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ソラへ

 レテはドロスをニラミつける。ドロスは静かにガーおじの元に歩いていく。ネアスたちは彼をじっと見つめる。礼拝堂の中は光の風で充満している。ゴブリンの盾を叩く音は続いている。ドン!ドン!ドン!

「こういう事って起きるの、ドロス?」

 レテはドロスに問いかける。

「ラトゥール様、ガーおじ様、キャビ様。ネアス様、レテ様。皆様に起きている事は私の研究の範囲を超えています。二人は記憶を共有している。亡霊ではない。ネアス様、王家の短剣をお取りください。ラトゥール様の遺産、何かが起こるでしょう」

 ドロスはガーおじの様子を見ながらネアスに伝える。

「王家の短剣。伝承のみの存在だと思っていました。ラーナのご両親も知らなかった。王族は口が硬いようだ。しかし、俺はここにいる」

 クロウはニヤつく。ミヤはクロウを見つめている。

「あんな顔していたかな、あそこまでヒドくはないからダイジョブ、ダイジョブ。何事も訓練、訓練かな。ウィルくんも登場してもらおうかな、みんな一緒が一番、一番」

 レテは精神を集中させる。ミヤは黙ってうなずく。ウィルくんはレテの頭上に現れ、フラフラする。

「何が起こるんだ。僕は知っていてもよいハズなのに!どうして僕は何も分からないんだ、風の槍は何を望んでいるんだ」

 ネアスの混乱は止まらない。

「ネアス様、銅ララリの謎は人生に関わる問題です。私は恋が出来ない、いいえ、したことがない。ネアス様ご理解していただきました。銅ララリも恋も解決できない謎かもしれません。焦る必要はありません」

 ドロスはネアスに伝える。

「あれは今後の生活の話です。ラトゥールには関係がない」

 ネアスは答える。

「ラトゥールは大鳥、カザトリが運んでくれる銅ララリ。関係があるのは予想できたかな。私はタダのいたずらだと思っていたわ。ネアスは真剣に考えていたわ、一緒にいた私は知っている、ウソじゃない」

 レテは答える。

「高級宿でもあなたは熱心に銅ララリで色々と試していました。まさか、ララリに力が込められているとは思ってもいませんでした。ララリは大事、ララリは大事、ララリが消えた」

 クロウがネアスに伝える。

「ララリが消えた、どこかに消えた、光も消えた」

 ネアスがつぶやく。彼の声に反応してララリが消える。光も消えた。礼拝堂の中はウィルオーウィスプの柔らかい光のみで照らされている。クロウは扉の外に出る。ドロスも続く。

「外の明かりも消えた!」

 クロウが大声で叫ぶ。ゴブリンの盾の音も消える。

「ネアス殿、何が起こるのじゃ。ガーおじも心配なのじゃ。光は必要じゃ」

 ガーおじがつぶやく。

「ウィルくんの光だけ、これも良いかな。ネアス、ガーおじ、ミヤ。私たちも外に行きましょう。全ての光が消えた世界、一度は見てみたいわ」

 レテはネアスの手を取る。彼はレテに引っ張られて扉の外に出る。トゥールも輝きを失い彼女たちの後を羽ばたく。小さい風の槍、銅ララリ、精霊伝説、ストーンシールドがゾロゾロと後をついていく。神官長は後ろに続く。

「ミヤ様も行きましょう、光は戻ります」

 キャビがミヤの手を取る。

「レテ様はオモシロイ方ですが、ネアス様も不思議な方だ」

 ドーミもいつの間にか休憩室から抜け出してきたようだ。

「もちろんです、ドーミ様、キャビ様、ガーおじ様」

 ミヤは駆け足で二人を追いかける。二人が外に出ると街を照らしていたゴブリンのたいまつの明かりは消えていた。いつも街を明るくしている光の魔法紙も力を失っているようだ。夜空を見上げても星の光は見えない。ウィルくんの光のみがレテたちを照らしている。

「レテ様、何が起きたんですか?ゴブリンの仕業ですか、どうしましょうか?」

 アーシャは恐る恐るウィルくんの光の下に来る。

「ララリが消えた、ララリを探せ、ララリは大事」

 レテは言葉を唱える。何も起こらない。彼女はネアスの手をギュッと握る。彼はガマンする。

「ララリが消えた、ララリを探せ、ララリは大事」

 ネアスも唱える。何も起こらない。彼の手が震える。

「僕は浮かれしすぎていた。ラトゥール、レテ、幸運の女神。色んな人たちとの出会い、変な出来事だった。全ては罠だったんだ。失敗は許される、しかし、裏切りは許されない」

 ネアスはつぶやくとレテの手を離そうとする。彼女は彼の手をさらに強くギュッと握る。ネアスは痛い。

「ネアス、考えすぎかな。キミ一人で王国中の光を消すなんて不可能、ラトゥールのイタズラね。言う事を聞きなさい!」

 レテは精神を集中させる。風が巻き起こる。彼女はさらに精神を集中させる。街に風が流れ込む。夜風がひんやりしている。モラがキャビのお皿に乗り戻ってくる。すぐに胸元に入る。

