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魔王ゲーム

 神殿の外ではゴブリンの盾を叩く音が続いている。アーシャとドーミに変化はない。キャビも横たわっている。

「アーシャの登場はまだね、聞かせてもらえるかな」

 レテは二人に問いかける。

「ドーミさんは静かな方のようでネアス様に小声で話していました。キャビ様は笑っていました。クロウさんもニヤニヤしていました。その後、皆さんはモテる方法について話をしていたようです。声をかけるコツとかデートの誘い方とか聞こえてきました」

 ミヤはレテに伝える。

「男の人はいつも集まるとその話を始めるみたいね。女の子にアドバイスしてもらった方が早い気がするかな」

 レテはドロスを見る。

「他愛もない話です。ご理解ください。私はドリンクを運び、話に加わりました。詳しい事はネアス様にお聞きください。外が暗くなると三岩人のドン様がネアス様とレテ様を歓迎会にお呼びに来ました。レテ様が帰ってくるまで待つ事にして、我々は軽い遊びをする事にしました。いえ、関係のない話です」

 ドロスは答える。

「私は神官長の様子を見るのと食事の準備をしていました。キャビさんが食事の準備を手伝ってくれました」

 ミヤが答える。

「男が集まると大変、大変。ミヤ、お疲れ様。今度、どこかに遊びに行こうね。遊びの話が気になるわ、ドロス」

 レテはドロスに問いかける。

「魔王ゲームをしました。昔からあるゲームですのでドーンさんもご存じです。説明は省きます。それで……」

 ドロスが話を続けようとするとミヤが口を挟む。

「私は知りません。どうしてでしょうか?」

 ミヤはレテに質問する。

「最近は流行ってないみたいね。私たちが最後の世代ね。勇者ゲームが廃れたから仕方がないかな。ドロス、お願い!」

 レテはドロスに任せる。

「魔王ゲームは魔術師が魔王になるまでのゲームです。全員が魔術師となり競い合い、勝者が魔王です。そこで終わりです。大事なところです。それぞれ魔術を選んで、相手に向かって使います。火は水、水は土、土は風、風は火に強い。自由に魔術を選び競います。人が多い方が楽しいゲームです」

 ドロスが説明する。

「どうして廃れたんでしょうか、ミヤ?」

 レテはミヤに問いかける。

「単純そうなゲームなので飽きたのでしょうか。人を集めるのが大変、あるいは不正を行う人が多かった。どれかは当たりのハズです」

 ミヤは答える。

「自由に選べるというのが問題で引き分けが多いのです。勝ち負けがつかないと盛り上がりにかけます。初対面の方で遊ぶには最適です。負けが少ない事は利点です」

 ドロスが答える。

「補足としてはわざと引き分けにして嫌がらせをする人も出てきて、ケンカが多発したわ。飲み屋では大変だったらしいわ。副騎士団長の経験談、ミヤも半分は当たりかな」

 レテはミヤを見つめる。

「風対風は引き分けです。二人では盛り上がらない気がします。イジワルな男の子は多いので納得です」

 ミヤは答える。

「我々はクロウさんとドンさんのモテ話を聞きながら、軽く魔王ゲームで遊んでいました。引き分けが続きましたが誰も気にしていませんでした。ネアスさんがドーミさんとドーンさんの番を間違えたのが最高潮でした」

 ドロスは静かに語る。

「ドロス、ドン、ドーミ。ネアスじゃなくても間違えそうかな。ドドド!」

 レテは答える。

「私の友人にはドーラ、ドーレ、ドンガもいますのでドドドド会を開きます。気楽な集まりですがレテ様はお呼び出来ません」

 ドロスは不敵な笑みを浮かべる。

「ドさんは王国で多い名前なのでうらやましいです。ミさんは負けています。レさんは相手にもなりません」

 ミヤは勝ち誇る。

「数より質かな。私は何十人分にも値するわ。ドさん、ミさんは余裕を持ち過ぎかな。今に見ていなさい」

 レテは悔しさを噛みしめる。

「話がそれました。魔王ゲームを楽しんだ後はレテ様の帰りを待つか先に歓迎会に向かうかで話合いを行いました。結局行かない事に決めました。お腹が減ったので別のゲームをしようかと思った時にラトゥール様がネアス様にお届け物を持ってきました。ネアス様は一人で作業をしていました」

 ドロスが答える。

「ミヤはのぞき見したんでしょ、どんな感じだった?」

 レテはミヤに尋ねる。

「頑張っていました。黙ってナイフを使っていました。緊張していた感じです」

 ミヤは答える。

「その後、ネアス様もラトゥール様にお届け物を頼みました。ラトゥール様の姿を見たのでしょうか、アーシャ様がひょっこりと顔を出しました。ドーミ様はドン様の背後に隠れました。私も何かを感じたのでアーシャさんに声をかけに行きました」

