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ソラトブイワ

 大きな岩はゆっくりと空を飛んでいる。ストーンマキガンの街に到着するには時間がかかりそうだ。レテとラーナは光る大きな岩を見つめている。

「あの速さなら当たらないかな。余裕過ぎよね、魔術でふっとばされない、ラーナ」

 レテはラーナに尋ねる。

「空に向かって魔術を使った事はないわ。王都の魔術師も同じかしら、モーチモテ博士は試した事があるかもね。でも、木の上からなら撃ち落とせると思うわ。高さが同じくらいね」

 ラーナはやる気を示す。

「こっちの場所もバレるけど、すぐにシルちゃんにお願いして飛び立てばダイジョブ、ダイジョブ。あんなにゆっくりだと落としたくなるかな。アッチが悪いわ、門を壊すつもりでしょ、きっと。問題はないわ」

 レテは賛成する。

「任せて、レテ。でも、ゴブちゃん神官が乗っていたりするのかしら。亡霊になってうらまれることはないわよね」

 ラーナは不安を伝える。

「魔力の泉の近くまで歩いて来られるのに、大事な時は岩に乗って、飛んで登場。私に対する当てつけかな。おっそいし、速く吹っ飛ぶのが楽しいのにゴブちゃんは何も分かっていないかな。ゴブちゃん亡霊、遅い岩のゴブちゃん、おっそいゴブちゃん神官」

 レテは悪口を言う。

「お腹が減ると不満が出てくるわ、不思議。私は荷物が多くなるのがイヤだから何も持っていないわ。レテは非常食を持っているんでしょ」

 ラーナは空飛ぶ岩が遅いことにイライラしてくる。ドン!

「パーフェクトモチは常備しているけど気分が乗らないかな。今は特製たまごサンドが良いわ、騎士団特製パンでもありがたいわ」

 レテはカバンをゴソゴソする。

「マリーの特製ドリンクを貰ってくれば良かったかしら。ていうかデフォーが倒れ込まなかったらマリーも一緒にいたわ。風酔いに効く特製ドリンクもあったハズ。年寄りを仲間に選ぶのは失敗ね」

 ラーナはデフォーを無視することにした。

「風酔い、オモシロイ言葉。あれは岩酔いかな。あんなにゆっくり空を飛んでいたらツマラナイわ。すぐに撃ち落とされるからゴブちゃんは乗ってないと思うわ」

 レテはニャン族特製ドリンクを取り出す。レテはラーナに手渡す。ラーナは無言で受け取る。

「違う気がしたけど一応、私もいらないかな。オイシイ料理を食べた後は飲みたくなるけど、お腹が減っている時はいらない。不思議なドリンク、他にないかな」

 レテがラーナに説明する。

「キライじゃないわ。飲みたくないわけでもないわ。気持ちが悪い時に飲むドリンクではないかしら。薄い甘さがしつこいのよね、変な味が好きよ」

 ラーナはカバンにしまう。

「一度街に入って食料を調達してこようかな。すぐに戻ってくるわ、メンドウな仕事は副騎士団長に任せてじゃなくて。私は不確かなソラトブイワの調査を優先する。副騎士団長は融通がきかないのが欠点」

 レテは門の下のゴブリンを見る。彼らは盾を叩き続けている。ドン!ドン!

「ソラトブイワの相手をするなら外の方が適しているわ。街の中だとヤジウマもうるさそうだし、ゴブリンもウルサイ。ソラトブイワを炎の魔術で吹き飛ばす。興奮してきたわ。バレたらどうするの、レテ」

 ラーナがレテに尋ねる。

「魔術で姿を隠す方法はないの、ラーナ。魔術師の秘技。騎士の秘技を交換に教えるわ。どうかな、条件は悪くないハズ」

 レテはラーナに交渉を持ちかける。

「そんな便利な魔術があったら貴族のへぼ魔術師が悪用するわ。そうね、レテだとバレない方法。フードをかぶるだけじゃダメかしら」

 ラーナが答える。

「きれいさはごまかせるけどやさしさとかわいさでバレるかな。王都でも隠さない時より声をかけられるわ」

 レテが答える。

「やさしさは、そうね、腹減っただけ言えば良いわ。気持ちはこもっているし、やさしさは感じないハズ」

 ラーナが提案する。レテはうなずく。

「腹減った、かわいさが出る危険性があるかな。芋づる式にきれいさまで到達してゴブちゃん神官まで伝わったら大変、大変」

 レテが答える。

「かわいさを消す。レテじゃなくなるわ、騎士団長で精霊使いのレテ。想像がつかないわ、彼女は何を考えているのかしら」

 ラーナは考える。ドン!ドン!