「気持ち良い風です。お星さまがあれば問題ありませんでしたが、ウィル様の光だけでは周りが見えません」

 ミヤが答える。

「レテ様を差し出せば光は戻るのでしょうか。しかし、ネアス様には出来ません。タダのごろつきの言葉です。忘れるのが一番ですよ、ネアス様」

 ドロスがネアスに伝える。

「ごろつきは私に任せてください。以前は飲み屋で無双しました。そのせいで剣の訓練の時間を取れずに腕が上達しませんでした。やり口は把握しています。ネアス様がご心配する必要はありません」

 ドーミが答える。

「ララリを探せ!」

 ネアスは片手で靴を脱ぐ。銅ララリが二枚出てくる。彼は靴を履き、銅ララリを握りしめる。レテは感心する。

「キミはたくさん隠し事があるのね。お姉さん神官、靴の中の銅ララリ。他にもあるでしょ?この機会に話して方が良いかな」

 レテは周囲を見渡す。アーシャ、クロウ、神官長、ドーミ、ドロス、ミヤ、ラトゥールの仲間たち、ガーおじとガーおじがいる。レテはもう一度確認する。

「ガーおじの隣にいるのはキャビなのかな。キャビはガーおじでしょ?」

 レテは困惑する。

「何じゃ、レテ殿。ワシの中にキャビ殿がいる。不思議な事を口にしても驚かないのじゃ、ワシは一人じゃ。恋人探し中じゃ」

 ガーおじは横を見る。ガーおじがいる。

「うおーーーーーーーーーー!」

 ガーおじが悲鳴を上げる。レテたちは耳を抑える。

「ガーおじ、落ち着きなさい。キャビです。あなたには分かるハズです。今日一日共に過ごしました。あなたはレテ様の失敗、焦げた騎士団特製パンの秘密を探る方法を考えていました。私しか知り得ないことです」

 キャビがガーおじに伝える。ガーおじは冷静になる。

「あれはアーシャの失敗、みんなはきちんと覚えてね。ガーおじはイジワルだから私の失敗にしたの?うらみはコワイ、コワイ」

 レテはみんなに伝える。

「レテ様、あの時は二人の失敗だから気にしない、気にしないって言ってくれました。ウソだったんですか?」

 アーシャはレテを問い詰める。

「アーシャも成長したからダイジョブ、ダイジョブ。もう一度言ってあげる、気にしない、気にしない。それよりキャビはガーおじ、ガーおじはキャビ」 

 レテはごまかす。彼女は二人を見比べるが服装も同じで見分けはつきにくいがキャビは凛々しい顔つきをしている。レテはドロスを見る。

「亡霊の中には自分の姿を忘れてしまった悲しい者たちもいます。キャビ様も亡霊に近い存在だとしたら?記憶もない、ガーおじ様の姿で現れた。亡霊は暗闇を好みます。これは研究です」

 ドロスが予想を絞り出す。

「悲しいモノだと、イヤな男だ」

 キャビはカチンとくる。

「ドロス殿、キャビ殿が不快に感じているのじゃ。あやまるのじゃ。すぐにじゃ。一日共にいたワシには分かるのじゃ」

 ガーおじは焦る。

「ドロスも悪気があったわけではありません。キャビさん、無礼な発言をお許しください。彼も私も研究熱心なだけです」

 クロウがドロスを弁護する。

「クロウ、ありがとうございます。不幸、いいえ、美しい女性に姿を変える亡霊よりはマシです。未だにレイレイ森林でだまされて湖に落ちる男はいます」

 ドロスは余計な発言を繰り返す。

「わざとだからね。うっかりじゃないわ、彼らのやり方かな。本音を隠すつもりがないのよ、モテる男の弱点かな」

 レテは答える。

「レテ様、騎士団特製パンの件は終わりですか?納得できません、二人の失敗です。私一人の責任ではありません」

 アーシャが蒸し返す。レテは無視する。

「キャビ様の記憶は戻らないのですか。ガーおじ様の姿ではややこしいです。誰か、思い浮かべられる姿はありませんか?」

 ミヤは危険を察知して話題を変える。

「やってみます」

 キャビは精神を集中させる。彼女を暗闇が包みこむ。キャビの姿は消えた。

「キャビが消えた、キャビを探せ、キャビは大事」

 ネアスが言葉を唱える。小さな風の槍から光の風がキャビのいた場所に流れる。暗闇に光の風が流れていく。小さな風の槍は速さを増す。ララリが暗闇に動き出す。表、裏、表、裏。暗闇が徐々に晴れていく。みんなは黙って見守っている。ネアスはレテの手を握りしめる。

「ホントに何も知らないの、ネアス?」


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