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怖い話

 レテは悲鳴をあげる。小屋からデフォーたちが飛び出してくる。二人はすでに剣を抜いている。ユーフは光の魔法紙で辺りを照らす。ラーナとマリーは帰り支度をしている。

「シンジラレナイ、タダの板のくせに。今は動いたでしょ、何でさっきはダメだったのよ。板、木、レイレイ森林のヤロウ」

 レテの口が悪くなる。

「レテ様、落ち着いてください、何があったのでしょうか」

 デフォーは辺りの様子を確かめつつレテに問いかける。

「ユーフ、板はレテたちのイタズラじゃなかったみたい。文字を焼き付けただけ。今は動くわ、不思議な事が起こるのね」

 マリーはユーフに伝える。

「そういう事か。俺は店主を迎えに行きます、デフォーさん。閉じ込められたら大変だ、少し待っていてくれ」

 ユーフは颯爽と板を外して階段を降りていく。

「ユーフの言う通りね。朽ち果てない運命、彼女も知らないハズ。この言葉は王都の近くでは特別な意味を持つんでしょ」

 ラーナはレテに問いかける。彼女はジャンプをしている。

「近づいてはイケナイ場所。不幸な出来事が起きた事はありませんが、王より厳重に禁止の命令が冒険者ギルドにも定期的に届きます。近づく事なかれ、王の土地である」

 デフォーが代わりに答える。

「薬草採取で近くに行った事があるけど何も感じなかったわ。柵があるから新人でも分かるし、何もないって話ね」

 マリーが答える。

「魔術師と聖騎士の話の舞台のようね、レテにこの前聞いたわ。蘇った女も同じみたい、推測の領域かしら」 

 ラーナはデフォーに伝える。

「えー、あの話ですね。あれは今は関係ないと思います。魔法使いの友人に聞きました。不思議な話でした。成功したのですね、彼らの考える事は難しい」

 デフォーが答える。

「あの後騎士と魔術師が小屋を訪れた。それがあそこみたい」

 レテはジャンプしながら答える。

「宿で女の子を脅かしているのを小耳に挟んだ事があるわ。へえ、あれがここに」

 マリーは森を見ようとするが暗くて見えない。

「確定ではないわ。私の予測、大事だから覚えておいてね。関連性は深そうかしら。あくまでも推測」

 ラーナが三人に伝える。

「ふーむ、魔術師と騎士の活躍で町の異変は解決した。しかし、謎は残った。昔話です。だが、女が蘇り小屋が生まれた。成功、魔術師は女と何をしたかは伝わっていなのですか」

 デフォーはラーナに尋ねる。

「魔術の研究が出来て幸せ、私の幸福って何かな。今、考えないとダメ、先延ばしはオシマイ、オシマイ」

 レテは気持ちを落ち着かせようとする。

「魔術師協会でも実際にあったかどうかは意見が割れているわ。今は興味を持っている人は少ないわ。モーチモテ博士程の偉業は成し遂げていないのは確かだから仕方がないかしら。魔術師の子孫だって名乗りたくはないハズ」

 ラーナは答える。

「亡霊の子供、冒険者が話をしていたわ。彼女に宿った亡霊は女の子だけに引き継がれる。男の子しか生まれない時は眠りについている。お話の時とは反対に夜になると亡霊は目覚めて魔術師を探している。新しい魔術師の手伝いをするため彼女は亡霊として隠れ続けている。宿に来た女の子は抱きついていたわ」

 マリーが話をする。レテは彼女を抱きしめる。

「レイレイ森林にはたくさんの話があります。私も若い頃から言い伝えを収集していますがどれが重要な話か検討も付きません。マリーさんのお話も聞いた事があります。別の話では亡霊は子供の頃から子孫を助ける守護者だと言う話もあります。イヤな事があった時に話し相手になってくれるそうです」

 デフォーが答える。

「結論はどうなの、亡霊の女は悪いやつなの、気味が悪い女なの、あきらめの悪い女なの、イヤなヤツで性格が悪くてキツイ女なの?」

 レテが三人に問いかける。

「あきらめが悪くて、気味が悪い女かしら」

 ラーナが答える。

「悪いヤツでキツイ女だと思うわ」

 マリーが答える。

「魔術師でない私は何も言いません。それが最善です」

 デフォーが答える。

「危険を避ける技ね。でも、それじゃツマラナイかな。私が代わりにデフォーの意見を言ってあげる。コワイ女の話をして逆恨みされたら大変、一切関わり合いたくない。そんな事を言ったら逆上してつきまとわれるかもしれない。コワイ、コワイ」