 ドロスは続ける。

「私のせいじゃないかな。言い方が大事、ドロス。アーシャは時間かなと思って私に会いに風の神殿に来た、ううん、それじゃダメ」

 レテは焦る。

「騎士団の方々が風の神殿に来たと街で聞いたんだと思います。ネアス様のせいですね」

 ミヤがレテの援護をする。

「そう、それ。ネアスのせいで決定ね。ドロスが彼をかばってくれたのはうれしいけど真実は別かな。ネアスはいつもメンドウな事を持ち込むわ、大変大変」

 レテは納得する。

「お二人の問題です。アーシャ様はドーミ様の気配が分かるのでしょうか、いつもと様子が豹変しました。私の口からは語りたくありません。キャビ様は二人の間に立ちふさがりましたが、槍で足払いをされて転びました。ショックだったのでしょう」

 ドロスの話は続く。

「アーシャも成長したわね。昔だったら槍で薙ぎ払われていたかな、部下の成長は喜ばしいことね。私の指導が良かったのかな、貴族に手を出しちゃダメ。ゴブちゃん相手の時は手加減して体力温存、他には思いつかないかな」

 レテは考える。

「キャビ様はケガをしていませんでした。記憶も戻ってないそうです」

 ミヤが補足する。

「ドーミ様はあきらめたようでアーシャ様の前に姿を現しました。二人は挨拶をして武器に手を添え、牽制し合いました。ドン様は外に出ようとしました。私も後に続き、ネアス様はお二人にお声をかけました」

 ドロスがレテを見る。

「意外、ネアスはメンドウな事に自分から飛び込まないと思っていたわ」

 レテは驚く。

「魔王ゲームで決着を付けましょう。アーシャ様は大きく首を横に振りました。ドーミ様はうなずきました。少々ややこしくなりました。ネアス様はドーミ様と勝負をしました。ネアス様の負けです。次にアーシャ様に勝負を挑みました」

 ドロスは続ける。

「アーシャ様はうなずきました。アーシャ様が勝ちました。失敗はしましたが時間は稼げました。その間にソラトブイワが空に出て、デン様、カーン様、副騎士団長、騎士の皆様が集まりました。ゴブリンの盾の音もずっと続いています」

 ドロスは疲れてきた。

「こっちも色々合ったのね。てっきり、みんなでゆっくりと遊んでいたと思っていたわ。ネアスも無理したみたいね」

 レテはネアスを見つめる。彼の準備は整ったようだ。三岩人がひざまずき、祈りを唱えている。

「カーン様が一度戻られて鎧と歓迎会の料理を町長さんたちと持ってきてくれました。キャビ様も起き上がって食べた後に皿を取り出して、神殿の外に放り投げました。お皿は空に飛んでいきました」

 ミヤが交代する。

「食事の後に副騎士団長が二人に何か言おうとしたら、アーシャさんの足払いが炸裂しました。副騎士団長は起き上がって、ガイさんとセオさんに何もなかったかのように話をしました。その後は三岩人さんがネアスさんに鎧を付けはじめて、調整していました」

 ミヤが話を終える。

「風の神殿から一人ずつ姿を消して私が到着した。これは私が魔王ゲームで二人に勝って言う事を聞かせろって事かな。私の直感が告げているわ」

 レテはアーシャを見つめる。彼女は下を向いたままだ。

「ソラトブイワが動き出すかもしれません。時間は限られています。そうでした、ラーナ様、マリー様はご一緒ではないのですか?」

 ドロスはレテに問いかける。

「二人は秘密の場所にいるから安心、安心。街の中より安全かな」

 レテはアーシャの元に向かうと決めた。彼女は歩き始める。

「レテ様、がんばってください。アーシャ様をお助けできるのはレテ様だけです」

 ミヤは手を振る。

「魔王ゲーム、幸運の女神様の勝負を受け入れるのでしょうか」

 ドロスはつぶやく。レテは突如走り出し、アーシャに突っ込んでいく。アーシャはレテの動きに反応して頭を上げる。アーシャの足払いがレテの足元を襲う。レテは軽くジャンプして避ける。

「魔王ゲーム開始、アーシャ。三つ選びなさい」

 レテは頭の中で風、火、水を想像する。アーシャは槍を薙ぎ払いながらうなずく。背後にジャンプする。

「シルフィー、行くわよ!」

 レテは精神を集中させる。彼女の手の中に風の槍が生じる。

「一つ目、勝負!」

 レテは風の槍でアーシャの足元を狙う。アーシャは魔力の槍で受け流す。

「風、風」

 二人の女性の声が礼拝堂に鳴り響く。アーシャはレテを見据える。

「二つ目です、勝負!」

 アーシャは魔力の槍で風を巻き起こす。激しい風がレテに迫る。レテは風の槍を風の中央に突き刺し、振り上げる。風は天井に飛散する。

「火、火」

 二人は同時に叫ぶ。三岩人は急いでネアスを礼拝堂の奥に持っていく。ドーミも四人に続く。

「これで最後、引き分けはダメ。無制限勝負、ラスト一つ目!」

 レテは風の槍を構える。頭に水、風、土を思い浮かべる。

「レテ様、しっかり防いでください。ホンキで行きます」

 アーシャは精神を集中させる。魔力の槍が天井で渦巻いていた風を纏う。魔力の槍は轟音を上げる。アーシャは一気に突っ込んでくる。

「私も守るのはキライかな、アーシャ!」


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