ネアスは空を見る。星の姿は見えにくくなっている。
「違うのじゃ、レテ殿はイジワルなのじゃ。涙が止まらないのはレテ殿のせいなのじゃ。眠気のせいなのじゃ。本心じゃないのじゃ」
ガーおじはごまかす。
「レテ様、風の神殿特製ポーションをお飲みください。朝日とともにデカいゴブリンが突撃してくるかもしれません」
キャビがレテに伝える。
「材料はしっかり集まったの、ドロス。レイレイ森林で取れる薬草を運良く商人が持っていたのかな。いくら私が幸運の女神様でも運が良すぎるわ。シンジラレナイ、ビックリかな」
レテはポーションを飲まない。
「代用品で作りました。魔力は回復します。私の秘技も問題なく行えました。少し味が違うだけです。草原で取れる薬草を使いました。貴重な品で初めて私もポーションに使いましたが成功しました。日々の積み重ねです」
ドロスが答える。
「いつもと違う味も気分転換になる。ドロスさんの新しい風の神殿特製ポーションを飲めるなんてうらやましい。モテるようになるかもしれない」
ネアスはレテのポーションを見つめる。
「ちょっとだけほしいのじゃ、レテ殿。きれいでやさしくてかわいいレテ殿、ワシだけがモテない。レテ殿が言ったのじゃ、ワシに必要なモノじゃ」
ガーおじはレテに訴えかける。
「ガーおじ、あきらめなさい。あなたの好みの女性はダメです。ポーションでモテるハズがありません」
キャビが答える。
「風の神殿特製ポーションです。ネアス様、変な効果を期待しないでください。その効果は呪いに近い、マズイポーションです」
ドロスは急いで訂正する。
「半分はネアスにあげる、ガーおじにあげるかはキミが判断しなさい」
レテは精神を集中させる。風の神殿特製ポーションを風が包み込む。彼女はポーションを開けて傾ける。風が液体を包む。残ったポーションを風がネアスの手に運ぶ。
「三人は一緒さ!」
ネアスは風の神殿特製ポーションを傾ける。風が液体を包む。ポーションはガーおじの手に届く。彼はポーションを掴む。
「モテる効果はありません」
ドロスは最後に伝える。
「魔力が回復するだけで充分です。素晴らしいポーションです」
キャビはつぶやく。
「飲むのじゃ、モテろ!」
ガーおじは願いを込める。三人は同時に風の神殿特製ポーションを飲む。レテとネアスは風の玉を飲み込む。ガーおじはポーションから直接飲む。
「明日の朝は寝不足で機嫌が悪い人が多いからナンパは止めよう、ガーおじ。お祭りの日が良い。狙いを定めて、コワイ目に合わないようにしよう」
ネアスはガーおじに伝える。
「魔力は回復したわ。ドロスの調合は信頼できるようね、これでデカいゴブちゃんが来ても相手は出来るかな」
レテは門を見つめる。動きはない。
「涙を止めてからナンパじゃ。ワシは生まれ変わるのじゃ、モテない同盟の盟主は卒業じゃ。ワシの涙が枯れた時、それはモテる時じゃ」
ガーおじは宣言する。
「朝ですね、応援は必ず来ます。眠る事も出来ます」
キャビは空を確認する。
「キャビ様はどこに目があるのですか。女性の声ですし、気になる事がたくさんあります」
ドロスも緊張を解く。
「ガーおじの涙は僕が止めて見せる。ラトゥール、力を貸してくれ」
ネアスは精神を集中させる。金色の銅ララリがカバンから飛び出す。
「魔力は温存した方が良いかな。王都からの応援は出発したとは思うけど、すぐには到着しないわ」
レテはネアスに忠告する。
「そうじゃ、ネアス殿。ワシの涙に魔力を使うのはもったいないのじゃ。もしもの時に取っておくんじゃ。レテ殿の助言は正しいのじゃ」
ガーおじは涙がさらに出る。
「精霊の涙は願いを叶えると聞いた。ガーおじの涙はどんな力を秘めているんだろう、真の盟主のための涙。暗闇で記憶を失くして一人でいる盟主への涙。彼は寂しいのだろうか、それとも気楽なのだろうか。雲がない場所」
ネアスは暗闇を思い浮かべる。金色の銅ララリはガーおじの涙を受け止める。トゥールがマントから飛び立ち金ララリを上空に飛ばす。
「モラはダメ、見学、見学」
レテはトゥールの後を追いかけようとするモラを捕まえる。モラはレテの胸の中に入っていく。
「おじさんの涙、好きな方は少ないでしょう。物好きはいますので安心してください。ゴブリンの騒音を止める。街の人々は願っています」
ドロスはガーおじに伝える。
「記憶を戻す。一択です」
キャビが答える。
「ワシの願いはレテ殿とネアス殿をお守りすることじゃ。しかし、自分の力でやるのじゃ。涙の力は必要ないのじゃ」
ガーおじは答える。
「ネアス、オシマイ。後は待つだけかな」




