運び手
レテは三人の様子を確かめると騎士たちの方に目を向ける。指揮官らしき騎士に目があってしまい彼女は目を背ける。彼女はすぐに視線を戻す。
「ありがと、騎士様。女の子だけだったから不安だったわ。これからどこに向かうつもり、気になって夢にラトゥール様が出てきそうかな」
レテは騎士に話しかける。騎士たちは馬から降りて彼女たちの元に進んでくる。
「私たちは草原の騎士。カンルー様の充実な左腕。私はその中でも最もカッコいい男、カンルー様の領地で最もモテる男です。馬の扱いは二番手ですが時期に一番になる予定です」
先頭の騎士が頭を下げると他の騎士たちも後に続く。
「お礼の銅ララリ、貴族の嗜み、銅ララリこそ至高。王都の貴族は銅ララリ集めに熱心だから貴重品よ」
ラーナは丁重に銅ララリを彼に差し出す。彼は受け取らない。
「美しい、貴方様のような方に出会えて光栄です。残念ですがカンルー様よりお礼を受け取る事は禁止されています。デートなどのお誘いも同様です。お名前さえも聞けばお礼になってしまう程の美しさです」
騎士は馬を見る。馬はそこら辺をうろついている。
「ラーナ。きれいな名前でしょ、罰ララリ、それとも剣の素振り千回かな。おやつ禁止、あるいは三日連続で夜の任務かな」
レテが騎士に問いかける。
「きれいな騎士のお嬢さん、ハズレです。王都は噂通り厳しい所のようです。レテ様は機嫌が悪くなると誰も手が付けられない。あなたもご存知でしょうね、新人の間に次の仕事を探す事をオススメします」
騎士が答えると後ろの騎士が前に出る。
「草原の騎士は質問に答える。罰はカンルー様との剣の訓練です。ボコボコにされた上にダメ出しをひたすら言われます。罰なのでキツイのは仕方がありませんがひどすぎます。私は剣の持ち方から指導を受けましたが上達していません」
騎士が溌剌とした声で答える。
「体の使い方は人によって違います。私も師匠には独特の構えって言われましたが、変えろとは言われませんでした。にっこりと強くなるか楽しみと言われました。か弱い街娘のままなので失敗でした」
マリーは設定を思い出す。彼女が声を出すと馬が興奮する。残りの騎士はなだめに向かう。二人の騎士は五歩後ろに下がる。
「彼女はマリー。本人が言っている通りでか弱い女の子。コワがる事はないかな。お馬さんも落ち着いてね」
レテは精神を集中させる。穏やかな風が馬たちを包み込む。馬たちは風を楽しんでいる。
「名前を伺っても良いかしら、草原の騎士さん。名前がないって事はないハズね。区別がつかないし、命令も出来ないわ」
ラーナが騎士を見つめる。
「私はモテる騎士。名は捨てました。草原の騎士で一番モテる、事実です」
モテる騎士は隣の騎士を見る。彼はうなずく。
「モテる騎士はナンパの名手です。相手を選び声をかける。失敗を見た者は誰もいません。名がない事は気にしない事です。私はメイホウです」
メイホウは答える。
「男の人はモテる事がそこまで大事なんですか。他にする事はないんですか?初対面の人にすみません!」
マリーがモテる騎士に問いかける。彼は四歩下がる。
「モテない男の悲しさを知らない女性の言葉です。モテないキモチはあなた方には分かりません。女性はモテない男が目に入っていない証拠です」
モテる騎士は毅然とした顔で答える。馬がいななく。
「モテないキモチ。また出会ったわね、彼は以前モテなかった。という事はモテる騎士は実は……」
レテが続きを話そうとするとメイホウが口を挟む。
「失礼な人だ。あなたは何者ですか。名を捨てていないなら、名乗るべきです。モテる女性をお見受けしますが無礼な発言です」
メイホウも四歩下がる。
「伝説の剣の運び手、この剣を扱える人を探して旅をしている。今は王国で世話になっているわ。名乗る事は出来ない、騎士なら分かるでしょ」
レテはゴブジンセイバーに手を当てる。
「おお、すばらしい。メイホウはいつも早とちりをする。流星が落ち、剣が目覚める。草原の騎士に伝わる話です。剣の運び手がいるとは知りませんでした。メイホウはカンルー様から何か聞いているか?」
モテる騎士はメイホウに問いかける。
「私は剣の運びなんて信じていないわ。貴族は銅ララリだけを信用している。剣が目覚める、知らない話。教えてもらえるかしら?」
ラーナは興味を持つ。
「草原で生まれた者は全員知っている事です。最近は王都に出かける人が少ないので話題に登らないんです」
