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秘密の粉はコワイ

 ストーンマンガンの街の商店街にはいくつかの武器、防具屋が軒を連ねている。王国ではゴブリン退治の用途がメインであるため、最近まではそれほど売れ行きは良くなかった。だが、近年のゴブリンの増加のため一般人の購入も増加している。

 商店街を訪れている客たちは騒音で耳を抑えつつも、それぞれの買い物を楽しんでいるようである。

「ガーおじ、何をやっているのかな。ちょっと後ろで見てみようか」

レテとネアスはガーおじに追いつくが、少し様子を見る事に決める。

「いらっしゃいニャン、ステキなドリンクはどうかにゃん」

 ガーおじが行商人らしきニャン族の青年に捕まっている。

「ほう、なかなかうまそうな、ドリンクじゃな」

 ガーおじは物欲しそうに見つめている。

「お客様はお目が高いにゃん、このドリンクはマッスルニャンダドリンク。ここでしか取り扱っていないオリジナルのドリンクにゃん」

 ニャン族の行商人はガーおじに狙いをつけたようで、ドリンクを差し出す。

「おお、タダでよろしいのか。ありがたいのじゃ、さっそく」

 ガーおじは喜ぶ。

「こっちも商売にゃん。タダでニャンの特製ドリンクを飲むようなら騎士団に駆け込んで、の捕まえてもらうにゃん」

 ガーおじの手がギリギリの所で止まり、ドリンクは無傷で残っている。

「冗談じゃ。うまそうなドリンクじゃったからな、ついじゃ。連れのものがおるから、ワシの方から勧めるのじゃ。レテ殿はお金持ちじゃ、期待するが良いのじゃ」

 ガーおじがニャン族の青年にドリンクを返そうとする。しかし、彼はレテの名前を聞くと態度を変えて、ドリンクをガーおじの手に押し止めようとする。

「お客様はお人が悪いにゃん。私の名前はニャン・ゴールドランだにゃん。行商人をしているにゃん。ドリンクはサービスにゃん、どうぞ、どうぞ」

 ガーおじが喜んでドリンクを飲もうとすると、レテが姿を現す。

「ガーおじ、人の名前を使ってタダでドリンクを飲むなんて、ひどい事を考えて。信じられないわ」

 レテはガーおじをからかうようにたしなめる。

「レテ殿、ネアス殿、違うんじゃよ。ニャン殿のご好意でもらうわけで、レテ殿の力を使うなど考えた事もないのじゃ、本当じゃよ」

「レテ様、お目にかかれて光栄にゃん。以後お見知りおきだにゃん、レテ様、ネアス様も特製ドリンク、どうぞだニャン」

 ニャンはガーおじにドリンクを押し付け、レテとネアスにも一本ずつ差し出す。

「私もララリを払うつもりはないわよ、ニャンさん。それでも良いのかな」

 ネアスもニャンに話しかけようとするが、ニャンが押し留めてレテに話しかけ続ける。

「レテ様からお代ももらうつもりはないにゃん。味と効果には自信の特製ドリンクにゃん、ぜひ飲んで、騎士団の方たちにも勧めて欲しいにゃん」

「そういうの好きじゃないけど、ニャン印のドリンクか。私の特製ドリンク作りの参考になりそうだし、それよりどんな効果があるの」

 レテがドリンクに興味を示すとニャンはがぜんやる気を出して、男性二人を無視して説明を始める。

「レテ様は本当にお目が高い。このドリンクには魔力の泉の水、さらにリンリン森林で取れる薬草、さらにさらにニャン族特製の秘密の粉が入っているにゃん。この一本で元気満々になれるにゃん。しっかり魔力も回復するからレテ様にもおすすめにゃん!」

