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偵察

 レテはアーシャを見送るとミヤへのお土産用のケーキを自分の近くに動かす。ネアスはラーナの話を考えている。キャビはお腹が一杯で動けない。

「副騎士団長は遅い、重い、長い。それにしても待たせすぎね、私も偵察に向かおうかな。ゴブちゃんは何を考えているか、気になる、気になる」

 レテは部屋を見渡す。ラーナは立ち上がる。

「私も一緒に行くわ。足でまといにはならないわ。ワガママは言わないし、事故も起きないハズ。自分の身も守れる、問題なしね」

 ラーナはレテを見る。

「ゴブリン相手に魔術は必要ないので、ラーナは大人しくしていれば良い。下手にゴブリンを刺激して、仲間を呼ばれると面倒だ。それを守るんだ、ラーナ」

 クロウはラーナに注意事項を伝える。ラーナはうなずく。

「ゴブちゃんと戦う気はないからダイジョブ、ダイジョブ。街の近くから追い出すだけのツマラナイ任務。不注意がケガを招くから、神経をすり減らすだけのお仕事かな」

 レテは窓の外を確かめる。風が穏やかに吹いている。

「僕はここで待っている。トゥールがゴブリンに襲われたら大変だ。ハチャメチャになりそうだ。イヤな予感がする」

 ネアスはレテに伝える。

「危ないなら私と一緒にいるのが一番安全かな。でも、今回はネアスの意見を尊重して宿に残ってもらう事にするわ。トゥールの動きは私も読めないかな」

 レテはネアスを見つめる。

「ネアスくんの事は私にお任せください。旅人の翼を持つ冒険者である私がそばにいる。何も起きません。レテ様、翼を返してください、お願いです。大事なモノです。レテ様が所持していても役には立ちません」

 クロウはレテにお願いする。レテはうなずきカバンに手を入れる。

「やさしすぎ、レテ。一度失ったモノは帰ってこない。旅人の翼も例外ではないわ、見せびらかすのが悪いのよ。役に立たない存在はない、どこか使うわ」

 ラーナは笑みを浮かべる。

「トゥール、大人しく。旅人の翼はクロウさんのモノさ。トゥールにはもっと良いものをあげる。後で街に探しに行こう」

 ネアスはトゥールに呼びかける。トゥールはレテの手の旅人の翼を狙っているようだ。

「キャビはどうするの、疲れたのかな」

 レテはキャビに尋ねる。彼女は旅人の翼を左右に振る。トゥールは顔を動かす。クロウはヒヤヒヤしながら様子を見ている。

「動けない、体は言う事を聞かない。以前はたくさんお菓子を食べても問題はなかったハズです。次の機会は自重します」

 キャビは苦しそうだ。

「そちらで横になるのが良いでしょう。私はキャビさんをお守りします。必要なモノがあります。私の大事なモノですが、トゥールをどうするべきか」

 クロウはキャビの腰に手を当てて、横になる手伝いをする。

「私の魅力を使おうかしら、トゥール。こっちに来なさい。私の肌は柔らかくてキモチが良いわ。あなたが気に入ってくれるハズ、私の相手をしてくれないかしら」

 ラーナはトゥールに手招きをする。トゥールは旅人の翼に夢中だ。

「ラーナさんの体の良さは僕も知っている。トゥール、チャンスだ。女の子と仲良くするのが一番さ。僕は理解した、ステキな事さ」

 ネアスはトゥールを説得するが届かない。

「ネアス、きれいでやさしくてかわいい私じゃなかったら大変な事が起きていたかな。ラーナの体、気になるけど。今はトゥールの事が先決かな、クロウ、どうぞ」

 レテは旅人の翼を渡そうとクロウに近づく。扉が開く。

「レテ様、お客様です。お急ぎです」

 キハータの声が部屋に響く。レテとラーナは精神を集中させる。

「良かった、レテ、ラーナ。二人が一緒で助かったわ。用件はすぐに終わらせる。私は冒険者になって石板を追う事にした。宿の引き継ぎは終わったわ、じゃあね、レテ、ラーナ」

 マリーはお辞儀をして、その場を立ち去ろうとする。

「待って、マリー。急ぐことはないわ、ファレドが追いかけているからダイジョブ、ダイジョブ。ユーフの知り合いの凄腕の冒険者、マリーは宿のオーナーに計画は中止って伝えた方が良いかな、私も事情を説明してあげる」

 レテはマリーに声をかける。マリーは立ち止まらない。

「オイシイケーキよ。マリーも食べたほうが良いわ、常に外のモノに興味を持つ。魔術師と料理人の共通点かしら」

 ラーナはレテを援護する。マリーは階段を駆け下りようとする。

「マリーさん、僕の前でレテを悲しませないでほしい。最初の一日目は上手くいくとうれしい。今日だけはお願いします」

 ネアスはマリーにお願いする。彼女は立ち止まる。

「マリー、どうしたの?石板は大事かもしれない、でも宿の主人を辞める程ではないわ。冒険者に任せるのが一番、街では騎士が相手をするかな」 

 レテは旅人の翼を持って、マリーに近寄る。

「ネアスさんを見ていて、私も負けていられないって思った。私の料理の腕は一流、どこでも通用する。それで十分だって思っていた。そこのケーキだった材料は分かるし、工夫次第でもっとおいしくなる」