メイホウが一呼吸する。
「星がポコポコ、剣はキラキラ、草はソヨソヨ。馬が走り、剣はきらめき、星は落ちる。剣が目覚め、草は休み、星は帰る」
メイホウが答える。
「ステキね、王都では聞いた事がないわ。ストーンマキガンの街でも同じ。か弱い私は流星に恐れを抱いていたわ。街の娘には遠い話」
マリーは設定を守る。
「私は剣は走り、草は帰る、星は目覚めると覚えました。草原の騎士様の方が正しい気がします。剣は走りません」
名無しの女性が口に出す。
「草は帰るは良い感じかな。どこにお家があるの、草占いの後はどこに飛ばされていくのかな。道端に落ちるなんてツマラナイわ」
レテは草を引きちぎる。
「運び手さん、草占いをたくさんするとモテなくなると草原の騎士には伝わっています。大事な時だけに行った方がよろしいかと思います」
モテる騎士はレテに教える。彼女は微笑む。モテる騎士はキョトンとする。
「運び手には大事な人がいるからモテなくても問題なし。草占いはいくらでも出来るわ。私はヤメておく事にするわ。色んな言い伝えがあるのね」
ラーナは草を見つめる。
「相手を射止めた時は草占いをします。その人とどこまで一緒にいる事が出来るかどうか。二人の答えが合って正解はずっと、片方当たりは努力次第、両方ハズレはいっときの戯れ、二人の答えが合い不正解、別れは近い。遊びですので真剣には捉えないでください」
メイホウは答える。
「草原の騎士は恋に生きているみたいね。ストーンマキガンには遊びに来ないんですか?きれいな女性もいますよ」
マリーはモテる騎士に話しかける。騎士は二歩下がる。
「街は窮屈です。美しい女性には惹かれますが草原の生活を捨てるのは無理です。モテる事は大事ですが馬もきれいです」
モテる騎士は答える。
「騎士は任務ばっかりだからキモチは分かるかな。オイシイ食べ物は王都の方が多いから迷う所よね。風は気持ち良さそうかな」
レテは答える。
「草原で馬に乗って過ごす。すぐに飽きそうね、オイシイパンはどこでも食べる事は出来るし、私には魅力的に見えないかしら。モテるなんて興味もないわ。レテ、ゼロ枚。十回とも草はゼロ。これでモテなくなるかしら」
ラーナはレテに伝える。
「モテなくなる秘訣。誰か知っていますかね。私はか弱い街の娘、声をかけられたらなびいてしまう」
マリーは答える。
「私もゼロにしようかな。あなたたちは草占いをする気はないでしょ。モテなくなったら大変、大変」
レテはモテる騎士に尋ねる。
「何を占うのでしょうか、運び手さん。私はこれからもモテます。占う必要はありません。メイホウは何かあるか?」
モテる騎士はメイホウを見る。
「急には思いつきません。日が落ちてきました」
メイホウは空を見上げる。日は傾き始めている。
「両手に全員草を取れば十回分、何でも良いから占いましょう。ゼロは出ない。草は手の中にある。不正行為は構わないかしら、オモシロクないけどね」
ラーナは草を引きちぎる。
「ラーナがモテなくなる手伝いね。しっかりと草を握ってあげる。ゼロはないハズ」
マリーは両手で草をちぎる。
「女性のお願いは聞くべきです。メイホウ、草を取るんだ。ゼロですか、ありえない」
モテる騎士は草を一枚取って半分にして両手で握る。メイホウも数枚の草を両手に取る。
「運び手さん以外は両手に草を持っています。最後は何を占うか、明日の天気ですか、それとも今すぐ結果の分かる事が良いでしょうか」
ナナシの女性がレテに尋ねる。
「伝説の剣は正しい持ち主に運ばれるかどうか占おうかな、ゼロだったら運ばれる。それ以外は間違った持ち主の元に行き着く」
レテはラーナを見る。
「良いわ、興奮してきたわ。ゼロが出るハズはない。間違いないって思っていても気持ちが沸き立つ。草は消えない」
ラーナは答える。
「ラーナがモテなくなる、伝説の剣は持ち主の元に運ばれない。ゼロが出なかったら大変ね。草はなくなるの?」
マリーは手の感触を確かめる。
「モテるには時には勝負に出る事が必須です。伝説の剣は正しい持ち主に運ばれます。ラーナさんの願いも叶う事でしょう」
モテる騎士は自信を持って答える。
「モテる騎士は狙いを外しません。私も同じ思いです」
メイホウは橋を見る。ゴブリンはいない。
「結果発表、ゼロ!出ないかな、伝説の剣さん、ゴメンね」