 ニャンはネアスを見る。

「ニャン族の秘密の粉か。初めて聞くけど、すごそうだな。よし、一番乗りだ」

 ネアスはドリンクの蓋を開け、一気飲みする。

「ネアス様、さすがにゃん。初めて会った時から、やる時はやる男だと思っていたにゃん」

 レテとガーおじはネアスの飲んでいる姿を丹念に眺めている。二人は秘密の粉が気になって、飲むに飲めないようである。

「ネアス殿、どうじゃ。変な味はしないか。大丈夫そうなドリンクであろうか」

 ガーおじは心配だ。

「ごめん、ガーおじ。味は分からないよ。でも、体に元気が出ているような気がするかな。不思議な香りもして、良い感じかな」

 ネアスは答える。

「そういえば、そうね。ニャン、秘密の粉って何なの。気になるな、変なモノじゃないでしょうね」

 レテの質問にニャンは困惑しながらも、答えてくれる。

「皆さん、秘密の粉が気になって飲んでくれないにゃん。ニャン族が大好きな気持ちが良くなる粉にゃん。毎日取ると疲れてしまうけど、たまに飲むには問題ないにゃん」

 にゃんの答えに三人は納得して、残り二人もゴクゴクと飲み始める。

「言い方が悪いのよ。独特の香りで甘くて美味しいわね。魔力は回復したようなしないような、泉の水だしね。このくらいかな」

 レテがドリンクに満足したようで、ニャンは安堵の表情を見せる。

「ワシはもっと濃い味が良いがそれでもうまいのじゃ、うまいのじゃ」

「レテ様に気に入って頂いて、うれしいにゃん。王都に店を持つ夢が近づいたにゃん」

 ニャンはガーおじの意見は無視する。

「おじさんの意見を聞いても仕方がないわよね。ニャン族は行商人ってイメージだけど、ニャンは店を持ちたいのね。良いことよ」

「ニャン族は旅好きが多いにゃん。ニャンは変わりモノにゃん。ネアス様は旅が好きなようでうらやましいにゃん」

 ネアスはドリンクの香りを楽しんでいて、話かけられてびっくりしてしまう。

「そうだね、ニャンさん。僕は旅が好きで冒険者になったけど、それだけでは難しそうだね。剣の腕とか、他にもいろいろ必要みたいだよ」

 ネアスは話を合わせる。

「そうにゃんか、どの職業も厳しいにゃんね」

 二人はしんみりとお互いの境遇に気を寄せる。

「ニャンとネアスは知り合いなの、今の話振りだと長い付き合いみたいだけど。教えてほしいな、気になっちゃう」

「レテ様、もちろんお伝えしますにゃん。ネアス様とは行商で村に行った時に出会ったにゃん。何もない街で商品がたくさん売れたにゃん」

「ニャンさんに旅の話を聞いて、冒険者も良いなって思ってんだよな。今、ここにいるのニャンさんのおかげだよ」

 ネアスは故郷の事を思い出しながら、空を眺める。青空には小さな雲がたくさんある。

「しっかりした知り合いじゃない。ゆっくりとお話しをしなくてよいの、二人とも。ネアスにそんな過去があったのね、ふーん」

「ニャンで良いにゃん、ネアス様。この間に魔力の泉の水を頼んだときにはララリもなくて、お困りだったにゃん。でも、すっかり出世したにゃん。これからもよろしくにゃん」

 にゃんは丁重にネアスにお辞儀をして、さらにドリンクを差し出そうとする。

「ワシはかやの外じゃな、仕方がないのじゃ。記憶がないのはツラいのじゃ」

 ガーおじはドリンクを一人で寂しく飲んでいる。

「ガーおじ、ごめん。ついでに用事も済ませないと、魔力の泉の水を汲めるだけ汲んできたよ。こんな時だけど、良いかな」

 ネアスがカバンを降ろして、水筒を取り出そうとする。ガーおじも一緒に手伝って出してあげようとする。

「そうだにゃん。今、数えるから任せるにゃん。一、二、三……。合計で三千ララリの所ですが三千五百ララリでどうかにゃん」

「ネアス、良かったね。頑張って運んできたかいがあったわね。少しずつ稼いでいく、とっても良いことよ」

 レテは笑顔でニャンの方を向き、ドリンクを飲み干す。

「ニャン、美味しかったわ。秘密の粉はどうかと思うけど、一本もらえるかしら。お代は払わせてもらうわ」

 にゃんはネアスに報酬を支払い、水筒を回収する。

「ありがとうにゃん、レテ様。一本、千ララリのマッスルニャンダドリンクだにゃん」

 にゃんは騒音に負けないような大声でレテにドリンクを手渡す。通行人たちが反応して、続々と集まってくる。にゃんの周りに人だかりができるのを見つつ、三人は近くの防具屋へと入っていく。

「商売上手ね、応援しているわ。私たちは武器屋に急ぎましょう、ニャン、またね」


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