「腹が減った。騎士の任務をこなす。シルフィーの力を使いこなす事に専念しているわ。私は腹減った」

 レテは準備を始める。

「良い感じかしら。後はバレないように街に潜入する。空からだと目立つわ。どうするつもり、レテ。炎の魔術はソラトブイワのために温存するわ」

 ラーナはレテを見つめる。

「腹減った。これは街に入ってからね。街に空から投げ込まれても目立たない物ってないかな。ヒトとゴブリンと岩には驚くわ」

 レテは明るい空を見上げる。

「雨、雪、ゴミ、木の枝が飛んでくる事もあるかしら。草、鳥、たまごも屋根から落ちてくるわ。他には……」

 ラーナはさらに考える。

「木の枝を体にまとうのが一番かな」

 レテは手近な木の枝を折る。ボキ!ゴブリンがレテたちのいる木を眺める。盾を叩く音は続く。彼女たちは息を潜める。数匹のゴブリンが木の下を探し始める。何も無いことが分かるとゴブリンは元の場所に行き、盾を棍棒で叩く。ドン!ドン!

「空を警戒している」

 レテはラーナの耳元でささやく。

「半分、三分の一かしら、ソラトブイワが近づいているわ。ここで待つのが得策かしら」

 ラーナは空を見つめる。

「仕方がないかな、待つのは苦手だけど。少し休憩しようかな」

 レテは木に体を預ける。彼女が足を伸ばして街の方を眺めると光輝くモノが上空に現れる。彼女は目を凝らした。

「何かしら、魔術。光の魔法紙をあそこまで高く投げるのは無理ね。動いているわ」

 ラーナも目を凝らした。ドン!ドン!

「誰かがゴブリンの注意を引きつけようとしているのかな。これだけじゃ動けないわ、ゴブちゃんたちも興味がないみたいね」

 レテは門の前を確認する。ゴブリンは盾を叩いている。

「もっと近づいて来ないと分からないわ。この場所がバレても大変かしら、気にしないのが一番ね。私もちょっと休憩しないとね」

 ラーナも木に体を預けて目を閉じる。

「慣れているのね、ラーナ。魔術師は木の上には登らないと思っていたわ。キソクがあるって先生が言っていたわ」

 レテは静かにラーナに尋ねる。

「無能な魔術師は木に登る。魔術の高みを目指さずに木の高さで満足する。へぼな貴族の魔術師はこのキソクだけは大事に守っているわ。イミフメイ、高い木が好き。魔術は関係ないわ。どうでも良いキソク」

 ラーナは小声で答える。ドン!ドン!

「私の先生はキソクの意味を探るのが魔術師の最初の役目。あなたは魔術師にはならないつもりだから答えを教えてあげるわって言われた」

 レテは答える。

「知らなかったわ。私の先生は何度も代わったけど誰も教えてくれなかったかしら。他の魔術師の友達も知らないって言っていたわ。王都の魔術師は特別なのかしら」

 ラーナは興味を示す。

「かつて王国にはもっともっと大きな木が生えていた。その木の頂上を目指し魔術師たちは競い合った。誰が最初に大きな木の上に到達するか王国の民は賭けもしていた。魔術師は木を登る魔術の研究に専念した。でも、上手くいかなった」

 レテはラーナを見つめる。

「聞いたことのない話、レテの先生は研究熱心だったのね。確かに今でも木をスイスイ登る魔術はないわ。ぜひ、彼女に会ってみたいわ。話の続きを教えてくれるかしら?」

 ラーナは耳を傾ける。

「魔術師は木に登る事をあきらめて、風で頂上に到達しようとした。でも大きな木の上では強風が吹いていて、彼らの魔術では対抗できなかった。彼らはその木よりも高い塔を築こうとした。それも上手くいかなかった」

 レテは話を続ける。ラーナはレテの話に集中する。

「魔術師は大きな木を登ろうとした過程で多くの事を学んだ。彼らは魔術の発展に貢献した事に満足した。でも、彼らは木を登る事は出来なかった」

 レテは一息つく。

「そういう事もあるかしら、思いがけずに魔術の秘密が発見される。最初の魔術は転んで頭をぶつけた人が三日間眠り続けて、起きた時に目の前に火が見えた。彼は生涯火を追い続けて、最後に最初の魔術の火を灯した。伝承だから信憑性はないわ」

 ラーナは静かに答える。

「そんな逸話があるのね、オモシロイ話かな。先生の話の続き、魔術の高みは木に登る事ではない。魔術の深淵に到達する事、才能ある魔術師は無能な魔術師に木に登る魔術を任せて、満足させろってキソクだって」

 レテは話を終える。

「魔術師は話をわざと回りくどくするクセがあるわ。木に登っても構わないようね。ちょっとだけ気にしていたから安心したわ」

 ラーナは再び目を閉じる。ドン!ドン!

 レテも目を閉じようとすると目の前に石が飛び込んでくる。彼女は軽やかに石を受け止める。石には文字が刻まれている、ルキン。レテは地上を見ると人影が手を振るのが見える。

「ルキン、三岩人のスパイ。何の用事かな」


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