 レテはマリーをギュッと抱きしめる。マリーも彼女を抱きしめてあげる。

「私は抱きしめてもらえる人はいません。一人の夜に忍び込まれたら逃げ場はありません。若いモノたちは遊びで忙しい」

 デフォーは語る。

「アーライト河の終点を思い浮かべないのかしら、デフォー。彼の昔の彼女が指輪に想いを込めてアーライト河に流した。初恋の話」

 ラーナはマリーに教える。

「落書きのある終点に向かって想いを込めるなんてオモシロイ人ね。旅の終わりの場所、ギンドラの街の飲み屋さんで聞いたわ」

 マリーは答える。

「それは一本目の終点、ララリと時間が多少必要ですが誰でも到達できます。私がレテ様たちにお話したのは七本目の終点。草原を抜け、滝を通り、何もない土地を通った先にあります。イタズラの書いてある立て札があります」

 デフォーが真剣な顔で答える。

「七つのイタズラを制覇したモノには何が与えられるのかな。アーライト川が願いを運んでくれるなら休みを取ってシルちゃんの力で吹っ飛んでいくのも良いわ」

 レテが答える。

「レテの想いをずっとアーライト河が流し続けてくれる。叶った願いを自慢するためかしら、それとも叶わない願いを隠すためかしら」

 ラーナが続ける。

「水が代わりの想いを届けてくれる。言葉にできない想い、誰でも一つはあるわ。どうしても口に出せない。叶えば自慢、叶わなければ誰にも言えない」

 マリーも続ける。レテはデフォーを見つめる。

「私の自慢はギンドラの街で最もきれいな女性とお付き合いをした事です。彼女は若かったので賭け事のイカサマを知りませんでした。私は表が三回出ると賭けました。彼女は裏が三回。私は重りの付いたララリで表を三回出しました。彼女は私の彼女になりました」

 デフォーは微笑む。

「笑えない冗談かな。デフォーの得意技炸裂、本当はどうやって口説いたの。それが隠し事かな。ギンドラ一の美人、すごいじゃない」

 レテはマリーを抱きしめるのを止めて、微笑む。

「サイテイの口説き方かしら、冗談としてはマシね。デフォーもやれば出来る、年は関係ないみたいね」

 ラーナも微笑む。

「聞いた事があるわ。ある新人冒険者がギンドラ一の美しい女性を口説こうとした。彼は銅ララリを握りしめて、高級飲み屋を訪れた。護衛の冒険者が立ちふさがると彼は囁いた、分前はやる、どれでも好きに選べ。彼は飲み屋の女性を次々指さした」

 マリーが青ざめながら話を始める。

「若い頃の話です。脚色もされています」

 デフォーの微笑みが消える。

「荒々しい男が好きな女の人も多いのかな。人の好みに文句は言わないけど私はキライ。つまり、デフォーはイヤな方に移すわ」

 レテは頭の中でのデフォーの位置を変えた。

「私は元々真ん中だったから端の方に動かすわ。サイテイの基準にするわ、人は見かけでは判断できないわ。過去は変えられない」

 ラーナはマリーを見る。モラもデフォーも見つめる。

「男たちは笑って彼を追い出そうとした。デフォーは、いいえ、彼は無理やり男たちを押しのけて入ろうとした。男たちは彼を地面に押し付けた。彼は女性たちに叫んだ。弱虫、オレが怖いのか、オレの事を好きになるのがコワイんだろう。話をするだけでお前たちはオレを好きになる。愚かな女が隠れている」

 マリーが静かに語る。ユーフとナナシの女性が地下から出てくるが声を出さない。

「ユーフが来ました、帰る時間です。マリーさん、どうしてあなたがその話を知っているのですか。出回っている噂はこれほど詳しくはない、マリー、マリー」

 デフォーの記憶にナニカが引っかかる。

「仲間の前ではかわいそうかな、マリー。話は後で聞かせてもらうわ、夜も大分更けてきたかな。ゴブちゃんもネムネムの時間ね」

 レテは雰囲気を変えようとする。

「高級飲み屋の女性たちは怒りで赤くなった。勇気あるギンドラ一の美人の女性は彼と話をする事にした。彼女は無礼な男に口説いてみなさいって言った。彼は答えた。あなたはすでにオレに惚れている。口説く必要はない」

 マリーは続ける。

「気の良いおじいさんの裏の顔。自慢話を迂闊にしたモノの末路かしら。刺激的な話、私はギンドラ一の美人の味方」

 ラーナはつぶやく。モラも頭を動かす。

「名前も知らない男に恋をする愚かな女とでも言いたいの、ロクでもなし。彼女は言った。後ろの女性たちは拍手をした。彼はポケットに手を入れようとしたけど男たちが止めた。男がポケットから銅ララリを三枚取り出した。他には何も入っていなかった」

 マリーは息をつく。

「デフォーさんの過去にそんな事があったとは知らなかったな。レテ様たちの前でどうしてこんな話になったんだ。デフォーさんの考える事は分からないが今回はマズイな」

 ユーフは女性陣の反応を確かめる。表情が読めない。

「話の続きは今度って訳にもいかないかな。最後まで突っ走ろう!」


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