 マリーはレテを見つめる。

「私の両親もマリーの料理を食べたらびっくりするわ。お世辞じゃないわ、本当の話。レテのお気に入りの宿、甘く見たわ」

 ラーナも二人に歩み寄る。

「部屋で話した方が良いでしょう。ここは目立ちます」

 クロウは声をかける。キハータはうなずく。三人は無視する。

「僕がマリーさんに負けている所、それは幸運の女神様がついている事さ。全て表!」

 ネアスは銅ララリを放り投げる。ララリは表を示す。

「みんなで投げましょう、表!」

 レテは部屋に銅ララリを投げ入れる。彼女はラーナに銅ララリを手渡す

「表!」

 ラーナは銅ララリをクロウに向かって投げる。

「知らない遊び、表!」

 マリーもカバンから銅ララリを取り出し、部屋に放り出す。レテはマリーとラーナの手を引いて部屋に戻る。キハータは安堵して扉を閉める。

「全部表なのでしょうか」

 キャビは横になりつつも銅ララリを見る。表。

「今のところは成功だ。今回は違うかもしれない、楽しみの時間さ」

 ネアスは銅ララリの確認作業に入る。トゥールも一緒にララリを見ている。レテはすかさずクロウに旅人の翼を手渡す。

「お二人にはお世話になってばかりです。借りはお返ししますので期待していてください。なにせ私は旅人の翼を持つ冒険者!」

 クロウはカバンを叩いてニヤつく。

「マリーの話を聞きたい所だけど偵察も大事。マリーは冒険者なら一緒に行かない、これから冒険者になるって事かな」

 レテはマリーに尋ねる。

「以前、薬草を自分で採取していたら冒険者にならないかって誘われたわ。資格を取るだけなら簡単だし、薬草の場所も教えるからって言われて、その日の試験を受けたわ」

 マリーが答える。

「私も冒険者の資格を取ってみるのも良いわ。うつしくてあふれる知性を持つ冒険者はいないハズ。誰かにとやかく言われるのは飽きたわ」

 ラーナはクロウを見る。

「先輩の言う通りに行動する。キミには出来ない事だ、ラーナ。気に病むことはない、キミにはそれと上回る才能がある。しかし、冒険者の試験は受からない」

 クロウはニヤつく。ラーナは彼の旅人の翼を奪おうとするが、クロウはカバンを背後に回す。

「ゴブリンには不用意に近づかない。僕は焦って、突っ込みそうになったけどギルドの前にいたおじさんが教えてくれたのを思い出した。足元を確認しろ、石があったから避けようとしたらころんだ。減点ではなかったみたいです」

 ネアスが答える。

「むやみに危険に飛び込む事は愚か者たちのやり方です。ワシはスマートに振る舞いたい、優雅な舞を踊り、風に吹かれたい」

 キャビはネアスにテーブルの足の下の銅ララリを指し示す。表。

「みんな、色んな事を考えているのね。聞きたい事はたくさんあるけど偵察に出発。ネアス、銅ララリはちゃんと全部見つけてね。楽しみ、楽しみ」

 レテはネアスに微笑みかける。

「任せて、レテ。探しモノは苦手だけどキャビも協力してくれる。雑に投げた銅ララリだ、裏があるかもしれない」

 ネアスは元気よく答える。キャビは横になりながら銅ララリを見つけようとしている。

「レテ、どこに向かうの?偵察って言っても王国は広いわ、あなたはどこにでも行けるから予想がつかないわ。ゴブリンが集まりそうな場所はどこかしら」

 ラーナは考える。

「レテに任せるわ。久しぶりの冒険者のお仕事。ゴブリンの場所を騎士に伝える事は大事な任務。最初に教わったわ」

 マリーは答える。

「報酬が少ないから真面目に報告してくれる人が少ないのが問題だけど贅沢はダメ、場所は決まっている。他の騎士が行きにくい所、副騎士団長がいない場所、大切なモノ」

 レテは窓の外を見る。

「レテ、レテ」

 モラが空の散歩から帰ってきた。

「モラちゃん、今日は私の所に来てくれるかしら。レテの方が好みなの?」

ラーナが胸元を開けるとモラは飛び込んでいく。ラーナは微笑む。

「ストーンマキガンの近くに大切なモノがある場所はない気がするわ。風の大神殿は遠くで、騎士の駐屯地は違う。レイレイ森林は隠れ場所は多いけど街からは距離があるわ。採石場だと思う」

 マリーが答える。

「ハズレ、正解はカンプン橋。南の草原地帯と王国を繋ぐ大事な橋、ちょっとだけ遠いけどゴブちゃんがたくさんいたら大変、大変」

 レテは答える。マリーはうなずく。

「流石です、レテ様。ゴブリンの大量発生の話を聞いた時に最初に頭に浮かびました。馬で行っても暗くなってしまいます。運良く冒険者がいる事を期待できますが、確実ではありません。北のグラーフ、南のカンプン」

 クロウは答える。

「お父様のライバル、どちらが王都でオイシイパンを提供できるか。私の子供の頃から争い合っている。見てみたいわ」

 ラーナは胸の中のモラを見る。ゆっくりとしているようだ。

「異変はないと思うけど一応、すぐに帰ってくるから副騎士団長に伝えてね」


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